試乗レポート

ジープ「グランドチェロキー」に標準ボディ/2列シート仕様登場 4気筒ターボが見せる走りは素晴らしい

「グランドチェロキー」に標準ボディ/2列シート仕様が登場

 これまで日本仕様は3列シートのみの展開だった「グランドチェロキー」に、待望の標準ボディ/2列シート仕様が加わった。そして今回は、そのラインアップおいて最もベーシックな仕様となる「リミテッド」に試乗することができた。

 3列シートのロングボディは自然吸気のV型6気筒3.6リッターのみだったが、標準ボディのパワートレーンは直列4気筒2.0リッターターボを軸に2種類で展開する。今回試乗した「Limited 2.0L」は、直列4気筒2.0リッターターボ(272PS/400Nm)を搭載。そして「Limited 4xe」と上級仕様の「Summit Reserve 4xe」は、このエンジンをベースとしながら2基のモーターとリチウムイオンバッテリ(総電力量14.87kWh)を組み合わせたPHEV(プラグインハイブリッド)となる。ちなみにトランスミッションは全て8速ATで、駆方式はオンデマンドタイプの4WDだ。

 というわけで最もベーシックなリミテッドの走りだが、これが実に素晴らしかった。タイヤをひと転がしした瞬間から、その質感の高さを色濃く感じ取ることができたのだ。そこに一番貢献しているのは新しくなったプラットフォームだろう。Stellantisジャパンはこれがアルファロメオ復活の基盤となった「ジョルジオプラットフォーム」、もしくはその改良型であるとは明言していない。ともあれこの新プラットフォームが土台となったおかげで、その乗り味は大きく変わった。

 先代よりもボディサイズがひとまわり大きくなったにもかかわらず、その車両総重量は2345kg(サンルーフ付きで2365kg)に抑えられた。また、その足まわりはオーソドックスな油圧ダンパーとスプリングの組み合わせだったが、ボディがしっかりしているおかげでこれがきちんと伸縮し、乗り心地はエアサスにも引けを取らないほど快適だった。そこには北米好みなゆったりとしたバウンスはないけれど、路面からの入力をまるっと減衰しながら、実に心地良いフラットライドが得られていた。まさにヨーロピアンテイストと北米テイストをうまくミックスさせた、Stellantisならではの乗り味だと言える。

今回試乗したのは10月24日に受注を開始した「グランドチェロキー リミテッド」(892万円)。5200×1980×1815mm(全長×全幅×全高。ホイールベースは3090mm)のボディサイズにV型6気筒DOHC 3.6リッターエンジンを搭載するロングホイールベース仕様の「グランドチェロキーL リミテッド」に対し、こちらのボディサイズは4900×1980×1810mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2965mm。なお、標準ボディ仕様のグランドチェロキーにはモーターのみで最長53kmを走行できるPHEV(プラグインハイブリッド)仕様も展開され、こちらは1037万円から
外観ではヘッドライト、フロント/リアフォグランプなどにLEDを採用するとともに、足下は18インチアルミホイールにブリヂストン「DUELER H/P」(265/60R18)をセット

 全長こそ3列シートの「L」より300mmほど短いが、1980mmという全幅はやっぱり大きい。スクエアなボンネット形状だから見切りはいいし、サラウンドビューカメラを使えば死角を映し出すこともできるが、日本の道路だとフルサイズのボディは正直もてあます。しかし、だからこそ得られる開放感は抜群に高い。この車幅にさえ慣れてしまえば、開放感の高い室内空間と高いアイポイントによって、リラックスしながら運転を楽しむことができる。

 インテリアは華美な装いなく、現代的なスタイリッシュさで上手にまとめられている。水平基調の横に長いダッシュボード、ロータリー式となったシフトダイヤル、センターコンソールに埋め込まれた10.1インチの薄型タッチスクリーン。こうした目に付く主要な要素がノイズレスに配置されているから、居心地がとてもいいのだ。

 また試乗車は、グレーの木目調ドアパネルが大人っぽかった。ピアノブラックのトリムも手に触れない部分に使っているから手垢が気にならないし、こうしたセンスも従来にはなかったものだと思う。

グランドチェロキー リミテッドのインテリア。10.1インチのタッチパネルモニターを採用するオーディオナビゲーションシステム、アルパイン製プレミアムサウンドシステム(スピーカー9基、サブウーファー1基)などを標準装備

欧州的な繊細さも加わった新型グランドチェロキー

 となると気になるのはエンジンだろう。この大きなボディに対して、2.0リッターターボとはいえ直列4気筒エンジンで満足できるのか? 確かにマッシブなアメリカンテイストに憧れるのであれば、272PS/400Nmというアウトプットはもの足りない。踏み始めから湧き上がるトルクに感動したいなら、V型8気筒5.7リッター(357HP/約529Nm)の導入に期待を寄せるしかないだろう。

 対してこの直列4気筒ターボは緻密かつクリーンに回る。8速ATのギヤ比を巧みに協調制御しながら、街中ではスロットルを軽く開けるだけでタイヤを上手に転がし、初速を付けたらどんどんギヤを上げてクルージングさせていく。

グランドチェロキー リミテッドが搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッターターボエンジンは最高出力200kW(272PS)/5250rpm、最大トルク400Nm(40.8kgfm)/3000rpmを発生。プラグインハイブリッドも同エンジンを搭載し、いずれも無鉛レギュラーガソリン仕様

 確かにちょっとした加速が必要な場面で、この巨体に対してトルクが細いと感じる場面はある。しかし、そんなときは「Sport」モードを選べば、アクセルの追従性がシンクロしてくる。名称としては「Sport」だが、エンジン制御的にはこれがデフォルトでもいいくらいだ。

 これを支えるハンドリングは、実に奥深い。オフロード走行を想定するサスペンションのストロークは長め。しなやかな減衰特性のダンパーゆえ、初期ロールスピードも少しだけ速い。よってステアリングの切り方を急ぐと、重心の高いボディがグラリと揺らぐ場面はある。だがこの特性を理解して、タッチのよいブレーキでサスペンションを縮めてから舵を切れば、この巨体をスムーズに走らせることができる。カーブではマルチリンクのサスペンションがロールを支えて、操舵通りにラインをトレースしてくれる。

 一見ゆったりした動きの中に見えるこうしたシャシー応答性のよさは、これまでのグランドチェロキーにはなかったものだ。そしてオフロードではこうしたシャシーのポテンシャルがもっと高く発揮されるのではないかと感じた。端的に言うとグランドチェロキーは運転が楽しくなった。

 高速巡航でも走り方は基本的に変わらない。もちろんアクセルを踏み込めば、4気筒ターボは期待に応えるべく高回転まで切れ味鋭く回ってパワーを絞り出す。遮音の聞いた室内で聞くそのサウンドも、遠鳴りだが爽快でわるくない。

 しかし、スタイル的にはショートシフトでギヤを上げながら静かに走らせる方がいい。エンジンの存在をいい意味で消すような走りをするほうが、前述した居住性や乗り心地のよさがより一層際立つ。

 PHEVモデルでは、ここからさらに輪を掛けた静粛性や4WD性能が得られるのかもしれないが、これだけ静かに走れるのであればベーシックモデルでも十分魅力的だ。絶対的な加速性能がステイタスとしてさほど求められなくなった現代では、直列4気筒2.0リッターターボという選択がむしろ無駄なく合理的かもしれない。

 今回は非常に短い試乗だったため、ACCを活用したロングドライブ性能などはじっくり精査できなかったが、ベーシックモデルの第一印象はとてもよかった。大らかで大味なことがアメリカ車のよさだと思っている方も多いはずだが、新型グランドチェロキーには欧州的な繊細さも加わった。そしてこのミクスチャーが、とてもいい方向に働いていると感じた。

山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。
編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートや、イベント活動も行なう。

Photo:堤晋一