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新型「シビック」開発責任者 佐藤洋介氏が開発にかけた想いを語る

2021年6月24日 公開

11代目シビックの開発責任者を務めた本田技研工業株式会社 四輪事業本部 ものづくりセンター 佐藤洋介氏

累計2700万台を販売してきたグローバルカーのシビック

 本田技研工業は6月24日、11代目の新型「CIVIC(シビック)」を世界初公開した。事前に行なわれた説明会では、開発責任者を務めた佐藤洋介氏と商品企画担当の杉野惇大氏が、新型シビックの説明とともに開発にかけた想いを語った。

 冒頭で佐藤氏は「シビックは1972年の登場以来、世界中のユーザーに驚き(Wow!)を届けてきた。人気を博した3代目のワンダーシビック。低全高とVTECフォーメーションを兼ね備えた5代目のスポーツシビック、グローバルカーへと成長した8代目シビック。世界のCセグメントをリードするまでに成長した10代目(現行)シビック」と、シビック誕生からこれまでの歴代シビックを紹介。

 そして今回の11代目となるシビックを開発するにあたり佐藤氏は、「シビックの不変価値とは何なのか?」と改めて考えてみたところ、ユーザーニーズや環境との調和であり、常にシビックを通してユーザーに喜びを提供することであると再確認。「それにより、170以上の国において、累計販売台数が2700万台以上になるまでに愛されてきたのだろうとわれわれは感じている」と語った。

11代目となった新型シビック(左がEX、右がLX)

 続けて11代目の開発では、いつも通りのディーラー訪問やデザイン調査、ユーザー調査に加えて、シビックがどういう風に生活に根付いているのか? どんな生活スタイルのユーザーがシビックを選んでいるのか? シビックに乗る人の嗜好性はどういうものなのか? クルマに求めるもの求めていないものは何か? など、短時間のインタビューではなく、自宅訪問を行ない1日を通してしっかりとユーザーニーズの深堀り調査を実施。

 調査を行なった結果、ターゲットとなるのは、生まれながらにインターネット環境で育ち、SNSに親しむ中で自身の社会的責任や評価に敏感であり、さらに先進デバイスも使いこなす1990年代半ば~2000年代前半生まれの「ジェネレーションZ」と呼ばれる層で、その嗜好性は「特別感があり、親しみやすく、心地よいものを求める傾向がある」と分析したという。また同時に、社会的責任への意識が高く、生活の質を向上させるスキルの高い“先行層”についても、「現行(10代目)シビックのどんな点が強みなのかを徹底的に深堀りを行なった」と佐藤氏は言う。

歴代シビック
シビックの不変価値
世界累計販売台数
調査活動
ターゲットユーザー
先行層の価値観

 そして開発チームは、ターゲットであるジェネレーションZと先行層の価値観から「親しみやすい存在感(Approachable)」「充実・凝縮された特別感(Speciality)」という2つのキーワードをピックアップ。

 また、佐藤氏は初代シビックが誕生したときにあるジャーナリストが発した「一服の清涼剤のような、そんなクルマが日本にも登場した」との言葉から、ささやかだけどつかの間の爽やかな気分なれるクルマとして、ホンダはシビックをずっとユーザーに届けてきたと感じたという。

新型シビック「EX」

 そこで11代目も同様に、親しみやすさと特別な存在感を併せ持ち、人中心にすべてを磨き上げ、心からユーザーを爽快にしたいといった想いから、開発チームはグランドコンセプトを「爽快CIVIC」と定義。爽快の「爽」には人中心というホンダのDNAと合致するかのように「人」という文字が中心にあることも語られつつ、「ホンダを象徴であるシビックを『爽快シビック』と名付けて開発してきた」と佐藤氏はこれまでを振り返った。

 爽快シビックの開発では、リアホイールアーチのヘムやレーザーブレイズなどの製造工程に新技術を導入していて、「すっきりとしたルーフラインやアウターのつなぎめなど、知覚品質を向上させた“ものづくりの進化”の成果を見てほしい」と佐藤氏は語る。そして、デザインとダイナミクスとHMI(ヒューマン マシン インターフェース)の3つを極限まで高めることで爽快シビックが完成したという。

開発の方向性
グランドコンセプト
ホンダのものづくり進化

50年の歴史を受け継ぎながら新しさを表現

 2022年で誕生から50年を迎えるシビック。佐藤氏はこれまで受け継がれてきたもの、自分たちが11代目として受け継ぐもの、そこからどういった新しさを表現していくのか? 歴代シビックのデザインを振り返った中で、ホンダのDNAを強く感じたのが「開放的でグラッシーなキャビンであり、薄く軽快に見えるボディの3代目ワンダーシビックだった」と言い、このデザイン要素をこれからの時代やジェネレーションZ層にちゃんと伝えていきたいと考えたという。

 また、ここにグランドコンセプトである「親しみやすい存在感」として開放的な空間と気持ちよい視界、「充実・凝縮された特別感」として進化した低重心でワイドな骨格を取り入れることで、ホンダ独自の「爽快パッケージ」を立案。

パッケージコンセプト
デザインの方向性
フロントフード・フロントフェンダー
Aピラーの位置
ショルダーラインの高さ
テールゲートヒンジボリュームの低減
ディメンジョン

 フロントまわりでは、ダンパー直上を25mmほど下げることでボディの薄さ感に加えてタイヤがしっかりと踏ん張っている感じや、リアからフロントへの視界の連続感をApproachableの観点から表現。さらに、Aピラー付け根をホイールのセンターへと向けることで、キャビンがタイヤにしっかり乗っているスタンスを見せつつ、Aピラーを50mmほど後ろに下げたことで、フロントの水平視野角が84度から87度へと広がり、搭乗者に「爽快視界」を提供できるようになったという。また、リア席のショルダーラインを35mm下げたことでボディの薄さとリアタイヤの踏ん張り感を演出しつつ、後席の視界も広がり、クォーターガラスを設定したことで見えにくい箇所も減らせていると紹介した。

 リアゲートに関しては、鉄ではなく樹脂を採用したことで、成形線の自由度を活かしたスリークなルーフラインを実現できたほか、ヒンジ部のレイアウトを工夫したことで後部席の頭上クリアランスを確保したまま作りあげることができたという。

リアゲートはすべてが樹脂でできている訳ではなく、安全性やねじれ剛性のために内部にスチールの骨格を使用している。それでも通常通り作るよりも約4kg軽く作れたという。バネ上の軽量化だけに運動性能への貢献も大きい

 全長は4530mmと先代モデルよりも30mm長くしつつ、ホイールベースは35mm長い2735mmとしたことで、後部座席はゆったりと座れるのはもちろん、足下の空間も広めている。またフェンダーの爪の折り返しを従来よりも薄くする新技術などにより車幅は1800mmのままだが、リアのトレッド幅を片側6mmずつ、計12mm広げていて、直進安定性や旋回性能の向上も図られている。さらにリアのオーバーハングは20mm短くなっているものの、「荷室容量は床上と床下を併せ、VDA方式で先代モデル以上のスペースを確保できた」と佐藤氏は言う。

骨格だけでなくデザインでもロー&ワイドに見せる

エクステリアデザインコンセプト

 エクステリアデザインもグランドコンセプトである「爽快」がキーワードとなり、グラッシーなキャビンとシンプルで流れるようなプロポーションを基に、人中心のエクステリアに仕上げられている。また、「伸びやかなサイドビューを作り出す強いショルダーラインを、ヘッドライトからリアコンビネーションランプまで、スパッと通したのも新型シビックの特徴である」と佐藤氏は説明してくれた。

 ヘッドライトに関しては2種類を用意し、LXグレードにはLED、EXグレードにはアダプティブドライビングビームをホンダ車として初採用。また、現行モデルは内側にロービーム、外側にハイビームを配置した無機質な感じだったが、新型ではロービームの真ん中にハイビームを配置する「瞳表現」を用いたことで柔らかさが盛り込まれた。さらに、デイタイムランニングライトポジションをL字型にすることで、よりワイドさを強調させているという。リアコンビネーションランプも、シビックのヘリテージである「C」ラインを踏襲しながら、よりロー&ワイドに見える配置を取り入れたという。

スタイリングの特徴
最終CG
ヘッドライト
リアコンビネーションランプ
アルミホイール
カラーラインアップ

爽やかで気持ちよく出発できるインテリア

 インテリアは「Fine Morning Interior(ファイン モーニング インテリア)」というコンセプトで、オーナーに爽やかで気持ちのいい朝(出発)を提供したいという考えから、「ノイズを抑えた開放的な空間」「気持ちを刺激する質感」という2つをキーワード軸に開発をスタート。そして爽快な朝に必要なものとして「清潔性=ノイズレスな骨格とサーフェス」「リズム=気持ちに添った使い勝手・導線」「刺激=感性に響く触感・フィードバック」と、3つの要素を実際の体験から導き出してクルマへと落とし込んでいったという。

インテリアデザインコンセプト
爽快な朝に必要な3要素を抽出
3要素をインテリアへと落とし込むための方向性

 その特徴としては、初代や3
代目シビックに通じるシンプルなインパネ構造や、パンチングメタルで機能とデザインの融合を図った水平基調のアウトレット、Aピラーを手前に引きガラスエリアをできるだけスクエアにすることで爽快視界・連続視界を確立させたという。使い勝手や操作性に関わる導線について佐藤氏は「HMIの考え方に乗っ取って瞬間認知性の高さや直感で操作できる配置にできたと自負している」と語った。

 特に苦労したポイントは、1800mmという車幅でセンターコンソールにシフトレバーとドリンクホルダーを並列に並べた点で、「シフトノブをドライバー側に5度傾けたことで、シフト操作性が向上しただけでなく、ドリンクホルダーの使い勝手もよくなった」と佐藤氏は明かした。また、触感にも徹底的にこだわった結果、ドアのインナーハンドルはつい触りたくなるような形状とし、プラチナクロームメッキを使い見た目の上質感を両立。エアコンルーバーのつまみやセンターコンソールのダイヤルやボタンといった物理的スイッチ類も、タッチ感や操作音までこだわったという。アームレストも自然と肘が置ける位置や、誰でも操作しやすいスイッチの配置まで徹底したとのこと。

インテリアの最終CG画像
骨格とサーフェス
使い勝手・導線1
使い勝手・導線2
触感・フィードバック
インテリアカラー

もっとも厳しい欧州の交通環境で先行開発を実施

 爽快シビックのダイナミック性能について佐藤氏は、「ホンダが進めてきた“Enjoy the Drive”や“意のままドライブ”という考え方をベースに、シビックらしさを表現、追求するためには『質の高い軽快感』をプラスすることだと考えた」と言い、開発は現状もっとも基準の厳しい欧州の交通環境で鍛え上げ、その後で地域の環境やニーズに合わせて最適化を図る展開方法を決定したという。

搭載される1.5リッターターボエンジン

 パワートレーンは「軽快感のある加速とサウンド」を求め、最高出力134kW(182PS)、最大トルク240Nmで、現行モデルから20Nmアップさせていることを紹介すると同時に、環境性能としてもトップレベルを達成できる見込みだという。具体的には射流タービンやインテーク側の低圧損過給配管の採用をはじめ、走り出しの音をすっきりさせるためにクランクシャフトやオイルパンの高剛性化が図られているとのこと。佐藤氏はその他にも「ブレーキ操作時のステップダウンシフト制御や加速時のステップアップシフト制御、エンジン本体のトルクアップに伴うコンバーター性能の向上などにも力を入れてきた」と語った。

 6速MTに関しては、特に走る楽しさと操る楽しさをより体感してほしいと考え、ショートストローク(先代モデルよりもシフトストロークを5mm、セレクトストロークを3mm短縮)と高剛性を両立するシフトフィールを実現したという。これらにより市街地から高街路までドライバビリティと、音と加速の一体感に磨きをかけたとしている。またドライブモードについては、デフォルトの「Normalモード」に対して、経済性の「ECONモード」、操る喜びを提供する「SPORTモード」の3種類が設定される。

ダイナミック性能
開発展開の進め方
1.5リッターターボエンジン/CVT
1.5リッターターボエンジン/6速MT
パワートレーン開発
ドライブモード

素性のよかった現行モデルのシャシーを全体的にブラッシュアップ

 シャシー領域においては、質の高い軽快感を達成するために、現行モデルでも評価の高い「ハンドリング」「乗り心地」「静粛性」のすべてにおいてブラッシュアップを図ったという。特に国内では高速安定性や旋回性を強く求められていることもあり、ホイールベースの延長やトレッドを拡大させつつ、乗り心地を高めるためにリアコンプライアンスブッシュの容量拡大やブッシュの軸線適正化など細部の煮詰めが行なわれている。

 ボディに関しては、JNCAP(自動車アセスメント)の予防安全性能評価で5つ星を獲得するために、特に側面の衝突安全に寄与するスティフナーの追加などを行なっている。また、微舵応答性と振動レベルを向上させるために、構造用接着剤の適用範囲を現行モデルの9.5倍と大幅に拡大し、スポット溶接ではできない面と面をつけることで効果的に剛性を高められたという。

新型シビック「LX」

 フロントバンパービームに関しては、新たにオープン断面にすることで、衝突時の潰れ残りを少なくし、結果としてショートオーバーハング化にもつながったという。剛性についても、アルミ材や高ハイテン材の適用をはじめ、リアゲートに樹脂を採用するなど、より軽量で高剛性なボディを実現したとしている。

 さらに、エンジンやタイヤなど音源となる部分の音の低減をはじめ、放射音や伝達音の侵入を低減するボディを開発し、ロードノイズやパワートレーン系のノイズを徹底的に低減させるなど、「室内への雑音や振動の侵入を抑え、会話やエンタメが楽しめる室内空間作りにも力を入れた」と佐藤氏は説明する。

シャシー
空力
ボディ構造
ボディ剛性
ボディ軽量化
NV(Noise、Vibration:騒音、振動)
ロードノイズ
パワートレーン系ノイズ

 ドライバーの操作などに関しては、すでにフィットやヴェゼルに採用されている骨盤と腰椎を面で支える「ボディスタビライジングシート」をシビックとしては初めて採用。長時間の運転でも疲れにくいシートによりロングドライブもより楽しめるようになった。また、空調は現行モデルでは達成できなかった上側+12度、下側+21度と広い配風角を実現し、快適な車内を作り出したという。メーター類もHMIの考え方に基づき左側にインフォテインメント、中央にHonda SENSING、右側に運転支援情報ときっちりと分けて表示させ、合わせてステアリングの左右のボタンも連動する配置にされている。

 ディスプレイオーディオもフィットやヴェゼルと同様に直感操作と瞬間認知が可能な最新型を搭載するが、シビックでは走行振動下でも指先を安定して置ける20mmの「指置き面」をディスプレイの前に配置し、操作性に磨きをかけたとしている。

ボディスタビライジングシート
アウトレット
メーター
フルブラックメーター
ディスプレイオーディオ
BOSEシステム
コネクテッド技術

心の通った先進安全支援システムを搭載

 先進安全運転支援システムは、現行モデルの機能に追加と性能進化を行なっていて、アクセルとブレーキの踏み間違いによる衝突を軽減してくれる機能や、EXにはホンダ初のアダプティブドライビングビーム、LXにはオートハイビームが採用された。センサー類も現行モデルでは「単眼カメラ+ミリ波レーダー」から、「ワイドビューカメラ+前後にソナーセンサー×4個」と感知するエリアが大幅に拡張された。佐藤氏は「欧州の1~2ランク上のクルマにも負けない。心の通った運転支援システムで、よき相棒になってくれると感じている」と自論を述べた。

 EXにホンダとして初めて採用した「アダプティブドライビングビーム」に関しては、ローとハイの中間となる「ミドルビーム」という新しい動きを設定。対向車や先行車だけでなく、歩行者にも眩惑を与えないシステムを開発。このシステムでは通常30km/h以上になるとヘッドライトをハイビームにするが、カメラが市街地の光を検知するとミドルビームに切り替える仕組みになっている。また、シビック初搭載となる「トラフィックジャムアシスト」は、ステアリングアシスト操作の範囲が現行モデルの65km/hからに対して0km/hからと、クルマの動き出しからスムーズにサポートしてくれるように進化しているという。佐藤氏は「レベル2の自動運転搭載車の中ではトップクラスの性能だと思います」と語っていた。

先進安全運転支援システム
先進安全運転支援システム
先進安全技術 開発コンセプト
アダプティブドライビングビーム
トラフィックジャムアシスト
衝突テスト
ボディ構造
安全装備
ハイブリッドとタイプR

 最後に佐藤氏は、2022年になってしまうと前置きしつつ「ホンダのシビックの名にふさわしいダイナミック性能を兼ね備えたe:HEVと、TYPE Rが登場予定である」と宣言して新型シビックの説明会を締めくくった。

新型シビックへ込めた想いを語る開発責任者の佐藤洋介氏

常に幅広ユーザーから支持されてきたシビック

 また商品企画担当の杉野氏は、「人中心の開発思想を磨き上げながらグローバルモデルに成長した新型シビックは、今日にいたるまでホンダのクルマ造りの考え方を体現しつづけているモデルであり、現代のホンダのクルマ造りの考え方を凝縮したモデルになっているので、ぜひ日本のユーザーに体感していただきたい」とあいさつ。

 続けて杉野氏は、現行モデルが2017年に発売して以来、外観のデザインや走行性といった部分で評価を得ながら3万5000人を超えるユーザーが購入したと紹介。年代では走行性能を求める40~50代とデザインに重きを置く20代など、幅広世代のユーザーに選ばれていることをアピールした。

 今回の新型は、進化した1.5リッターのVTECターボを搭載したEXとLXと2グレードで展開し、両モデルにCVTと6速MTを設定。昨今のニーズの高まりを受け、ホンダコネクト対応の9インチディスプレイオーディオを標準装備としたほか、Honda SENCINGも機能追加を実施。上級グレードのEXについてはBOSEスピーカーやステアリング操作と連動したフルグラフィックメーターを搭載し、「日本のユーザーがより楽しめる設定を用意した」と新型のセールスポイントを紹介した。

本田技研工業株式会社 商品企画担当 杉野惇大氏
現行モデルの振り返り
グレード展開