日下部保雄の悠悠閑閑

VCターボ

1.5リッター3気筒ターボの次世代VCターボエンジン。カバーされているのでほぼ何も見えません

 以前、日産がテクニカルセンターでさまざまな勉強会を開いてくれた時があった。デザインや技術などバラエティに富んでおり、それぞれ興味深かったが、中でも印象に残っていたのは可変圧縮比エンジンだった。複雑なリンクを使って上死点と下死点を変えることで圧縮比を変えることができ、圧縮比が高ければ高い熱効率を得られるが、ターボでは逆に低圧縮比の方がパワーを出せる。この矛盾した要求を実現した1つの回答がVCターボで、可変圧縮比エンジンは世界で初めてとなる。長い雌伏の時間が必要だったのは、複雑なリンク機構を介して円滑な回転を実現するために軸受けを強化するなどの信頼性を重視したところにあるようだ。

 コンロッドとクランクシャフトはリンクによって連結されているので、クランクシャフトセンターはコンベンショナルエンジンに比較すると約35mmオフセットされている。文章で説明しにくいが、このリンクをさらに別のコントロールリンクで上下させることで圧縮比を変化させることができる。

 この可変機構で圧縮比は8:1~14:1まで自在に変えることができ、走行パターンによって自動的に可変できるのもポイントだ。

高圧縮と低圧縮でのリンクの位置。なかなか図だけでは分かりにくいです
VCターボの各パーツを示しています
4気筒2.0リッターVCターボ(KR)と3.5リッターV6NA(VQ)の出力比較です

 さて、このエンジンを搭載した3種類のVCターボエンジン車に乗ることができた。残念ながら日本市場では販売されていないが、すでに海外で販売されているアルティマやインフィニティ QX55で、いずれも4気筒2.0リッターターボ。そして次世代の1.5リッター3気筒VCターボを積むSUV、日本だとエクストレイルにあたるローグだ。

試乗したのは神奈川県は追浜にある日産の試験場、グランドライブ

 エンジンは低速からの立ち上がりが早く素晴らしくスムーズ。エンジン振動がなく滑らかに加速していくのはこれまでのガソリンエンジンとは違った印象だ。VCターボは燃焼行程でコンロッドがほぼまっすぐ下に伸びるのでピストンの横ブレが少なく振動が小さい。また加速も伸びやかでスカッとした気持ち良さがある。ちなみにエンジンのメカニカルノイズも小さく上質なパワーユニットに仕上がっていた。

 特に3気筒のVCターボはバランスシャフトを持たないにもかかわらず、前述のように振動が少ない上にリンク類が振動を打ち消す働きをするので素晴らしく滑らかだ。車体が新しかったこともあり新世代のガソリンエンジンを強く感じた。日産は電動化に突き進んで内燃機はどうなるんだろうと思っていたが、やることはやっていたんだとちょっと嬉しくなる。

次世代VCターボを搭載したローグ。隣に乗っているのはたぶんVCターボ開発者の木賀さん

 VCターボはいいものに乗った感が高かった。重量的にはバランスシャフトは必要としないがリンク類とアクチュエーター、コントロールロッドなどで既存のKR型エンジンよりも10~15kgほど重くなる。ただ、エンジン容積はほとんど同じなので既存車種への搭載にもネガ部分は小さい。また日産が邁進するe-POWERにも関係がある。振動が少なくレスポンスの良いVCターボは上級車のe-POWER用ジェネレーターとしても相性がよさそうだ。

左コンベエンジン、右VCターボ。容積はほぼ一緒だけど、部品点数が多いので10~15kg重いそうです

 日本市場でのVCターボの計画は明らかになっていないが、いずれ乗れる日が来ると確信している。

ローグの後ろ姿

 さて、一方欧州メーカーでは、ステランティスのEVへの道筋を示すプレゼンがオンラインで約2時間半以上にわたって行なわれた。タバレス会長、そして各ブランドの責任者が行なう壮大なものだ。4つのEV用プラットフォームを活用して傘下の各ブランドで展開するという野心的なプロジェクトを推進するとしていた。日本にもうすぐ再上陸するオペルも将来のEVをコラージュするのはその名も懐かしいマンタだったのも嬉しい(日産もシルビアの夢を復活させないかな、無理を承知の願望)。ダッジはライトトラックからチャージャーまでアメリカらしくマッスルカーをお披露目し、シトロエンのアミは欧州らしいコンパクトで合理的なEVだ。

 これだけ多くの車種をグローバルに展開するステランティスだけに、電動化にはBEVだけでなくHV、PHEVも含んで展開される。世界を見渡せばパワーユニット、そしてエネルギーの多様性は現実的だと思う。それにしても21時半から始まったプレゼンは長かった……。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。