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日産、「フェアレディZ カスタマイズドプロト」を手掛けた森田充儀氏がカスタマイズに込めた想いを解説
2022年3月31日 12:26
さまざまな車型のデザインを経験してきた森田氏
日産自動車が、東京オートサロンや大阪オートメッセなどに出展した「フェアレディZ カスタマイズドプロト」だが、先日A PITオートバックス東雲にて開催された「NISSAN 2DAYS」にて、デザイナー森田充儀氏によるデザイン解説が行なわれた。
森田充儀氏は、33年というカーデザイナー歴を持ち、ここ数年だと2015年の東京モーターショーに出展した未来のEV(電気自動車)と自動運転を具現化したコンセプトカー「IDS コンセプト」、2017年発表の現行「リーフ」、さらにEV界のGT-Rと称されている「リーフ NISMO RC_02」などを手掛けている。また、「デイズ」や「デイズ ルークス」のデザインも取りまとめてきた。
そして現在は、ニスモのロードカーのデザイン統括として「GT-R NISMO」の2022年モデルや「ノート オーラ NISMO」、2022年度からSUPER GTのGT500クラスに参戦する「Z GT500」のカラーリングなども手掛けている。そのほかにも、2019年に東京オートサロンと大阪オートメッセに出展した「ジューク パーソナライゼーション アドベンチャー コンセプト」、2020年に東京オートサロンに出展した「スカイライン 400R スプリント コンセプト」、2021年は東京オートサロン出展用の「NV350 キャラバン オフィスポッド コンセプト」、そして2022年に「フェアレディZ カスタマイズドプロト」と、さまざまなカスタマイズ車両も手掛けてきている。さらに、自動車だけでなく、日産自動車のアクセサリー商品のデザインの取りまとめも行なっている。
森田氏は、これまで東京オートサロンに出展してきた車両について、ジューク パーソナライゼーション アドベンチャー コンセプトが国際カスタムカーコンテストで優秀賞、スカイライン 400R スプリント コンセプトが最優秀賞を獲得してきたが、今回出展したフェアレディZ カスタマイズドプロトは最優秀賞(コンセプトカー部門)に加え、全8部門での1位となるグランプリも獲得したと紹介。「グランプリ獲得は日産自動車として初めてのことで、とてもうれしいことでした。もちろん素材として素晴らしいZをカスタマイズしたのだから、人気は集まるとは思っていましたが、まさかここまでとは思っていなかったので、本当にうれしかったです」とグランプリ獲得の瞬間を振り返った。
また、自身のスポーツカーとの出会いや思い入れの強い車種については、小学生時代のスーパーカーブームに始まり、マンガ「サーキットの狼」の影響を受け当時は「カウンタック」に憧れていたと紹介。同時に「当時の日産のスポーツカーは、キャラクター的にも性能的にも秀でていたし、独特の世界観を持っていた。特にフェアレディZは日産のアイコンだったから、トミカも持っていたし、プラモデルを何台も作ったか分からない。そして、カッコイイとかキレイとか、速く走りそうとか、こんなクルマに乗っている姿を見られたいとか、形から入っていき、デザイナーに憧れるようになった」とエピソードを語った。
そして念願のカーデザイナーになったが、最初の就職先は同業他社で、なかなかスポーツカーのデザインなどもできなかったという。しかし、デザイナーなら1度はスポーツカーのデザインをやりたいと奮い立ち2002年に日産へ転職。当時のスカイラン(V35型)のチームに配属され、マイチェンで丸目4灯のテールランプなどに携わったという。
もちろん日産入社後も、すぐにスポーツカーに携われたわけではなく、先述のEVや軽自動車、SUVやミニバンなど幅広い車型で経験を積み、2018年にニスモのロードカーのデザイン統括に就任。実際にレーシングカーを作っているスタッフとコミュニケーションを取りながら、そこで培われたテクノロジーをロードカーへと落とし込んでいく作業などに取り組んでいるという。森田氏は今の職場について「ものすごいエキサイティングで、楽しいし幸せです」と表現した。
フェアレディZ カスタマイズドプロトのポイント解説
このフェアレディZ カスタマイズドプロトについて森田氏は、「新型フェアレディZをベースに、実際に新型を購入したユーザーが、さらにフェアレディZの世界観を存分に楽しんでいけるようなカスタマイズの方向性や可能性を探ったプロトタイプ。54年という長いフェアレディZの歴史や伝説のヘリテージをヒントしながら、よりワイルドでパワフルに、プロポーションとしてはロー&ワイドとビジュアルスタビリティ(見た目の安定感)を強調したたたずまいを追求しました」とコンセプト概要を解説。
また、新型フェアレディZ自体が過去のZをオマージュしたデザインで、古きよきデザインを大事にしつつ、モダンなデザインに仕上がっていることから森田氏は、「さらにS30の持っているピュアな感じやスポーティさ、クルマの持っている形の記号性をより色濃くデザインしています。スポーツカー好きな人が求めるワイドでパワフルな世界観を具現化しようと考えました」という。
その結果、全高を20mm下げ、タイヤを30mm外側に出し、オーバーフェンダーを装着することで、よりワイド&ローの魅力的なたたずまいに仕上げられた。
標準モデルからの主な変更点としては、専用デザインのフロントバンパー、ホイール、オーバーフェンダー、リアスポイラー、マフラーで、森田氏は「パーツだけではなく、ボディカラーのオレンジにもかなりこだわっています。このグランプリオレンジ改は、当時のZ432の実際の色板から色のレシピを分析し、色相・明度について忠実に再現したオレンジをベースにしました。これに、オートサロン会場でのより強いインパクトを意図してパールのエフェクトを加えたもので、基本は装飾的でない軽快さや切れ味、硬派な走りの本質を表現するものでありたいという思いで、ソリッドカラーに近い『削ぎ落されたマシン感』の表現を大切に開発したものです」と解説してくれた。
続けて「サイドウィンドウ上部の『刀モール』は、新型Zの象徴的な部分の1つで標準モデルは日本刀のようにシルバーですが、あえてこの部分もボディ同色とすることで、ボディの上端がこの刀モールのラインであるかのように見せ、クルマ全体を薄くて低重心なビジュアルスタビリティを強調しています」と説明した。
また、当時のカタログに掲載されているオプションパーツの「縦型2連エキゾーストパイプ」「ボディサイドのレーシングストライプ」「専用リアスポイラー」などもヒントをもらい、現代風に解釈して形に落とし込んだという。
クルマ全体の形状について森田氏は、「今はドライバーや歩行者を守る安全基準や法規が変わったことで、昔のように薄くて小さいクルマを作るのが難い時代になっています。そしてドアがぶ厚くて大きく、サイドシルも断面積が大きくなり、どうしても下側が広がり大きくなってクルマが重く見える傾向にある」と説明。
そこでフェアレディZ カスタマイズドプロトでは、クルマをより「シャープに」「俊敏に」見せるフォルムの作り方を工夫していて、専用のフロントバンパーは下まわりのボリュームを削ぐ「ターンアンダー」処理によって、小気味いい軽快感とギュッと凝縮された塊感を表現。そして、削り落されたバンパーにできたシャドー面をボディサイドに貼った黒いレーシング・ストライプのデカールに連続させ、水平の長いムーブメントを造形。それぞれの面の縦横比を横長に見せることで、クルマ全体のフォルムを「薄く」「軽く」「速く」見せる効果を狙ったとしている。
その上で、フロントバンパーには別付けされたかのようなエアダムの強いハイライトを、リアにはダックテール状の大型スポイラーを追加することで、アグレッシブなワイルドさや、伝統的なスポーツカーらしいエアロ処理を分かりやすくモダンな作法で具現化。軽量なスポーツカーがエアロパーツを装着しているようなスタイルに仕上げたという。
また森田氏は「フロントビュー、リアビューにおけるタイヤの見え方も重要だと考えています。片側30mm広げられたオーバーフェンダーとワイドトレッド化したプロポーション変更による効果はもちろんですが、スポーツカーとして強調されたタイヤの存在感を魅力的に見せるために、ホイールアーチがタイヤにどうかかっているかが大事だと考えました。クルマをフロントあるいはリアから見たとき、タイヤのトレッド面を斜めに横切るホイールアーチ線を残すことで、ボディはより軽快にコンパクトに、タイヤの存在感はより強調され、ホイールオリエンテッドなパワフルなたたずまいを実現させました。オーバーフェンダーの下端線をあえて高い位置で止め、この三次元的なホイールアーチ線を強調することでFRのスポーツカーにふさわしい後輪で『地面を蹴って走る』パワフルさを後ろ姿でアピールしています」とタイヤの見え方に関するこだわりを解説した。
そしてフロントグリルは、縦の連続性をなくした上下分割デザインを採用し、標準モデルとはまったく異なる顔つきを表現。グリル開口部にはシンプルな水平なバーがあるが、実はアッパーグリルの横バー下面はボディ同色の挿し色が配されている。そして往年の「Fairlady Z」のエンブレムを付け、特別な仕様であることをアピール。加えて、長い歴史を持つ歴代Zのデザインのアイコンともいえるボンネット上の特徴的なバルジ部分をブラック塗装とすることで「Zらしさ」をさらに強調している。
ダックテール形状のリアスポイラーは、標準モデルのスポーツグレードに装着されているリアスポイラーよりも幅・高さともに大きくされ、見た目のインパクトだけでなく実際のダウンフォース向上効果も図られている。また、後面を黒塗りすることでリアビューにすごみを利かせつつ、フロント同様に往年の「Fairlady Z」ロゴエンブレムを配している。なお、リアクォーターにある「Z」エンブレムも、標準モデルとは異なるデザインとなっていて、「7代目のZ」の示す7つのアクセント(凹)に囲まれている。
縦型2連エキゾーストパイプは、Z432の特徴である縦型2連のマフラーをヒントに、ウイット効いたデザインとして採用。森田氏は「長年のZファンならニヤリとしていただける部分かと思います」と紹介してくれた。また、8本スポークで伝統的なムードとパワフルさが融合したホイールは、深リム形状とグロスブラックとマットブラックの2トーンが特徴。
タイヤサイズは、フロント255/40R19、リア285/35R19と、標準モデルよりもひとまわり太いサイズで足まわりのたくましさを強調。ホワイトレタータイヤを装着し、往年のファンには懐かしさを感じさせつつ、若い世代にはフレッシュな印象を与えるのが狙いという。
森田氏は、フェアレディZ カスタマイズドプロトをいろいろなイベントに出展してから「この状態で発売されるのでしょうか?」という問い合わせが多数あったと紹介しつつ、「これはあくまでアクセサリー商品を使ったカスタマイズの一例としての提案で、今のことろ完成車としてこの状態で発売する予定はない」と明言。しかし「スポーツカーにはいろんな可能性があり、ゆくゆくはこういったパーツもラインアップしていきたいと前向きに検討しています」と語ってくれた。