試乗レポート
エレガントなジープ「グランドチェロキーL」に見え隠れするワイルドな走りを堪能
2022年2月7日 05:00
都会派でありつつ、ジープならではの走破性も兼ね備えたモデル
その歴史を紐解いてみても、常にジープファミリーの中では比較的アーバン派であり、本物の走破性を秘めたラグジュアリーSUVという、ジープにしかつくれない世界を担当してきたグランドチェロキー。10年ぶりに登場した新型は、3列シート仕様となってさらに存在感も上質感も磨き上げられた印象を受けた。
デザインのヒントは、ラグジュアリーSUVの元祖と言われている1963年登場の初代ワゴニア。ロングノーズで堂々としながら気品のあるフロントマスクや、外から見てもキャビンの快適性をうかがわせるロングホイールベースのボディ、スッと貫かれたキャラクターラインなど、確かにどことなく似た雰囲気を感じ取ることができる。が、新型グランドチェロキーはフロントのエアインテークに、パワートレーンの冷却状況に応じてフラップを自動制御するアクティブグリルシャッターを採用するなど、新世代の技術をしっかりと取り込んだ。それでいて、アプローチアングルといった対地障害角は十分に確保されているのもジープのフラグシップとして譲れないところ。4WDの高い走破性と、モダンでスタイリッシュなデザイン、極上の快適性を兼ね備えてこそ、グランドチェロキーを名乗ることができるのだと言わんばかりだ。
グレードはベーシックな「リミテッド」と上級の「サミットリザーブ」があり、ボディサイズはどちらも全長が380mm伸びて5200mmに。全幅が1980mm、全高はリミテッドが1815mm、サミットリザーブが1795mmというフルサイズ。ドアを開けてみると、室内の広さは圧巻だ。そしてそのアメリカンラグジュアリーを象徴するような、スマートな上質感あふれるインテリアに目を奪われる。妖艶な雰囲気が満ちるイタリア車とも、カッチリとビジネスライクなドイツ車ともちがう、どこか爽やかさのあるレザーシートや、木目を丁寧にあしらったパネルなど、やりすぎ感のないラグジュアリー空間に好感が持てた。
そしてインパネで目を惹くのが、10.1インチのデジタルタッチスクリーン。インフォテインメントシステムには第5世代のUconnectオーディオシステムが採用され、全車にアイシン製ナビを搭載。Apple CarPlayとAndroid Autoにも対応し、5名までのユーザープロファイルが登録可能となるなど、最新のインターフェースに刷新されている。タッチスクリーンでは、周囲を映すカメラの画像を呼び出したり、シートヒーターやマッサージといった快適装備の調整、さまざまなアプリなどの操作ができるようになっている。画面のアイコンがシンプルで、ざっといじってみても見やすく、すぐに慣れて使いやすいと感じた。
さらに、その中の機能で「これはいいね」と盛り上がったのが、「ファムカメラ」というもの。アイコンを押すと、2列目シートと3列目シートの様子が天井から丸写しになり、例えば3列目シートに座った子供が眠ってしまった時など、どんな状態かが把握できて安心だ。よく見ると、2列目と3列目の中間あたりの天井に魚眼レンズのようなものが設置されており、昼でも夜でも明るさによってきれいなカラーで映ったり、赤外線によるモノクロで映ったりと変わるが、どちらもクッキリと見ることができた。
重厚さと軽やかさが同居した走り
試乗はまず、リミテッドから。搭載されるパワートレーンは3.6リッターV6エンジンでどちらも4WDとなるが、リミテッドは18インチタイヤを履き、クォドラリフトエアサスペンションが搭載されないモデルとなる。また、2列目シートがベンチタイプで7人乗り。パノラミックサンルーフもリミテッドには装備されない。スタートボタンを押し、従来よりは少し優しくなったエンジンサウンドを聞きつつ、ジープ初となるロータリー式のシフトを回して「D」を選択。水平基調ですっきりと広い視界からボンネット両端を確認しながら、アクセルを踏むと新型グランドチェロキーは悠々と走り出した。
停車していた地下駐車場は通路が狭く、さすがに最小回転半径が6.3mあると出るのに切り返しが必要だったが、街中へ出てしまえばそれほど大きさを気にする場面はない。それよりも、重厚さの中にたびたび顔を出す軽やかなフィーリングや、静かな中に時おり響くグォーというワイルドなサウンドが情緒豊かで、やはり単なるラグジュアリーSUVではない独特の世界観が広がっていると感じる。ステアリングフィールも低速から中速程度では重すぎることはなく、適度な安定感とともに安心してドライブできる。交差点やカーブでも路面からのインフォメーションがしっかり手のひらに伝わってくるので、無理せず確実な操作がしやすい。加減速のコントロールはさすがに瞬時とはいかず、ややレスポンスが穏やかな場面があるものの、慣れてくればそれを見越したペダルワークをすることで、思い通りに操れるようになってくるのが楽しい。最高出力は286PS/6400rpm、最大トルクは344Nm/4000rpmということで、暴力的な加速をするようなタイプではなく、ごくごく実用的で扱いやすい、とてもフレンドリーな乗り味。低速ではややゴトゴトと路面のギャップを拾うこともあったが、中速域からの乗り心地がとてもしっとりと落ち着いていることに感心した。
続いてサミットリザーブに乗り換えると、こちらは21インチタイヤでまず外観からして迫力満点。エアサスは車高が5段階に調整でき、なんとわずか7秒で46mm下げることができるとのこと。ノーマル状態の最低地上高212mmから、「パーク」が-46mm、「エアロ」が-21mm、「オフロード1」が+40mm、「オフロード2」が+60mmとなり、タッチスクリーンの画面から設定しておくと、速度が110km/hくらいになると自動で「エアロ」の位置まで下がるという。
再び街中を走ってみると、サミットリザーブはリミテッドよりもさらに重厚感がアップし、路面へのあたりはやや硬めになって、ガッシリとした剛性感が強調されたように感じた。ステアリングフィールもやや重さが増して、交差点などではグッとにぎって切るような感覚だ。ただ乗り心地がわるくなるようなことはなく、6人乗りでキャプテンタイプとなる2列目シートの快適性は感動もの。頭上のパノラミックサンルーフが開放的な心地よさをもたらし、レザーシートもよりラグジュアリーなパレルモレザーシートに変わってふっくらと体を包んでくれるようだ。
実はこの走行性能と乗り心地の両立には、多くの課題をクリアしたエンジニアたちのこだわりが詰まっている。まずフロントアクスルにエンジンを直付けすることで、エンジンの位置を40mm下げて重心高を低くすることに成功。エンジンマウントもパワートレーンを構成するシャフトの関節部分近くにつけることで、不快な振動を抑制し、リアドライブシャフトの角度を最適化して室内に侵入してくる不快な振動も減らしているという。
また、サスペンションにはフロントにバーチャルボール・マルチリンクサスという、一風変わった方式を採用。これは仮想的に長いアームの回転中心が車体の外にまで伸びているジオメトリのマルチリンク式のことを指すという。バーチャルボールを採用することで、全域で理想的な角度で接地させ続けることができ、運動性能が飛躍的にアップするとのこと。リアサスペンションには5リンクのマルチリンク式を採用しており、3列シートとなってホイールベースが180mm伸びても、ドライブフィールが損なわれないように新設計されている。
さらに軽量化にも力を入れ、ボンネットはアルミ、テールゲートはアルミとプラスチックのハイブリッドを採用。高張力剛板とアルミを多く使い、ボディのねじり剛性が先代比13%アップ、曲げ剛性が18%アップした。これは燃費にも貢献し、ボディサイズが大きくなったにも関わらず先代同様を実現しているという。
気になる3列目シートの乗り心地は?
さて、最後に気になる3列目シートにも座ってみると、まず乗り込みは2列目シートの肩口のレバーを引いて持ち上げるだけで、チップ&スライドして大きなウォークインスペースができる仕組み。身長165cmの私はもちろん、本国の動画では183cmの男性もラクラクと乗り込んでいた。そのまま2列目シートを元の位置に収めると、足下はさすがに余裕たっぷりとはいかないまでも、上半身は予想以上にゆとりがあり、ドリンクホルダーやUSBポート(AとCの2つ)が1人ずつに設置されていて長距離でも過ごしやすそうな印象。空調も3列目シート分までしっかり吹き出し口があり、これなら快適性もしっかり保たれるはずだ。
そしてラゲッジは、エアサスでパークモードにするとフロアが低くなり、3列目シートを使用した状態でも機内持ち込みサイズのスーツケースなら3~4個は積載できそうなスペースがある。2列目シートまで倒すとスッキリと広大でフラットになり、長身の人でも車中泊が余裕でできそうなスペースに拡大した。アウトドアやスポーツシーンでも、荷物をあきらめる必要はなさそうだ。リミテッドにはパワーリフトゲート、サミットリザーブにはハンズフリーパワーリフトゲートが装備され、ゲートの開閉もラクラクできる。
こうしてチェックしてくると、新型グランドチェロキーは頼もしい本格的な走破性と、どの席でも快適で上質な室内空間が欲しい人たちにとって、かなり理想的なプレミアムSUVだと感じた。とくに3列目シートの居住性は、ライバルを凌駕する実力派だ。また、オーナーになった人の楽しみを奪わないために詳細は秘めておくが、これほどモダンで上質なモデルでありながら、ジープのほかのモデル同様に、ふとした瞬間に気づいて嬉しくなる“遊び心”も散りばめられている。そんなところにも、大きな魅力を感じさせてくれる1台だった。