試乗レポート

トヨタ「RAV4 PHV」試乗。すごいのは1300kmの航続距離だけじゃなかった!!

剛性感のある滑らかな乗り心地とEV走行時の静かな車内が快適

 トヨタ自動車の「RAV4 PHV」は発表以来大人気である。航続距離1300km以上は確かにインパクトが大きい。しかもバッテリーによる室内スペースの浸食はほぼなく、ミドルクラスSUVのゆとりのキャビンと大きなラゲッジルームは魅力だ。実質RAV4 ハイブリッドとほぼ変わらない。

 EVでの航続距離は95kmと、一般的な市街地走行だけなら電気だけで走れ、駆動用バッテリーも200Vの専用充電器なら空の状態から満タンまで約5時間30分で充電できる。PHVはEVでは何かと不安のある充電を気にせず、長距離移動にも時間を読める安心感がある。PHVの燃費を測るのは難しいが、通常のRAV4ハイブリッドではWLTCモードで20.6㎞/Lが、PHVでは22.2㎞/Lとエンジンも含めたハイブリッドシステムも燃費向上が図られていることが分かる。

試乗車はRAV4 PHV G“Z”。価格は499万円。ボディカラーは「アティチュードブラックマイカ」。ボディサイズは4600×1855×1690mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2690mm。車両重量は1900kg。切削光輝+ダークグレーメタリック塗装の18インチアルミホイールと組み合わせるタイヤは、225/60R18サイズのダンロップ「GRANDTREK PT30」
最高出力130kW(177PS)/6000rpm、最大トルク219Nm(22.3kgfm)/3600rpmを発生する直列4気筒 2.5リッター「A25A-FXS」型エンジンを搭載。フロントには最高出力134kW(182PS)、最大トルク270Nm(27.5kgfm)を発生する「5NM」型モーターを、リアには最高出力40kW(54PS)、最大トルク121Nm(12.3kgfm)を発生する「4NM」型モーターをそれぞれ採用する
総電力量18.1kWhの新開発リチウムイオンバッテリーを搭載。満充電までの充電は200V/16Aで約5時間30分、100V/6Aで約27時間。EV走行距離はWLTCモードで95km。外部給電モードも備え、バッテリーとエンジンからの給電を行なえるHV給電モードでは、一般家庭が日常使用する電気量となる1日あたり10kWh(1時間あたり400W)で5日程度の電力を供給できる
RAV4 PHVの内装
後席はシートヒーターを標準装備
シート表皮はパーフォレーション加工を施した合成皮革で、レッドステッチが施される。運転席・助手席は快適温熱シートに加え、シートベンチレーション機能も搭載
ラゲッジ要領はVDA法で490Lを確保。9.5インチのゴルフバッグを4個搭載できる

 もう1つRAV4 PHVはシリーズの最上級車種として、燃費だけでない価値も訴求する。「“E”-Booster」のネーミングを与えて、「Electric(電気を使う)」「Enviroment(環境)」に加えて「Enjoy(楽しさ)」という3つの“E”でPHVのパワーの魅力を伝える。確かにエンジンまで動員して加速すると、システムの最大出力225kWは馬力にすると300PS以上となり、0-100㎞/hは6.0秒で走り切る。かなり速い。PHVを省燃費に絞らず、ハイパフォーマンスで訴えたのは初めてかもしれない。トヨタでは分かりやすい比喩として「2.0リッターターボクラス」と謳っている。

ほかのRAV4と違う走りのキャラクター

 プロトタイプ試乗会が行なわれた袖ヶ浦フォレストレースウェイでは、全開にした時にグンと背中をシートに押し付けられるような加速に、電気の瞬発力を改めて感じた。この場面ではエンジンも動員するが、アクセルを強く踏まないと(バッテリー残量にもよるが)エンジンが始動することはない。公道ではこのパワーを使うことは滅多にないが、瞬発力があると分かっていればゆとりを持って運転できる。

 実際に走ってみると、市街地から高速道路までほぼEV走行で賄え、2.5リッターのダイナミックフォースエンジンの出る場面はあまりないが、モーターだけでもレスポンスも出足も鋭い。

走行中はEV走行がほとんどの割合を占め、エンジンが稼働する場面は高速道路の合流などでアクセルを強く踏み込んで加速をする場面ぐらい

 そして、市街地ではエンジン振動のない静かなキャビンはなかなか快適だった。「ハリアー」ほどロードノイズはカットされていないが、絶対値としては充分。静粛性に富んだキャビンは心地よい。外にいると聞こえる独特の「ヒュンヒュンヒュン」という音は、室内ではほぼ気にならない。エンジンなどのノイズがない分、ロードノイズが目立っている感じだ。

 GK-Aプラットフォームのボディ剛性が高いのはすでに販売されているRAV4で確認済みだが、PHVでは総電力量18.1kWhの重いバッテリーをセンタートンネルの下に収納し、その下に補強フレームが入っている。これによってボディ剛性がさらに高まり、合わせて低重心のRAV4 PHVのハンドリング、そして乗り心地が大きく向上している。確かにしっかりしたRAV4に輪をかけたように剛性感が高く、乗り心地でもPHVの重量がよい方向に働き、段差を高速で通過する際のショックはあるものの収束に優れており、不快感はない。

 また、ハリアーと違って、RAV4らしくショックアブソーバーの減衰力は強めに設定されているが、PHVでは低フリクションダンパーの効果もあって、都市部の荒れた舗装でも滑らかな走りだ。段差の乗り越しでも大きな突き上げは感じない。

 ハンドリングでは低重心に加えて、サスペンション設定が巧みで姿勢安定性に優れているのを改めて感じた。俊敏というのとは違い、コーナーを狙い通りに走り抜け、ロールもよく抑えられていて気持ちがよい。ちなみに、サーキットで素早くレーンチェンジを行なった時にはロール収束が少し遅れる感じだったが、今回の試乗では安定性の方を強く感じた。

 一方、走りの面ではドライブモードをスポーツにすると、アクセルレスポンスが上がると同時に回生ブレーキも強くなる。結果としてアクセルOFFでは前荷重にしやすくなり、ドライビングの基本に則って動くのが心地よい。また、ノーマルモードでもアクセルOFFの減速Gはハイブリッドより大きい。

 PHVはRAV4シリーズにあって、乗り心地や姿勢安定性の点でもちょっと異質なキャラクターが与えられており、航続距離がずば抜けているだけではなく、走りのキャラクターも変わっている。

生産計画を大きく上まわる受注数

 価格は469万円から始まり、最高価格の「BLACK TONE」では539万円とRAV4としてはかなり高価格帯になる。補助金があるとはいえ、単純に考えればハイブリッドとPHVの価格差を燃料代で相殺するのは難しい。しかし、そのパフォーマンスや1回で走れる航続距離など、PHV特有の魅力は十分に高いと思う。

 ここまでレポートしながら、残念なことにすでにPHVの受注は生産計画を大きく上まわっており、新開発したリチウムイオンバッテリーの生産も追い付かず、年内の生産分で一旦受注を停止している。受注再開についてはトヨタのWebぺージで発表するとしている。RAV4 PHVはさまざまなカテゴリーのクルマからの乗り換え希望があるようで、SUVへの注目度など、多くの要因でトヨタでも予測しえなかった受注となったようだ。PHVへの期待がこれで削がれなければいいのだが。早い生産再開を期待したい。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一