日下部保雄の悠悠閑閑
VCターボ
2021年7月19日 00:00
以前、日産がテクニカルセンターでさまざまな勉強会を開いてくれた時があった。デザインや技術などバラエティに富んでおり、それぞれ興味深かったが、中でも印象に残っていたのは可変圧縮比エンジンだった。複雑なリンクを使って上死点と下死点を変えることで圧縮比を変えることができ、圧縮比が高ければ高い熱効率を得られるが、ターボでは逆に低圧縮比の方がパワーを出せる。この矛盾した要求を実現した1つの回答がVCターボで、可変圧縮比エンジンは世界で初めてとなる。長い雌伏の時間が必要だったのは、複雑なリンク機構を介して円滑な回転を実現するために軸受けを強化するなどの信頼性を重視したところにあるようだ。
コンロッドとクランクシャフトはリンクによって連結されているので、クランクシャフトセンターはコンベンショナルエンジンに比較すると約35mmオフセットされている。文章で説明しにくいが、このリンクをさらに別のコントロールリンクで上下させることで圧縮比を変化させることができる。
この可変機構で圧縮比は8:1~14:1まで自在に変えることができ、走行パターンによって自動的に可変できるのもポイントだ。
さて、このエンジンを搭載した3種類のVCターボエンジン車に乗ることができた。残念ながら日本市場では販売されていないが、すでに海外で販売されているアルティマやインフィニティ QX55で、いずれも4気筒2.0リッターターボ。そして次世代の1.5リッター3気筒VCターボを積むSUV、日本だとエクストレイルにあたるローグだ。
エンジンは低速からの立ち上がりが早く素晴らしくスムーズ。エンジン振動がなく滑らかに加速していくのはこれまでのガソリンエンジンとは違った印象だ。VCターボは燃焼行程でコンロッドがほぼまっすぐ下に伸びるのでピストンの横ブレが少なく振動が小さい。また加速も伸びやかでスカッとした気持ち良さがある。ちなみにエンジンのメカニカルノイズも小さく上質なパワーユニットに仕上がっていた。
特に3気筒のVCターボはバランスシャフトを持たないにもかかわらず、前述のように振動が少ない上にリンク類が振動を打ち消す働きをするので素晴らしく滑らかだ。車体が新しかったこともあり新世代のガソリンエンジンを強く感じた。日産は電動化に突き進んで内燃機はどうなるんだろうと思っていたが、やることはやっていたんだとちょっと嬉しくなる。
VCターボはいいものに乗った感が高かった。重量的にはバランスシャフトは必要としないがリンク類とアクチュエーター、コントロールロッドなどで既存のKR型エンジンよりも10~15kgほど重くなる。ただ、エンジン容積はほとんど同じなので既存車種への搭載にもネガ部分は小さい。また日産が邁進するe-POWERにも関係がある。振動が少なくレスポンスの良いVCターボは上級車のe-POWER用ジェネレーターとしても相性がよさそうだ。
日本市場でのVCターボの計画は明らかになっていないが、いずれ乗れる日が来ると確信している。
さて、一方欧州メーカーでは、ステランティスのEVへの道筋を示すプレゼンがオンラインで約2時間半以上にわたって行なわれた。タバレス会長、そして各ブランドの責任者が行なう壮大なものだ。4つのEV用プラットフォームを活用して傘下の各ブランドで展開するという野心的なプロジェクトを推進するとしていた。日本にもうすぐ再上陸するオペルも将来のEVをコラージュするのはその名も懐かしいマンタだったのも嬉しい(日産もシルビアの夢を復活させないかな、無理を承知の願望)。ダッジはライトトラックからチャージャーまでアメリカらしくマッスルカーをお披露目し、シトロエンのアミは欧州らしいコンパクトで合理的なEVだ。
これだけ多くの車種をグローバルに展開するステランティスだけに、電動化にはBEVだけでなくHV、PHEVも含んで展開される。世界を見渡せばパワーユニット、そしてエネルギーの多様性は現実的だと思う。それにしても21時半から始まったプレゼンは長かった……。