試乗レポート

ホンダ、新型「シビック e:HEV」試乗 ガソリンモデルとの違いはどこにある?

7月1日に発売された新型「シビック e:HEV」に試乗

「爽快CIVIC」がさらに進化

 2022年7月12日で生誕50年を迎えた本田技研工業「シビック」。同日にはそれを祝うかのように新型「シビック TYPE R」のティザーが流れ、その登場が間近に迫っていることを伝えていた。現行モデルでシビックは11代目を数えることになったが、8代目以降は「世界市民のベーシックカー」的な意味合いが薄れ、ホンダを代表するミドルカーへと成長。ベーシックカーの座は「フィット」に譲った格好となった。だが、数多くのグレード展開を行ない、燃費スペシャルから走りのTYPE Rまで備える姿勢は現行モデルとなる今でも変わらない。

 今回は7月1日に発売されたばかりで、そんな中でも最も燃費に優れる「e:HEV」に試乗する。以前、クローズドコースで試乗を行ないその模様はお伝えした通りだが、リアルなシーンでどんな仕上がりとなるのかは楽しみだ。試乗前にガソリンモデルの6速MTとCVTを試乗し、その感触を覚えた後にいよいよ「e:HEV」に乗ってみる。

 グランドコンセプトを「爽快CIVIC」とした現行モデルにおいて、e:HEVはそれをさらに進化させようとしたという。パワートレーンは新開発の2.0リッター直噴エンジン+2モーター内蔵電気式CVTを搭載。エンジンは「アコード」が搭載していた2.0リッターエンジンの進化版といった造りで、高燃圧直噴+多段噴射となり、圧縮比を13.9(アコードは13.5)まで高めているところがポイントの1つ。最高出力104kW/6000rpm、最大トルク182Nm/4500rpmを実現しながら、排出ガスは新長期規制に対応。これによりエンジン回転が高まるようなハイペースな走行であっても高い実用燃費を保持。ストイキトルクは30%も向上しているそうだ。

 結果としてロックアップ走行領域を拡大することが可能となり、燃料消費抑制だけでなく、ドライバビリティの向上や静粛性をも手にしたところが新しい。また、2次バランサーを搭載すると同時に、吸気パッケージ+ウレタンインシュレーターによるエンジン吸遮音構造を採用することで静粛性と爽快なサウンドを実現したという。走行用のモーターは最高出力135kW、最大トルク315Nmと、クラス上のアコードと変わらず。ちなみに燃費はWLTCモードで24.2km/Lを達成している。

新型シビック e:HEV(394万200円)では新開発となる2.0リッター直噴エンジンと進化したハイブリッドユニットを組み合わせたスポーツ e:HEVを搭載。ボディサイズは全グレード共通で4550×1800×1415mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2735mm。装着タイヤはミシュラン「パイロットスポーツ4」(235/40ZR18)。外観でのガソリンモデルとの相違点は、フロントとリアの“H”エンブレムをブルーに変更するとともに、フロントアッパーグリルとドアガラスまわりのサッシュのグロスブラック化など。ドアミラーもブラックにしている
インテリアではe:HEV専用となる10.2インチデジタルグラフィックメーターを採用。加減速を分かりやすく表現するためにパワーメーターを採用しており、パワー加速については指針で表示し、百分率の目盛りを設けることでタコメーターのような分かりやすさとした。また、チャージ減速はバーで表現する。また、ドライブモードにパワートレーンやステアリング、メーターを個別に設定できる「INDIVIDUAL(インディビジュアル)モード」を国内のホンダ車として初めて採用したのも新しい

身体、目、耳で加速が味わえる

 走り始めてまず感じることは、1.5リッターガソリンターボエンジン搭載車に対しアクセルがどの領域であってもリニアに反応を示し、滑らかかつ静かに走るということだった。基本的にモーター駆動であるから当然といえば当然なのだが、緻密なトルクの発生具合がたまらなく心地よい。加えてフル加速を行なった時の爽快感もたしかにある。深くアクセルを踏んだ場合、高回転を維持し続けるのではなく、あえてシフトアップをしたかに感じさせるリニアシフトコントロールが作動。レブリミットぎりぎりまでエンジンを引っ張った後に、次のギヤへとシフトしたかのようにエンジン回転をわずかに落として再びエンジンを吹け上がらせてレブリミットへ。それをテンポよく繰り返していく様はまるでテレビのF1中継を見ているかのような感覚に浸れる。

パワートレーンは新開発の2.0リッター直噴エンジンを搭載。熱効率に優れたアトキンソンサイクルに加え、燃料をシリンダー内に直接噴射する直噴システムを新採用し、燃料を無駄なく燃焼させることで従来のe:HEV用2.0リッターエンジンに対して高トルク化とエンジンモードでの走行可能領域を拡大した。エンジンの最高出力は104kW(141PS)/6000rpm、最大トルクは182Nm(18.6kgfm)/4500rpm。モーターは最高出力135kW(184PS)/5000-6000rpm、最大トルク315Nm(32.1kgfm)/0-2000rpm

 その際、パワーメーターの針が100%まで行っては下がり、行っては下がりという動きを繰り返し、目でも爽快なフィールを与えてくれるのだ。そしてスポーツモードを選択時にはそれに加えてエンジンサウンドを聴かせてくれるアクティブサウンドコントロールが作動。周囲の迷惑にもならず、車室内だけにスポーティなサウンドを強調してくれるこのシステムの恩恵も爽快さに寄与している。すなわち、身体、目、耳で加速が味わえるのだ。この気持ちよさはワイドレンジな6速MT以上に感じる。パドルシフトを装着し、回生量を4段階に調節できるようになっているが、スポーツモード時であっても、一度左のパドルを弾いて最大回生量を選択すると、あとはそのまま固定となってしまうところが惜しい。アクセルを踏んだら回生量最小となり、次のコーナーで再び左パドルを引けるような環境があればとも思う。その際、ブリッピングでもしてくれたらF1気分はさらに高まるだろうから、次の改良時にはお願いしたいところだ。制御でどうにでもできるという話もあるから、e:HEVの面白さはまだまだ広がることだろう。

上はガソリン仕様となる「シビック EX」のCVTモデル、下は6速MTモデル。価格はいずれも353万9800円

 シャシーの仕上がりはファミリーの中でも一味違った雰囲気がある。バッテリをリアシート下に搭載したことで、重心高を10mm下げられたというe:HEVは、その搭載骨格が加わったことでリアのねじれ剛性も3%ほど向上したという。おかげでリアのどっしりとした安定感を生み出しながらコーナリングしていく感覚が得られる。6速MTモデルに対してフロントで100kg、リアで20kgの重量増があるため、それに対処するために足まわりを引き締めた感覚が伝わってくる。タイヤは6速MT&CVTモデルは高剛性なグッドイヤー「イーグルF1」を採用し足はしなやかな設定。e:HEVはミシュラン「パイロットスポーツ4」を装着し、乗り心地に気を使ったというが、フラットな路面だと吸い付くように走るものの、荒れた路面ではややフロア微振動や突き上げが大きいように感じた。しなやかにスッキリ走りたいのであればガソリンモデルの方がおすすめかもしれない。

 このように一長一短があることを感じた今回のシビックシリーズだが、いずれにしても好みによって選び放題な環境が整っていることを嬉しく思えた。さらにこの環境にTYPE Rが加わることが約束されているのだから……。50周年を迎えるにふさわしい充実のラインアップ、これぞシビックの真骨頂と言える。時代が変わりサイズが拡大したとしても、やはりシビックの姿勢に変わりはない。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はスバル新型レヴォーグ(2020年11月納車)、メルセデスベンツVクラス、ユーノスロードスター。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛