試乗レポート

スズキ「スイフトスポーツ」改良。安全装備や便利機能が追加されてより高コスパに

気持ちのよい俊敏な走りはそのままに、熟成されたコンパクトハッチ

一部仕様変更が行なわれたスイフトスポーツを試乗

進化点の多いAT車

 創業100周年を迎えたスズキの歴史の中でも、スイフトスポーツは異色中の異色のモデルだ。その高い評価は国内にとどまらず、走りの本場である欧州でも認められている。そんなスイフトスポーツの登場から3年たらずが経過し、一部仕様変更が発表された。

 欧州の厳しい排出ガス規制に対応するため欧州市場に投入された48Vマイルドハイブリッド仕様が日本にも導入されるのではという声もあったが見送られたのは、車両重量やコストが増し、燃費は向上するものの性能面でも決してプラスばかりではないことが理由のようだ。期待していた人も少なくないかもしれないが、日本向けが現状維持とされたのは、むしろ喜ぶべきことといえそうだ。

 4世代目となる現行スイフトスポーツが登場してからこれまで何度かドライブする機会があり、Car Watchの試乗記以外にも、自動車専門誌の企画で、コスパの高いクルマ、乗って楽しいクルマ、エンジンの優れたクルマについて述べて欲しいというお題が与えられた際に何度も原稿に書いてきた。すでに購入した人もみな同じことを実感していることと思う。

今回はあえてAT車を試乗

 そんな、このままでも十分に魅力的なスイフトスポーツが、時代のニーズに即した進化をとげた。価格は15万円近く高くなったとはいえ、以下の変更内容を知ると十分に納得できる。借り出したのはMT車ではなく、より進化した部分の多いAT車の、新たに加わったブルーとブラックルーフという2トーンルーフ仕様だ。鮮烈なイエローのイメージが強いスイフトスポーツだが、こうしたコーディネートも新鮮味があってよい。

新たに加わったスピーディーブルーメタリック×ブラック2トーンルーフ仕様

 安全装備については、MT/ATに共通するものでは、リアパーキングセンサー、標識認識機能、ブラインドスポットモニター、リアクロストラフィックアラートが追加されたほか、メーカーオプションの全方位モニター用カメラによって周囲を立体的に360度確認できる3Dビューが追加された。AT車にはさらに後退時ブレーキサポートが追加され、誤発進抑制機能が後退時にも対応するなどした。

全方位モニター用カメラにより周囲を立体的に360度確認できる3Dビュー(メーカーオプション)
全方位をセンサーで検知し、距離によって色を変えながら警告を行なってくれる

 その他の装備では、フロント2Wayスピーカー&リアスピーカーの計6スピーカーやオートライトシステムが全車に標準装備され、マルチインフォメーションディスプレイにデジタル車速表示が追加されたことなどが挙げられる。

シートバックと座面を温めるシートヒーターを運転席に標準装備
USBポートが追加された

AT車でも存分に楽しめる

 せっかくスイフトスポーツなので、まずは走りについて述べると、いつもながらレスポンスがよくトルクフルなK14C型エンジンは、AT車でも存分に楽しむことができることを再確認。スズキも従来はそうだったが、このクラスはCVTが主流のところをあえてトルコンATとしたことを称えたい。アクセル操作にリニアについてくる太いトルクが心地よい。マニュアル操作でのシフトチェンジも素早くこなしてくれる。あともう500rpmでも回せるとより楽しめそうな気もしたが、あまり上まで回さずトルクの太さを味わいながら乗るのが、むしろいまのスイフトスポーツの正しい楽しみ方のようだ。

直列4気筒1.4リッター直噴ターボエンジン(K14C型)は、最高出力103kw(140PS)/5500rpm、最大トルク230Nm(23.4kgfm)/2500-3500rpm

 俊敏で正確なステアリングレスポンスもスイフトスポーツならでは。市街地を普通に走るには操舵力がやや重い気もするが、本領を発揮するワインディングではしっかりとした手応えがあり、路面を捉える感覚をダイレクトに伝えてくる。前後のグリップバランスもよく、コーナー立ち上がり加速でもニュートラルステアを維持する。

 半面、高速道路では、これまでも感じていたとおり直進安定性がやや甘いことが気になるのはいなめず。当初に比べると微妙によくなった気もしたが、もう一歩に期待したい。車線逸脱抑制機能については、今回さらに制御が進化したのか、単眼カメラとしてはかなりがんばっているように思う。

ボディサイズ:3890×1735×1500mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース:2450mm、車重:990kg(MTは970kg)

改良によるメリット

 エンジン回転数は6速100km/hで2100rpmぐらい。巡行時の静粛性もまずまず。車速を大きくデジタルで真ん中に表示できるようになったおかげで、注視しなくても車速を常に把握できるようになったのもとくに高速道路では重宝する。

 ACCの車間距離をもっとも接近するようセットしたときには、もう少し詰めてくれたほうがよい気もしたが、一方で、これまでは30km/h以下に対応していなかったACCが全車速域で追従可能になったのがAT車の強み。停止まで追従し、渋滞にも対応するようになったのがありがたい。あとは停止保持機能が付くことに期待したい。

デジタル車速表示が新たに追加された
ステアリング左側はオーディオの操作ボタン
ステアリング右側はオートクルーズの操作ボタン
左側の奥にはハンズフリーフォンの操作ボタン
右側の奥には車線逸脱抑制機能の操作ボタン

 もうひとつ、今回変更があったわけではないが、あらためて印象的だったのがシートの出来のよさだ。見た目のイメージどおりホールド性に優れるのはもとより、今回の取材でも比較的長い距離をまる1日走ってみたものの疲れ知らず。荒れた路面で強めの入力があってもシートがうまく緩和してくれる。これならレカロでなくても十分に満足できる。

シートは以前のままだが、サポート性が高く、疲れにくい

 こうして新しくなったスイフトスポーツをドライブして、やはりこのクラスでもっとも楽しいクルマであることをあらためて確認した次第。やや高くなったとはいえ、コスパの高さも変わらない。日本が生んだ世界に誇れるホットハッチである。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸