試乗レポート

フォルクスワーゲン、PHEVの「パサート GTE」 重厚でしっとりとした乗り味と高い静粛性が魅力的

フォルクスワーゲン「パサート」のPHEV(プラグインハイブリッド)モデル「GTE」が2022年4月5日より日本に導入される

バッテリ容量を増やしEVでの航続距離を延長

 パサートのプラグインハイブリッドモデルである「GTE」が、ガソリンモデルと足並みを合わせマイナーチェンジ。これが日本上陸を果たしたので、さっそく試乗してみた。

 新型パサートGTEで最も注目すべきは、その容量を9.9kwhから13.0kwhへと、30%以上も増やしたリチウムイオンバッテリだろう。搭載されるパワーユニットは1.4リッターのTSIユニット(156PS)で、これに組み合わされる電気モーターの出力値も85KW/116PSと変わりはないが、ピュアEVによる航続可能距離は51.7km(JC08モード)から57km(WLTPモード)まで延ばされた。これがどこまで日常的なシームレスさを向上させているのか。ハイブリッドに慣れ親しんだ日本のユーザーを振り向かせることができるのかが、ポイントになりそうである。参考までにこのバッテリをゼロから満充電にするのに掛かる時間は、200V電源でおよそ5時間。また、急速充電には対応していない。

試乗車は上位モデルのパサート GTE ヴァリアント アドバンス。価格は683万8000円(有償オプションカラーは除く)
ボディカラーは有償オプション(13万2000円)のオリックスホワイトマザーオブパールエフェクト
ボディサイズは4785×1830×1510mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2790mm、車両重量は1770kg(電動パノラマスライディングルーフを装備すると1790kg)
アドバンスは専用デザインの18インチホイールを装着。タイヤはコンチネンタルの「エコ・コンタクト6」でサイズは235/45R18。標準モデルは17インチとなる
フロントグリルに普通充電ポートを完備
フロントグリル、フロントフェンダー、リアゲート、ステアリングに「GTE」のエンブレムが配されている

 そんなふうに切り出してみた筆者だが、のっけからカウンターパンチを食らった。なぜならこのパサートGTE、プラグインだハイブリッドだという前に、その乗り味がすこぶる上質なのだ。

 ちなみにフォルクスワーゲンいわく、街中はピュアモーターで走り、郊外路や高速道路はハイブリッドモードという使い方がその想定だという。生活環境での騒音とCO2排出を抑え、高速巡航でストレスフリーに運転できるのが、プラグインハイブリッドのセリングポイントというわけ。

 言われれば「そんなの当たり前じゃん」と感じるが、こうしたオンとオフの使い分けをはっきり区別する意識は、いかにもドイツらしくて勉強になる。だからこそ彼らは街中で時速30㎞をきっちり守るし、アウトバーンでは200km/h巡航を当たり前にできるわけだ。

搭載される直列4気筒DOHC 1.4リッターターボエンジン(DGE)は、最高出力115kW(156PS)/5000-6000rpm、最大トルク250Nm/1550-3500rpmを発生。また、搭載されるモーターの最高出力は85kW(116PS)、最大トルク330Nmで、トランスミッションは6速DGSが組み合わせられている。燃費は15.9km/l(WLTCモード)

1.4リッターの小排気量ターボとは思えない静かさ

 というわけで筆者もまず意識してEVモードを選んだが、確かに早朝の住宅街を抜ける上でこの静けさは心地よくケアフルに思えた。少ないアクセル開度でもモーターのトルクがパサートの大柄なボディをスムーズに転がし、回生ブレーキの効き方も、強すぎず弱すぎずちょうどいい。

 ただそれ以上に感激したのは、前述した乗り味のよさだった。

 あえて乗り心地のよさと言わないのは、それが必要以上にフワフワではないから。試乗車は上級グレードの「アドバンス」で、その足下にはDCC(アダプティブ・シャシー・コントロール)による可変ダンパーも装備していたが、その重厚ながらもしっとりとした足さばきはエアサスにも劣らぬ印象。このところのフォルクスワーゲンの乗り味の固さに少なからず疑問を持っていた筆者だったから、思わず「Passat is back!」とうれしくなった。

インストルメントパネルやダッシュボードまわりは水平基調でシンプル
上位モデルのアドバンスはナパレザーシートを標準装備
デジタルメータークラスター「Digital Cockpit Pro」を搭載。右端にガソリン残量、左端に電池残量が配置されている
9.2インチ大型全面タッチスクリーンは全面タッチスクリーンを採用
大容量のラゲッジスペース
後席を折りたためばさらに拡大
フラットなラゲッジスペースの下にも収納スペースがあり、充電ケーブルなどを収納しておける

 そしてこれを実現した理由こそが、モーターとバッテリの搭載であると筆者は感じた。重たいモーターとバッテリを搭載したことで、低燃費タイヤの荷重バランスがようやく整ったのだ。いやむしろフォルクスワーゲンは、こうしたPHEV化やBEV化を前提に、そしてゴールとして、OEタイヤのキャラクターを設定していたのだろう。

 となればあの超絶まったりとした乗り味が失われた現行ゴルフも(それは若々しさへの回帰とも取れるのだが)、GTEの登場で再びその乗り味を取り戻すのかもしれない。

 幹線道路に出たころに、ハイブリッドモードへと切り替えてみる。

 筆者の自宅まで編集部員がすでに運転して来ていたこともあり、その電池残量は底を突きかけていたが、それでも勢いエンジンが掛からなかったのは意外だった。

 ちなみにこのハイブリッドモードでは、エンジンからのチャージ量をモニター上に10段階で可視化して、任意に調整できる。というわけでまずはマックスまでそのレベルを引き上げてみるとようやくエンジンは目覚めたが、遮音の効いた室内では、低く遠目にその存在を示したに過ぎなかった。さらにアクセルを踏み足して行っても、出足はモーターがアシストするのだろう、右足に伝わる感覚はEV走行時とさほど変わらなかった。少なくともパーシャルスロットル領域では、とても1.4リッターの小排気量ターボを走らせているとは思えない静かさだ。

モニターではエネルギーフローを確認できる
充電量をどのくらい保持するかを好みで設定できる
走行データを細かく確認できるようになっている
走行モードは「エコ」「コンフォート」「ノーマル」「スポーツ」「カスタム」の5種類が用意されている
カスタムではさらに細かく好みに設定が可能だ
パワーをフル開放できるGTEモード

 高速巡航でもそのしっとり、どっしりとした走りは保たれた。

 合流や追い越し加速ではようやくエンジンが存在感を示したが、そもそもTSIユニットはその回転上昇感がクリーンでパンチもあるから、回しても違和感どころか気持ちよさが際立った。

 システム総出力は今回公表されていないが、マイチェン前の数値から考えても218PS近辺か。対してその車重は1790kgもあるから、絶対的な加速力は目を見張るほどではない。

 また「GTEモード」を選ぶとアクセルを目一杯踏み込んで、“カチッ”と加速ボタンを押し込まずとも俊敏な加速特性を得られるようになるが、ゴルフならまだしもパサートでこれは常用しないモードだと感じた。欧州であればそれでも、息の長い加速とアベレージスピードの高さで走りを楽しめるかもしれない。かたや日本の道路環境では急な加減速で終始しがちだから、のんびり伸びやかに走らせる方がパサートのよさを満喫できる。

 見事だったのは巡航時、パワーメーターがほぼエンジン側に振れないことだった。微妙なアクセル開度だとモーターで加速を済ませ、あとは滑らかにコーストと回生ブレーキを織り交ぜてクルーズする。

高速道路の乗り味もバツグンだった

 ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)は一定速度を維持する性格上わずかにエンジンを回すことになる。その操舵支援もフォルクスワーゲンは強制的に直進性を保持するタイプではなく、白線をまたぎそうになって初めてこれを補正する。

 ただこの「自動運転の時代はまだですよ、ハンドルはきちんと持ってね」というスタイルは悪くない。パサートは直進安定性も高いからリラックスして高速巡航ができる。カーブや車線変更でもタイヤのインフォメーションがじわりとハンドルから伝わり、今回はワインディングを走らせていないが、そのドライブは実に楽しかった。

 その走行距離は、筆者が走り終えた時点で156km。平均燃費計は14.3km/L、電費は3.4kwh/100kmを指していた。ゼロエミッション走行は70kmで、その割合は全体の45%と表示されていた。こうした数値が、瞬時に可視化できるのは面白い。

 燃料がハイオクガソリンであることや、その燃費を考えると、国産プラグインハイブリッドを知るわれわれにとって、それは期待を超える内容ではない。しかしここは素直に、国産勢のすごさを称える部分だと思う。

 対してパサートGTEはその重厚なシャシーと上質なパワーユニットの制御が極まっており、同シリーズのハイエンドモデルにふさわしい仕上がりになっていると思えた。

 価格は標準グレードが634万5000円、ハイグレードの「アドバンス」が683万8000円と、スタグフレーションまっしぐらの日本では高額車両フラグが瞬時に立ちそうだが、欧州の感覚ではがんばれば手が届くイメージなのだろう。現状は半導体の供給不足といった影響で年内の導入は50台程度と少なく、それ以降の受注も来年以降の出荷予定だというから、このベストパサートを味わいたいなら、早めに試乗してみることを素直におススメしたい。

ぜひ1度、試乗してこの「乗り味」を味わってみていただきたい
山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。
編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してSUPER GTなどのレースレポートや、ドライビングスクールでの講師活動も行なう。

Photo:中野英幸