ニュース

日産「フェアレディZ プロト」の魅力を統括責任者&デザイナーが徹底解説! スペシャルトークショーレポート

キャラクターラインの配置は“コンマ数ミリ”で調整、リアフェンダーの造形は「歴代Zでナンバーワン」

2021年1月17日 開催

日産の入江慎一郎氏(左)、田村宏志氏(右)の2人が参加した「フェアレディZ プロトタイプ スペシャルトークショー」開催

 日産自動車は1月17日、神奈川県横浜市の日産グローバル本社ギャラリーで「フェアレディZ プロトタイプ スペシャルトークショー」を開催した。

 2020年9月にオンラインイベントで世界初公開された「フェアレディZ プロトタイプ」は、半世紀以上の歴史を持つ「フェアレディZ」シリーズのヘリテージを継承して生み出されたプロトタイプモデル。すでに市販化に向けた取り組みが進んでいることも言及されている。

 車両はオンラインでのお披露目後、横浜みなとみらい21地区に期間限定で開設されていた体験型エンターテインメント施設「ニッサン パビリオン」で一般公開。これに続いて海外でも展示イベントを実施してきたが、「東京オートサロン 2021」の会期に合わせて日本に帰国。残念ながら東京オートサロンは新型コロナウイルスの感染拡大を受けオンライン開催となったが、同期間中の1月15日~17日に日産グローバル本社ギャラリーで車両展示が行なわれた。

 なお、フェアレディZ プロトタイプのスペックなどについては関連記事「日産、V6ツインターボ&6速MTの新型『フェアレディZ プロトタイプ』公開」を、車両の内外装については「写真で見る 日産フェアレディZ プロトタイプ『Z PROTO』」を参照していただきたい。

フェアレディZ プロトタイプ
ボディサイズは4382×1850×1310mm(全長×全幅×全高)
ボディカラーは光沢あるパール系のイエローを採用
タイヤサイズはフロント255/40R19、リア285/35R19

Zは“一生に1度は担当してみたい”車種

日産自動車株式会社 チーフプロダクトスペシャリスト 田村宏志氏(左)と日産自動車株式会社 プログラムデザインダイレクター 入江慎一郎氏(右)

 フェアレディZ プロトタイプの展示最終日にサプライズイベントとして行なわれた今回のトークショーでは、新型フェアレディZの統括責任者を務めている日産自動車 チーフプロダクトスペシャリストの田村宏志氏、新型フェアレディZのデザインを担当する日産自動車 プログラムデザインダイレクターの入江慎一郎氏という担当者2人が登壇。“日産のスピリットそのもの”と言われるニューモデルの開発に込めた思いなどを語った。

 デザイナーの入江氏は日産が現在国内販売する全車種のデザインに携わったという人物で、軽自動車からGT-Rまで多彩なモデルを手がけているが、そんな入江氏でも「Zは日産の中でも花形のプロジェクトになるので、それを担当させていただけるのは幸せなことですね。また、ほかに携わることになったデザイナーたちも、『日産のデザイナーになったからには一生に1度は担当してみたい』という思いが強いと思います。そんな車種です」とコメント。

日産自動車株式会社 プログラムデザインダイレクター 入江慎一郎氏
入江氏はフェアレディZ プロトタイプのボディカラーに合わせ、黄色いフェアレディZのロゴ入りTシャツを身につけてトークショーに臨んだ

 統括責任者の田村氏は2020年9月にフェアレディZ プロトタイプを公開したときの感想を「ほっとした」と語り、4年ほど前に自身が新しいフェアレディZのプロジェクトをスタートするにあたって書いたメモを紹介。企画書として紙に書いたものも大事だが、スポーツカーだからこそ思いを伝えることが大切で、まずはスポーツカーらしいかっこいいデザインにするため、日産のグローバルデザイン担当専務執行役員であるアルフォンソ・アルバイサ氏に協力を依頼。そこから周囲のスタッフをプロジェクトに巻き込んでいったエピソードを明かした。

日産自動車株式会社 チーフプロダクトスペシャリスト 田村宏志氏
田村氏が履いているのは、国内ドライビングシューズメーカー・ネグローニの担当者からプレゼントされた、フェアレディZ プロトタイプをイメージして製作したドライビングシューズ
2017年に田村氏が書いた、新しいフェアレディZについて考えるメモ

 実際に作業を任されることになった入江氏は、当初はなにがなにやら分からない状況だったものの、自身を含めて日産で働くデザイナーはフェアレディZに携わりたいと考えており、周囲のスタッフに「(新型Zの)スケッチない?」と聞いたところ、膨大な量のスケッチが届いたと語り、その中から入江氏が次期フェアレディZにふさわしいスケッチを選出してフェアレディZ プロトタイプのデザインに昇華していったと説明。背後のスクリーンでいくつかのデザインスケッチを紹介した。

新しいフェアレディZの素案となったデザインスケッチ

サイドのキャラクターラインに全集中!

「Zはなんといってもリアビュー」と語る入江氏

 トークショーの後半は、入江氏がステージ上に置かれたフェアレディZ プロトタイプを使いながらデザインのポイントについて解説した。

 まずボディのリア側から説明を始めた入江氏は、「なんといっても、このリアスリークォータービューから見るシルエットやリアフェンダーのボリューム、優しさと力強さが融合したこの形がZらしさ」とコメント。

 また、リアコンビネーションランプの形状は歴代Zのアイコンであるオーバル形状をモチーフに、現代のテクノロジーでしかできない形としてデザインに取り入れているという。これは伝統と現代のテクノロジーの融合という、新しいフェアレディZのテーマでもあり、さまざまな部分で伝統と現代のテクノロジーの融合を表現していると解説された。

 リアフェンダーも特徴的な部分で、艶めかしさを備えつつ、“インナーマッスルを鍛えたアスリート”の凝縮感をデザインのイメージとしているが、実際に車両の外観デザインに仕上げるのはクレイモデラーの仕事。日産社内で“匠”の称号を与えられた40年以上のキャリアを持つベテランが生み出したリアフェンダーを、入江氏は「歴代Zでナンバーワン」と評している。

「ボディビルダーではなくアスリートの筋肉」というデザイナー(自分)の無茶なオーダーをクレイモデラーが精魂込めて形にしてくれたと入江氏は感謝を口にする

 サイドでは初代Zと比較した資料を挙げ、ロングノーズショートデッキのディメンションはもちろんのこと、ボンネットフード後端よりトランクエンドの峰が低くなっていることを大きな特徴とした。これにより、“まさにフェアレディ”というしなやかさが表現されているという。

 また、フロントフェンダーからドアパネルに続いていくキャラクターラインについては、ボンネット上にあるパワーバルジの始点とキャラクターラインの始点を同じ高さにすることで、エンジンで発生したパワーをFR車の象徴であるリアフェンダーに向けてつなげていく意図があると説明。一方、このキャラクターラインはドアの中央部分で強くエッジを効かせていながら、ドアハンドルを境として消えることによりパワーの発散を印象づけるデザインとなっているが、これをリアフェンダーの面につなげることは匠の技があってこそできるものだという。

 これまでにも伝えられているように、フェアレディZ プロトタイプは市販モデルに近い車両となっているため、量産に向けたテクニカル要件をしっかりクリアすることが求められた。キャラクターラインの配置も“コンマ数ミリ”というシビアさで調整を行ない、針の穴を通すような自由度の低い調整となったが、新しいフェアレディZの命であると考えて「全集中で力を注ぎ込みました」という。

サイドシルエットも歴代Z共通のデザインアイコン
新しいフェアレディZの命であるキャラクターラインに「全集中で力を注ぎ込みました」と入江氏
クルマのデザインにおけるリアビューの重要性について自説を語る田村氏。入江氏は「ここにいる人(田村氏)が一番厳しいんです! デザイナーじゃないのにデザインスタジオにずっといるんですよ」と語り、デザインに対する田村氏のこだわりをアピールした

 サイドでは新しいデザイン要素として、日本刀をモチーフにしたシルバーのモールをドアウィンドウ上に配置。ブラックアウトしているルーフにシルバーのアクセントを効かせることで、リアにかけて落ちていくルーフラインのシルエットを美しく演出。このモールのあるなしで印象が大きく異なるという。質感や作業難易度などの面では市販化に向けて課題になる部分だったが、「デザイナーが命がけで死守した」と紹介している。

刀と呼ばれているシルバーのモールは新しいZで挑戦したデザイン要素

上下のLEDシグネチャーで丸形ライトのリフレクションを表現

ボンネット上のパワーバルジもZが持つ高いパフォーマンスを象徴するデザインアイコン

 フロントビューはそのクルマの持つ性格や特徴を示す「最初のつかみ」だと考えてデザインしており、フェアレディZ プロトタイプでは三日月型のLEDシグネチャーを上下に配した特徴的なヘッドライトを採用。これは初代Zの丸形ライトが点灯したとき、上下に映り込みによるリフレクションが発生することを現代の技術で再現したものだという。

 また、田村氏は「お客さまの要望として、ただシンプルに丸形にしたい」という声もあるが、丸形だと配光の技術的な問題が発生するので、現代の技術でより遠くまで闇夜を明るく照らす形状を選んでいるという点。また、ただ古いものをそのまま持ってくるのではなく、レトロモダンを現代のデザインで表現する形状とも理解していると説明。もちろんデザインの研究ではいろいろ試していて、丸形も試したものの、あまり似合わなかったと説明した。

 フェアレディZ プロトタイプを公開してからさまざまな感想が寄せられており、中でも賛否両論になっているというのが大きくスクエアなフロントグリル。インターネット上の感想では「口が大きい」「怒っているように見える」とも言われているが、入江氏は「これがベストバランスでデザインできている」と語り、実車で見るとヘッドライトや足まわりのボリューム感などとのバランスがあると解説。また、ハイパフォーマンスを実現するためにもこの大きさが必要になっていると明かした。

 このほかフロントグリルでは、グリルパターンにリアコンビネーションランプと同様のオーバル形状を採用。車両の前後でデザイン上のつながりを表現しているという。

賛否両論になっているという大きくスクエアなフロントグリル。グリルパターンにはリアコンビネーションランプ同様のオーバル形状を採用する

 トークショーの最後に田村氏は、「今回のZは4年前からと言っていますが、入江さんも言ったように、ZやGT-Rといったクルマでみんなが温めている何か、ふつふつとしたマグマといったものを集約できる喜び、そして専務のアルフォンソであるとか社長であるとか、言ったことにポンと反応してくれる乗りのよさが日産にはあります。それは私を含めて象徴的なキーマンだけじゃなく、一番は検討してくれるエンジニアや地道に走る人、入江さんと一緒にコンマ1ミリの線を通してくれるデザイナーとか、(Zには)日産のDNAが集結しているので、『まだまだ日産やりまっせ!』という思いを、次からも商品としてしっかり出していかなきゃいけないと気が引き締まる思いです」とコメント。

 最後にフェアレディZ プロトタイプを紹介するため新たに制作されたプロモーションムービーを公開してトークショーは終了となった。

「まだまだ日産やりまっせ!」と田村氏
【日産】フェアレディZ プロトタイプ イメージ動画(2分1秒)