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新型「クラウン」がSUVだけでなくセダンも加わったのは中日新聞の報道があったから? 豊田章男社長は「クラウンのムーブメントを作っていただいた」

Mid-size Vehicle Company 中嶋裕樹プレジデントのプレゼンテーションで明かされた、豊田章男社長の「セダンを考えてみないか?」という言葉

 伝統的にトヨタのフラグシップ車となる「クラウン」の最新型、16代目のクラウンが7月15日発表された。一部報道では事前にセダンがなくなるなど言われていたが、実際に発表されてみればクロスオーバー、セダン、スポーツ、エステートの4車形が同時に公開されるワイドバリエーションのグローバルモデルとしてデビューすることになった。

 発表会では、新型クラウンの開発を担当するMid-size Vehicle Company 中嶋裕樹プレジデントが2年と数か月前にクラウンのマイナーチェンジを提案したところ、豊田章男社長に「本当にこれでクラウンが進化できるのか、マイナーチェンジは飛ばしてもよいので、もっともっと本気で考えてみないか」と言われ、そこから現在の開発をスタートしたことが明かされた。

 では、事前に報道されていたセダンがなくなるとの話は何だったのだろう。実は次期クラウン(16代目クラウン)にセダンがなくなるのではと最初に(2020年に)報道したのは、トヨタのお膝元である愛知県名古屋市に本社をおく中日新聞になる。業界ではそれだけに確度の高い話として捉えられていたのだが、実際には4車形で登場した。時期的にも中嶋プレジデントが語る2年と数か月前に近い段階、豊田章男社長が「セダンを考えてみないか?」と語った時期に近い報道だけに、なんらかの影響はあったのだろうか。

 その点について、興味深い質疑応答が新型クラウンの発表会で行なわれていた。質問に立ったのは中日新聞の白石記者、答えたのは豊田章男社長と中嶋裕樹プレジデントだ。

「クラウンのムーブメントを作っていただいた」と豊田章男社長

白石記者:クラウンの変化とセダンについてお尋ねしたいと思います。今回のクラウンは、伝統的なセダンから車形とか駆動方式含めてかなり大きな変化を遂げたのが非常に印象的なのですが、今回このタイミングで決断したことを教えてください。その関連で車形で言えば、クロスオーバーですとか、スポーツですとか、かなりSUV要素が入ってきているクルマが多いと思うのですが、それでもセダンを残して継続することの思いがあれば教えていただきたい。

豊田社長:最初に「セダン廃止」と報道していただいたのは中日新聞なのですが。まず、われわれは一切言っていませんから。でも、そのおかげで本当にクラウンのムーブメントを作っていただいたと思っています。やはりあのとき、今日もプレゼンでクラウンは4男坊だなん男坊だと申し上げましたけど、世間での反応は、クラウンに対する思いは大変だなということを改めて感じさせていただきました。

トヨタ自動車株式会社 代表取締役 豊田章男氏

 ただ、われわれは一度もセダンを廃止するとは言っておりませんので、今日、この4車種をオフィシャルアナウンスメントとしております。

 ただ、こういううわさがいっぱい出たこと、これがクラウンに対する期待であると思います。逆にジャーナリストを含め、メディアの方々がこのクラウンを話題にしていただいたこと。このクラウンを世界に発信していきますので、そういう意味ではいい発射台を作っていただいたと思っております。

中嶋プレジデント:今回なぜ4タイプなのか、また駆動方式はいろいろ変わっているのではというお話だと思います。プレゼンテーションで申し上げたとおり、これだけ価値観が多様化しているなか、クラウンという歴史をひもといたとき「革新と挑戦」というなかで、ボディタイプも駆動方式も述べられているわけではありません。また、先ほど豊田も申したとおり、カローラを含めて時代に合わせて変化をし続ける、だからこそロングセラーカーであると。そうした経緯の上で、われわれも固定観念を捨てるところからスタートしているというのが正直なところでした。

トヨタ自動車株式会社 Mid-size Vehicle Company プレジデント 中嶋裕樹氏

 ボディタイプも今回この4つ、ある意味4つに収まったというのが正直なところです。さまざまな可能性を社長の豊田に相談した経緯もございます。

 その中で、王道のセダンをどう仕上げていくべきかというのも正直ありました。最初はセダンのマイナーチェンジを私は止められたわけですから。意思決定をする場で、普通はクルマに「GOをかける」会議なのですが、そこで初めて「NO」と言われた会議でした。本当にショックは大きかったです。

 ただ、その場で議論したのは先ほど豊田も申し上げたとおり「クラウンとはなんなのだ」という原点に返るところ。そこからクロスオーバーが生まれ、セダンが生まれ。それができたからこそ、セダンはどうあるべきかという議論。さらにはスポーツSUVやエステート、そういったクルマにも及んだということになります。

 やっていく中では、正直どんどん変わってはいきましたが、ある必然性を感じました。やはりクラウンというものがある型にちゃんとはまっているかどうか、それを型破りすること、結果としてまた型に収まる。こういったことを社長ともディスカッションしてできたのかと思います。

 まずはこの4つのボディタイプ、駆動方式に関してさまざまなご意見はあるかと思いますが、ぜひとも試乗いただき、体感いただき、ご意見をいただければと思います。


 この質疑応答のやり取りのなかでは、セダン廃止がすでに決まっていたかどうかは明確ではないが、中日新聞の報道によってクラウンのセダンに関する論議が起きたのはよく知られているとおり。

 新型クラウンのデビューする順も、開発順ということでクロスオーバー、セダン、スポーツ、エステートであることが明言されており、これは第1にクロスオーバーが決まり、その後セダンが決まったことにほかならない。

 中日新聞の報道がどれほどこの決定に影響したかは不明だが、中日新聞の報道から始まったクラウンセダンに対する反響が、トヨタの決定に影響していることは、「世間での反応は、クラウンに対する思いは大変だなということを改めて感じさせていただいた」(豊田章男社長)という発言からも間違いないだろう。