試乗レポート

日産の新型「キックス」に試乗 第2世代e-POWERの搭載で走りはどう進化した?

7月19日にマイナーチェンジした新型「キックス」に試乗した

第2世代e-POWER搭載とともに4WDが新登場

 日産自動車の小型SUV「キックス」がパワートレーン系に大きなマイナーチェンジを受け、合わせて初の4WDモデルをラインアップに加えた。パワートレーンは第2世代とよばれる「ノート オーラ」のe-POWERを搭載し、パワフルになったばかりでなく、より上質な走りになっている。

 具体的にはフロントモーターが従来のEM57型からEM47型に置き換わり、出力は95kWから100kWに約5%アップ、トルクは260Nmから280Nmに約7%アップ。また、新たに設定された4WDでのリアモーターはノート オーラに搭載されている50kW仕様のMM48型モーターが流用された。バッテリはノートの80セルから96セルになり、車重のあるキックスに合ったものに変更されている。動力性能の面でSUVにふさわしいものになった。

撮影車はダークブルー/ブリリアントホワイトパールの2トーン仕様となる4WDの「X FOUR ツートーンインテリアエディション(ベージュ)」(317万1300円)。ボディサイズは4290×1760×1605mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2620mm
タイヤは横浜ゴム「ブルーアース E70」(205/55R17)を装着

 インテリアに大きな変更はないが、センターコンソールとシフトレバーまわりのデザインが一新した。また、内装も上質感のあるものになり、ベージュのバリエーションも追加されている。

 インターフェースでは上級グレードに「インテリジェント アラウンドモニター」や「インテリジェント ルームミラー」などが標準装備された。さらにスモールSUVの中では初めてとなる前方衝突予測警報が標準装備される。こちらはレーダーを使って2台前の車両の相対速度を検知してアラームを出し、衝突回避を促すものだ。上級車ではすでに実用化されているが、スモールサイズでは初めてになる。

インテリアではセンターコンソールとシフトレバーのデザインを一新するとともに、ツートーンインテリアエディションには現行のオレンジタンに加え、新たにベージュを追加した

スモールクラス以上の快適性

 試乗車は4WDのX FOURスタイルエディションで、タイヤは横浜ゴム「ブルーアース E70」(205/55R17)を装着する。テストコース内でのわずかな走行だったが、従来のキックスからの進化を感じた。

 ドライバーシートはSUVらしくヒップポイントが高く、直前視界も含めて視界が広い。e-POWERはスタート直後はバッテリだけの走行で粛々と走り始め、50km/hほどで1.2リッターのミラーサイクル3気筒エンジンが始動して発電を開始する。初期のe-POWERでは発電用エンジンの始動時に大きな音がして興ざめだったが、かなり軽減された。速度が乗ってロードノイズなどが大きくなり始めたタイミングでエンジンがかかるように設定されている。

 このエンジン始動時の車体振動も抑えられており、ドライブフィールに連続性がある。ただスモールクラスでは遮音対策には限界があり、始動時の3気筒エンジンからの透過音、振動は若干残る。それでもクラス以上の快適性がある。

 パフォーマンスはモーターの出力アップに伴い、フロントモーターは従来型より最大トルクで7%アップし、高速でのレスポンスが向上し、追い越し加速も余力を持って行なえる。4WDはリアモーターの出力が50kWになっており、4WDらしい悪路走破力が期待できるが、残念ながらオンロードでの試乗ではその効果のほどは確認できなかった。こちらも機会があればぜひ低ミュー路で試してみたい。

 ちなみにFFでのWLTCモード燃費は23.0km/L(4WDは19.2km/L)で、従来モデルのキックスの21.6km/h、それにノート オーラ 4WDの22.7km/Lを上まわる燃費となっている。

今回のマイナーチェンジでは、搭載するHR12DEエンジンはそのままにフロントモーターを最高出力100kW(136PS)/3410-9697rpm、最大トルク280Nm(28.6kgfm)/0-3410rpmを発生する「EM47」型に変更。新設定の4WDではリアに「MM48」型モーターをセットし、最高出力は50kW(68PS)/4775-1万259rpm、最大トルクは100Nm(10.2kgfm)/0-4775rpmとした

 日本では日産が先鞭をつけたワンペダルドライブのe-Pedalで、アクセルOFF時の回生エネルギーを積極的に取り入れる。このe-PedalはスイッチによってON/OFFが可能だ。ドライブモードでは出力制限をするEcoや出力マップをパワー側に切り替えるSportが選択でき、さらにどのモードでもBレンジに入れるとe-Pedal同様にアクセルOFFではエンジンブレーキ状態になる。この減速Gはe-Pedal ON時ほど強くはないが大きな減速Gが得られる。使い方としては街中や雪道ではe-Pedalを使い、オンロードの下り坂ではBレンジだと使いやすそうだ。

 ホイールベースは2620mm。SUVらしく全高が1605mmと高いためか不快ではないがノート オーラよりも少しピッチングがある。乗り心地は荒れた路面からジョイント路まで路面相応の感触はあるものの上下のショックはよく抑えられており、また厚いシートは路面からの微振動を吸収しており総じて快適だ。

 ハンドリングは素直。前後輪の荷重変化の多いアップダウンのあるワインディング路でもハンドル追従性がよく、コンパクトSUVらしく軽快だ。長い高速コーナーでのグリップ力も妥当で姿勢変化の少ないアンダーステアを維持して安心感がある。また街中の角を曲がるような場面では操舵力が軽くて運転しやすい。コンパクトSUVの使いやすさとコンパクト以上の質感がキックスの魅力だ。

 マイナーチェンジだが、パワートレーン系の変更と4WDの登場で、SUVにふさわしい駆動力を手に入れたキックスは存在感を持ったコンパクトSUVのポジションを強固なものにした。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛