試乗レポート

シトロエン初のPHEV「C5 エアクロス SUV プラグインハイブリッド」、システムの実力と乗り心地やいかに?

シトロエン初のPHEV「C5 エアクロス SUV プラグインハイブリッド」に試乗する機会を得た

シトロエン初のPHEV

 C5は上級Cセグメントにカテゴライズされるシトロエンの上位モデル。エアクロス SUVのボディサイズは4500×1850×1710mm(全長×全幅×全高)、そして2730mmのホイールベースで全高のあるSUVスタイルが特徴だ。そして日本におけるシトロエン初のハイブリッドモデルが「C5 エアクロス SUV プラグインハイブリッド」となる。

 パワートレーンの構成は直列4気筒1.6リッターターボからは133kW(180PS)/300Nmの出力を出し、アイシン製のハイブリッドシステムはモーター出力81kW(110PS)/320Nm、リチウムイオンバッテリは13.2kWhの出力、充電は200Vのみに対応して満充電までは一般的な3kW充電器を使った場合は5時間となる。ハイブリッドシステムはコンパクトでFFのエンジンルームにそのまま収まる点がメリットだ。バッテリはリアシート下に納めており、前後重量配分もFFより改善されている。

 ドライブモードは電動モーターで走行するエレクトリックモード、エンジンとモーターの両方を使うハイブリッドモード、そしてエンジン主体となるスポーツモードから選択できる。トランスミッションは従来のEAT8(8速AT)のトルクコンバーターの代わりに、電子制御の湿式多板クラッチと電動モーターを組み合わせたe-EAT8でハイブリッド走行を可能にした。

今回試乗したのは2021年6月に発売されたシトロエン初のプラグインハイブリッドモデル「C5 エアクロス SUV プラグインハイブリッド」(571万2000円)。ボディサイズは4500×1850×1710mm(全長×全幅×全高)。ホイールベースは2730mm。車両重量は1860kg
足下は18インチアロイホイールにミシュラン「プライマシー4」(225/55R18)をセット。足まわりには“ハイドロニューマチック”の現代的解釈とされるPHC(プログレッシブ・ハイドローリック・クッション)を採用し、サスペンションが小さく細かく動く状況や、うねりを超えるようなサスペンションのストロークスピードが低い状況では減衰力が小さく非常にソフトな“ゆるフワ”な乗り心地を提供。バッテリ充電は200V普通充電のみに対応し、3kWで約5時間、6kWで約2.5時間で満充電になる
室内では12.3インチデジタルインストルメントパネルのフルデジタルメーター、ダッシュボード中央に8インチタッチスクリーンが配されるとともに、定評あるアドバンストコンフォートシートにナッパレザーを標準採用。リアシートはそれぞれの乗員が等しく同じ優れた快適性を享受できるよう、独立3座としている
走行モードは純EVとしての走行が可能なエレクトリックモードをデフォルトとし、エンジンとモーターが運転状況によって自動的に切り替わる「ハイブリッドモード」、シフトアップタイミングを遅らせてエンジンの出力を引き出し、アクセルレスポンス、ギヤシフトタイミング、ステアリングの操舵力が重めになるなどスポーツ走行向けに統合制御する「スポーツモード」を備える。インストルメントパネルには専用の機能として電気による駆動、エンジンによる駆動、回生エネルギーなどといったエネルギーフローを可視化するモードが追加される
駆動用のリチウムイオンバッテリはリアシート下に配置し、後席の居住スペースとラゲッジスペースは純内燃機関仕様と実用上ほぼ変わらないという

 試乗は主としてハイブリッドモードで行なった。デフォルトはエレクトリックモードで極力電気だけで走らせ、エンジンはほとんどサポートに入らない。ちなみにEVでの走行距離はWLTCモードで65km。最近のPHEVのEV走行距離が長くなっており、隣の都市ぐらいならEV走行でカバーできる。PHEVの魅力は安価な電力で近隣を走り、夜間電力を使って自宅で充電して、ガソリン走行を極力しないことでメリットを出すことだ。

 ハイブリッドモードでも基本的にモーターによる発進になるので、音と振動から解放され、肩の力が抜けたように心穏やかになる。もともとC5は遮音性が高く、エンジンからの遮音、サイドガラスもラミネート構造を取り入れて風切り音やロードノイズがカットされて、静かなキャビンが特徴だ。

 ハイブリッドの走行パターンでは、日本ではトヨタTHSのようなシリーズ・パラレル方式に慣れているので発電しながらEV走行も期待するが、1モーターのC5 エアクロス SUV PHEVでは構造上それはできない。バッテリ残量がある限りは基本的にはEV走行となり、資料には135km/hまでEVで走行可能となっているので、緩加速ではEV走行が高速まで続く。アクセルを強く踏むとエンジンがかかり、システム出力360Nmのトルクで走ることができる。走行中バッテリの電力を増やすにはアクセルOFFによる回生力に頼ることになる。

パワートレーンは最高出力133kW(180PS)/6000rpm、最大トルク300Nm/3000rpmの直列4気筒DOHC 1.6リッターターボエンジンをベースに81kW(110PS)/2500rpm、320Nm/500-2500rpmの電動モーターを搭載し、システムトータル出力として225PS/360Nm(フランス本社公称値)を発生

 試しにエンジン主体のスポーツモードにしてみた。少し強めにアクセルを踏むとエンジンと共にモーターがサポートし、システムパワーによって想像以上にパワフルな走りが楽しめる。力強いだけでなく、e-EAT8がステップよく変速する様はあたかもデュアルクラッチのようでダイレクトな感触だ。変速時に軽いショックを伴うなどハイブリッドモードとは全く違う顔を見せる。パドルシフトで変速するとシフトダウンではブリッピングまでも行ない、その使い分けに舌を巻いた。疑似的にショックを与えてドライバーを刺激してくる。

 ただしこのモードでも緩加速では電力セーブのために電気モーターはサポートに入らず、エンジンの力だけで走る芸の細かさを見せる。エレクトリックモード、ハイブリッドモード、スポ―ツモードとそれぞれ複雑な制御を行なっており、いつ何が動いているか理解するまで迷ったが、分かってしまうとスポーツモードはアクセルの踏み加減で走行パターンを選べるので興味をそそられた。

快適さは群を抜いている

 さて、シトロエンと言えば乗り心地に期待しないわけがない。クッションストロークのたっぷりとしたシートの快適さはシトロエンの伝統で、C5 エアクロス SUV PHEVでも例外ではなかった。動的にも魅力的なシートだ。

 かつて存在した複雑なニューハイドロマチックは今や望むべくもないが、新しいPHC(プログレッシブ・ハイドロリック・クッション)と呼ばれるダンパー・イン・ダンパーを採用している。これはサスペンションストロークの小さい領域と大きくストロークする領域を分けてコントロールすることが可能で、シングルダンパーよりコストはかかるが快適な乗り心地を実現できた。

 かつてのハイドロニューマチックの雲の絨毯のような味ではないが、低速で小さな凹凸を通過する際もしなやかにいなし、高速道路のジョイント路でもショックを直接的に伝えることのない巧みな乗り心地だった。よくできたシートと共に快適さは群を抜いている。

 さらにPHEVでは後席下にバッテリを置くので前後重量配分は56:46とFFの60:40よりも改善され、ピッチングの少ないフラットな乗り味が特徴だ。また、サスペンション形式はフロント:ストラット、リア:マルチリンクで機能を最高に引き出している印象だった。乗り心地にこだわるシトロエンの伝統は最新のPHEVでも継承されていた。

 ハンドリングは背の高いSUV、それも1860kgある重量とあってドッシリとした走りが印象に残る。ハンドル応答性はスッとノーズを変えるようなクイックさはないが、ロール速度はよく抑えられており過大な感じはない。225/55R18のミシュラン「プライマシー4」はカーブで対角線上に荷重がかかった際も接地面の形状変化が少なく、自然なグリップ力でクルマを支える。重量とサイズに対して過不足ないハンドリングに仕上がっている。

 C5 エアクロス SUV PHEV、試乗してその快適さを改めて再認識した。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛