試乗レポート

ホンダの新型「シビック」(11代目)、“爽快”のキーワードがいたるところに貫かれていた

新型シビックのキーワードは「爽快」

「シビック」はホンダの礎を築いたモデルで、8月5日に発表された新型は初代から数えて11代目に当たる。これまでの世界累計販売台数は170か国、2700万台以上に上るホンダの屋台骨を支えるクルマだ。日本では初代から担ってきたベーシックカーとしての役割はシビックの成長と共に「フィット」に譲り、主市場である北米に重きを置いた結果、一時日本市場から姿を消したが再びミドルサイズのハッチバックとして日本再投入となった。

 最近のホンダデザインはアグレッシブだ。北米、中国が中心とあって押し出しが強くなければ戦えないのは分かるが、昭和生まれとしては個性の強いデザインは少しばかり苦手だった。しかし復活したシビックは分かりやすく、フロントからリアに至る流れるようなラインでリアエンドもスマートにまとまっていた。

 11代目となるシビックのキーワードは爽快! 初代の革新的なレイアウト、3代目のワンダーシビックからはじまった明快なデザインに通じる爽快さを新しいシビックのキーワードに使ったのだ。

今回試乗したのは9月3日に発売される新型「シビック」(11代目)。従来からホイールベースを35mm、全長を30mm延長する一方で、リアオーバーハングを20mm短縮。またリアトレッドを10mm拡大することで、伸びやかでありながらより安定感のあるスタンスを実現した。ボディサイズは「LX」「EX」ともに4550×1800×1415mm、ホイールベースは2735mm

 視界の広さやキャビンの明るさだけが爽快ではない。ハンドリング、パワートレーン、乗り心地などあらゆるクルマ作りがこのキーワードに集約されている。ドライバーズシートに座ると、前面の視界が広がっていて気持ちがいい。Aピラーを50mm後方にずらしたことで水平視界が従来の85度から87度に広がっていて、交差点での死角が減ったことはありがたい。

 EXに搭載される10.2インチのデジタルグラフィックパネルはクリアで視認性がよく質感も高い。右側の速度計にはADAS系が、左側の回転計にはオーディオ系の表示が出される。いずれもハンドルスポーク上のスイッチと関連付けられていてスムーズに指が動く。

 また、ハニカム状のダッシュセンターパネルは革新に挑戦するホンダらしさを感じられる。キャビンは採光もよく明るい。室内は横方向の広がりをうまくデザインし、ウエストラインを下げた効果で後席も開放的だ。

 プラットフォームも進化し、ホイールベースは従来の2700mmから2735mmと長くなり35mm分の余裕は後席にまわされた。その効果は大きく、後席のレッグルームは広い。前席下へつま先を入れるまでもなく余裕だ。さらにリアのヘッドクリアランスは現行型と同じ寸法なのに、広く感じるのは天井後半を削っていることと何よりも明るいことだ。

 ちなみにデザイン上ではテールゲートのヒンジ位置を外側にずらし、ルーフラインの面の中に埋め込むことでルーフ後端もスッキリとした面になった。

インテリアではフロントピラーの下端を先代モデルに対し50mm後方に設定することで水平視野角を拡大(先代比2度増の約87度)しており、低いフロントフードとあいまって左右まで抜けのよい前方視界を実現。EXでは10.2インチのフルグラフィックメーターを新たに採用している

 全長は4530mmで30mm長くなっているが、従来型に比べるとフロントのオーバーハング分が長くなって、Aピラーを後ろにずらしたことでボンネントが長く見える。全幅は1800mmで日本の狭い路地でも使いやすいサイズだ。サスペンションは従来型同様のフロント:ストラット、リア:マルチリンクと変わらないが、リアのコンプライアンスブッシュの軸線を変更することでリアトレッドが1565mmとなった。

TYPE Rを連想させるほどの走り

 乗り心地はスッキリした味を出している。路面の凹凸は伝えるが、ゴツゴツした鋭い突き上げではなく上下動は小さい。シートのクッションも上下動をよく吸収する。大きな突起ではそれなりに反応するが、サスペンションは無理に収束させることもなく自然でかつビシッとしているのはミドルクラスの中では上々だ。

 ワンダーシビックなどイケイケの時代のシビックでは大きな段差を乗り越える度に跳ね飛ばされたことを思い出した。それからするとまるで夢のような乗り心地だ。従来型のシビックも完全に凌駕し、荒れた路面の走破性は明らかに違う。

 快適なキャビンでは乗り心地と共に静粛性も重要なファクターだが、前後のアンダーパネルやリアのインナーフェンダー、フロア共振材の配置などロードノイズの低減を徹底したことでリアからの入りやすい音をカットした。合わせて風切り音や籠り音などに対しても徹底している。例えばスプレー式の発砲ウレタン材をピラー内に8か所充填するなど、音の伝達を遮断したことなどが大きい。

 爽快シビックは静かなクルマだった。ロングドライブでも余計なストレスから解放されるのは容易に想像がつく。クルージングでは高い直進性があって快適な時間が作れそうだ。

 最も大きな音源は1.5リッターの4気筒ターボエンジンだが、こちらもボンネットやダッシュボード、インパネのインシュレーターなどで高周波、低周波ノイズも抑え込まれている。

新型シビックが搭載する直列4気筒DOHC 1.5リッター直噴ターボエンジンは最高出力134kW(182PS)/6000rpm、最大トルク240Nm(24.5kgfm)/1700-4500rpmを発生

 ただ音を消すだけで終わらないのがホンダらしい。吸気音をはじめとするエンジン音もチューニングされ、回転を上げてもピーク音が明らかに下げられており、上質感のあるエンジンサウンドになっている。エンジン振動も高剛性クランクシャフトなどで振動自体も少ないが、さらにエンジンマウントの剛性アップとトルクロッドが有効に機能している。

 フル加速した際のエンジンサウンドも心地よく、134kW(182PS)/240Nmの排気側にVTECを使ったレスポンスのよいエンジンはどこからでも反応して、伸びやかな加速を見せる。このスッキリした回転フィールには排気ポートを4-2としたシリンダーヘッドも大きな効果を出しているという。CVTモデルでは低速回転からのトルク特性は変わらないと思っていたが、新型はトルクが上乗せされた感じだった。それもそのはず、CVT仕様はエンジン出力が6速MTと同じになったことで動力性能が大幅に上がっていた。

 ミニサーキットではCVTでもコーナーの立ち上がりでレスポンスよく加速し、6速MTと遜色ない加速性能を示した。エンジン回転と加速性能がマッチしている。感心したのはステップダウンシフトで、ブレーキをかけるとMT車でシフトダウンするように高回転を維持し次の加速に備えるので、ためらいなくアクセルを踏むことができた。CVTに内蔵されているトルコンの性能向上と制御の改善でよりドライバーの感覚にマッチする。

 一方の6速MTはストロークが短くガッチリと入るのでやはり楽しい。しかし、もはやCVTでもコーナーを駆け抜ける面白さはそれほど遜色ないという技術の進化を感じた。

 シートのホールド性にも感心した。コーナーでは従来型シビックは体を支えるのに脚を踏ん張らなくてはならなかったが、新型ではしっかり支えて背中がぶれないのだ。乗降性も変わらないのに優れものだ。

 ハンドリングに焦点を絞って新旧比較をすると、新型では操舵量が少ない。リアの安定性が高いのだ。従来型ではハンドルの切り増しや戻し操作などが必要な場面でも、新型ではほとんど修正舵せずに安定した姿勢で接地する。

 正確なライントレースは大きな安心感を与えてくれる。深いコーナーで追操舵をしても、グリップに余裕がありスイッとノーズがインに入る。また操舵力が重すぎないところも新型の美点で、ハンドルを切る時に壁感がなくスッキリと操作できる。ここまで気を配ってくれると嬉しい。絶対的なグリップも大切だが、操舵の質的向上はさらに上質なクルマと感じさせてくれる。

 ハンドリングの向上はプラットフォームの進化によるところも大きい。ボディ剛性、特にリアの剛性アップで捻じれ剛性が19%高くなっている。また、構造接着剤は従来型シビックに対して9.5倍の長さを使っている。接着剤は数字に表れない剛性感に貢献することが多く、爽快なハンドリングの実現に大きな効果があると感じた。

 ホンダセンシングにもトライしたが、渋滞時のストップ&ゴーの追従性もスムーズで素早く反応でき実戦的だ。このほかにもラゲッジルームの使い勝手やテールゲート開口部の下部を拡大したことによる積載性の向上など、新型シビックはいろいろ気配りが行き届いていた。

 ややもするとTYPE Rを連想させるほどの走りを見せた新型シビックだが、TYPE Rは2022年の登場になるという。一体どんなパフォーマンスを見せてくれるのだろう。

 繰り返しになるが、爽快のキーワードは新型シビックのいたるところに貫かれていた。オーナーの何気ない動作にもストレスを感じさせない配慮があり、日常のドライブを爽快にさせてくれる。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。