ニュース

ジープ、新型「グランドチェロキーL」のチーフエンジニアが開発陣に与えられたミッションを語る

2021年12月17日 開催

ジープの新型フラグシップSUV「グランドチェロキーL」のチーフエンジニアを務めたフィル・グレイド氏

 ジープ(FCAジャパン)は12月17日、前日に行なわれた内外装のデザイナー2名によるラウンドテーブルに続き、3列シート仕様の新型フラグシップSUV「グランドチェロキーL」の開発でチーフエンジニアを務めたフィル・グレイド氏にインタビューする報道関係者向けのオンラインラウンドテーブルを開催した。

 グランドチェロキーは初代モデルが1992年に登場したジープブランドの伝統を受け継ぐラグジュアリーSUV。10年ぶりのフルモデルチェンジで4代目となった新型では、3列シートを備えてグランドチェロキーLの車名を採用。また、2列シートのPHEV(プラグインハイブリッド)モデル「グランドチェロキー 4xe」の登場も予告されている。

「ナイトビジョン」がグレイド氏いち押しの機能

グランドチェロキーLの製品概要を説明するスライド

 冒頭ではグレイド氏がグランドチェロキーLについて解説するプレゼンテーションを実施。開発陣に与えられたミッションは、「すでに大成功を収めているグランドチェロキーをさらに洗練させ、持っている十分以上の性能をさらに高める」といったもので、これには伝統ある4WD性能とプレミアムモデルとしてのオンロード性能を引き上げ、クラフトマンシップもさらにレベルアップさせることが含まれていたという。また、ラグジュアリー感や居住性を高め、クラスでもトップレベルとなる安全性能を手に入れて先進技術についても導入している。

 最も大きな変化となったのはシリーズ初となる3列シートの導入で、これによってより多くの家族を1度に乗せてグランドチェロキーの走りを体感できるようにした。

 28年前の1993年に初代モデルが登場して始まったグランドチェロキーの歴史では、コアバリューの開発に集中。スタイリングや性能、機能性、テクノロジー、居住性と洗練性、燃費などを磨いていき、新型となる第5世代モデルでは新開発のマルチリンクサスペンションを導入して舗装路での走行性能をさらに向上させたという。

第5世代モデルとなる新型グランドチェロキーLでもさまざまな点をブラッシュアップしている

 オフロードでの走破性については、グランドチェロキーLの日本仕様では4WDシステムとして副変速機を備える「クォドラトラック II 4×4システム」を採用。新規採用のトランスファーケースによって応答速度が高まっている。

 上級グレードの「サミット リザーブ」では「クォドラリフト エアサスペンション」を標準装備。このエアサスペンションではサスペンションのストローク量が従来品から25mmアップしており、歴代モデルで初めてセミ電子制御のアダプティブダンパーを採用。車高は「エアロモード」「パークモード」「ノーマル」「オフロード1」「オフロード2」の5種類を用意。従来品から車高低下の速度を2倍に高めた「イージーエントリー」も設定している。また、「オフロード2」を選択した場合は609.6mmの渡河性能を実現。これは従来から100mm高いものとなっている。最低地上高は207mmという設定。

 最大のトピックは新開発したマルチリンクサスペンションの採用で、これによって乗り心地がよくなり、ハンドリング性能も高められている。このほか、5つの走行モードから選択できるトラクションコントロールシステム「セレクテレイン システム」も全車に標準装備。各モードで設定状況に合わせた走破性を実現するため、トランスミッションやエンジン出力、ブレーキ、サスペンションなどの設定を専用チューニングに変更する装備となっている。定評ある牽引能力も受け継いでおり、トーイングキャパシティは2812kgとなっている。

悪路走破性に関する改良ポイントの一覧

 ボディサイズは5200×1980×1815mm(全長×全幅×全高。サミット リザーブの全高は1795mm)で、ホイールベースは3090mm。全長は先代から377mm長くなっている一方で、車両重量は3列シート化に加えて多数の装備品を追加していながら、車両全般で軽量素材を採用して先代とほぼ同じ重さを維持しているという。

 インテリアでは必要十分なカーゴスペースとレッグルームを備え、3列シートの採用で6人、または7人の乗車を実現。乗降性能を向上させるため、リアドアの開口部を先代から拡大し、2列目シートに分割可倒式の「フリップ&スライド」機構を設定。これによって3列目シートへのアクセス性が高められている。また、3列目シートには電動可倒式を採用した。荷室容量は2.39m 3 を誇っている。このほかに開口高さを設定できる「ハンズフリーパワーリフトゲート」も備えて使い勝手を向上させている。

ボディサイズと室内寸法
多彩なシートアレンジを用意しており、大きな荷物に対応するフルフラットも可能

 グランドチェロキーLでは110以上の安全・安心機能を備えていることもアピールポイントとなっており、レベル2自動運転となる「アクティブドライビングアシスト」も採用。車両の4方向を検知するレーダーやセンサーを備え、アクティブクルーズコントロールと連動しながら車線中央付近を維持しながら走り続けることを可能としている。

 赤外線センサーを利用して歩行者や動物を検知する「ナイトビジョン」も新装備の1つで、これはグレイド氏が「個人的に一番気に入っている機能」と語る装備となっており、自身でも常に利用しているという。

 これ以外にも先進安全装備として、歩行者や自転車を検知してアクティブブレーキングを作動させ、衝突回避・被害軽減を図る「フルスピードフロントコリジョンワーニング」、交差点内で接近する車両を検知して状況に応じてブレーキを作動させる「インターセクションコリジョンアシスト」、ドライバーの疲労や居眠りを検知して音声ガイドで警告する「ドライバーアテンションアラート」、ステアリング操作を自動的に行なって駐車と出庫をアシストする「縦列/並列パークアシスト・アンパークアシスト」、車両前方の障害物などを検知する「フォワードフェイシングトレイルカメラ」などを採用。これらの装備は徹底したテストを行ない、ジープが独自に設定している高い基準にも合格しているという。

レベル2自動運転となる「アクティブドライビングアシスト」や、肉眼では確認できない暗い場所にいる歩行者や動物を赤外線センサーで発見して注意喚起する「ナイトビジョン」など、多彩な先進安全装備も備えている

ジープ、新型「グランドチェロキーL」の内外装のこだわりを2人のデザインディレクターが解説

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1374840.html

質疑応答

質疑応答で質問に答えるグレイド氏

 プレゼンテーション後には質疑応答の時間が用意され、参加した報道関係者からの質問にグレイド氏が答えた。

――新しいグランドチェロキーLで最も重視したのはどのような部分でしょうか。

グレイド氏:一番大切にしたのは3列目シートの追加です。これはお客さまの声を反映したもので、多くのお客さまから「家族全員を乗せてオフロードを走りたい」「ジープネスを体験したい」という声が寄せられ、3列目シートを追加することになりました。

 もちろん競合するモデルについてもしっかりと勉強して、それによってマルチリンクサスペンションを新開発して乗り心地とハンドリング性能を高めることになりました。徹底的なベンチマークテストによって素晴らしい結果を得ることができたと考えています。

 また、同時にあくまでジープのモデルなので、われわれが“ジープネス”と呼んでいるジープらしさをリスペクトするため、オフロードでの走行能力を向上させています。

――ニューモデルの開発にあたって採り入れたユーザーの声などはありますか?

グレイド氏:28年間の歴史で得た多くのお客さまから、クリニックやリサーチ、スタディなどを通じて「次のグランドチェロキーでどんなことを求めるのか」「どんな部分を改善してほしいか」など聞いています。そんなお客さまの声に基づいた改善点としては、サスペンションと乗り心地、燃費、3列目シートの追加などが挙げられます。先代モデルでは乗り心地と走行性能という点である程度の妥協もありましたが、新しいサスペンションを導入したことで妥協することなく両立が可能となっています。

――ジープでは3列シート車として「ワゴニア」もすでにラインアップしています。3列シート車はワゴニアに任せるという考えはなかったのでしょうか。

グレイド氏:ワゴニアはグランドチェロキーよりも高所得者向けのモデルになっており、一方でジープにとってのグランドチェロキーはアイコン的な存在です。そのグランドチェロキーのお客さまから「3列シート車を導入してほしい」という要望が多く寄せられたことから導入を決めました。

――先日行なわれた発表会では、「取りまわしのよさや悪路走破性を維持しながらホイールベースを伸ばし、3列シート車に仕立てた」との発言がありましたが、この実現に向けて具体的にどのような技術を用いているのでしょうか?

グレイド氏:まず、このモデルではサスペンションのストローク量が増えています。最低地上高も高くなり、オフロードで真価を発揮する洗練されたトラクションコントロールシステムも備えています。従来モデルから視認性を高めており、これらが悪路走破性や取りまわしのよさに貢献しています。

 最小回転半径も6.3mと先代比較で30cm程度増えただけで、このクルマのサイズを考えれば十分な数値だと思います。こういった要素によって、われわれが重要だと捉えている取りまわしのよさや悪路走破性をキープできていると考えます。

ユーザーのリクエストに答えて3列目のシートを追加したと語るグレイド氏

――新しいグランドチェロキーで採用された「アトランティス・アーキテクチャー」とはどのようなものでしょうか。

グレイド氏:これは次世代のシステムで、この採用によってレベル2、レベル2プラスといった自動運転が実現可能になります。基本的なパワーが向上しているほか、レスポンスも早くなります。中央ノードが設定されてそこでモジュール類が制御できるようになっており、より強いパワー、より速い通信速度で駆動できます。一般的にCAN-BUS上で送受信する信号には負荷がありますが、その負荷の閾値(しきいち)をよりレベルアップできる、より高速で大容量なシステムです。

――BEV化は世の中の大きな流れになっています。グランドチェロキーにはハイブリッドモデルの追加が予定されていますが、BEVについてジープではどのように考えていますか?

グレイド氏:ジープとしてはBEVなどの電動化に大きな期待を持っており、ジープのプラットフォームにもマッチすると思います。より能力を高めていくためにも、今後のBEV化を計画しています。また、すでに発表しているように、ハイブリッドモデルの導入など電動化を進めていきます。予定しているグランドチェロキーのPHEV(プラグインハイブリッド)モデルも非常に高い悪路走破性を持っており、電動化のファーストステップとして進めていきたいと考えています。

――このモデルからデトロイトに建設された新工場で生産が行なわれていますが、新工場で作られることによるメリットは何かありますか?

グレイド氏:この工場では最新の塗装工程を用意しており、これによってブラックルーフの2トーン仕様が可能になっています。また、生産ラインにはエンドブラインドテスターが設置され、すべての電装品をテストできる状態になっています。

 さらに新工場には屋内テストトラックもあり、天候に左右されることなく全車両のNVH(ノイズ、振動、ハーシュネス)についてテストできるようになっています。ここにはありとあらゆる路面が用意され、例えばイタリアの石畳や砂漠などの走行テストも可能です。これにより、どんな環境でもわれわれの車両が耐えられるようなテストを行なっています。