試乗レポート

「MAZDA2」商品改良モデル、高圧縮比の新ガソリンエンジンの実力

このタイミングでエンジン改良!?

 約2年前にモデルライフ途中で車名変更したのには驚いたものだが、思えば「デミオ」時代からカウントして、もう登場から約7年が経過している。次期型に関する有力な情報もまだ聞こえてこないが、そろそろ何らかの新しい動きがあってもよい時期だと思っていたら、想像以上に大きな出来事が起こった。なんと商品改良で、装備の改良と新外板色の追加とともに、エンジンに変更があったのだ。よもやこのタイミングでエンジンに手が入れられるとは思わなかった。

 件のガソリンエンジンは、圧縮比が従来の12から14へと高められた。しかもレギュラーガソリンのまま。このタイミングでエンジンにまで手を入れた理由は、マツダでは電動化技術の開発とあわせ内燃機関を磨き上げながら、CO2排出量削減と「走る歓び」の進化を追求し続けているからだとしている。

 装備については、ワイヤレス充電とApple CarPlayワイヤレス接続が設定されたのが新しい。購入を検討するユーザーにとって「MAZDA2」が最新の他車に引け目を感じないよう、こうした装備をアップデートしてくれたのはありがたいことだ。

 同時に設定された特別仕様車「サンリット シトラス」は、燦々と輝く太陽の光をイメージしたという、これまでにない雰囲気の室内空間が特徴で、グレージュのスエード調人工皮革のグランリュクスをシートやインテリアの各部に用いてシトラスを挿し色に加えている。さらに、インテリアカラーとコーディネートした専用キーシェルとフロアマットや、360°ビューモニターも付くなど、魅力的な内容となっている。

今回試乗したのは6月に商品改良を行なったコンパクトカー「MAZDA2」。グレードは4WDの「15S Proactive Smart Edition II」(196万8500円)でボディサイズは4065×1695×1550mm(全長×全幅×全高、シャークフィンアンテナ装着車)、ホイールベースは2570mm。エンジンの改良によって2030年度燃費基準における減税対象となり、2021年12月31日までに新車登録する場合に購入時の自動車税率(環境性能割)が非課税となるほか、エコカー減税(重量税)が50%減税となる
ボディカラーは新色の「プラチナクォーツメタリック」。今回の商品改良で外観上での変更点は大きくはなく、4WD車にフロントウィンドウにたまった雪を取り除きやすくするワイパーデアイサーを全車標準装備とした。足下は15インチアルミホイールに横浜ゴム「BluEarth-GT AE51」(185/65R15)をセット
15S Proactive Smart Edition IIのインテリア。室内では対応するスマートフォンをコンソールに置くだけで充電ができるワイヤレス充電(Qi)と、簡単な登録でスマホを取り出さずに自動接続ができるApple CarPlayワイヤレス接続をオプション設定した
こちらは商品改良とともに設定された特別仕様車「Sunlit Sitrus(サンリット シトラス)」。シートやダッシュボード、ドアトリムに手触りのよいグレージュのスエード調人工皮革「グランリュクス」を使用し、差し色に“シトラス”を加えることで“燦々と輝く太陽の下での南方への旅”をイメージした室内空間を作り上げている。価格は196万9000円~244万2000円

燃費や応答性が向上

今回の商品改良では、直列4気筒DOHC 1.5リッター「P5-VPS」型エンジンであるSKYACTIV-G 1.5に独自技術の「Diagonal Vortex Combustion」(ダイアグナル・ボーテックス・コンバスチョン:斜め渦燃焼)を加え、圧縮比を12から14に高め、環境性能を向上。燃費はWLTCモードで従来のガソリンエンジンから最大6.8%向上したという。試乗車の最高出力は81kW(110PS)/6000rpm、最大トルクは142Nm(14.5kgfm)/3500rpmで、WLTCモード燃費は18.1km/L

 SKYACTIV-G 1.5の高圧縮仕様は、上級グレードの1.5S PROACTIVE系および特別仕様車に搭載される。圧縮比を高めるメリットはいろいろあるが、マツダによると、熱効率を高めることで燃費と環境性能を向上させることを今回の主な目的としたとのこと。スペックは既存の標準仕様に対し、最高出力は不変で、最大トルクが1Nm向上して発生回転数が500rpm低くなっている。燃費は最大6.8%も向上し、一部は2030年燃費基準における減税対象となった。

 圧縮比を高めてレギュラーガソリンのままでもノッキングが起こらないようにするために、主に下記の3つの技術を用いている。

①外部EGR(Exhaust Gas Recirculation:排気再循環)の導入による異常燃焼の抑制
②エンジン塔内の流動改善=「ダイアグナル・ボーテックス・コンバスチョン(斜め渦燃焼技術)」による燃焼安定性
③4-2-1排気マニホールドの採用で筒内の残留ガスを減らす掃気改善

 これには、「e-SKYACTIV X」の開発で培った制御技術が役に立っている。圧縮比を高めることで、楽しく運転してもらえるよう、アクセル操作に対する応答性とコントロール性を向上させたというが、実際にもエンジンフィールは少なからず変わっていて、低速域のレスポンスが向上し、踏むと即座にトルクが立ち上がる感覚が高まっている。加えてエンジン自体が静かになったように感じられた。そのあたりはもともとわるくなかったが、回転感がより緻密になり、粒がそろったような印象を受けた。

 半面、ATの変速がビジーになり、アクセルを踏み増すと3000rpm以上に頻繁に入るのが少々気になった。3速から6速のギヤ比がやや離れているので、余計そう感じたのかもしれない。おそらく低回転域に燃調の難しい領域があり、ノッキングを避けるためできるだけそこに入らないようにしたという事情もあるのではないかと思う。アクセルを一定にしていても車速が上がったり、ときとしてまるで過給機付きのような加速の仕方をする状況もあるが、それは加速の力強さをより感じることのできる部分でもある。スポーツモードを選択すると、5000rpm台まで引っ張る頻度が増えて、さらに力強さを体感できる。

 エンジンルームを見ると、エンジン自体を覆うカバーやボンネット裏によくあるインシュレーターが付いていない。それでいてこの静かさは大したものだ。3000rpm以上を多用する設定になっているのは、静かだからという事情もあるかもしれない。

マツダの姿勢に敬意

 これまで改良を重ねてきた足まわりについては、今回はとくに変更は伝えられていないが、GVCについて、出た当初に比べて時間の経過とともに改良されて自然なフィーリングを実現したことに好感を抱いていたところ、試乗した個体の問題かもしれないが、やや操舵時の動き始めが再び少々過敏になった気もした。エンジンの応答性が高まったことで、GVCの荷重移動の速度と量が増した分、そのように感じられたのかもしれない。

 出た当初はやや硬さを感じた乗り心地も熟成されている。試乗車がリアの重い4WDだったこともあり、2WDでやや見受けられるバタつきもなく、フラット感のある乗り味となっている。

 2021年9月時点で、MAZDA2の納期は2~3か月程度という。これからMAZDA2を買おうという人のため、ひいてはマツダの将来のさらなる技術の進化のためにも、よいものができたらどんどん導入していくあたりはさすがである。モデル終盤でも進化の手を止めないマツダの姿勢とチャレンジ精神には敬意を表したい。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸