試乗レポート

ジープの新型「コマンダー」日本デビュー! ミドルサイズSUV+3列シート、その第一印象をレポート

ミドルサイズSUVとしでデビューした新型「コマンダー」

日本に導入した理由はずばりそのサイズ

 ジープ・ファミリーで長らくミドルサイズSUVの顔であった「チェロキー」が、日本市場からひっそり姿を消したのは2021年末のこと(本国では継続)。そしてこの度、その後継モデルとして新型「コマンダー」が上陸を果たした。

 コマンダーの歴史をたどると、そのデビューは2005年。3列シートを備える7人乗りのジープとして当時のフラグシップモデルを務め、日本でも2006年~2009年の間に販売されていた。

 しかし新型コマンダーは、純粋にはその後継機種ではないという。ポジショニング的には前述の通りチェロキーの後を継ぐミドルサイズSUVであり、現在のSUV系フラグシップモデルを担うのはグランドチェロキーだ(北米だとグランドワゴニアか)。さらに言うとコマンダーはもともとブラジルおよびアジア地区で販売されていたモデルであり、新型となった今後も北米および欧州にはデリバリーされないのだという。

 Stellantisジャパンがコマンダーを日本に導入した理由は、ずばりそのサイズにある。4770×1860×1730mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2780mm。チェロキーと比べてひと回り大きなボディには、チェロキーにはなかった3列目シートが備えられた。「グランドチェロキーでは大きすぎるけれど、3列目シートはほしい」。こうしたニーズに応えるために、新型コマンダーが導入されたというわけだ。

7人乗りの3列シートを備える新型コマンダーは10月24日に受注を開始。日本市場には上級グレードの「リミテッド」から導入され、価格は597万円(サンルーフ付きは16万円増)。ボディサイズは4770×1860×1730mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2780mm。最小回転半径は5.8m
チェロキーの後継モデルとしてグランドチェロキー Lからインスピレーションを得たエクステリアデザインを採用。足下は18インチアルミホイールに235/55R18サイズのM+Sタイヤ(ブリヂストン「DUELER H/T」)を組み合わせる

 今回試乗したのは「リミテッド」仕様。現在グレードはその1種類であり、ボディにはパールコート塗装とパノラミックサンルーフが追加できるようになっている。エンジンは2.0リッターの直噴ディーゼルターボ(170PS/350Nm)で、トランスミッションは9速AT。駆動方式は現状、この横置きエンジンをベースとしたオンデマンド4WD一択となっている。

見た目の割に超・実直なジープ

 コマンダーという名前に違わず、走らせた印象はちょっとワイルドだ。2.0リッターのディーゼルターボは、腰下がアルファロメオと共通。しかしヘッドチューンの違いからだろう、キャラクター的には洗練よりも実用性を重視したユニットに仕立て上げられている。

 2255kgの車両総重量に対して350Nm/1750-2500rpmの最大トルクはやや少ないかと思ったが、9速ATのギヤリングが巧みで、これがなかなかよく走る。街中ではストップ&ゴーでもストレスは感じない。高速巡航では170PS/3750rpmというピークパワーの低さから全開加速こそ月並みだが、パーシャルスロットルから少しだけ加速するような場面では、グッと車体を押し出してくれる。

新型コマンダーが搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッターディーゼルターボエンジンは最高出力125kW(170PS)/3750rpm、最大トルク350Nm(35.7kgfm)/1750-2500rpmを発生。燃料タンク容量は60L

 アクセルを踏み込んだときのフィーリングは、はっきり言えばディーゼル丸出し。ボディ側の遮音性もあるのかもしれないがメカニカルサウンドもやや大きめだから、欧州勢やマツダのディーゼルターボに乗り慣れたユーザーだとちょっと驚くかもしれない。ただそれが、意外とジープのイメージに合っているところが面白い。

 対するシャシーは、背の高いボディを支えるべく足まわりがガッシリしている。その割に突き上げないのは優秀だが、同じくガッシリ系のシートも相まって、クッションを効かせるというよりはソリッドな乗り心地となっている。

 よって、そのハンドリングも実直だ。ロールは少なく、切り込めば切り込んだ分だけ曲がってくれる。適宜後輪に駆動を配分するオンデマンド式の4WDは、通常その駆動をFFで走らせるという。だがそのトラクションや駆動特性の違いを今回の試乗ではあまり意識できなかった。

 ならばと4WDロックに入れてみると、確かにリアの駆動力が増しているのが感じ取れた。また停車中に「4WD LOW」を押してみると、エンジンを一度ストップさせてからモードに突入した。その間にギヤを入れ替えたのだろう。今回はこれを試すシチュエーションはなかったが、ジープとして荒れ地に挑む用意はいつでもできているようだ。

 肝心な3列目シートも試してみた。身長170cm程度の筆者だと、膝を立てた状態でスポッと収まる感じ。これ以上身長が高いと、膝を横に避ける必要があるだろう。ただ頭上にはかなりクリアランスがあるから、長距離移動でなければ女性や子供なら十分エマージェンシーシートとして使えるはずだ。

 インテリアの質感は決して高いとは言えないのだが、低くないところがいい。ステッチを施したダッシュボードやインパネのソフトパッド、それを囲むシルバートリムは、華美すぎずむしろクールな印象。

 たとえばシフトレバーがやたらと大きく、操作感が硬くて重たいこと。ウインカーレバーやワイパーレバーのクリック感が安っぽいことなどには、正直古さを感じる。だがエンジンやシャシーの印象と同じく、そこに“らしさ”をも感じてしまうのは、ジープだからこそ許される役得だろう。

 本来ならこうした部分は即改善してほしいところだが、たとえば試乗車のようなレザーシートではなく、敢えてのビニールシート仕様なんかがあれば、逆にそのラフさがしっくり来るかもしれない。

レザーシートを標準装備するリミテッドのインテリア。Apple CarPlayやAndroid Autoに対応するオーディオナビゲーションシステム(10.1インチタッチパネルモニター)、ワイヤレスチャージングパッドなどを標準装備。また、アダプティブクルーズコントールや衝突被害軽減ブレーキ、ハイウェイアシストシステム、アクティブレーンマネジメントといった数多くの安全装備を搭載
ミドルサイズSUVでありながら3列シートレイアウトを採用。1列目と2列目のシート間は840mm、2列目と3列目のシート間は780mmのスペースを確保
ラゲッジスペースのレイアウト例

 総じてコマンダーの第一印象を筆者は、見た目の割に超・実直なジープだと感じた。おもてなしはされてないのだけれど、乗っていてなんだか気分がいい。お客さん扱いよりも友達っぽいのは、これが北米ではなく南米で活躍するジープだからだろうか。

山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。
編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートや、イベント活動も行なう。

Photo:堤晋一