試乗レポート

BMW「M440i xDrive グラン クーペ」、珠玉の直列6気筒エンジンを味わう

BMW Mが開発した「M440i xDrive グラン クーペ」

6気筒エンジンのフィーリングは?

 BMWの豊富なラインアップの中で4シリーズは中核のクーペラインアップを指す。さらにMはBMWの高性能スポーツモデルを開発するBMW Mが担当するハイパフォーマンスモデルだ。

 今回試乗した「M440i xDrive グラン クーペ」は、全高を下げた4ドアクーペにテールゲートを備えた日常性も高いスタイリッシュなモデルだ。BMWの魂であるエンジンは珠玉の直列6気筒3.0リッターターボ。トルクバンドは広く、1800rpm-5000rpmで500Nmのトルクを出し、最高出力は285kW(387PS)に達する。イグニッションスイッチをONにした瞬間からBMWの少し湿り気のあるエキゾーストノートが低く響く。アクセルひと踏みでどこまでも加速していきそうな感触は緊張と歓喜を併せ持つ。

今回試乗したのは2021年7月に発売された4シリーズ グラン クーペのMモデル「M440i xDrive グラン クーペ」(1005万円)。ボディサイズは4785×1850×1450mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2855mm、車両重量は1840kg。直列6気筒 3.0リッターターボエンジンに8速AT、インテリジェント4WDシステム「BMW xDrive」を組み合わせる
エクステリアではMパフォーマンスモデル専用色となる「セリウム・グレー」をキドニーグリル、エアインテーク、エアブリーザー、ミラーキャップに採用することで、ハイパフォーマンスモデルとしての存在感と個性を演出。また、トランクリッドにはMリアスポイラーを装備して空力特性を高め、高速走行時の安定性を向上させた。足下は19インチアロイホイールにピレリ「P ZERO」(フロント245/40R19、リア255/40R19)の組み合わせ
インテリアでは「OK, BMW」と話しかけることで車両の操作、目的地の設定などが可能なコネクティビティ機能を装備。またApple CarPlayへの対応、BMWコネクテッド・ドライブの標準装備によりスマートフォンで事前に検索した目的地を車両に送信できるなど、利便性を高めた。加えて車両のキーを持たずとも、iPhoneをドア・ハンドルにかざすことで車両のロック解除/施錠、さらにエンジンの始動も可能としている

 しかし案に相違して、エンジンはすこぶるフレキシブルで力強い。アイドルから少し回転を上げただけで1840kgのグランクーペは粛々と走り出す。このエンジンは94.6×82mm(ボア×ストローク)のショートストローク。ツインスクロールターボとバルブトロニックで低回転からのトルクも豊かだ。

 さらに回転を上げるとパワーも滑らかに盛り上がるが、あくまでもドライバーのコントロール下にあり、アクセルが吸い込まれるような悪魔的な誘いはこのユニットとは無縁だ。回転の上昇とともに乾いたエキゾーストノートに変化するが、そこには滑らかな直列6気筒ならではのバランスのよさを感じるのみだ。この音を聞いているだけでM440iのハンドルを握ってよかったなと思う。

直列6気筒DOHC 3.0リッターターボエンジンは最高出力285kW(387PS)/5800rpm、最大トルク500Nm(51.0kgfm)/1800-5000rpmを発生。0-100km/h加速は4.7秒で、WLTCモード燃費は10.8km/L

 今回の試乗は郊外路と高速道路が主体のショートインプレッションで、BMWのもう1つの魅力であるハンドリングを堪能する時間はなかったが、それでも何気ないコーナーでハンドルを切り込む瞬間にその実力を垣間見ることができる。微小舵角から手応えがあり、しかもそれはストレート6の鼓動に合わせるように滑らかに反応して無理な操舵力を要求しない。ドライバーがさらにステアリングを切ろうとすれば徐々に重くなっていくが、バリアブルギヤレシオで自然に大きく切れて心地よいステアフィールだ。

 ハンドルの握りは太めで掌になじむ。フットワークよくハンドルを左右に切り返すワインディングロードはきっと爽快に違いない。高速道路での直進性も高く、ハンドルに軽く手を添えているだけで矢のように進むのはグラン クーペの名前どおりだ。

乗り心地もしなやか

 さて、シットリとしたハンドリングから想像されるように乗り心地もしなやかだ。装着タイヤはフロント245/40R19、リア255/40R19のピレリ「P ZERO」(ランフラットタイヤ)だが、荒れた路面でもダイレクトなショックを伝えることはなく、たまに大きな突起を乗り越してもマイルドにいなしてくれる。ランフラットの採用が早かったBMWはその落としどころをよくつかんでいる。同時に電子制御可変ダンパー「Mアダプティブサスペンション」の絶妙なチューニングにも感銘を受けた。

 M440iのボディサイズは4785×1850×1450mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3シリーズセダンよりもわずかに長い2855mmとなる。一見したところ大きく感じたが、伸びやかなデザインがそう見せているようだ。グリルは好みの分かれる縦長のキドニーグリルだが、存在感は大きい。

 ただ、やはりルーフが絞り込まれているので後席のヘッドクリアランスはそれほど余裕がなく、広いレッグルームを活かしてリラックスした姿勢を取るとちょうどいい。ドライバー側はゆとりがあるが、バックレストを倒し気味のポジションで取っていたことから最初は車幅感をつかみにくかった。それがサイズ以上に大きさを感じた原因かもしれない。

 その代わりトランクは470Lと大きく、リアシートを倒すと1290Lという大きなラゲッジルームが生まれる。4人の大人と人数分のスーツケースが十分に収まる空間を流れるようなデザインの中に落としこんでいるのはさすがだ。

日常的にも使いやすいラゲッジスペースを有する

 試乗車はxDrive、つまり4WDだったが、試乗が終わるまでその気配を感じることはなく、FRのナチュラルな操舵フィールを楽しんだ。4WDシステムはいわゆる緊急時のスタンバイ型ではなく、4WDの前後輪間に電子制御の多板クラッチを配置し、常にハンドル舵角や車速を検知して運転状況に応じて前後輪にトルク配分を行ない安定した運動姿勢を保つ。滑りやすい雪道などだけでなく、ドライ路面でも4輪の駆動力を臨機応変に配分するインテリジェント4WDだ。

 久しぶりにストレート6のBMWに乗って、やはりBMW、そして内燃機関はいいなぁと感じた次第だ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛