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ジープ、新型「グランドチェロキーL」の内外装のこだわりを2人のデザインディレクターが解説

2021年12月16日 開催

ジープの新型フラグシップSUV「グランドチェロキーL」

 ジープ(FCAジャパン)は12月16日、3列シート仕様の新型フラグシップSUV「グランドチェロキーL」の開発担当者に、報道関係者がインタビューするオンラインラウンドテーブルを開催した。

 グランドチェロキーは初代モデルが1992年に登場したジープブランドの伝統を受け継ぐラグジュアリーSUV。10年ぶりのフルモデルチェンジで4代目となった新型では、3列シートを備えてグランドチェロキーLの車名を採用。また、2列シートのPHEV(プラグインハイブリッド)モデル「グランドチェロキー 4xe」の登場も予告されている。

 ラウンドテーブルには、ジープ インテリアデザイン ディレクターのクリス・ベンジャミン氏と、ジープ エクステリアデザイン ディレクターのマーク・アレン氏の2人が参加して行なわれた。

内装イメージのテーマは「コントラストの美しさ」

クリス・ベンジャミン氏

 まずはインテリアデザインを担当したベンジャミン氏がプレゼンテーションを実施。グランドチェロキーLでは新しいアイデアをベースとしたユニークな手法によって開発を行ない、内装イメージのベースとしてオートバイの写真を紹介。機械的、技術的なハードさと、ステッチの入ったレザー素材が持つ柔らかさの対比による「コントラストの美しさ」というアイデアから開発をスタートさせたという。

 インテリアは独創性によって競合するライバルとの差別化ができるポイントであると考えてデザインチームでスケッチの制作に入り、生み出されたインテリアのスケッチはスピード感にあふれ、同時に車内空間の幅広さも感じられるものになっている。

内装イメージのテーマは「コントラストの美しさ」
新型グランドチェロキーのインテリアスケッチ

 進化点の説明として先代との比較を実施。先代ではインテリアの構成要素を「アイランド」と表現する複数の面としてまとめてレイアウトしていたが、新型ではシンプルなテイストを表現するため、まずは「メタルウイング」と呼ぶ翼のようなラインを基調として設定。ここにほかのラインを追加していくことで水平基調のインテリアを構成し、非常にスリムで幅広感のあるインパネが生み出されている。

先代グランドチェロキーのインパネは構成する要素を機能ごとにまとめた「アイランド」(島)を組み合わせて構成
新型グランドチェロキーでは「メタルウイング」と呼ぶ翼のようなラインをベースとした水平基調のインテリアとなっている

 さらに新旧比較では視覚的な広さの演出について紹介され、新型ではセンターコンソールからドアまで続くラインが斜めに走り、座っているシートから離れていくような形状によって、さらなる広さ感を乗員に与えるよう工夫したという。

 また、インパネから少し後方に動いた視点から見るとインテリアは乗員を包み込むようなダイナミックさを持ち、素材としては木材やステッチの入ったレザーなどによって心地よい空間を演出しつつ、操作パネルなどはモダンでクールなイメージとして対照的な印象を表現している。

先代(右)との比較で、新型(中央)は離れていくようなラインによってさらなる広さ感を演出
インテリアでは乗員を包み込むようなダイナミックさも表現

 コントラストを生み出す具体例として、柔らかさを感じさせる素材では、職人が削り出しているようなウッドパネルや2本のステッチが施されたホーンパッドを採用しており、一方でセンターコンソールにレイアウトしたロータリータイプのシフトセレクターとエアサスペンションのパドルはSF映画に出てくるようなイメージで細部までデザイン。特にロータリーシフターは金属製で重量感があり、近代的でありながらあくまでもジープモデルであると主張する部分になっているという。

 また、内装の見え方については日中だけではなく、夜間にどうなるかも注意を払って開発を実施。アンビエントライトを使うことで乗員が美しい光で包まれ環境を整えている。

ウッドパネルやダブルステッチのレザーパッドで手作業の柔らかさを表現
ロータリーシフターやエアサスペンションのパドルはSF映画に出てくるようなイメージ
アンビエントライトで夜間の車内空間を華やかに演出

 色遣いでは「サミット リザーブ」のシートカラーに設定されている「テュペロブラウン」を取り上げ、この色はテュペロ(ヌマミズキ)の木から獲れる高級ハチミツ「テュペロハニー」をイメージしたもので、ジープのフラグシップモデルにふさわしいカラーとして用意しているという。

 2列目シートでも居住性にこだわり、オープンで広い空間を用意していることに加え、フロントシートの背面まですべてレザー表皮でカバー。2列目シートに座る人の視界に樹脂部品ではなく温かみのあるレザーが入ることでラグジュアリーな雰囲気が出るようにしている。また、レザーシートの表皮にはパーフォレーションを設定し、サイドサポートにダブルダイアモンドステッチを施すなど、高いレベルの職人技が感じられるものとなっている。

高級ハチミツの「テュペロハニー」をイメージしたという「テュペロブラウン」をシートカラーに設定。大型のセンターコンソールも用意する2列目シートもラグジュアリーな雰囲気が感じられるスペースとなっている
レザーシートの表皮にはパーフォレーションやダブルダイアモンドステッチを設定

 3列目シートについてはボディ側面から車内が見えるようにしたイメージを使って説明。2列目シート、3列目シート共に十分なスペースを設定しているほか、3列目シートでは座面の形状をほかとは変え、座面前方を「滝のように」と表現するスタイルでなだらかに傾斜させ、リラックスして座れるようにしている。

 さらに同様のカットイメージで日本未導入の2列シート仕様である「グランドチェロキー」についても取り上げ、室内空間の違いを紹介した。

グランドチェロキーLのカットモデル。3列目シートは座面前方がなだらかなアーチを描いていると分かる
日本未導入の2列シート仕様「グランドチェロキー」との比較では、ホイールベースが拡大されていても2列目シートの位置が同様で、広げられたキャビンスペースが3列目シートに充てられていることが分かる。このほか、ホイールのデザインやリアコンビネーションランプ、Dピラーの形状なども異なっているようだ

「グランドチェロキーLが“長すぎる”とは見られないように」外観をデザイン

マーク・アレン氏

 続いてエクステリアデザインを担当したアレン氏のプレゼンテーションがスタート。ジープでは過去のモデルからデザイン要素を受け継ぐことが多く、今回のグランドチェロキーLでは1963年に登場した「グランド・ワゴニア」がその対象になっているという。

グランドチェロキーLは「グランド・ワゴニア」からデザイン要素を受け継いでいる

 アウトラインのイメージとしては「長いルーフ」と「長いボンネット」、逆スラント形状の「シャークノーズ」という3点を採用。また、グランド・ワゴニアは直線基調のデザインを持つことに加え、視認性の高さも重要なポイント。できる限りガラスの面積を広げるためにベルトラインを抑制しており、こうしたイメージをグランドチェロキーLでも踏襲している。

アウトラインに「長いルーフ」「長いボンネット」「シャークノーズ」の3点を採用
グランド・ワゴニアは直線のラインが多用され、曲線はあまり使われていない
ベルトラインを抑制して広いガラス面積を確保
グランドチェロキーLはグランド・ワゴニアから多彩なデザイン要素を継承している

 このような基本路線が定められてからデザイナーが最初のスケッチ制作を開始。ジープでは現在でもスケッチを紙と鉛筆で描いており、これを誇りに思っているという。このスケッチをベースにクルマとしてのキャラクターを組み込んでいき、この課程で3列シート仕様のグランドチェロキーLも誕生した。

グランドチェロキーのファーストスケッチ
スケッチを重ねていく中でクルマとしてのキャラクターが組み込まれていく
グランドチェロキーLが最初に描かれたスケッチ。優雅なラインが与えられ、エネルギーを感じさせるものになっているとアレン氏は解説
スケッチからCGとなり、肉付けが進んできたもの。安定感が増してきているが、フロントマスクなどはここからさらに発展していく
2列シート車のグランドチェロキーで最終的な仕様に近付いてきたCG。安定感が増して細部の造形も決定し始めている
抽象的なイラストだが、長いルーフや長いボンネット、シャークノーズにセブンスロットグリルなどの象徴的なモチーフを取り入れて完成形に近付いている

 フロントビューについてアレン氏は「個人的にこのモデルで一番好きな部分」と言い、ボディの全幅はこれまでと同じだが、トレッド幅が拡大してワイドスタンスとなっており、「攻撃的な雰囲気ではなく、自信を持ったフロントマスクになっている」という。

 また、グランドチェロキーはジープの上位機種となるため、「宝石のような輝きを持たせたい」との意図からグリル周辺の光沢感を強調。さらにフロントグリル内には「360度カメラ」や「ナイトビジョンカメラ」を目立たないように配置している。

 機能面では極めて薄型のLEDヘッドライトとDRL(デイタイム・ランニング・ランプ)をフロントマスクに備え、リアコンビネーションランプでも「おそらく業界内で一番細い部類に入る」というLEDテールランプを採用。マフラーエンドはバンパー下のフェイシア一体型で一体感の強い仕上がりとなっている。

 360度カメラを備えたドアミラーにはウィンドウのクローム加飾から連続するシルバー加飾が設定され、すっきりとしたシングルピースのドアハンドルを採用している。

薄型のLEDヘッドライトを標準装備
スリムデザインのLEDテールランプ
フェイシア一体型のマフラーエンドはサミット リザーブで標準装備
ドアミラーのシルバー加飾も外観のアクセントになっている

 ボディサイズの紹介では、2列シートのグランドチェロキーと3列シートのグランドチェロキーLを比較。本国仕様の数値だが、グランドチェロキーはホイールベースが2964mmで全長が4902mm、グランドチェロキーLはホイールベースが3091mmで全長が5207mmという数値が示され、デザイナーには「グランドチェロキーLが“長すぎる”とは見られないように」という指示が与えられたと説明された。

2列シートのグランドチェロキーと3列シートのグランドチェロキーLのボディサイズ比較

質疑応答

 両氏のプレゼンテーションが終わった後には質疑応答も行なわれた。

――2列シート車と3列シート車は同時に開発されているのでしょうか?

アレン氏:デザイナーとしては同時にデザインを行なっています。2列シート車と3列シート車はフロントドアまでは共通となっており、それより後方のラインが変化しています。また、テールゲートもそれぞれ異なるものです。

――2列シート車と3列シート車でルーフのデザインが異なる理由はどんなものでしょうか。

アレン氏:2列シート車はグランドチェロキーの理想像をキープしたスタイルですが、3列シート車では重量の管理をする関係もあり、Dピラーをより強固にして、一方で差分をできる限り少なくしたいということでこのような設計になっています。

――グランドチェロキーLのセンターコンソールではベンチレーショングリルの下にディスプレイがレイアウトされています。(6月にマイナーチェンジした)コンパスは逆にディスプレイが上ですが、これはエアコンの風を後方まで送るといったエンジニアリング面での必要があるのでしょうか?

ベンジャミン氏:そのような理由ではありません。デザイン的なラインアップ内での差別化が目的です。同じジープファミリーですが車格を変えるだけではなく、それぞれに合ったキャラクターにしたいと考えており、その点で差別化しています。また、グランドチェロキーLでは2列目、3列目で個別にベンチレーションのアウトレットを備えており、空調面で問題はありません。

――ディスプレイは少し低い位置になりますが、視認性や操作性で問題ないということでいいでしょうか。

ベンジャミン氏:その点は社内で厳格なガイドラインを用意しています。ディスプレイは下を見る角度で30度以上になければならないという規定があり、それにマッチする内容となっています。われわれとしてもディスプレイの視認性や操作性は最も重要な点の1つですので、操作をしながらでも十分に注意して運転できるように設計しています。

 また、コンパスは主に若いオーナーをターゲットにしており、フローティングディスプレイとしてミッドボルスターから分離した形状にしています。グランドチェロキーLについてはより一体感のある、滝が流れるような“ウォーターフォール”として、インパネからセンターコンソールにつながるレイアウトになっています。