試乗レポート

新型「カローラクロス」、ハイブリッドモデルとガソリンモデルを乗り比べて分かった違いとは

モータージャーナリストの日下部保雄氏が新型カローラクロスを試乗

大きなトランク、広い室内、優れた燃費、価格、どれを取っても魅力的な1台

 カローラ55年の歴史、そしてグローバル累計5000万台の販売実績の中で初めてのクロスオーバーが登場した。その名も明快な「カローラクロス」だ。TNGAの開発思想の下に誕生したGA-Cプラットフォームに1.8リッターのコンベンショナルエンジンとハイブリッドが用意され、さらにハイブリッドには4輪駆動の「E-Four」も選択できる。試乗したのはFFのコンベンショナルエンジンとハイブリッドの2機種になり、いつもの首都高から高速道路、そしてちょっとした山道のあるコースに乗り出してみた。

 カローラクロスは、一見しただけでトヨタのSUV家系であることが分かる。大きなグリルはヤリスクロスやRAV4にも通じるところがあり、サイドウィンドウの切り方も似ている。逆にカローラツーリングとのデザインの近似性はなく、SUVとのキャラクター分けは明快だ。

今回試乗した新型「カローラクロス」。写真はハイブリッドモデルの「Z」
ハイブリッドモデルとガソリンモデルはエンブレムで見分けられる
太く縁取られた大型グリルを下方に配し、SUVらしいたくましさを表現したフロントフェイス
バンパーはワイドで安定感のあるデザインを採用
Dピラーのメッキパーツには「COROLLA CROSS」の文字があしらわれる
フロントフェンダーとリアフェンダーは共にボリューム感があり迫力と力強さのあるデザイン。さらにフェンダーアーチの樹脂がSUVスタイルを強調
「Z」グレードのタイヤサイズは前後とも225/50R18(「S」「G」グレードは17インチ)、タイヤはミシュラン「プライマシー4」を履く

 ボディサイズは4490×1825×1620mm(全長×全幅×全長)と大きく、カローラツーリングの4495×1745×1460mm(全長×全幅×全高)と比べると全高は当然としても、特に全幅が80mmも広く、ふた回りほど大きいが、ドライバーシートへの乗降性は良好。シートへの収まりもよい。ヒップポイントが高くてグンと見晴らしはよくなっている。横への広がりもあってキャビンは明るい。

 Aピラーの傾斜角度は強めだがピラーが細く、ドアミラーとの間隔もあるので死角は少ない。視界の十分な確保は重要なこと。また、シートは高い位置にセットされているため、ドライビングポジションも適度に膝が曲がって楽な姿勢をとれるし、シートをもっとも低い位置にしてもセダンに比べるとかなり高い。アクセルペダルとブレーキペダルとの位置関係もしっくりきやすく、さすがトヨタ、ソツのないレイアウトだ。ダッシュボードのデザインもスッキリしている。

 また、全高が高くヘッドクリアランスはタップリしているのに加えて、リクライニング機構の付く後席に座るパッセンジャーは、つま先の入るスペースもタップリあるのでどの席もユトリがある。

内装はSUVらしく視界が広く運転のしやすいデザインに仕上がっている
ガソリン車の「G“X”」以外は全車スポーティシートを採用し、写真の「Z」グレードのみ本革+ファブリック。「S」「G」グレードはファブリックのみとなる
解放感の大きな電動サンシェード付きパノラマルーフは「Z」と「S」グレードのオプション装備
ステアリングは左右対称デザインで、右側が運転支援系、左側が情報操作系、左右の下側がオーディオ系の操作ボタンとなる
試乗車はDA(ディスプレイオーディオ)だったのでスマホを接続して地図を表示させた
置くだけ充電は「Z」のみのオプション装備となっている
リアシートは4:6の可倒式を採用。ラゲッジルームの容量は5人乗り状態で487Lあり、さらに後部席を倒すことで拡大させられる

ハイブリッドモデルとガソリンモデルを乗り比べてみた

 まずハイブリッドから試乗。FFなのでリアサスペンションは現行カローラ兄弟で初のトーションビームとなる。ちなみに4WDはダブルウイッシュボーンだ。ハンドルの操舵力はSUVらしく少し重めの設定になっている。個人的はもう少し軽くてもいいと感じたが、これでも十分に街中の取り回しはいいし、速度レンジが中速から高速になっても操舵力の変化はほとんどないのでこの点でも安心感がある。また、加速時の路面アンジュレーションでは多少直進性が乱される場面もあったが、全高の高さの影響と思われる。

試乗したハイブリッドモデルのボディカラーはシルバーメタリック

 試乗車に装備されていた大きな開口部のサンシェード付きパノラマルーフは解放感溢れ、前席はもちろんだが、特に後席は長時間のドライブにも閉塞感を抱かないで済みそうだ。取材当日は気温が高かったが効果の高いサンシェードによって熱はピタリと遮断されていた。

 ノイズもよく抑えられている。特に突出しやすい高周波音はよくカットされており、遮音材の効果的な配置が功を奏しているようだ。ただ加速時にはトーボードをくぐり抜けてエンジンノイズが少し入ってくる。特に耳障りではないのだがエキゾーストノイズの雑音をもう少しカットできればさらに気持ちよく走れるに違いない。ついでに言うとキャビンにわずかに伝わるロードノイズはカローラツーリングよりも少し大きいが、広大なラゲッジルームで共鳴するものと思われる。

 全車速ACCによって高速道路での渋滞でもストレスを溜めずに済んだ。車間距離を保ちつつ前車を追走し、そのタイミングも自然だし、割り込みにも適正車間で対処してくれたので、この日の長い渋滞にも随分助けられた。車線を追いかけるライントレース性では基本的に車線中央をキープする。時折左に寄ろうとするのはライントレースアシスト(LTA)が白線の認識に迷うことがあるのかもしれない。

 ハイブリットでのEV走行はバッテリー残量によってだが、60km/h程度まではEV走行を行なっており、アクセルオフ時は非常に決め細かく回生を行なって燃費の向上を図っている。WLTCでは26.2km/Lとなっているが、この日のほぼ渋滞でストップ&ゴーの繰り返しという状況の中でも17km/L台をマークした。ちなみに同走したアイドルストップ付きのガソリン車も10km/Lをわずかに割る燃費で、条件を考えるとそれでもすばらしい燃費だと思える。

 乗り心地は適度な硬さを持っており、小さなウネリなどではサスペンションはうまく上下動を収束させる。ただ少し鋭角的な突起の場合はリアのトーションビームは少しバタつく傾向にあり、さらに大きめの段差ではバシャとしたショックを伴った。バネ上の動きはそれほど大きくなはいが、カローラツーリングに比較すると背の高いこともあってショックの伝達も異なる。

ハイブリッドモデルは「Z」「S」「G」の3グレードをラインアップ。4気筒1.8リッターDOHCエンジン(最高出力98PS/5200prm、最大トルク142Nm/3600rpm)とフロントモーター(最高出力72PS、最大トルク163Nm)の組み合わせ。駆動方式は2WD(FF)と4WD(E-Four)を選択可能(4WD用のリアモーターは最高出力7.2PS、最大トルク55Nm)。燃費はWLTCモードで2WDが26.2km/L、4WDが24.2km/L。価格は259万円~319万9000円。センターディスプレイにハイブリッドシステムの稼働状況が表示される
ハイブリッドモデルは「ノーマル」「パワー」「エコ」と、ドライブモードの切り替えが可能
ガソリンモデルは「Z」「S」「G」に「G“X”」が加わり全4グレードをラインアップ。直列4気筒 1.8リッターエンジン(最高出力140PS/6200rpm、最大トルク170Nm/3900rpm)にトランスミッションはSuper CVT-i(自動無段変速機)が組み合わせられる。駆動方式は2WD(FF)のみ。燃費はWLTCモードで14.4km/L。価格は199万9000円~264万円

 一方、ガソリン車で同じ路面を走るとリアからの突き上げは大きく、ショックも強くなる。さらに荒れた路面で横Gが掛かるコーナーでは差が出る。これはハイブリッドシステムの重量(約60kg差)とバッテリーの搭載位置の違いが乗り心地の差になっているようだ。装着タイヤはハイブリッドモデル、ガソリンモデルともにミシュランのプライマシー4を履いており、乗り心地やハンドリング、転がり抵抗などにバランスのとれたタイヤだと思う。

ガソリンモデルのボディカラーはセンシュアルレッドマイカ

 そのハンドリングは全幅1825mm、1410kgのカローラクロスだが軽快感があり、ハンドル応答性も妥当だ。ハンドルを切り返した場面ではロールが大きくユッタリとした動きだが姿勢安定性は保たれて、破綻しない安心感がある。欲を言えばハンドル切り始めにしなやかさがあるとさらに運転するのが楽しくなるに違いない。

 ブレーキの制動力は十分。ガソリンモデルはペダルをストロークさせたところでジワリを制動力が出るコントロール性があるとよいと感じたが日常の使い勝手に不便はない。

 さて、ディスプレイオーディオはカローラと基本的に共通で表示できる項目が多く、使い込んでいくと面白い。ただドライブ中は煩わしいので、今後必要な項目だけを表示させるような画面もあっていいように思う。

 大きなトランク、広い室内、優れた燃費、そして価格、どれを取っても魅力的なカローラクロスだ。クロスの登場はカローラと言えどもセダンやハッチバックの座に安閑としていられないという危機意識の表れだ。SUVが今後の主流になっていくことも視野に入れての導入に違いない。そして市場からの反響も大きいと聞く。細かい詰めは今後さらにブラッシュアップされていくはずだ。何年後かにまた乗る機会があればそれはそれで楽しみだ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学