試乗レポート

レクサス最高峰SUV「LX600」の多様な質感は、どれをとっても一級品

レクサス最高峰SUV「LX600」。写真はそのトップとなるEXECUTIVE

レクサスの最高峰SUV「LX600」で公道へ

 以前ハンドルを握ったレクサス「LX600プロトタイプ」ではミニサーキットでのオンロード試乗だった。ここで感じたことはフレーム付きとは思えないキャブとの一体感。ランドクルーザーとも違ったレクサスのこだわりを感じた。今回はいよいよ市販車となった「LX600」で、一般道市街地から郊外道路、高速まで広い範囲で試すことができた。

 LX600は3つのグレードが用意されている。EXECUTIVE(エクゼクティブ)、OFFROAD(オフロード)、そして標準車。エクゼクティブは4人乗りのみ、そのほかは5人乗りと7人乗りがある。サスペンションやパワートレーンは共通で3.5リッターのV6ツインターボは305kW(415PS)/650Nmの出力を持ち、10速ATを組み合わせている。

 LX600はランドクルーザーと兄弟車になるが随所にレクサスらしい走りへのこだわりがある。ラダーフレームのGA-Fプラットフォームは一緒だが、キャブを止める8か所のマウントをコンマ数ミリ単位で調整し、走行中のフレームとキャブのブレを減らしている。ランドクルーザーもその部分の進化に感心したがLX600ではさらに詰められて、一体感が高く感動ものだった。

TNGA GA-Fプラットフォームを採用するレクサス LX600。ランドクルーザーも同じプラットフォームだが、レクサス向けにチューニングされている
フロントサスペンションはダブルウィッシュボーンを採用
リアサスペンションは伝統のリンク式。信頼性を重視した作り
搭載する10速AT。豊かなトルク域と静粛性を提供する

 ボディはアルミニウムや高張力鋼板を随所に使用し、パーツ単位でも軽量化を図ることで従来モデルよりも200kgほど軽量化され、5人乗りの標準車で2550kgに収まっている。

 サスペンションは前後にスタビライザーを持つフロント:ダブルウィッシュボン、リア:トレーリングリンクのコイルリジットで従来型を踏襲する。だが、新型ではリバウンド側ストロークを伸ばすなど、接地性を高くするリファインが行なわれている。

 265/65R18を履くOFFROADで富士スピードウェイの周辺道路を走行した。LX600はオフローダーらしくアイポイントが高く、見切りのよい視界でボディの大きさを感じさせない。ボクシーなデザインは四隅を掴みやすく市街地でも乗りやすかった。オフロードでは図体の割に小回りが効くのに舌を巻いたが、オンロードでもハンドルが軽く操舵量も小さいので取り回しがいい。6mの最小回転半径とは思えないほどの軽快感だ。

 18インチタイヤも足下が軽く、LX600のフットワークに貢献している。ハンドル応答性はフレーム付きとは思えないほど素直で、欧米のフレーム車を凌駕している。ハンドルを探りながら入れる必要がなく、ライントレース性はクロカン車としては望外に優れている。

 また凹凸路面でフレーム車に感じられるブルブルと上下動が残ることもなく、乗り心地もスッキリとしているのだ。

 電動パワーステアリングは操舵力が軽く、ロック・トゥ・ロックの角度も小さい。オンロードでも気安く乗れる大きなポイントだ。またハンドルを切り込んでいくと操舵力が徐々に重くなる操舵感も好ましい。ロールの絶対量は大きいが安定感が高く、無理に曲げている感じはなく自然体でワインディングロードも余裕を持って走れた。

 エンジンは低回転からトルクがあり、さらに10速のトランスミッションで小まめに変速を繰り返し、常に低回転で回っているが。坂道のタイトコーナーからも滑らかに加速していくのはLX600らしく力強い。

 気が付けばLX600にすっかりなじんでしまい、田舎道を楽しくドライブしていた。スポーツカーの機能性とは違ったこだわりのクロカンの味わいが心に染みる。

圧倒的な静粛性を持つEXCECTIVE

EXCECTIVEで新東名を西へ。120km/h走行時でも圧倒的な静粛性を感じることができる

 次は4シーターのEXCECTIVEで高速を主として日本平に向けて走る。タイヤ265/50R22を履く。

 まず感心するのは静粛性。遮音材がタップリ使われているのはもちろんだが、サイドガラスが肉厚で透過音が小さく、ドアのオープニングに使われるウェザーストリップも厳重でロードノイズや風切り音が室内に侵入する余地はない。高い渡河性能を持つLX600ならではの水が侵入しない構造だが、結果として遮音性の高さにつながっている。

 荒れた郊外路の路面でもタイヤが上げる衝撃音は最小だし、120km/hクルーズの新東名でも風切り音が小さく、どのシートでも雑音は限られる。ランドローバーの「ディフェンダー」は重い箱に入ったような遮音性だったが、LXとはフレーム車とモノコックボディの差で静粛性の感じ方が違うようだ。LX600はタイヤのロードノイズも小さく、静粛性ではトップレベルにある。砂漠のLSに相応しい。

 乗り心地も素晴らしかった。オフロードではサスペンションがよく機能して悪路でも意外なほど乗り心地がよかったが、高速道路ではさらに路面をなめるように走り、細かい衝撃は見事に吸収する。バネ上の動きも極めて上質。前後席ともに快適で、鋭角的な突き上げは完全に包みこまれている。

 EXCECTIVEの後席は48度までリクライニングし、ストレスの少ない姿勢を取れる。すでにオフロード編でも紹介したが、助手席が空いていれば、前席を最前端に移動させて、シートバックも前倒させて脚をオットマンに乗せればLS以上に安楽な空間が誕生する。

EXCECTIVEの後席。リクライニング機構を装備している豪華なシート

 22インチ50扁平のタイヤは縦バネとの剛性バランスもよく、心配していたショックの伝達は見事にいなされていた。柔らかくも腰のある乗り心地の完成度は高い。

 ドライバーを包み込むようなホールド感とショック吸収性も身体によくなじみ、どんな道でも長時間のドライブを厭わない。

 高速直進安定性の高さもLXのセールスポイントの1つだ。ハンドルに軽く手を添えているだけでどっしりと矢のように突き進む。フレームとキャブの締結がガッチリしているだけではなく、高バネ、低バネのサスペンションの使い方、車体剛性の高さで振らつくことは皆無だった。

 この恩恵は全車速追従クルーズコントロールにも表われており、従来のLXでは直進状態でも車体側のブレもあって走行レーンを外れそうになることもあったが、新型LX600ではレーンセンターをキープする能力も高くなって、安心してACCに任せられる。

 加速性能はワイドレシオの10速ATでエンジン能力をフルに出せる。欧州車にはもっと爆発的なパワーを持っているクロカン車もある。正直、LXではもう少し高速でのパワーが欲しいと思う場面もある。しかし悪路走破性の高さを考えると出力の点でもバランス良い着地点を見つけていると納得した。

 ただし車両重量は最低でも2540kgあるので急ブレーキは得意ではない。LXはACC使用中の前車との車両間隔を図る能力は高いものの、やはり重量級のクルマだけに機械任せにしない方がよさそうだ。ちなみに日常でも半テンポ手前でブレーキ操作を行なった方が安心できる。

 最後に乗った標準車は22インチタイヤだったが、試乗車ではまだサスペンションなどの硬さが残っていたのか高速道路の滑らかさでは少し差があった。

 LX600の持つ多様な質感、どれをとっても一級品だ。レクサスのトップオブSUVに相応しく、レクサスの方向性を引っ張るモデルに生まれ変わった。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛