試乗レポート

スズキ「スペーシア ギア」で静岡をドライブ 旅の目当ては獲れたての“生しらす丼”

旅の相棒は“ワクワク”が詰まったビビッドなクルマ

 ほんのりとあたたかな風が髪を揺らす季節になると、車窓は一気に彩りを増す。菜の花のイエロー、桃や桜のピンク、鮮やかさを増した濃淡のグリーンたち。目から、耳から、生命のパワーが染み入ってくるこの時期は、各地で期間限定のおいしいグルメも気になってくるところ。縮こまっていた全身をストレッチさせると、気持ちも前向きになってくる。うずうずしてきた胃袋の欲するままに、少しだけ日常を離れたドライブに出かけてみることにした。

 そんな春ドライブの相棒は、2021年12月にデザインや装備が新しくなった、スズキ「スペーシア ギア」。眺めているだけで、ワクワクを求めてどこかへと出かけたくなるその姿は、新デザインのガンメタリックアルミホイールでグッと足下が引き締まり、頼もしい存在感がアップ。ビビッドなボディカラーも春の青空に映えて、出発前からテンションが上がる。

スペーシア ギア HYBRID XZターボ。価格は180万2900円。ボディサイズは3395×1475×1800mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2460mm。広い車内の快適空間と、両側パワースライドドアの利便性、アクティブなデザインを融合させた軽ハイトワゴン
スズキの軽SUVをイメージさせる丸目ヘッドライトと、周囲のガーニッシュによる個性的なデザインが特徴
リアランプもユニークなデザインとなっている
ガンメタリックカラーの14インチアルミホイール。組み合わせるタイヤはダンロップの低燃費タイヤ「エナセーブEC300+」

 ドアを開けると、インテリアもどこか新鮮。インパネのカラーパネルや、シートのアクセントカラーが新しくなって、本格的なギアを手にした気分にさせてくれる。天井は高く、視界は広々。開放感あふれるこの室内空間に身を置くと、心までのびのびしてくるようだ。スタートボタンを押して、パワフルな走りと低燃費を両立するマイルドハイブリッドを目覚めさせる。スッとなめらかでグイッと軽快な、モーターアシストの後押しを感じながら、小さな冒険のスタートだ。

ツールボックスのような印象のインパネデザイン
助手席にはティッシュボックスも入れられる収納を設置
後部座席の人も快適に過ごせるように、エアコンの風を後方へ送り込む「スリムサーキュレーター」を搭載
水に濡れてもサッと拭き取れる撥水仕様のシート表皮を全席で採用
リアシートはスライドが可能。後席足下を広くしたり、ラゲッジに多くの荷物を積んだり、その日の使い方によって自由に変えられる。ラゲッジ内とリアシート背面は汚れを簡単に拭き取れる防汚仕様
リアシートを倒すとほぼフラットなスペースが出現。自転車の積み降ろしをサポートするガイドも設置され、27インチの自転車も載せることができる
ISG(モーター機能付発電機)と大容量リチウムイオンバッテリを搭載するマイルドハイブリッドを採用。直列3気筒DOHC 0.66リッターターボエンジンの最高出力は47kW(64PS)/6000rpm、最大トルクは98Nm(10.0kgfm)/3000rpm。WLTCモード燃費は19.8km/L

 西へ向かう、朝の東名高速道路は順調に流れていた。富士山の姿が近づくにつれ、だんだんと上り坂が増えてくるけれど、スペーシア ギアは余裕たっぷり。ISG(モーター機能付発電機)が減速エネルギーを利用して効率よく発電し、大容量の専用リチウムイオンバッテリに蓄電して、必要なときにエンジンをアシストしてくれるマイルドハイブリッドシステムは、高速道路でも威力を発揮しているのがよく分かる。新東名高速道路に入り、120km/h制限区間で流れが速くなっても、まったく気後れすることなく走っていけるのもそのおかげだ。ジャンクションの合流などで強い加速が欲しいときにも、モーターアシストがしっかりサポート。思い通りの走りができるのがうれしい。

 そして、120km/hに達しても全高が1800mmもあるとは思えない、ガッシリとした安定感。ステアリングにも適度な落ち着きがあるので、ギュッと強く握り続ける必要もなくリラックスして運転できる。新たにフロントガラス投影式ヘッドアップディスプレイが設定されたため、ほとんど視線移動をしなくても走行中の情報が得られるようになり、よりリラックス感を高めてくれていると感じる。

新東名高速道路の120km/h区間もストレスなく走行

 また、アダプティブクルーズコントロールには車線逸脱抑制機能も追加。さっそくステアリングに置かれたスイッチで作動させてみた。自分ではまっすぐに走っているつもりでも、カーブで思いのほか白線ギリギリに寄ってしまったり、標識などに気を取られて操作が遅れたりした際に、適度な制御で車線中央に戻してくれるシーンがあり、これは頼もしいと実感した。常に見守っていてくれるような安心感は、どんなドライバーにとってもありがたいものだ。高速道路の運転は緊張が続き、景色を楽しむ余裕などないという人も、これなら少し肩の力を抜いて走れるのではないだろうか。

ステアリング右スポークにACC関連のスイッチを配置。ACCは110km/hまでの設定

旅の醍醐味はおいしいご飯! 生しらす丼に舌鼓

 ナビ画面では、駿河湾がすぐそばに近づいていることが確認できた。そこでパッと脳裏に浮かんできたのが、冬の禁漁期間が明けて間もない「生しらす」の透き通った輝きと、ピチピチとしたあの食感。獲れたてホヤホヤで鮮度日本一の生しらすがいただけると評判の、静岡市は用宗港を目指すことにする。静岡IC(インターチェンジ)で降り、かすかに潮の香りがただよう市街地を抜けていくと、何艘もの船が停泊する漁港の正面に、漁協直営の「どんぶりハウス」が見えてきた。お昼前にもかかわらず、新鮮な生しらす目当ての人たちの行列ができている。その日の朝に獲れた量がなくなり次第終了となってしまう生しらすは、果たして私のもとにきてくれるだろうか。ドキドキしながら最後尾に並んでいると、なんとかギリギリのところでありつけた。キラキラと輝く海の宝石のごとく、山盛りになった生しらす丼と、わかめのみそ汁という、とても贅沢なご馳走だ。

その日に水揚げされた生しらすをたっぷりと載せた丼がいただける、用宗漁港内のどんぶりハウス(静岡市駿河区用宗2-18-1)。生しらす丼は3月21日~翌年1月14日の出漁日にのみ食べられる。どんぶりハウスは雨天時定休となるので注意
生しらす丼
キラキラと輝く生しらすがたっぷりの生しらす丼のほか、メニューには釜揚げしらす丼、漬けマグロ丼なども。すべてみそ汁付き。価格は時価とのことで、この日は700円

 青空の下のテントに置かれたテーブルで、海風を感じて波音を聴きながらいただくのが、用宗港のどんぶりハウス流。ひと口頰張ると、海の恵みがいっぱいに弾けて広がっていく。「幸せ~」と叫びたいのをこらえながら、最後の1匹までもうお箸が止まらない。まさに、ここに来なければ味わえない旬なグルメに大満足だ。

 港の駐車場に止めたスペーシア ギアは、食休みのプライベートサロンとしてもイケている。後席に座ると、広大な足下スペースのおかげでラクな姿勢でくつろげるし、高い天井はグンと伸びをしても大丈夫。窓を開けて、しばし昼下がりの港を眺めながらのんびり。並んで腰掛けて釣り糸を垂れている老夫婦や、走り回ってはしゃぐ子どもたちの姿に癒やされ、遠くを悠々と横切る船を見送る。非日常でありながら、なんと平和な時間だろう。

 すっかりパワーチャージが完了すると、今度は山の方へとステアリングを向けた。日本夜景遺産でも有名な日本平を擁する有度山の道は、ブラインドカーブや細い区間もありながら、急勾配を駆け上がる。こんなときは、視界が大きくとってあり、遠くまで見通せるスペーシア ギアの運転席や、室内空間は広いけどボディサイズはコンパクトな扱いやすさがとてもありがたい。しかも、無理にアクセルを強く踏むこともなく、モーターアシストでしっかりと力強く坂道を上ってくれる、この余裕。あらためて、スペーシア ギアと一緒に来てよかったと思ったのだった。

 もうすぐ新茶の季節を迎える茶畑の中を抜け、濃い緑を目に焼き付けたり、みかん畑では収穫のときを思わせる、小さなトロッコのレールを発見したり。普段の自宅周辺のお出かけでは絶対に出会えない風景をラゲッジいっぱいのお土産にして、心地よい充足感とともに帰路につく。やっぱり、気の向くままに好きなところへ行けるクルマでのお出かけは、いいものだ。都心が近づいて渋滞に突入しても、アダプティブクルーズコントロールのおかげで気持ちの余裕があるからか、今度は家族や仲間たちとどこへ行こうかと、すでにワクワクしていたのだった。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z、メルセデス・ベンツVクラスなど。現在は新型のスバル・レヴォーグとユーノス・ロードスター、ニッサン・スカイラインクーペ。

Photo:高橋 学