試乗レポート

ついに新型「フェアレディZ」乗った! 標準グレードの9速ATとバージョンSTの6速MT、そのフィーリングをレポート

今夏発売の新型「フェアレディZ」に乗った

 北海道足寄郡陸別町にある日産のテストコースで、ついに新型「フェアレディZ」に試乗することを許された。初代S30型が登場して今年で53年。ほぼ途切れることなく続いたこのクルマは、今回のモデルで7代目となる。これまでに世界累計約180万5000台を記録(2021年3月時点)したZの歴史がこれからも積み重なっていくことをまずは嬉しく思う。

 コンセプトはZ33時代から使われてきた言葉である「Lust then Love(ひと目で心惹かれ、いつまでも愛し続けられる)」。そして「Zenith of Z-ness for Z-enthusiast(Zファンのための歴代最高のZ)」を掲げている。すなわち、極端に言ってしまえば新規ユーザーを獲得しようという意思は薄く、だからこそあえて、いまだ人気が高いS30型が持っていた象徴的なシルエットを継承するスタイルとなったのだろう。歴代最高のZにするために、スタイリング、パフォーマンス、そしてサウンドを磨き上げてきたという言葉がブランドアンバサダーの田村宏志氏からも発せられ、期待は高まるばかりだった。

 個人的な話で恐縮だが、実は僕もZファンの1人である。かつては母がZ32型に乗り、それを受け継ぐかのように僕が後にZ33を買ったのだ。だが、母も僕も共に衝撃的な影響を受けたのはS30型であり、その後継モデルだからと当時のモデルを購入したのだ。いつの時代もあの姿を浮かべながら走っていた。だからこそ、新型のシルエットは実にしっくりと来る。実は発表段階から心を決め、おかげで(?)乗らずしてオーダーを入れてしまった。これは僕自身、初めての行為だ。それが吉と出るのか、凶と出るか? 期待と不安が入り混じりながらテストコースに入った。

試乗しないで購入を決意した新型フェアレディZ。その仕上がりはいかに?

進化はエンジンだけじゃない

 周知の事実であるが、今回のZは言ってみればビッグマイナーチェンジである。エンジンは「スカイライン 400R」と同じだが、プラットフォームは先代ベース。不安は尽きない。パーツナンバーの8割が変更されているというが、エンジンが変わっているのだから当然のような気もしてくる。だが、話を聞けば聞くほど興味深い内容が開発陣から飛び出してきた。

 V型6気筒3.0リッターツインターボ「VR30DDTT」エンジンは、前述した通り400Rと同じではあるが、馬力は1つも上げていないがリサーキュレーションバルブを新規開発することで、スロットルOFF時のタービンの失速を抑えることに成功しているという。また、冷却関係にもメスが入れられ、旧型はクーリングファンとラジエターだけだったものから、モーターパワーを増したクーリングファン、厚みを増したラジエターへと変更。さらに空冷エンジンオイルクーラー、水冷インタークーラー&ラジエター、空冷トランスミッションオイルクーラーを追加。それらがエンジンの前にところ狭しと並べられているのだ。これらを冷やすために真四角の開口部がフロントバンパーに必要だったらしい。

 これ、デザイン的には否定的な意見が多いらしいが、旧型が冷却で苦労していたこと、そして先代より馬力が引き上げられたことを考えればその対応策もうなづける。東京オートサロンではS30型を思わせるフロントマスクに変更したチューニングカーが出展されたが、現段階ではあれを達成するのは難しいだろうという話。少し残念だが、理由を聞けばそれも仕方がないと納得できた。いつかはボンネットにエア抜きを付けるなどさらなる改良を施して、あのスタイリングを達成して貰えたら最高だ。

カスタムカーショー「東京オートサロン2022」で披露されたカスタマイズプロトモデルの「FAIRLADY Z CUSTOMIZED PROTO」。フェアレディZ432Rを彷彿とさせるオレンジのボディカラーを用いつつ、フロントまわりの意匠変更、オーバーフェンダー、大型リアスポイラー、デュアルエキゾーストマフラーといった装備が与えられた

 車体系は主に2種類の改良を行なったそうだ。まず、冷却系が増えたことによる重量アップがネガとならないように、冷却系まわりを支える部分を強化。これにより、重いものが遅れて反応するようなことがないように改めたという。もう1つの改良は、タイヤのコーナリングフォースの増加、そしてパワーユニットの重量増によって、フロントサイドメンバーの動きを抑える必要に迫られたという。具体的にはフロントサイドメンバーがキャビンに接触する部分、つまりは付け根のところにレインフォースを追加。クロスメンバーにさらにメンバーを追加した。

 一方でリア側も改良が行なわれている。バックドアを支える骨格、つまりは開口部の強化を行なったという。突起を乗り越す度にバックドアは上下動し、それによりキャビンの容積が変化。結果としてドラミングが発生し、乗員に不快感を与えてしまっていた。開口部の強化はそれを解決するための手法だったというが、結果として静粛性だけでなく乗り心地にも寄与したそうだ。

 実は、試作段階では旧型のボディにVR30DDTTエンジンを単純に乗せていたが、曲がらないしトラクションもかからずという状況だったという。ボディの改良によりきちんと曲がり、トラクションもしっかりかかる姿に進化したというわけだ。実は旧型に対してATモデルでおよそ80kg、MTモデルで約60kgの重量アップとなっているが、それを克服したというのだから楽しみだ。ちなみに前後重量配分はフロント側に1%移ったらしい。

 もちろん、改良はそれだけで終わらない。フロントはハイキャスタージオメトリーとしたほか、ツインチューブダンパーからモノチューブダンパーへと変更。セッティング方向も大幅に変化している。また、油圧だったパワーステアリングはラックアシストの電動へと、あらゆる部分が進化。パーツナンバーの8割が変更とは、エンジンだけの話ではなかったようだ。旧型をベースとしながらも、隅々までキッチリと見直した新型は、話を聞いているだけでも期待できそうだ。

新型フェアレディZのボディサイズは4380×1845×1315mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2550mm。エクステリアデザインはロングノーズ・ショートデッキというS30型をはじめとする歴代フェアレディZへのオマージュを込めたシルエットに仕上げ、LEDヘッドライトのデザインはS30型を彷彿とさせる2つの半円をイメージしたもの、リアコンビネーションランプはZ32型を連想させるデザインに最先端の技術を取り入れたものとなっている
インテリアではセンタークラスターにS30型の3連サブメーターとエアコン吹き出し口、コントロールスイッチ類を積み上げた操作性に優れたデザインを現代的な技法で再構築。インストルメントパネル上の3連サブメーター(ブースト計、ターボ回転計、電圧計)は、歴代フェアレディZ同様の電圧計と走行中ターボの状態を把握できる2つのメーターを配置した。また、アドバンスドドライブアシストディスプレイ(12.3インチカラーディスプレイ)ではドライバーの好みに合わせて変更できる3つの表示モードを用意する
新開発のV型6気筒DOHC 3.0リッターツインターボ「VR30DDTT」エンジンは最高出力298kW(405PS)/6400rpm、最大トルク475Nm(48.4kgfm)/1600-5600rpmを発生。WLTCモード燃費は6速MT仕様が9.5km/L、9速AT仕様が10.2km/L

ベーシックモデルの9速AT仕様、オープンデフでも不満なし

 さて、その実力はどんなものか? まずはベーシックモデルの9速AT仕様に乗って走り出してみる。ローンチコントロールが装備されていると聞き、まずはそれを試す。左足でブレーキを踏み込み、アクセルは全開に、そして両方のパドルを引いた状態でスタンバイ。パドルを離した直後に左足ブレーキを解除すれば、たしかなトラクションを生み出しながら加速を続けていく。エンジンは下からトルクフルでありながら、高回転へ向けた伸び感もなかなか。速いだけじゃなく気持ちよさも十分にありそうだ。9速ATは次々にステップを繰り返していくから、それもまた爽快! これはなかなか速そうだ。

9速AT仕様のシフトとペダルまわり。ベーシックモデルおよび9速AT仕様のVersion Tは18インチホイール(タイヤサイズ:245/45R18)が標準

 一度減速して高速道路想定で走ってみたが、9速ATはなかなか9速目に入ってくれない。120km/hあたりでようやく9速といったところだろうか。新東名高速なら使えるか? いずれにしても低回転をキープしながら、ラクにクルージングできるところは魅力的。9速ATは燃費的なことはあまり考えていないイメージで、加減速も常にリニア。コースティングさせて燃費を稼ごうというような思想はあまり感じない。さすがはATとはいえスポーツカーである。それを証明するかのようなパワーステアリングの設定は、120km/hを超えたあたりで急激に重たくなってくる。少しやり過ぎのような気もするが、これもまたハードな走行をも受け止めるスポーツカーを演出するためのようだ。日本ならスピード違反となる領域だから、別にいいといえばいいのかもしれないが……。

 その後も高速周回路を高速巡行してみると、たしかに嫌な音は入ってこない。助手席と常に会話ができそうな雰囲気だ。荒れた路面をわざと選んで走ってみたが、それを上手に吸収しながら突き進む感覚がある。実はこの試乗会の前まで約1500kmに渡って旧型(Z34)に乗ってきたのだが、それと比べると遥かに快適であり、ワンダリングの少なさにも驚いた。直進安定性をきちんと高めたあたりは好感触。これならロングドライブだって苦痛なことはないだろう。タイヤの中にスポンジを奢ったこと、さらにはトレッド中央部を高くするプロファイルとし、接地面積を縦長としたことも効いているのかもしれない。中央の縦溝と両サイドの縦溝の長さが実質変わり、それによってタイヤと路面との間で発生してしまう気柱管共鳴音が打ち消されるという効果もあるのだとか。隅々までキッチリと見直すという意思は、こんなところにまで及ぶのかと感心してしまう。

 ワインディング路に訪れると、かなりしなやかにタイヤが路面に追従している感覚が得られる。ボディはフラットに保たれるが、サスペンションは常にうねりや凹凸をいなすために戦っている。特にイン側のリアがきちんと接地している感覚が伝わってくる。このクルマの仕様はLSDを持たないオープンデフなはずなのに、スタビリティコントロールを解除していても不満がない。ピッチングを程よく感じさせてくれるおかげで、クルマの姿勢作りがしやすく、コースを把握していなくても安心して飛ばせたところが好感触だ。

“1.25WAY”仕様の機械式LSDはやりすぎ? やりすぎじゃない?

 続いて最上級グレードとなるVersion STの6速MTモデルに乗り換える。実は購入時に色々と考えて、結果として僕が予約したグレードだ。サウンドコントロールと19インチがポイントだろうか?

6速MT仕様のシフトとペダルまわり。6速MT仕様のVersion SおよびVersion STはレイズ製19インチ鍛造アルミホイール(タイヤサイズはフロントが255/40R19、リアが275/35R19)を標準装備するとともに、4輪アルミキャリパー対向ピストンブレーキ(フロント4ピストン、リア2ピストン)、機械式LSDも与えられる

 走り出してまず感じることは、全ての操作系がしっくりと来ることだった。ようやく手にしたステアリングのチルト&テレスコはもちろん、クラッチの操作性やブレーキのコントロール性までリニアさがかなり増したと思える仕上がりがあった。シフトアップを繰り返していると、ATの方が明らかに速そうだが、無駄を楽しめるMTはやはり気持ちがいい。そこに程よくエンジン音を加えてくれるサウンドコントロールが用意されるのだから爽快だ。シフトフィールは改良が施されたというが、やや引っかかりを感じるところが残念なところ。だが、それはまだ距離を走っていない個体だったからかもしれない。

 ワインディングでは18インチ仕様よりも遥かにシャープにクルマが反応し、キビキビとした身のこなしを展開する。少しステアしただけでピクリと反応するあたりは、若干難しさがある。テールの流れはじめもやや動きが早い傾向がある。慣れてくれば面白いのかもしれないが、ここは今後マイルドにしていただけたら幸いだ。きっとモデルイヤーごとに着実に進化するだろうから、今後に期待したい部分だ。

 荒れた路面を走ると、ATモデル同様に足まわりは路面に追従するが、アクセルONをする度にさらに確実なトラクションを感じさせてくれるところはさすが。機械式LSDが標準となるが、程よく効き前に出してくれる感覚はなかなか。バキバキ言うこともなく、一方でブレーキング側のアプローチではスッと向きを変えてくれる。聞けばこの機械式LSDは1.5WAY以下というスペックらしく、細かくいうと1.25WAYくらいの設定とのこと。市販車に機械式LSDなんてやりすぎでは? とも思ったが、乗ってみると程よくチューニングされており納得の仕上がりだった。

 こうして試乗を終えた今、ようやく気分が晴れてきた。色々と細かなことを書いてきたが、平たく言ってしまえば単純に全てが気持ちよかった。オーダーしてよかったと心底思えたこと、それが新型フェアレディZへの率直な印象だ。タイムだけを追いかけるのではなく、走って爽快な五感に響く仕上がりをしていたことが何よりも嬉しかった。かっこよく、速く、そして音もバッチリ。こんな世界がまだしばらく味わえると思ったら開発陣には感謝しかない。

 今は納期が遅れ、わが家にくるのは1年後か2年後か、なんて話が持ち上がっている。オーダーも今月いっぱいで一旦打ち切りというアナウンスが数日前には流れていた。少しでも気になった方々は今すぐディーラーへ駆け込むことをオススメする。きっと期待を裏切るようなことはないはずだから……。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はスバル新型レヴォーグ(2020年11月納車)、メルセデスベンツVクラス、ユーノスロードスター。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。