試乗レポート
日産の新型「エクストレイル」初試乗! 可変圧縮比エンジン採用のe-POWER、4輪制御のe-4ORCEに大きな夢を感じた
2022年7月20日 13:00
新型エクストレイルはどう進化した?
初代「エクストレイル」は“タフギア”のコンセプトどおり、撥水処理したシートや水洗いできるラゲッジルーム、手に入れやすい価格で人気を博して2代目にも受け継がれた。現行型は時代に合わせて都会派SUVに変身して根強い人気で現在に至っている。そして4代目は現行型の使いやすさに加えて初代タフギアの原点に戻り、先進技術を投入した上質な乗り心地と高い走破力をコンセプトにして生まれ変わった。
新型エクストレイルのプラットフォームは新規のCMFーCDプラットフォームを採用し、e-POWERの発電用エンジンは夢の可変圧縮比であるVCターボを世界初搭載した意欲作だ。ちなみに三菱自動車「アウトランダー」とは兄弟車となるが、CMFプラットフォームはアウトランダーPHEV用とエクストレイル e-POWER用では搭載ユニットに合わせて細部が異なっている。
ボディサイズは4660×1840×1720mm(全長×全幅×全高)と、現行エクストレイルに対して全長は30mm減、全幅は20mm増、全高は20mm減と全体の印象はガッチリとまとまった感じになっている。低くなったが着座位置を下げているのでヘッドクリアランスはこれまでと変わらない。
ホイールベースも2705mmで同じだが、室内長はさらに長くなった。2列目シートのスライド量は260mmで現行型より20mm長く、一番後ろにすると競合車の中でも最も広くなる。ついでに後席のヘッドクリアランスは斜め上方も含めて余裕十分だ。また、リアドアは90度の角度まで開き、チャイルドシートの取り付けなどの作業も容易に行なえる。
ドライバー席からは正面に12.3インチの液晶ディスプレイ、センターにも12.3インチのナビゲーションが配置され、Gグレードには画角の広いヘッドアップディスプレイが組み合わされる。シートは体全体をサポートするゼログラビティと呼ばれるシート構造でGグレードには標準設定。感触のいい次世代シート素材「TailorFit(テーラーフィット)」が使用される。インテリアは細部にもこだわった心地よさをコンセプトにしているだけあって、手に触れるところは快適な触感だ。操作系も整理され格段に使いやすくなっている。
爆発的な加速力はないが十分に速い
試乗車はXグレードの4WD、つまりe-4ORCEを搭載したモデルで、タイヤはファルケン「ZIEX ZE310A ECORUN」(235/60R18)を履く。システムを起動して電子制御シフトを手前に引きDレンジをセレクトする。1.8kWhのバッテリから供給された電気でスっと走り始め、ゆっくりアクセルを踏めば約50km/hまではモーター走行が続く。もっとも、小さなバッテリでのEV走行は頑張っても4kmぐらいが限度。
少しアクセル開度を大きくすると発電用のVCターボが始動する。エンジン振動がほとんどなく、音もかすかに伝わる程度。音源ではロードノイズが主だ。ボディは遮音材の適材使用はもちろん、音対策が厳重で、例えばフロアを貫通するエアコンやワイヤハーネスのホールも開口部を小さくして音をカットしている。またモーター走行の出番を多くしていることも静粛性につながっている。
VCターボは複雑なリンクを介して8:1~14:1までの可変圧縮比を実現している。1.5リッター3気筒ターボから106kW/250Nmの出力を出しているが、発電機専用としているために最高回転も5000rpmに抑えられている。その回転域の中で最も効率がいいのが1600rpm~2000rpmで、大トルクを低回転で出すというVCターボの強みを活かしている。またコンロッドは構造上、左右への振れが小さく振動も極めて小さい。
発電機としては定速回転でもよさそうだが、エンジンの余力が大きいためドライバーの加速フィーリングにも合うように制御されている。加速時のレスポンスが明らかに早く、これまでのようにエンジン回転に置いていかれるような感触がない。
モーターはフロント150kW/330Nm、リア100kW/195Nmの出力を持ち、駆動モニターを見ていると、一瞬フロントモーターがまわってリアモーターが駆動するのが分かる。アクセルを全開にするとたちまち速度は伸びやかに上がっていく。爆発的な加速力はないが十分に速い。1.5リッターターボで1880kg(Gグレード)の4WDをこれだけ走らせるのはVCターボの発電力がなければ難しかっただろう。
ちなみに100km/h巡航ではエンジンは低回転でまわり、雑味のない静かさだ。全開加速でも前後席での会話は邪魔されない。WLTCモードによると、e-4ORCE仕様の高速燃費は18.3km/L。市街地燃費は16.1km/Lとされている。
乗り心地は段差の通過でも基本的にマイルド。突起乗り越し時は多少大きくなるが、SUVとして上質な乗り心地だ。また、制動の際は出力が大きくレスポンスの早いリアモーターを利用し、後輪に駆動力制御を加えることでピッチングをコントロールする。アクセルOFF時での凹凸の通過でもフラットな乗り心地なのはこの効果も大きそうだ。
ハンドリングは予想以上にシットリしたものだった。50%ほど剛性アップされたプラットフォーム+高剛性サスペンションはハンドル操作に対してレスポンスが高く、軽い操舵力でもまったく不安感はない。加えて新しいラックタイプの電動パワーステアリングは剛性が大幅にアップされ操舵時のレスポンスと滑らかさに一体感がある。新型エクストレイルからステアリングギヤ比が早くなって操舵量が少なくなっているが、SUVらしい安定感は損なっていない。
前後モーターによる電動4WDはこれまで駆動力制御のみを行なっていたが(それでも氷上で見せたノート オーラ 4WDの実力はなかなかのものだった)、e-4ORCEではこれに加えて4輪のブレーキ制御も行ない、各輪のグリップ限界を算出することでモーターとブレーキの統合制御を行なう。ハンドル操作に対して追従性が高いのはこのe-4ORCEの効果も高い。
ドライブモードは多彩で、AUTO、SPORT、ECO、SNOW、Off-roadがある、通常はAUTOでオールマイティ。ドライブフィールも普通だ。端的に言えばSPORTとOff-roadはアクセルのゲインが高く、ECOとSNOWは低くなる。減速側ではAUTOだけが回生力を弱めており、これが最もガソリン車から乗り換えても違和感がない。e-Pedalのスイッチを入れるとアクセルOFFですべてのモードで回生力が強くなり、減速Gが0.05G(AUTOの場合)から0.2Gとなる。いわゆるワンペダル操作が可能だ。経験的に雪道のような滑りやすい路面での効果が高くなる。
同時に試乗したオーテック仕様のサスペンションは基準車と共通だが、タイヤはミシュラン「プライマシー4」(255/45R20)。大径タイヤだがパターンノイズが静かで、乗り心地も凹路面での乗り下げ時のショックが小さかった。同時にジョイント路の衝撃も滑らかなのは驚いた。
ハンドリングでは微小域での反応が早くキビキビとクルマが動く。ライントレース性や自然な操舵感が高く、なかなかスポーティだ。荒れた路面の突起では少しバタつくことがあるものの、いろいろなシーンで信頼感の高い仕上がりになっていた。基準車とは性格が全く異なる。
プロパイロットはレーントレース性が向上しているように感じた。また、機能は新しい世代になりナビリンク機能、緊急停止支援システム、SOSコールなどを備えている。スイッチだけで自動パーキングを行なうプロパイロット・パーキングも装備された。ハイブリットらしく100V/1500Wのコンセントも備わり、緊急時の非常電源としても利用できる。
日産はBEVへのシフトを進めている。e-POWERは内燃機関とBEVの間をつなぐ長い橋の役割を果たすが、新しいエクストレイルはVCターボによるe-POWER、4輪制御によるe-4ORCEに大きな夢を感じた。e-POWERの進化はまだまだ続きそうだ。