試乗レポート
プジョー“らしさ”と“新しさ”が同居する新型PHEVモデル「508 SW HYBRID」
2021年8月16日 06:10
パワートレーンのバリエーション豊かな508 SW
プジョーの販売が好調だ。新世代プジョーのシャープでメリハリの利いたデザインも人気がある。
そのトップエンドに位置するのが508シリーズだ。サルーンに続いてステーションワゴンも追加されたが、実はプジョー 508 SWには高速道路で出会ったことがある。まだあまり知られていなかった頃だ。地を這うような低いボディは見慣れたワゴンとは違って異彩を放っていた。しばらく追走したほど強い印象を残した。
今回の試乗はそのPHEVモデルで、508 SWのバリエーションはガソリン、ディーゼル、そして今回のPHEVの3種類のパワーユニットから選べるようになった。また同時にすべての508のグレードをGTに統一した。アリュールなどのベースグレードはディスコンとなっている。
エンジンは1.6リッターターボのガソリンで133kW(180PS)、300Nmの出力を持つ。これにPHEV用の81kW(110PS)/320Nmのモーターを組み合わせて前輪を駆動する。トータル出力は、225PS/360Nmとなる。
駆動用バッテリーはリチウムイオン。容量は11.8kWhで後席の下に置かれる。ハイブリッド系によるスペースの侵害はないので、ほかのガソリン/ディーゼル車と同じ容積のキャビン、ラゲッジルームとなっている。
トランスミッションは定評ある8速ATで、トルクコンバーターに代わってスペースの関係もあり湿式多板クラッチを採用している。
改めてサイズを確認すると4790×1860×1420mm(全長×全幅×全高)で立派なE/Dセグメントだ。数字より小さく見えるのは全高が低いためだろう。6月から全モデルにナッパレザーの革シートに統一されたが本革でも表面がソフトで身体によくなじみ、特にシートバックのサポート性がよい。個人的にはアタリが柔らかいファブリックシートが好きなのだがプジョーは革の使い方がうまい。
ダッシュパネルはフル液晶のデジタルコクピット。よく使われるスイッチはトグルスイッチとしてダッシュパネルに並べられているので、とっさの場合にも不便は感じない。i-Cockpitはできることも多く、今後ますます使い勝手の良いデジタルゾーンに進化していくのは間違いないだろう。個人的にはパネルスイッチに潜在的な苦手意識があるのでさらに使いやすい環境になってほしい。その意味ではプジョーのハンドルスポーク上のダイヤル操作は1つの回答かもしれない。F15のパイロットになったようだが。
新しいプジョーの走り
ハイブリッドは4つのドライブモードが選べる。
①エレクトリックモード:デフォルトで、EVとして走行。アクセルを強く踏むとエンジンも稼働。
②ハイブリッドモード:バッテリー残量がある場合、スタートは電動モーターで行ない、走行条件に応じてエンジン駆動に切り替わる。
③コンフォートモード:電制サスペンションの減衰力をソフトにする。
④スポーツモード:エンジン駆動を中心として、変速もエンジン回転を高く保ちつつ、ハンドル操舵力なども重くなり、電制サスペンションの減衰力も高く設定される。
この4つのモードからデフォルトのエレクトリックモードでスタートする。基本EV走行なので粛々と走り出す。エンジン始動では最初の一息が重いが、トルクの立ち上がりの早い電気でのスタートはストレスがない。もっとも電気の有り難みを感じる瞬間だ。もちろん振動もないに等しく滑るように街中を走る。バッテリーだけで走行できる距離はWLTCで56kmとされている。隣の都市に行くぐらいはエンジンを使わずとも走れる距離だ。またEVでの最高速は135km/hで電気のカバー範囲は広い。
PHEVを自宅で充電し、近距離ならエレクトリックモードで済ませ、ロングドライブならハイブリッドモードがふさわしい。ハイブリッドモードではガソリン走行に加えて必要に応じてEV走行となるので、ガソリン消費が少ない。
エレクトリックモードで高速道路をしばらく走ったところ、市街地をスタートして40kmぐらいの地点でエンジンが始動したが、注意していないと分からないほど自然だった。
安定性は全高の低さ、それに後席下にバッテリーを搭載したことによる低重心で抜群だった。それはメルセデス・ベンツの粘りつくような味とも、アウディ クワトロが持つ高いグリップとも違ったプジョーらしいもので、コンパクトカーを得意とするプジョーのフットワークの良さと機動性に安定感が加わった感じだ。ダンパーも路面への追従性が高く、高速道路のわずかな凹凸もバネ上には影響を与えず滑らかに走る。
装着タイヤはミシュランのパイロットスポーツ 4で、サスペンションとのコンビネーションにも優れている。サイズは235/45ZR18だがタイヤの縦バネの硬さはほとんど感じずコンフォートタイヤのようで守備範囲は広い。最近欧州車で装着車が増えているのも分かる。
クルマ自身の直進性も高い。プジョーが採用する小径ハンドルは一般的にはわずかな手首の動きにも反応するので、過敏な動作を嫌う高速時は苦手のはずだ。しかし508 SWはハンドルのすわりがよく、軽く手を添えていれば矢のように直進する。レーンチェンジのような手首にわずかな動きを出す時は操舵力が重めに設定され自然な動きで行なえ、特に意識する必要もない。
ハンドリングはライントレース性に優れており、狙ったラインに乗せた後は修正のためのハンドルワークはほとんど必要ない。ロール姿勢もよく制御されて、路面に吸い付くように走る。腰のある快適な乗り心地にこのハンドリング、見事に両立させたチューニング技術に舌を巻く。
難を言えばACC系の操作レバーが相変わらずハンドルの陰に隠れて見えないことだ。スイッチ位置を手で覚えると操作できるのだが、こちらは見やすい位置に移動してほしいものだ。
1.6リッターターボの実力は十分以上にパワフルだ。スポーティなステーションワゴンを走らせるには必要十分で、追い越し加速もアクセルレスポンスよく素早く行なえる。同クラスの2.0リッターターボに比べるともう少しパワーが欲しくなるが、山道でもエンジン出力は十分でパワートレーンにも信頼が持てた。
ちなみにスポーツモードにしてみると、サスペンションは前後減衰力を上げロールが抑えられている。ハンドルの応答性もシャープになる。S字コーナーのようなハンドルを左右に切り返す場面でも508 SWは軽快だ。ここでも低重心が活き、スポーツセダンのような反応だ。ギヤも高い回転域に維持するので、コーナーの立ち上がりでもアクセルのツキがよく、素早く反応する。モードごとのメリハリがシッカリしており、気分によって使い分けることができる。
コンフォートモードではパワートレーン系はハイブリッドに準じているが、ショックアブソーバーの減衰力を緩めるので路面の凹凸通過の際のあたりは柔らかくなり、収束もお釣りがくるギリギリのところで納めており快適だ。さすがにプジョーのセッティングはうまい。
ブレーキは踏力重視で、停止寸前の微妙なコントロールは少し慣れが必要だ。またトランスミッションは条件が重なるとギクシャクして変速に滑らかさを欠いている場面もあった。この後学習効果で修正されるのだろうか。
少し狭かった後席のヘッドクリアランスもSWではルーフを直線的に伸ばしているので余裕があり解放感がある。レッグルーム、ラゲッジルームも十分な広さでロングツアラーとしての条件は備わっている。
充電は普通充電のみ可能で、フル充電するのは200V/3kWで5時間、6kWの充電器では2.5時間で満充電にできる。
508 SWの走りは重厚感と軽快さが同居した不思議な感覚で、従来のプジョー的かと言えばそうではない。新しいE/Dセグメントに切り込んでいく心意気を感じるような味付けだった。乗り慣れてくるとフラットな乗り心地やフットワークの柔軟性に共高い感を抱くことになるだろう。