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日産、2020年度第3四半期決算説明会。売上高2794億円減の2兆2248億円、純利益117億円減で378億円の赤字

販売台数減ながら「販売の質向上」で営業損失の通期見通しを改善

2021年2月9日 開催

2020年度の第3四半期決算説明会に出席した日産自動車株式会社 代表執行役社長兼CEO 内田誠氏

 日産自動車は2月9日、2020年度第3四半期と同期累計(9か月)決算を発表し、オンラインで決算説明会を開催した。

 第3四半期の売上高は前年同期(2兆5042億円)から2794億円減となる2兆2248億円、営業利益は同(227億円)44億円増の271億円、当期純利益は同(-261億円)117億円減の-378億円。また、第3四半期累計3か月のグローバル販売台数は同(119万5000台)11万4000台減の108万1000台となった。

オンライン開催された決算説明会には内田社長のほかに、日産自動車株式会社 COO アシュワニ・グプタ氏(左)、日産自動車株式会社 CFO スティーブン・マー氏(右)も同席している
日産自動車株式会社 COO アシュワニ・グプタ氏

 日産自動車 COO アシュワニ・グプタ氏が2020年度第3四半期の数値について解説を行なった。

 グプタ氏は冒頭で「新型コロナウイルスの感染拡大に伴う世界的危機への対応が迫られているなか、世界はマクロ的、および業界として抱える課題にも直面しております。しかし、最近になって一部の経営環境については見通しが立ちつつあり、心強い兆しも見えてきました」と前置き。自動車のグローバル需要が回復傾向にあり、日産のコア市場となっている米国で全体需要が前年並みにまで回復。中国では引き続いて前年度超えで推移していると紹介。日本市場でも数値としては前年以上となっているが、これは前年度は消費税の増税により需要が低迷した影響が背景にあると分析した。

 日産としても人々の健康と安全に対する配慮を徹底しつつグローバル事業で回復を果たしており、第1四半期で落ち込んだ生産台数を大きく回復。販売会社も98%が営業を行なっているという。また、バーチャル環境となるデジタルプラットフォームを利用して販売した台数が7万4000台におよんでいるとして、今後も“新しい生活様式”に対応し、デジタルな顧客経験の価値向上に重点を置いて取り組んでいくと語った。

 新型車としては、日本とアジア市場向けに導入した「キックス e-POWER」を始め、米国向けの「ローグ」、アジア・メキシコ向けの「ナバラ/フロンティア」、インド向けの「マグナイト」、日本向けの「ノート e-POWER」など、複数モデルを市場投入。さらに開発中の「アリア」「フェアレディZ プロトタイプ」「インフィニティ QX60」「インフィニティ QX55」も公開しており、日産のブランド価値と販売台数の向上に大きく貢献してくれるだろうとの期待を示した。

販売台数に関するスライド資料

 市場別では、米国市場で継続的に販売台数が増加。今期では商品の価値を反映した値付けである「バリュープライシング」と在庫削減が進み、クルマ1台当たりの販売売り上げが5%上昇。フリート販売の比率も12%減少し、インセンティブの抑制も「販売の質向上」に寄与。販売台数の追求ではなく、価値創造に事業の軸足を移し、日産が大きなテーマと位置付ける「販売の質向上」を実現しているという。

 また、新型ローグのセグメントシェアは5.9%に増え、旧モデルからバリュープライシングによる価値が22%向上したと分析し、これはユーザーが価格の安さではなく、商品の持つ価値を評価して新型ローグを購入している表われだとした。

 中国市場での販売は対前年比、対前期比ともに好調で、日産ブランドの市場占有率は暦年で11.5%となり、これは最高記録を更新する数字となっている。コアモデルである「シルフィ」は2020年暦年で乗用車販売台数のトップを達成。また、販売の質向上の徹底により、1台当たりの価格も業界平均を上まわっているとした。

 日本国内は対前年比では増加したものの、新型コロナウイルスの感染拡大や新型ノートの発売に向けた準備といった影響により、対前期比で販売台数がわずかに減少。しかし、日産のTV-CMは2か月連続で好意度ナンバーワンになるなど日産ブランドはパワーが高まっているとした。

 また、日本市場では「CASE」分野でのリーダーとして地位を確立しており、これまでに累計で60万2000台の電動化車両を販売したほか、運転支援技術でも「プロパイロット」搭載車を41万8000台販売。これは日産が持つCASE技術を日本のユーザーが評価している証であると述べ、さらに電動化率が100%である新型ノートも非常に好評となっており、発売から1か月で2万台以上を受注していると紹介。先進技術を搭載したこれから登場予定の新型車でこの地位をさらに強化して、販売向上につなげていきたいとした。

市場別の販売パフォーマンスを示すスライド資料

 販売戦略のコアに位置付ける電動化については、同期にEV(電気自動車)「リーフ」の販売台数が14%増加。これから発売される新型EVのアリアも大きな注目を集めており、グローバルで10万人以上から関心が寄せられているという。アリアは日産の強みであるSUVのヘリテージとEVの新しい顧客体験を融合する自信作だと位置付けた。

 これと並行して日産では持続可能な「バッテリーエコシステム」の構築にも注力。日本国内に合弁会社の「フォーアールエナジー」を設立し、再製品化バッテリーの販売数を2020年度は25%増加させるなど、事業活動におけるクルマのライフサイクル全体におけるカーボンニュートラル実現に向けて歩を進めているとした。

 財務実績では、営業利益が1.2%増の271億円。営業利益率は1.2%で、通年で2%の営業利益率を目指す「Nissan NEXT」の達成に向けて勢いをつけている証明だとした。9か月間累計の売上高は販売台数減の影響で5兆3174億円となり、営業損失は1316億円、当期純損失は3677億円となっている。

 営業利益の増減分析では、前年同期の227億円から新型コロナウイルスの影響による販売台数減の影響が554億円、為替変動の影響が378億円の減益要因となり、一方でバリュープライシングの取り組みとインセンティブの抑制で400億円、原価低減などによって576億円の増益要因を生み出し、原材料価格の高騰などの影響などを補って271億円の営業利益につながったと分析した。

電動化に向けた取り組みと「Nissan NEXT」の進捗を説明するスライド資料
財務実績などを説明するスライド資料
日産自動車株式会社 代表執行役社長兼CEO 内田誠氏

 グプタ氏の決算説明に続き、日産自動車 代表執行役社長兼CEO 内田誠氏が2020年度の通期見通しについて説明。

 日産では期初見通しで年間販売台数を416万5000台としていたが、その後の新型コロナウイルスの感染拡大、世界的な半導体不足といった自動車業界全体の課題が発生し、ニーズを満たす生産が難しい状況になったと説明。これを勘案し、2020年11月に発表した前回見通しからさらに3.6%下方修正して、通期販売見通しを401万5000台と発表。内田社長は引き続き半導体不足の影響を最小限に抑える対策に取り組みつつ、過度な台数追求を行なわない販売の質向上、収益性の改善に注力していくとした。

 通期業績見通しでは9か月の実績と販売台数の推移をふまえ、販売台数減によって連結売上高を前回比3%減の7兆7000億円としたが、営業損失は販売の質向上、もの作りや固定費のコスト最適化といったNissan NEXTの進捗により、前回比1350億円改善となる2050億円、純損失も前回比850億円改善の5300億円にそれぞれ修正した。

 前回発表の通期見通しと比較した営業利益の増減要因では、販売台数の減少が570億円の減益要因になるものの、販売奨励金や広告宣伝費の削減、販売構成の改善などによる販売パフォーマンスが600億円、貸倒引当金、支払い金利低減などによる販売金融が510億円、もの作りパフォーマンス・その他が810億円とそれぞれ増益要因になると分析している。

 また、Nissan NEXTは順調に推移しており、新たに市場投入した新型車がグローバルで販売を牽引。発表したばかりのパスファインダー/フロンティアに続き、キャシュカイ、アリア、インフィニティのQX55やQX60といった魅力ある商品の投入により、多様化するユーザーニーズに的確に応えていくとした。

 このほか内田社長は全社を挙げて取り組んでいる事業構造改革計画のNissan NEXT、2050年をめどとするカーボンニュートラルなどについて説明。最後に「本日発表した結果は、日産らしさを確立し、日産の新たな時代を作り出そうという従業員1人ひとりの強い決意、そしてサプライヤー、販売会社の皆さまの多大なるご協力によるものです。1日でも早いステークホルダーの皆さんの信頼回復を目指し、私たちは人々の生活を豊かにするためのイノベーションをドライブし続けてまいります」と締めくくった。

2020年度通期見通しの修正に関するスライド資料
Nissan NEXTやカーボンニュートラルといった計画について説明するスライド資料

質疑応答

 後半に行なわれた質疑応答では、Nissan NEXTで行なっている販売の質向上について、具体的な取り組みについて問われ、グプタ氏は「バリュープライシングと言っていますが、これは値上げをするという意味ではありません。お客さまがそれぞれの商品が持っている価値をどれだけ認めてくれるか、どれだけの対価を支払ってもいいと思ってくれるかということです。それがJ.D.パワーの調査でも出た、新型ローグにお客さまが支払ってくださる価格としてバリューを認めてくれているということで、これは収益性に貢献するだけではなく、1台当たりの売上高にも貢献しています」と回答した。

 このほか内田社長は「昨年の第3四半期決算のときに、アメリカ市場でいつ底打ちになり、回復に向かうのかといった質問を多く受けたことを記憶しています。当時、販売の質向上の戦略には間違いがない。ただ、業績の回復には思った以上に時間がかかると回答しましたが、これまでアメリカでは業績回復に向かっています。今後も新型ローグの発売を契機に、継続して日産として強いモデルをアメリカ市場に導入していき、今後の事業回復につなげていけると自信を持って言えると思います。質問された台数については、事業なので当然ながら、市場におけるプレゼンスを高めるためには台数を見ていきます。ただ、過度な台数は追わないというのがわれわれの方向です」と答えている。

内田社長は2021年度の黒字化に改めて自信を示した

 また、内田社長は2021年度の黒字化に向けて自信を持っているとコメントしているが、その後も新型コロナウイルスや半導体不足といった不透明な要素が強まっており、黒字化に向けた見通しに変更はないのかといった質問が出され、内田社長は「ご指摘のとおり、新型コロナウイルスの感染拡大などには引き続き注視していかなければならない状況です。また、半導体の状況もあります。ただ、当社の第3四半期の収益を見ていただければ利益率も1.2%となっており、中国も含めると約2.5%。この情勢下でも当社としてはこういったレベルの収益改善に、この四半期だけですが十分に達していると思います。Nissan NEXTで掲げている固定費や財務基盤の強化といったモメンタムを維持していけば、そして新車投入で“稼ぐ能力”を高め、ローグやノートを含めて通期としてこの部分が収益に聞いてくると思っております。これらを勘案すれば、コロナでの不透明な状況や半導体の不透明さがある厳しい状況でも、われわれは着実に利益を来年度は生めると思っております」と回答した。

 日本市場での取り組みについては、まず内田社長が「日本はホームマーケットです。残念ながらわれわれの過去に行なってきた経営においてホームマーケットに対して投資できていなかった、日本市場に対して力が入っていなかった事実をふまえ、新たにノートを発表しました。お客さまから非常にご好評をいただいておりますし、ノートには日産の電動化技術が詰まっています。乗って体感していただければ、これが日産だと感じていただけると思います。今後もこういった戦略を日本で展開していきたいと思っていますし、皆さんが“日産らしい”と感じていただける商品をどんどん日本に投入していきます。また、電動化に伴うさまざまな事業も日本で始めます。これが私の思いであり、日本で日産の価値を理解していただくことに力を入れていきたいと思っています」と回答。

「日産は先進技術にヒエラルキーを設けていません」と語るグプタ氏

 また、グプタ氏は「ホームマーケットで大切なことはお客さまの期待に応えるということです。日本市場では63%が軽自動車やスライドドア付きのミニバンといった日本固有のニーズになります。第2にソフトウェア、ハードウェア、インターネット、先進技術といった技術面で、日本は一番技術を牽引している国です。その2点を考え、まず日産は日本固有の専用車を開発しなければなりません。例えば『デイズ』『ルークス』といった軽自動車です。そのほかにも引き続き“日本ならでは”を進めていきます。それは軽自動車であれ、『スカイライン』であれ、日産は先進技術にヒエラルキーを設けていません。実際に運転支援技術を軽自動車に搭載しました。なぜならお客さまは軽自動車でのそれを求めるからです。スカイラインでも同様です。つまり、日産は新型車に集中して、とくに日本のために造るクルマ、そして新技術に力を入れていきます。今は新型ノートを投入して、今後もすでに計画中のアリアやZといった新しいモデルを次々に投入していきます」とコメント。

 電動化を柱とする環境対応の今後に関しての質問では、内田社長が「われわれは2010年にリーフを投入して、EVの普及とゼロエミッション社会の実現に向けて取り組みを行なってきました。この10年におよぶ豊富な経験と知識、こういったものを持っている会社は世界中どこを見てもほかにないと思っています。また、日産はEVを販売するだけではなく、EVを通してさまざまな形で社会に貢献していく。EVのバッテリーを動く蓄電池として家庭やビルのエネルギーマネージメントに使い、災害時には非常用の蓄電池として活用。使用済みバッテリーの有効活用にも力を入れています。日本ではEVを活用して地域の問題解決を図る『ブルースイッチ』の取り組みで、すでに100件を超えております」。

「また、工場でも車両組立の効率向上、生産におけるエネルギーと材料の効率化を推進しています。気候変動は世界共通の課題であり、企業が果たすべき責務として取り組むことが必要だと思っております。この課題をクリアにしていくとともに、利益ある成果を出さない企業は評価されないだろうと併せて思います。そのなかで、『ニッサン・グリーンプログラム』を通じて多くの環境課題と気候変動に対応する事業活動の強化を行なっていきたい。また、イノベーションの範囲とスピードを上げて気候変動に取り組むことが社会的な価値創出、そして日産自身の成長につながるものだと思います」と述べた。

Appleからアプローチがあったかという質問に、内田社長は明確な回答を避けた

 このほか、昨今報道されて注目を集めている米AppleのEV参入に関して、日産に対してAppleからアプローチがあったかという質問が出たが、内田社長は具体的な回答を避けつつ、「時代を考えればクルマが単なる移動手段ではなく、お客さまに新たな価値をどのように提供するかが問われると思います。その点においては従来からの自動車産業の枠組みを越え、新たな分野、領域での活動が必須であると思っています。そのためには各分野、領域で優れた知見を持つ、経験を持つ企業がパートナーシップやコラボレーションをするといった選択肢も十分に出てくるのだろうと思います。新たな企業が自動車分野に進出してくることもあり得ると思っていますし、CASEによるこの100年に1度という時代の変革をチャンスと捉えて、当社でもわれわれが持つ『人がやらないことをやる』という日産DNAでチャレンジしていきたいと思っております」。

「回答が少しベイグ(曖昧)ではありますが、そういったCASEの時代をふまえると、今後はいろいろな形で企業の価値が問われてくるでしょうし、また(他業種から)参入されてくる可能性はあるだろうと思います。そのなかでわれわれがきちっと日産としての企業価値を皆さまに示していく。それに専念していきたい」とコメントしている。

日産自動車 2020年度第3四半期決算発表記者会見(51分21秒)