試乗レポート
スライドドアになったスズキ「ワゴンRスマイル」でドライブした印象は?
2021年9月29日 11:40
“誰にでも似合う”軽スライドドアワゴン
スライドドアの便利さは欲しいけど、ファミリー向けのクルマが欲しいわけじゃない。近年、そんなユーザーがじわじわと増えている。シングル世代でも、買い物などで荷物の出し入れをサッとしたい人。愛犬を乗せて大きな公園やドッグランまでのドライブが多い人。自宅駐車場が狭く、スライドドアからの乗り降りが便利な人。車内での待ち時間や休憩時間を快適にしたい人などなど。
また、「映え」という言葉と価値観を生んだSNSなどの普及によって、デザイン性や個性を重視したクルマ選びも当たり前になってきた。いくら便利なクルマでも、「ほら、ここが素敵でしょ」と写真に撮って拡散したくなるような魅力がなければ、選ばれない時代になりつつある。
これは市場調査のデータにも顕著に表れており、軽自動車の販売比率に占めるスライドドア車の割合が、2012年度には35.3%だったのが、2020年度では52.3%にまで上昇。今や2台に1台はスライドドア車という多さに。そしてクルマ選びで重視した点をアンケート調査すると、60%以上が「スタイル・外観」と答えている。
そこで今回登場したのが、スライドドアの便利さと、愛着が湧いて誰かに見せたくなるようなデザインを融合させた新しい軽ワゴン「ワゴンRスマイル」というわけだ。
広さ十分な車内空間+ちょっとした気遣いのある収納
名前の通り、ベースとなっているのはスズキの軽づくりの軸となり、女性だけでなく男性からの支持を集めたり、軽ハイトワゴンの人気を牽引してきたりと、長い歴史と先駆者の存在感があるワゴンR。ただ外観には、その面影はほとんどない。初対面でまず感じたのは、かわいいだけじゃなく、どこかホッと和むようなフレンドリーさがあり、自分でいろいろと飾ったり加えていきたくなるような、ベーシックな要素がしっかりあるということ。それはデザインテーマである「マイスタイル マイワゴン」にも通じており、使う人によって多彩な表情を持つことができるように、あえてシンプルなベース形状とし、色・素材・加飾が活きるディテールにもこだわったという。
キャビンは水平基調で、丸目のヘッドライトやリアコンビランプの長方形も角を丸くしたりと、丸いモチーフで優しい表情をプラス。でも、可愛すぎず洗練されていて男性にも似合うデザインに仕上げている。ライバルとなるダイハツ・ムーヴキャンバスや、スズキではハスラーやラパンのように、パッと見て可愛いと感じるようなキャッチーさは薄いものの、見ているうちにじわじわと魅了されていくような、なかなか味のあるデザインだと感じた。
室内に入ってみると、ゆるい曲線を描くダッシュボードや、ふっくらと豊かな面にほっこりするインパネなど、とても丁寧に作られている印象。とくにシート表皮は手織りのニットのような肌触りで、座るとホッとリラックスできる。よく見ると、あえて1つ1つの縫い目が異なるような手作り感を出しているとのこと。カラーコーディネートも2つあり、広さ感を演出するアイボリーと、トラディショナルで落ち着き感のあるネイビーに、光の加減によってさまざまな表情を見せるカッパーの加飾がとてもオシャレ。ふと天井を見上げると、キルティング生地のような模様が施してあり、こうした仕上げ方やカラー1つをとっても、思わず写真に撮りたくなるような選択をしているところに感心した。
前方視界は、左右のピラーをなるべく細くしたり、ワイパー位置を下げたりという工夫もあり、スクエアでスッキリと広い視界を確保。フロントシートはスペーシアと共用で、シートリフターでは前後に50mm、上下に60mmの調整ができるため、小柄な人でもしっかりと適正なポジションが取れるようになっている。ワゴンRと比べて、ヒップポイントが70mmも高くなっているというから、遠くまで見通しやすく、運転しやすいと感じるかもしれない。スライドドアになっても、最小回転半径4.4mはキープしているというのが嬉しいところだ。
収納スペースは、スズキ軽伝統の助手席シート下収納ボックスをはじめ、大きめのスマホが置けるトレイの隣りにUSBソケットが備えてあったり、運転席の後ろにはフックとカップホルダー付きの折りたたみ式パーソナルテーブルがあったりと、文句なしの充実度。例えば買い物のあとに運転席に乗り込む前に、サッとスライドドアを開けて買い物袋をパーソナルテーブルのフックにさげたり、ちょっと休憩の際に後席に移ってテーブルを使うことができるようにと、あえて運転席側にパーソナルテーブルがある。子育て世代をターゲットとした場合は、チャイルドシートを装着する率が高い助手席側にテーブルを備えることが多いはずだが、ワゴンRスマイルはパーソナルユースを基本としているからこその配置だ。
そして後席にも座ってみると、前後スライドが160mm、リクライニングが6段階で12度という調整幅があることで、シート位置を最後端にすると拳7.5個分ものスペースがあり、これならどんなに足の長い人でもラクな姿勢がとれるはず。室内高は1330mmと、小学校低学年の子供でも立てるほどの余裕があり、ワゴンRと比べると後席のヘッドクリアランスは42mmも広がっている。もちろん、スペーシアの室内高1410mmには敵わないものの、「広すぎないけど十分に広い」のがワゴンRスマイルの室内空間だ。
試乗車に搭載されるパワートレーンは、自然吸気エンジン+ISG(モーター機能付発電機)のマイルドハイブリッド。WLTCモードで25.1km/Lと優秀な燃費を達成している。ワゴンRの名がつくだけに、パワフルなターボを期待する人もいるかもしれないが、コストを考え、少しでもお求めやすい価格で提供したいということで、ひとまずは見送ったとのことだった。
追加でアレコレ選べる楽しさ
エンジンはスタートボタンを押すと静かに目覚め、大型9インチのHDディスプレイに鮮やかなオープニング映像が流れた。どうやら、360度カメラの映像をアレンジしているようで、駐車している場所によって毎回ちょっとずつ映像が変わるのが面白い。シフトレバーの角度はちょうど操作しやすく、スムーズにDレンジに入れて走り出した。発進は重くもなく軽すぎず、とても自然なフィーリング。モーターのアシスト量はワゴンRと変わらないということで、スライドドアで車重が80kgくらい増えた分をモーターで補っているわけではないようだが、過不足ない加速フィールが得られる。大人3人乗車でもそれほど印象が変わらないのも感心した点だ。ただ、ブーンというノイズは遠慮なしに室内に入ってくる。途中から雨が降り出したこともあり、高速域では雨音やロードノイズも大きく、後席との会話はちょっと声を張らないと厳しいかもしれない。
とはいえ、やはりスペーシアに比べて全高が90mm低いということを、カーブやブレーキングで体感できた。前後左右にグラつくような挙動がまったくなく、4輪の接地感がしっかりあるので、スライドドアはあるけれども乗り味としてはワゴンRに近いと感じる。これなら初心者でも臆することなく、リラックスして運転できるのではないかと思った。
先進の安全運転支援技術も、デュアルカメラブレーキサポートや誤発進抑制機能(前後)、ヒルホールドコントロールなど一般道を走る上でのミスや危険性を回避してくれる機能が全車標準装備というのが頼もしい。全車速追従機能つきACCやヘッドアップディスプレイといった、高速道路を使った走行で欲しい装備はハイブリッドモデルにオプションと割り切っているため、遠出をしないという人は初期費用を抑えることができる。
ただ、同じくオプションの全方位モニターには、ぜひ運転が苦手な人に使ってほしい装備がある。それはスズキ初となる「すれ違い支援機能」で、狭い道を低速で走行中に対向車とのすれ違いを検知し、自動でモニターに左側とフロントの映像を映し出し、ガイド線を表示してくれるという機能だ。運転に精一杯で緊張している時には、カメラ映像のスイッチを押す余裕もない場合が多いため、これはとても助かるのではと思った。
こうしてワゴンRスマイルをチェックしてみると、「スライドドア車=ファミリー向け」という先入観は見事に消してくれると実感。しかも純正アクセサリーが豊富に用意されているのも特徴で、外観のトータルコーディネートでは「エレガント」「モダン」「ブリティッシュ」「カリフォルニア」と4つのスタイルが提案されており、それぞれ素のワゴンRスマイルとはガラリと違う世界観になっているのが、見ているだけで楽しい。女性なら、昔遊んだ着せ替え人形のような気持ちになるし、男性なら1/1のオリジナルミニカーを完成させるような楽しさがあるのではないだろうか。
1990年代に軽自動車の広さ革命を起こし、長らくスタンダードとして君臨してきたワゴンR。そこに、スライドドアという時代が求めるアイテムが融合したことで、その魅力は何倍にも広がった。これからの時代に、きっと万人に愛される新たなスタンダードの誕生だ。