試乗レポート

新型「シビック」公道初試乗、テストコースとのフィーリングの違いとは

9月3日発売されたばかりの新型シビックを一般道で試乗する機会を得た

スッキリと落ち着いた佇まいになった新型シビック

 テストコースでのプロトタイプ試乗会から約1か月半、いよいよナンバープレートも付いて公道での試乗が可能となった。空の高い八ヶ岳でのワインディングロードと高速道路を組み合わせたテストドライブだ。

 新型は先代(10代目)シビックのイメージを残しつつスッキリした印象。例えば先代シビックのハッチバックドアはヒンジがルーフに盛り上がっていたが、それを両サイドに潜る込ませることでルーフラインも流れるようにハッチバックにつながった。またフロントとリアエンドともにシンプルな造形になっており、Cセグメントの乗用車らしい落ち着いた佇まいになって個人的には好感度が上がった。

新型シビックのボディサイズは4550×1800×1415mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2735mm。先代モデルからホイールベースを35mm、全長を30mm延長しつつ、リアはオーバーハングを20mm短縮しているホイールベースが伸びたため最小回転半径は先代モデルの5.5mから5.7mとなっている
滑らかなルーフラインにより、スッキリと落ち着いた佇まいになった11代目シビック。ボディカラーは今回撮影した「プラチナホワイト・パール」と「プレミアムクリスタルレッド・メタリック」のほかに、「クリスタルブラック・パール」「ソニックグレー・パール」「プレミアムクリスタルブルー・メタリック」の全5色が設定されている
タイヤサイズは前後とも235/40R18 95Yで、グッドイヤーの「EAGLE F1 ASYMMETRIC2」が組み合わせられる。18インチのアルミホイールは「EX」グレードはベルリナブラック+ダーク切削クリアで、「LX」グレードはベルリナブラック+切削クリアと見た目が若干異なる
リアフェンダーの爪の折り返しを薄くする新技術により車幅は1800mmのままで、リアのトレッド幅が片側6mmずつ広げられた
ハッチバックのヒンジ部のレイアウトを工夫したことで、後部席の頭上クリアランスを確保したままスマートなルーフラインを実現した
リアゲートは樹脂製だが安全性やねじれ剛性のために内部にスチール骨格を使用。従来製法作より約4kg軽く作れたという
ちなみに先代モデルはハッチバックのヒンジ部が盛り上がっていたが、ここはルーフスポイラーにつながるデザインとしていた

 キャビンに入ってストンとシートへお尻を落としこむように座ると、改めてセダンらしい着座姿勢に感動する。最近は背の高いSUVの試乗が多かったこともあるが、シビックは特に着座ポイントが低く、ダッシュボードもスッキリとデザインされているためさらに低く感じられる。

 目立たないがAピラーも50mm後方に移動したことで視界が84°から87°に広がった。わずか3°と思えるが、これだけでも前方視界が明るくなり、さらにドアミラーとの隙間もあって数字以上の広がりがある。爽快は新型シビックの開発キーワードだが、まず視界からもそれが感じられた。

 パッケージングは大人4人がゆったり座れるスペースがあり、ドライバーズシートの後ろにも十分なレッグルームがある。ヘッドクリアランスも先代より余裕が持たされ、適度にくつろげるキャビンだ。

スッキリとデザインされて、明るく広がりの視界が確保された。写真は「EX」グレード
内装は「EX」グレードがブラック×レッド(写真)でレッドステッチがあしらわれる。「LX」グレードはブラックのみの設定
後席は大人が座っても適度にくつろげるスペースが確保されている

乗るほどに愛着の湧きそうな1台

 開発コンセプトである「爽快」は静粛性の高さにも表れている。テストコースよりも荒れているのが一般公道の常だが、変化する路面から絶え間なく発せられるロードノイズはよく抑えられている。フロントフロアのアンダーボディやリアアンダーパネルなどの剛性アップとフロアに広く張られたアンダーカバーやリアのインナーフェンダーなどの徹底した遮音対策で、ゴー音やザー音が突出した高さにならない。低中速でのロードノイズ対はすぐに耳につくので悩ましいが、新型シビックではよく抑えられている。

高速道路では静粛性の高さを感じられた

 高速での巡航速度ではそれに加えて風切り音も問題になるが、Aピラーに発泡ウレタン材を注入して高周波音を抑え込んでいる。つまりシビックはCセグメントセダンとして上々の静粛性を備えることになった。

 では乗り心地はと、アンジュレーションの多い路面を走り抜ける。鋭角的な突起のある路面では最初の衝撃はあるが、底づきするような感じではなくサスペンションの収束性は高い。上下動はすぐに収まりバネ上はフラットだ。テストコースで感じた動きと似ているが一般道の路面では最初のショックが少し大きい。細かい路面突起で4輪がよく接地している。

 後席の乗り心地を確認してみたが、鋭角突起の小さな衝撃も気にならない。新型シビックではシートの改善でヒップポイントを正しい位置に置くことができたおかげで、ホールド性だけでなく体の軸が適正化されて乗り心地にも大きく影響する。シートの改善幅も大きい。

搭載される直列4気筒DOHC 1.5リッター直噴ターボエンジンは最高出力134kW(182PS)/6000rpm、最大トルク240Nm(24.5kgfm)/1700-4500rpmを発生。CVT車もMT車も同じスペックとなる

 エンジンは4気筒1.5リッターターボで、これまではCVT車とMT車で変えていた出力特性は1スペックになった。これはCVTのトルクコンバーターの容量アップなどでMTと同じ高出力でいけるようになったからだ。実際にトルクは1700~4500rpmの広い領域で240Nmの高いトルクを出し、最高出力は134kW/6000rpmというホンダらしい高回転で馬力を出している。

 実際に走ってみるとエンジン特性自体はCVTによりマッチしているように感じた。低速回転でのトルクの立ち上がりが早く、エンジン回転と実際の加速が肌感覚で合っており、力強い加速を感じる。またアクセル開度が深くなった時のステップ感も好ましく、ワインディングロードでもリズミカルに加速する。市街地での柔軟性ではエンジン回転をあまり上げなくて済むため、CVTならではのシームレスな加速と共に減速側もよくコントロールされており乗りやすい。

MTモデルのインパネまわり
MTモデルのシフトレバーまわり。CVTとドリンクホルダーの位置などが異なる
「LX」グレードは7インチのデジタルグラフィックメーターを採用し、速度計は従来の指針タイプ
CVTモデルのインパネまわり。CVTはステアリングにパドルシフトも完備する
CVTはシフトレバーの隣にドライブモードのスイッチが配置される
「EX]グレードのメータは10.2インチのデジタルグラフィックメーターを採用し、速度計もグラフィックで表示
CVTでは「スポーツ」「ノーマル」「エコ」の3つのドライブモードを選択可能

 スポーツモードを選択すると減速側ではブレーキを掛けるとステップダウンシフトをするのでエンジンブレーキも期待でき、ドライバーの運転感覚に添った制御が入る。使いやすい位置にパドルシフトもあるが、ワインディングロードでもパドルに頼ることなく、自動変速をしてくれるので運転により集中できる。CVTにはドライブモードを「スポーツ」と「ノーマル」と「エコ」が選べ、それぞれ特徴があってメリハリがあり、使い勝手もよかった。

 一方の6速MTではストロークがシッカリしており、シフト時の正確性が楽しめる。ギヤレシオもハイギヤード傾向に設定されているが、フラットで幅広いトルクバンドで高めのギヤでも柔軟に加速していく。このエンジンはトップエンドまで回しても面白いが、少し手前でシフトアップしたほうがスポーティに楽しく走れる。ただ、ブレーキとアクセルペダルの高さに差が付けられていないために、アクセルからブキペダルの踏み変え操作には最初気を付けなければならなかった。

 ハンドリングはスッキリしたものだ。装着タイヤはその名も懐かしいグッドイヤーのイーグルF1。サイズは235/40R18。ハンドリング、乗り心地とのバランスのとれた完成度の高いタイヤだと感じた。従来シビックから新型ではボディ接着剤が9.5倍の長さになり、感覚的な剛性感は目覚ましく上がった。また、特にリアまわりの剛性アップが図られて操舵した時の一瞬の動きに迷いがなくなったのが好ましい。ドライバーとクルマとの一体感が高くなったのだ。

 操舵フィールもリズム感があり、グリップが上がったのが分かる。ホイールベースは35mm長い2735mmとなっているが、トレッドはフロント1535mmで変わらず、リアのみ10mm拡大され1565mmとなった。またリアのコンプライアンスブッシュも大型化されている。これによってリアグリップが向上したとされ、その効果は走りの爽快さに表れている。ドライブして気持ちのよいクルマだ。

リアグリップが向上し走りが爽快になり、ドライバーとクルマとの一体感も高くなった

 高速道路では渋滞追従走付ACCもトライしたが、ヘッドアップディプレイに美しく前車が表示され、大型トラックなどの識別もできて安心感がある。追従してみると車線内のセンタリングや車間距離の正確な維持、割り込みなどに適格に対応して安心感はさらに増した。車線の消えかかっているところも類推して走行できる能力も増したようだ。フロントカメラの視野角が大幅に広がり、レジェンドで採用された高度な技術が応用されて搭載されている。死角から接近してくるクルマの認識力も格段に上がっている。

 シビックのボディサイズは全長4550mm、全幅1800mmと使いやすいサイズで、大きなテールゲート式の5ドアハッチバックは荷物の収納力も高い。これにフットワークのよさが加わったシビックはこれまでよりもひと回り小さく感じられるほど取り回しがよかった。乗るほどに愛着が湧きそうだ。

価格は今回試乗した「EX」グレードが353万9800円から。「LX」グレードは319万円から。CVTでも6速MTでも同じ価格設定となっている
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一