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新型「クラウン」に搭載された新開発「フロント用1モーターハイブリッドトランスミッション」説明会

新型クラウンに搭載されたフロント用1モーターハイブリッドトランスミッション(左)と、イーアクスル

新型車「クラウン クロスオーバー RS」に採用された1モーター2クラッチのハイブリッドトランスミッション

 BluE Nexusとアイシンとデンソーは7月22日、新開発の「1モーターハイブリッドトランスミッション」に関する説明をオンラインで実施した。この1モーターハイブリッドトランスミッションは、トヨタ自動車が7月15日に発表した新型車「クラウン クロスオーバー RS」に採用されたものになる。

 新型クラウンでは、第4世代の2.5リッター THS(TOYOTA HYBRID SYSTEM)II、新搭載の「デュアルブーストハイブリッドシステム」の2つのハイブリッドシステムがラインアップされているが、新開発の1モーターハイブリッドトランスミッションは、デュアルブーストハイブリッドシステムの根幹となるユニットになる。

開発体制について

 説明会に登壇したのは、BluE Nexus システム開発部 主査 表賢司氏、同 経営管理部 部長 森村剛士氏、アイシン HV技術部 グループ長 前塚慎吾氏、同 第1ユニット生技部 主幹 佐藤真吾氏、デンソー エレクトリフィケーション機器技術1部 担当課長 大村伸治氏。顧客・OEMからの要求をBluE Nexusが受け、アイシン、デンソーが設計・生産をする枠組みで開発。今回のユニットに関しては、デンソーがインバータ、アイシンがモーターとトランスミッション、それらを一体化したAssy(アッシー、一体化ユニット)をBluE Nexusが担う。インバータのユニットへの組み付けやAssy生産についてはアイシンが担当するとのことだ。

株式会社BluE Nexus システム開発部 主査 表賢司氏
株式会社BluE Nexus 経営管理部 部長 森村剛士氏
株式会社アイシン 第1ユニット生技部 主幹 佐藤真吾氏
株式会社アイシン HV技術部 グループ長 前塚慎吾氏
株式会社デンソー エレクトリフィケーション機器技術1部 担当課長 大村伸治氏

 なお、デュアルブーストハイブリッドシステムでは、後輪の駆動にインバータなどを一体化したeAxle(イーアクスル)が用いられているが、これはBluE NexusがトヨタのバッテリEV「bz4X」に供給するものと同様のものが使われている。

フロント用1モーター2クラッチハイブリッドトランスミッション

新開発の1モーター2クラッチハイブリッドトランスミッション

 今回新たに開発された1モーター2クラッチハイブリッドトランスミッションは、前輪に適合するフロント用のものになる。構造としては、エンジンからの出力を湿式多板クラッチでモーターに伝達し、モーターによるアシストを受けたトルクを湿式多板クラッチで、6速ATに伝達して前輪を駆動する。

 特徴としては、エンジンとモーター、6速トランスミッション部分を湿式多板クラッチでダイレクトに結ぶことで、アクセルダイレクトな走りの質感を向上させていることと、TNGAのGA-K用パワートレーンとして採用されているFF用のDirect Shift-8ATと同様のコンパクトなサイズを実現していることにある。

 体格は、前後531×幅411×高さ571mmで、Direct Shift-8ATと置き換え可能なサイズを実現。1モーター2クラッチを内蔵するハイブリッドトランスミッションでありながら、このコンパクトさを実現するためにインバータの片面冷却などさまざまな新技術が投入されている。

 構造的にはFF用Direct Shift-8ATから、トルクコンバータと1セット(2速分)の遊星歯車変速機構を取り去り、そのエリアにモーターと2つの湿式多板クラッチや動力接続軸を組み込む超コンパクトな設計が行なわれている。

駆動モーターの内側に、エンジン切り離しクラッチと発進クラッチの2つの湿式多板クラッチが組み込まれている。驚異的なコンパクト設計

 モーターは最大出力61kW(新型クラウンの主要諸元では、1ZM型、交流同期、61kW[82.9PS]、292Nm[29.8kgf・m])のものを新開発。駆動モーターとして小型化を図るために、一体型でコイル成形することで接点の減少などを図り、モーター中央部にエンジン切り離しクラッチと発進クラッチを内蔵する。

 とはいえ、エンジン切り離しクラッチに接続されるエンジンは、最高出力200kW(272PS)/6000rpm、最大トルク460Nm(46.9kgf・m)/2000〜3000rpmを発生する2.4リッター直噴ツインスクロールターボ「T24A-FTS型」エンジンというトヨタでも最新世代に属するスポーツエンジン。最大トルク460Nmを受け止めるよう設計されている。

 そのため湿式多板のクラッチ枚数は、エンジン切り離しクラッチで4枚、さらにモーターのトルクが合成される発進クラッチで5枚となる。

エンジン切り離しクラッチと発進クラッチの拡大図。発進クラッチのほうが1枚多いほか接触面積も多く見えるため、より大トルクを伝達できるよう設計されていることが分かる

 新型クラウンではシステム最大トルク550Nmと発表会で明言されていたので(最高出力は257kW[349PS]とカタログ記載)、4枚のエンジン切り離しクラッチで460Nmを受け止め、発進クラッチが5枚となっていることからエンジンにモーターを加えたフロントのみで500Nm以上を発生していると思われる。

 このモーター内に設置できるほどコンパクトなクラッチで大容量を実現できた背景には、高電圧電動オイルポンプによる大流量潤滑制御があるという。開発において難しかったのもクラッチからの発熱制御で、トルクコンバータレスのため発進時などは湿式多板クラッチを滑り制御してスムーズな発進を実現する必要があるのだが、滑り制御の際にどうしても熱が出てしまう。そこを大流量潤滑制御しているとのことだった。

インバータも片面冷却などでコンパクト化。トランスミッションと一体になるよう設計されている

 車両コスト低減の取り組みについては、エンジンとモーターをエンジン切り離しクラッチで直結制御できるため、モーターをエンジンのスタータとして使用。従来タイプのエンジンスタータなどの部品を削減することに成功している。

 そのほか、冒頭記したようにフロント用1モーター2クラッチハイブリッドトランスミッションは、Direct Shift-8ATと置き換え可能なように作られている。このATとの部品共用、同一ライン製造が行なわれている。

走りを重視した1モーター2クラッチのハイブリッドトランスミッション

パワートレーンの制御はトヨタ自動車が担当。トヨタによる新型クラウンの制御説明図では、リニアな加速を重視しているほか、100:0~20:80の前後輪トルク制御が行なわれる

 この1モーター2クラッチのハイブリッドトランスミッションの目指しているものは、「ダイレクト感ある走り」「上質なドライブフィーリング」「車両搭載性の向上」にあるという。一般的にハイブリッドシステムは燃費効率を第一に狙ったものであったが、新型クラウンには高効率な2.5リッター THS IIも用意されており、1モーター2クラッチのハイブリッドトランスミッションは走りを重視して開発された。

 そのため、460Nmの大トルクエンジンと直結するクラッチを用意し、アクセルダイレクトな走りを実現。さらにモーターで発進のスムーズさやエンジンのターボラグなどを隠蔽し、ステップの6速ATにより滑らかでダイレクト感のある変速を実現したとする。

 もちろん効率も追求されており、モーターの中に2つのクラッチを押し込むような設計を採ることでコンパクトさを実現。インバータも片面冷却で容積を削減し、スタータまわりの部品も削減することで、重量低減などもムダを省いた設計が行なわれている。

 燃費第一のTHS IIと異なる思想で構成された1モーター2クラッチのハイブリッドトランスミッションだが、ハイブリッド車にもとめられるものが広がってきたのと同時に、リアにイーアクスルを組み合わせることで前後輪ともに電動制御を入れ、ガソリンエンジン+8速ATのFFとは異なる走りを作り上げようとしている。

 新型クラウンでは、272PS/460Nmのエンジン、82.9PS/292Nmのトランスミッション内蔵フロントモーター、bz4X同等の80.2PS/169Nmリアイーアクスルで、システム出力349PS/550Nmを実現、各出力を単純に合計するとシステム出力を大きく超えてしまうため、アクセル操作に応じた前後モーターの出力調整が行なわれていることが分かる。

 新型クラウンの走りには余力があることが類推されるほか、BluE NexusではレクサスRZ用にさらに高出力のリア用イーアクスルを持っているため、よりパワフルなパワートレーンを用意することも可能だ(もちろんバッテリ容量はもっと必要になるかもしれない)。

 ガソリンエンジン+8速ATを置き換え可能な、走りを重視した1モーター2クラッチのハイブリッドトランスミッションの登場により、高効率かつパワフルなスポーツハイブリッド車が確実に増えていくだろう。