試乗レポート

コンパクトでリーズナブルな“楽しいクルマ” スズキ「スイフトスポーツ」の魅力

スズキの技術を詰め込んだコンパクトスポーツハッチ

 現行スイフトがフルモデルチェンジしたのは2016年。そしてスイフトスポーツは翌年の9月に日本デビューした。

 躍動するスズキを象徴するスイフトスポーツは、いつハンドルを握っても楽しく、抜群のアスリートぶりを発揮する。ずいぶん昔の話だが、初代スイフトスポーツをサーキットで乗った時には自在にコントロールできるハンドリングとキレの良いエンジンに舌を巻き、それ以来スズキのクルマ作りに改めて感動した。

 スズキは革新的なメーカーだ。高い技術に挑戦する心意気は昔から変わりがない。例えばFFにいち早く挑戦したのもスズキだった。モーターサイクルで培った高回転高出力のエンジン技術は4輪車に応用され、高い燃焼技術は今につながる燃費技術にも続いている。

 これだけのFFスポーツハッチバックを作り上げるには、コンセプトを作り、方向性、シャシー、エンジンなど、各部門が一貫して理解していないとできないだろう。それをスイフトスポーツは高い次元で完成させて、現行モデルの発売から4年になろうとしている現在もハンドルを握る時のワクワク感は少しも衰えていない。

スイフトスポーツ(201万7400円)。試乗車は5万2800円高の全方位モニター用カメラパッケージ装着車。ボディサイズは3890×1735×1500mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2450mm。車両重量は970kg
スイフトよりも前方へせり出したノーズで躍動感を演出し、フロントグリルや各部スポイラーなどをカーボン調のシボ仕上げとしてスポーティな印象を与えた。切削加工&ブラック塗装の17インチアルミホイールには195/45R17サイズのコンチネンタル「ContiSportContact 5」を装着する
ブラックを基調にレッドの差し色を用いた内装は、メーター、ステアリング、インパネやコンソールなどのオーナメントが専用品となる。「スズキセーフティサポート」は標準装備となり、SRSカーテンエアバッグ、デュアルセンサーブレーキサポート、ブラインドスポットモニター、アダプティブクルーズコントロール(MT車のみ)などの安全装備が充実。セミバケットのフロントシートも専用となり、Sportのロゴが入る

1.4リッター直噴ターボ&6速MTによる走りの楽しさ

 先代の136PS/160Nmを発生する1.6リッターNAエンジンから、現行型は140PS/230Nmの1.4リッター直噴ターボに変わった。バイクを連想させるようなシュンと回ったキレの良さの面影を活かしながら、K14C型エンジンは一転して低速トルクの厚さで先代とは別の味付けになっている。

 このエンジンはターボエンジンの良さを活かして低速から発生する分厚いトルクの恩恵を最大限に活用した乗り方が合っている。アクセルを踏み切ってしまうと回転の上昇が早く、すぐに最大出力の5500回転に達してしまい、6000回転手前でサチュレートする。2500~3500回転で最大トルクの230Nmを出す幅広いトルクバンドを積極的に利用して早めのシフトが合っている。

最高出力103kW(140PS)/5500rpm、最大トルク230Nm(23.4kgfm)/2500-3500rpmを発生する直列4気筒1.4リッター直噴ターボを搭載。トランスミッションには6速MTを組み合わせる。駆動方式は2WD(FF)

 こう書くとシャープさに欠けそうだが、K14C型エンジンはレスポンスが早く、右足首の動きに忠実に反応する。キレの良さは変わらず走らせ方は変わっても楽しさは変わらない。

 試乗車のトランスミッションは6速MTでこれがなかなか面白い。ガッチリとドライバーのシフトワークを受け止めて、ミスシフトはしそうもない。クラッチは少し重めで反発力もしっかりあり、大きなトルクもガッチリ伝えてくれそうで硬派なスポーツハッチとしては頼もしい限りだ。

 ギヤレシオは6速をうまく散らばせており、ターボエンジンとの特性に合わせている。ちなみに高速道路の合流でフル加速してみたが、1速ではメーター上50km/hまで引っ張れ、2速では90km/hまで出せた。意外とハイギヤードで計算上は3速では130km/hまでカバーすることになる。前述のように早めのシフトでトルクで押していった方がスイフトスポーツには合っている。マニュアルシフトの楽しさとエンジンを効率よく使う面白さは存分に味わえる。

 MTが苦手なユーザーにはスポーティなトルコンATも用意されているので、ぐんと間口は広げられている。

うまくまとめられたパッケージング

 ハンドリングはFFのスポーツハッチバックはこうあるべきと言わんばかりだ。スイフトスポーツの最初のモデルでは、FF特有のタックインを積極的に使えたことで面白かったが、現代のFFコンパクトスポーツは4輪を接地させて安定性を重視した性能がトレンドだ。現行モデルもグリップ力が高く、切れ味鋭いハンドル応答性でターンインをして、合わせてアクセルワークで前後の接地荷重をコントロールしつつグリップ変化を抑える。スイフトスポーツは安定した姿勢でコーナーをクリアしていく。専用のバケットシートは体をよくホールドして、体の軸がぶれないのもありがたい。

 土台となるボディ剛性の高さもハンドリングに効いているのは言うまでもなく、プラットフォームは軽量高剛性に仕上がっており、キビキビした運動性能にも活かされている。

 軽量化にはスズキの得意とする軽自動車の技術が活かされている。プラットフォームだけでなく、エンジン、トランスミッションに至るまで1g単位で軽くしようという努力が各部署で共有されており、5人が乗れるスポーツハッチバックが1tを切る970kgという軽量なのは驚くばかりだ。重量はハンドリングはもちろん、燃費、動力性能にも圧倒的に有利だ。

 ストロークと踏力のバランスが良いブレーキはコントロールしやすく、制動力も高いが、これも軽量化の効果だ。

 乗り心地は路面の凹凸を主にリアから伝えるが、スポーツハッチバックならこのぐらいは十分許容レベル。時折耳に入るギヤノイズもあるが、それさえもスイフトスポーツらしく楽しくなる。

 ひと息ついたところで室内デザインを見回すとシンプルにスポーティ。デザイナーはスイフトスポーツの目指すところを共有しているのが分かる。走りとデザインの一体感があるのだ。

 試しに高速道路でACCを使ってみた。トルクフルなターボの性格もあり、6速に入れたままで結構低速まで前車に追従し、また加速する。ちなみに6速100km/hで2500回転、5速で3000回転となる。

 いいクルマの定義は難しいが、スイフトスポーツは間違いなく楽しいクルマだ。コンパクトサイズでリーズナブルな価格。実用性も高く、リアルなスポーツドライビングもこなせるクルマはそう多くない。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:中野英幸