試乗レポート

ホンダ「シビックe:HEV」7月の発売前に先行試乗! 重量増も“味”にする走りを体感

2022年はシビックの年。e:HEVに続けて、夏にはタイプRも登場

 今年で生誕50周年を迎えるホンダ「シビック」。現行モデルは2021年に1.5リッターターボのガソリン車でデビューを果たしているが、実は今年がシビック勝負の年といっていいほど各種グレードを投入する。その最たるものが直近から話題になり始めたタイプRの存在で、すでに鈴鹿サーキットにおいて旧型ファイナルモデルであったリミテッドエディションのタイムを標準車の状態でクリアしたという動画が発表されていた。サーキットが本拠地といえるタイプRらしいアピールはいつの時代も相変わらず面白く、「もっとやれ!」と応援したくなるってもの。やはりホンダはこうじゃなくちゃね。

 だが、一方でストリートを本拠地とするモデルの拡充も忘れてはいない。その存在がここでお伝えするハイブリッドモデルである。発電用と駆動用の2つのモーターを持つe:HEVとなった今回のハイブリッド。すでにそのシステムはフィットでもおなじみだが、巡行状態ではエンジンとタイヤがクラッチで直結され、ダイレクトで効率のよい走りを生み出せるところが特徴的だ。だが、フィットのユニットとは違い、まずエンジンを2.0リッターの直噴としたところがポイントの1つ。それも新開発だという。35Mpaの高燃圧直噴となった今回のエンジンは、小燃料噴霧微細化が進んだほか、低回転高負荷時の多段噴射も実施。圧縮比は13.9となる。最高出力は104kW/6000rpm、最大トルクは182Nm/4500rpmを生み出している。これにより排出ガスは新長期規制にも対応。高剛性クランクシャフトや2次バランサー、そしてオールウレタンエンジンカバーを採用することでノイズ&バイブレーション対策も行なっている。

7月に発売予定の「シビック e:HEV」
外観はガソリンモデルと共通のデザインとなり、マフラーまわりが若干違うのみにとどめられている
ホンダマークのエンブレムにはブルーの差し色が入る
トランクリッドにe:HEVのエンブレムを装着

 2モーター内蔵電気式CVTは、最高出力135kW/5000-6000rpm、最大トルク315Nm/0-2000rpmを実現。これはかつてインサイトが採用していたユニットの改良版となるが、最高出力39kWアップ、最大トルク48Nmアップとなっている。バッテリは60セルから72セルに拡大。しかしながらエネルギー密度を高め軽量コンパクトとし、リアシート座面下にそれをうまく収めることで、ラゲッジなどのスペース効率を失っていないところはさすが。マン・マキシマム、メカ・ミニマムのMM思想は相変わらず受け継がれている。

パワートレーンは最高出力104kW/6000rpm、最大トルク182Nm/4500rpmを発生する2.0リッター直噴エンジンに加え、最高出力135kW/5000-6000rpm、最大トルク315Nm/0-2000rpmを発生させるモーターをCVT内に搭載

 そのバッテリが収まるインテリジェントパワーユニットを守るための骨格は強固に造られた結果、ボディのねじり剛性はガソリン車のプラス3%、重心高は10mmも低下したという。ガソリン車に比べれば30kgほどの重量増となるらしいが、それが決してマイナスには働かないというのがホンダの言い分だ。

“爽快シビック”は激しいアップダウンをどう走る?

 試乗コースとなるのは自転車の国 サイクルスポーツセンターだ。アップダウンがきつくワインディング区間も多いこのステージをどう走るのか? 事前に1.5リッターのガソリンモデルの乗り味を確かめた上で、いよいよe:HEVモデルを走らせる。ガソリン車のような振る舞いを見せるパワーメーターは、ステップシフトとともに針がカクンカクンと俊敏な動きを示しているから、見た目はどこかかつてと変わらない感覚が面白い。ステアリングにはドッシリとした反力が与えられ、ガソリン車よりも重厚な感覚が伝わってくる。重量増が肌で感じられる仕上がりだ。だが、それが決してネガじゃない。ちょっと上質な感覚があるのだ。

メーターはアニメーションにより加速感やエンジンのロックアップなどを表現。まるでタコメーターのような動きをする
メーター内だけでなく、Honda CONNECTディスプレーでもエネルギーフローを表示可能

 それを顕著に感じさせてくれるのがエンジンだ。1.5リッターに比べると明らかに滑らかなフィーリングがある。バランサーシャフトの存在もあるのだろうが、NVがかなり低減されていることが伝わってくるのだ。そこにモーターアシストが加わって、ゆっくり走っていようが、ブッ飛ばしていようが、どの領域であってもリニアにアクセルが応答してくるから気持ちがいい。いつでもどこでもダイレクト。エンジンだけじゃ達成できない世界観がある。滑らかかつリニア、これもまた上質だ。アクティブノイズコントロール(ANC)という騒音と逆位相の音をスピーカーから出すことでノイズを打ち消すシステムも搭載しているせいか、静粛性もかなり高いように感じる。

 スポーツモードに入れてワインディングをハイペースで走ってみると、その心地よさがさらに高まってくる。スポーツモードではスピーカーを利用したアクティブサウンドコントロール(ASC)がいい仕事をしている。エンジン回転の高まりと共に、エンジンの原音を活かした澄んだエンジンサウンドを付加することで、滑らかに心地よく回るエンジンのよさをさらに感じさせてくれるのだ。ドライバーの気分を高めてくれるこのシステムと、ステップシフトを心地よく繰り返すことによって、かつてのエンジン車のようにリズミカルな加速が続く。もちろん、タイプRのように暴力的な速さはないのだが、ワインディングで程よく汗をかけるくらいのスポーティさは存在している。公道では十分すぎるくらいだろう。

 一方で減速側はステアリングに備えたパドルシフトによって回生量を変化させられるところが面白い。ただ、スポーツモードであれば、一度最強にした回生量は、アクセルを踏んだ瞬間にゼロに戻してもらえたらとも思えてくる。一度回生量最強までパドルを引いてしまうと、その後は左パドルを引く機会がなくなってしまうからだ。せっかくパドルを備えるのであれば、それをリズミカルに使い続けられるようなギミックがあれば最高だ。その際にブリッピングのような音の演出もあれば……。それはやりすぎか!? ステップシフトをあえて行ない、リズミカルであることにこだわったホンダだからこそ、そんな仕立てを今後は期待したい。

 いずれにせよ、かなりの領域で爽快にスポーティな走りを楽しめたのは間違いない。シャシーの仕上がりもまたクセがなく、ドッシリとした安定感がありつつ、ニュートラルにコーナーを駆け抜けたところも好感触だった。速さでいえば1.5リッター以上のものがおおむね感じられるし、これはちょうどいいパランス。カーボンニュートラルへ向けた大切なユニットでありながらも、相変わらず走りを忘れていなかったあたりにシビックらしさが光っていた。使い勝手がよく、燃費も排ガスも捨てず、走りもOK。50周年を迎えても、やはりシビックはシビックであることに変わりはない。その中心にいるのが、このe:HEVといえるだろう。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はスバル新型レヴォーグ(2020年11月納車)、メルセデスベンツVクラス、ユーノスロードスター。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。