試乗レポート
新型「カローラクロス」、ハイブリッドモデルとガソリンモデルを乗り比べて分かった違いとは
2021年9月28日 13:03
大きなトランク、広い室内、優れた燃費、価格、どれを取っても魅力的な1台
カローラ55年の歴史、そしてグローバル累計5000万台の販売実績の中で初めてのクロスオーバーが登場した。その名も明快な「カローラクロス」だ。TNGAの開発思想の下に誕生したGA-Cプラットフォームに1.8リッターのコンベンショナルエンジンとハイブリッドが用意され、さらにハイブリッドには4輪駆動の「E-Four」も選択できる。試乗したのはFFのコンベンショナルエンジンとハイブリッドの2機種になり、いつもの首都高から高速道路、そしてちょっとした山道のあるコースに乗り出してみた。
カローラクロスは、一見しただけでトヨタのSUV家系であることが分かる。大きなグリルはヤリスクロスやRAV4にも通じるところがあり、サイドウィンドウの切り方も似ている。逆にカローラツーリングとのデザインの近似性はなく、SUVとのキャラクター分けは明快だ。
ボディサイズは4490×1825×1620mm(全長×全幅×全長)と大きく、カローラツーリングの4495×1745×1460mm(全長×全幅×全高)と比べると全高は当然としても、特に全幅が80mmも広く、ふた回りほど大きいが、ドライバーシートへの乗降性は良好。シートへの収まりもよい。ヒップポイントが高くてグンと見晴らしはよくなっている。横への広がりもあってキャビンは明るい。
Aピラーの傾斜角度は強めだがピラーが細く、ドアミラーとの間隔もあるので死角は少ない。視界の十分な確保は重要なこと。また、シートは高い位置にセットされているため、ドライビングポジションも適度に膝が曲がって楽な姿勢をとれるし、シートをもっとも低い位置にしてもセダンに比べるとかなり高い。アクセルペダルとブレーキペダルとの位置関係もしっくりきやすく、さすがトヨタ、ソツのないレイアウトだ。ダッシュボードのデザインもスッキリしている。
また、全高が高くヘッドクリアランスはタップリしているのに加えて、リクライニング機構の付く後席に座るパッセンジャーは、つま先の入るスペースもタップリあるのでどの席もユトリがある。
ハイブリッドモデルとガソリンモデルを乗り比べてみた
まずハイブリッドから試乗。FFなのでリアサスペンションは現行カローラ兄弟で初のトーションビームとなる。ちなみに4WDはダブルウイッシュボーンだ。ハンドルの操舵力はSUVらしく少し重めの設定になっている。個人的はもう少し軽くてもいいと感じたが、これでも十分に街中の取り回しはいいし、速度レンジが中速から高速になっても操舵力の変化はほとんどないのでこの点でも安心感がある。また、加速時の路面アンジュレーションでは多少直進性が乱される場面もあったが、全高の高さの影響と思われる。
試乗車に装備されていた大きな開口部のサンシェード付きパノラマルーフは解放感溢れ、前席はもちろんだが、特に後席は長時間のドライブにも閉塞感を抱かないで済みそうだ。取材当日は気温が高かったが効果の高いサンシェードによって熱はピタリと遮断されていた。
ノイズもよく抑えられている。特に突出しやすい高周波音はよくカットされており、遮音材の効果的な配置が功を奏しているようだ。ただ加速時にはトーボードをくぐり抜けてエンジンノイズが少し入ってくる。特に耳障りではないのだがエキゾーストノイズの雑音をもう少しカットできればさらに気持ちよく走れるに違いない。ついでに言うとキャビンにわずかに伝わるロードノイズはカローラツーリングよりも少し大きいが、広大なラゲッジルームで共鳴するものと思われる。
全車速ACCによって高速道路での渋滞でもストレスを溜めずに済んだ。車間距離を保ちつつ前車を追走し、そのタイミングも自然だし、割り込みにも適正車間で対処してくれたので、この日の長い渋滞にも随分助けられた。車線を追いかけるライントレース性では基本的に車線中央をキープする。時折左に寄ろうとするのはライントレースアシスト(LTA)が白線の認識に迷うことがあるのかもしれない。
ハイブリットでのEV走行はバッテリー残量によってだが、60km/h程度まではEV走行を行なっており、アクセルオフ時は非常に決め細かく回生を行なって燃費の向上を図っている。WLTCでは26.2km/Lとなっているが、この日のほぼ渋滞でストップ&ゴーの繰り返しという状況の中でも17km/L台をマークした。ちなみに同走したアイドルストップ付きのガソリン車も10km/Lをわずかに割る燃費で、条件を考えるとそれでもすばらしい燃費だと思える。
乗り心地は適度な硬さを持っており、小さなウネリなどではサスペンションはうまく上下動を収束させる。ただ少し鋭角的な突起の場合はリアのトーションビームは少しバタつく傾向にあり、さらに大きめの段差ではバシャとしたショックを伴った。バネ上の動きはそれほど大きくなはいが、カローラツーリングに比較すると背の高いこともあってショックの伝達も異なる。
一方、ガソリン車で同じ路面を走るとリアからの突き上げは大きく、ショックも強くなる。さらに荒れた路面で横Gが掛かるコーナーでは差が出る。これはハイブリッドシステムの重量(約60kg差)とバッテリーの搭載位置の違いが乗り心地の差になっているようだ。装着タイヤはハイブリッドモデル、ガソリンモデルともにミシュランのプライマシー4を履いており、乗り心地やハンドリング、転がり抵抗などにバランスのとれたタイヤだと思う。
そのハンドリングは全幅1825mm、1410kgのカローラクロスだが軽快感があり、ハンドル応答性も妥当だ。ハンドルを切り返した場面ではロールが大きくユッタリとした動きだが姿勢安定性は保たれて、破綻しない安心感がある。欲を言えばハンドル切り始めにしなやかさがあるとさらに運転するのが楽しくなるに違いない。
ブレーキの制動力は十分。ガソリンモデルはペダルをストロークさせたところでジワリを制動力が出るコントロール性があるとよいと感じたが日常の使い勝手に不便はない。
さて、ディスプレイオーディオはカローラと基本的に共通で表示できる項目が多く、使い込んでいくと面白い。ただドライブ中は煩わしいので、今後必要な項目だけを表示させるような画面もあっていいように思う。
大きなトランク、広い室内、優れた燃費、そして価格、どれを取っても魅力的なカローラクロスだ。クロスの登場はカローラと言えどもセダンやハッチバックの座に安閑としていられないという危機意識の表れだ。SUVが今後の主流になっていくことも視野に入れての導入に違いない。そして市場からの反響も大きいと聞く。細かい詰めは今後さらにブラッシュアップされていくはずだ。何年後かにまた乗る機会があればそれはそれで楽しみだ。