試乗レポート

スバルの新型「クロストレック」プロトタイプに試乗 「XV」から走りが強烈に進化

新型「クロストレック」プロトタイプ

もっと若い人にも訴求したい

 まもなく発売されるスバル「XV」から「クロストレック」に改名した後継者のプロトタイプを、ひとあし早くクローズドコースでテストドライブすることができた。インプレッサよりも先にモデルチェンジすることになるが、もはやこの時代、どちらかベース車という概念はあまり関係なく、どちらを優先したというよりも市場環境やユーザーのニーズに応えるために、よきタイミングでよき商品を、ということである。

 試乗用として、4WD車のほかに、ワールドプレミアの際にはまだ情報としては公開されていなかったFF車も用意されていた。実車を見たのは初めてだが、XVの延長上で、より個性が際立っていて、うまく新しさが表現されているように思う。これは売れそうだと直感した。開発責任者によると、XVの荷室に積めたものは同じように積めるようにしながらも、リアフェンダーを出したりルーフを下げたりして、躍動感や軽快感を演出し、クロストレックらしさを表現したという。

 インテリアも、新感覚のシート表皮の柄をはじめ、“FUN”を感じさせる新しい要素がいろいろなところに盛り込まれている。背景には、XVというのはもともとユーザーの年齢層が高めなのだが、エントリーモデルということもあり、もっと若い人にも訴求したいと考えたことが挙げられる。

新型クロストレック プロトタイプの標準グレード。ボディカラーはオフショアブルー・メタリック。ボディサイズは4480×1800×1580mm(全長×全幅×全高)、ルーフレール・シャークフィンアンテナなしの場合は全高-30mm。ホイールベースは2670mm、最小回転半径は5.4m。装着タイヤは225/60R17サイズの横浜ゴム「GEOLANDAR G91」
標準グレードのインパネ
シート表皮はトリコット(シルバーステッチ)
新型クロストレック プロトタイプの上級グレード
ボディカラーは新色のオアシスブルー
上級グレードは新意匠の18インチアルミホイールを採用。装着タイヤは225/55R18サイズのファルケン「ZIEX ZE001A A/S」
シャープさを感じさせるフロントグリルバーやLEDヘッドライトにより、軽快かつ精悍なイメージに仕立てられたフロントマスク
ヘッドライトは、これまでよりスリムなデザインとなった
ドアミラーはグレーメタリック塗装となる
アイサイトは新世代に進化。画角を従来型の約2倍に拡大した新型ステレオカメラユニットを搭載し、より広く遠い範囲まで認識できるようになった。また、低速での走行時に新型ステレオカメラよりも広角で、二輪車/歩行者を認識できる単眼カメラを新採用することで、プリクラッシュブレーキで対応できるシチュエーションを拡大した
上級グレードのインパネ
ステアリング
シフトまわり。シフトの左にあるのはシートヒーターのスイッチ
ペダル
上級グレードのシート。表皮はファブリック(シルバーステッチ)
サンルーフをメーカーオプションとして用意
メーター
SI-DRIVEのモード表示
システム稼働状況の表示も可能
11.6インチセンターインフォメーションディスプレイを装備
X MODEの切り替えはセンターインフォメーションディスプレイで行なう

 そのため、インフォテイメントにも大いに力を入れた。また、FFを用意したのも、若い人は自分の欲しいものにはお金を出すが、いらないものには出さない傾向がはっきりしていることを受けて、4WDはいらないと考える人にも選んでもらえるようにするため。なお、アイサイトXについては、素晴らしいものであることを自負しているが、それなりにコストもかかることから、クロストレックへの採用は見送ったそうだ。

 エンジンは2.0リッターの自然吸気のe-BOXERのみに絞られた。これについては、XVでも販売の約7割がe-BOXERだったことや、グローバルに展開することを踏まえ、どんなエンジンが最適か考えたときに、これがベストと判断したとのこと。小排気量版は将来的には分からないが、いまのところ設定しない予定という。

パワートレーンは水平対向4気筒DOHC 2.0リッター直噴エンジンと、モーターを組み合わせるe-BOXERのみを設定

SGPフェイズ2の実力の表れ

 試乗車は前述の4WDとFFとともに、同じ条件で比較できるよう現行のXVも用意されていた。新旧を乗り比べると、数年前にあれほどSGP(Subaru Global Platform)を導入してずいぶんよくなったと感じていた現行XVがやけに古く感じられてしまうほど、その差は歴然としていた。

 まず、ドアを閉めたときの音からして全く違って、エンジンをかけてちょっと動かしてみただけでも、外界と遮断された感覚が増したような静かさを感じた。さらに、試乗コースに入る最初の路面に、ハーシュネスの具合を確認するための突起が設けられていたのだが、そこを通過した際の印象も全然違う。XVは車体全体に音と振動が響く感じがするのに対し、クロストレックはもともとそのレベルが低い上に、瞬時にそれが収束する。ゆえにXVは実際よりも乗り心地が硬く感じられてしまう。

 いざコースイン。クロストレックにはファルケンブランドのオールシーズンタイヤが装着されていたが、直後のスラローム区間でも、ステアリングフィールと、操舵に対してクルマがついてくる感覚がこれまた全然違う。

 クロストレックは切り始めから応答遅れなく横力が発生してクルマが向きを変える上に、ステアリングフィール自体も軽快でスッキリとしているのに対し、直後に乗り比べたXVはフリクションがあり、微妙にワンテンポ遅れてクルマが曲がるように感じられてしまう。XVだって途中のマイナーチェンジで大きく改良され、かなりよくなったように思っていたのだが、クロストレックの気持ちよさを味わってしまうと、なんとも言えなくなる。SGPフェイズ2の実力は計り知れない。

新型クロストレックの4WDモデル(マグネタイトグレー・メタリック)

 クロストレックも4WDとFFではだいぶハンドリングが違って、主役の4WDがニュートラスステアに近く、リアの動きも落ち着いていたのと比べると、FFはちょっと攻めるとアンダーステアが強い傾向が見受けられたものの、より走りに軽快感があるのがFFの持ち味だ。

新型クロストレックの2WD(FF)モデル(クリスタルブラック・シリカ)

 新しくなったというシートの座り心地もなかなか好印象だ。従来のものよりも“面”で一体となってサポートしてくれる感覚があり、コーナリングで高いGがかかる走り方をしても体を支えやすい。

 東京オリンピックの会場にもなったことから路面が整備されて非常にきれいになったこのコースでは乗り心地の評価はできないのだが、おそらくクロストレックのほうが快適になっているであろう感触ではあった。XVはややバタつき気味だったのに対し、クロストレックは4輪がしっかり路面にくっついている感覚がある。それがリアルワールドでも味わえるのか、公道で乗れる機会を楽しみにしたい。

パワートレーンの印象も激変

 動力性能の進化も著しい。エンジン自体は踏襲するが、ブロックの補強などの手当がされており、音や振動は減っていて、同じe-BOXERでもギクシャクせず、シフトの滑らかさも変わっている。なによりも、リニアトロニックの遅れて加速する感じが見事に払拭されていたことに感心した。

 このコースは低い車速まで落とさなければ曲がれない箇所がいくつもあるのだが、XVは立ち上がりでなかなかついてこなくて、アクセルを踏んでしばらくしてから加速していたところ、クロストレックはアクセルを踏めば即座に加速する。瞬発力が全く違う。

 加速フィール自体も、XVはどうしてもいわゆるラバーバンドフィールが顔を出すのに対し、クロストレックは走りにダイレクト感がある。シフトチェンジ時の歯切れのよさはDCTなみ。これは大きな差だ。ハンドリングと合わせて走りの一体感が強い。

比較試乗した先代の「XV」(プラズマイエロー・パール)

 クロストレックは、とにかくステアリングを切ってターンインし、アクセルを踏んで立ち上がるのがとても気持ちよいクルマに仕上がっていた。これまでにも増して若々しくなったスタイリングも、このクルマの楽しさを体現しているかのように見えてきた。

 第一印象は上々。今回試乗したのはあくまでもプロトタイプなので、さらに走りがよくなる可能性もある。いずれ公道でドライブできる機会と、おそらくかなりの実力を発揮するであろう雪道を走る機会を楽しみにして、正式な登場を待つことにしたい。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛