試乗レポート

アジアクロスカントリーラリー参戦車の「トライトン」をはじめ、三菱自動車の4WD車をオフロードで体験

「チーム三菱ラリーアート」として2022年のアジアクロスカントリーラリーに参加する「トライトン」

トライトンに同乗試乗

 待望久しかったラリーアート復活の狼煙が上がった。まだ助走段階だが「チーム三菱ラリーアート」として2022年のアジアクロスカントリーラリーに参加するからだ。チームの運営主体はタイのプライベートチームであるタントスポーツで、三菱自動車工業はその支援となるが総監督として増岡浩氏が参加すると共に、三菱自動車の開発エンジニアも帯同してテクニカルサポートを行なう予定だ。

 アジアではピックアップトラックがポピュラーで、かつジャングルやダートコースが豊富にあることからこのクラスのラリーが盛んで各国で開催されている。「チーム三菱ラリーアート」が参加する11月21日~26日にタイ~カンボジアで開催されるFIA公認のアジアクロスカントリーラリーは高温多湿の気候と山岳地帯、ジャングルが舞台でタフなコースだ。

 ラリーに使われる「トライトン」はアセアン地域における三菱自動車の1tクラスピックアップトラックの主力車種で、アジアでの人気も高い。チームは改造車クラスのT1が2台とプロダクションクラス1台の3台でチームを組む。ドライバーはインドンネシアのリファット・サンガー選手とタイのチャヤポン・ヨーター選手、プロダクションクラスにはベテランのサクチャイ・ハーントラクーン選手がトライトロンT1をドライブする。このラリーのために8月にはタイで1100kmに及ぶ耐久試験を行ない必勝を期している。久しぶりにラリーアートとして競技に臨む増岡浩氏は、ハンドルこそ握らないが監督として豊富な知識をチームに還元してサポートする。

 アジアクロスカントリーラリーの特徴は日本人オーガナイザーの手によることで、例年は8月開催なので休みを利用して日本からのエントリーもあるという。2022年はコロナの影響で8月開催が難しくなったが、ちょうど横浜ゴムがスポンサードするジオランダーカップも始まる11月に開催となった。

総監督・増岡浩氏(写真左)と。バックに展示されるのはダカールラリー2002優勝車の「パジェロ」、バハ・ポルタレグレ500参戦車の「アウトランダーPHEV」

 日本でのラリーアート活動は始まったばかりでアクセサリーパーツの販売に限られているが、タイでは機能パーツを装着したラリーアート仕様も販売されており、いずれ日本でも機能パーツ装着車が登場する日も近いだろう。

東京オートサロン2022に出展されたアウトランダーPHEVベースの「VISION RALLIART CONCEPT」。ラリーアートの名を冠した迫力あるスタイリングが特徴のコンセプトカーだ
日本では3月から「アウトランダー」「エクリプス クロス」「RVR」「デリカD:5」用のラリーアートブランドのアクセサリーを正規ディーラーで発売。機能パーツのリリースにも期待がかかる

 試乗車は本番車ではなくプロダクションクラスのトライトンで、ハンドルを握るのは社内のテストドライバーだ。増岡氏の教え子でクロスカントリーラリー経験はないが腕はピカイチだという。

 クロスカントリー用のトライトンはマニュアルシフトのディーゼルエンジンで、サスペンションも基本形式は変わらない。選択したギヤは4Hiでよほどのことがない限りLockに入れることはないという。よほどのこととは泥濘地でのスタックや低速の岩盤路走行が想定され、時にはウィンチも使うという。

 試乗コースは富士が峯オフロード場でギャップもありアップダウンもある、タフなコースだ。ラリーに準じてハイスピードで挑むが、さすが増岡氏の愛弟子だけあって確かに安定した運転を披露してくれた。サスペンションストロークがそれほどないので、路面からの突き上げはかなり強いが、狭いコースでも怯むことなくアクセルを踏み込み、跳ね上がろうとするトライトンを抑え込む。

 フレーム車の強味で厳しい路面を高速で走っても頑丈なラリー車に仕上がっていた。ショックアブソーバーなどのサスペンションパーツにはかなりの負荷がかかっているはずだが、試乗中は一定の性能を保ち、へこたれた様子はない。

 ラリー車もタフだがラリークルーもタフだ。連続ではないにしても何日間もこの状態に耐えられるクルマも人も大したものだと改めて思った。この過酷な条件の中からテストコースでは得られないデータを得て、優れた耐久性が磨き上げられるという。

S-AWCの伝統をPHEVでもしっかり受け継いでいた

 さて、われわれがハンドルを握ったのは現行の「アウトランダーPHEV」とデリカ D:5だ。コースは先ほど同乗試乗したトライトンとは違ってモーグルコースと凹凸の激しいオフロード。サスペンションなど車両には特別な手を加えられていないディーラーで販売されるクルマそのものだ。

 最初に試乗したのはアウトランダーPHEV。クロカン車でもないのに本当に入っていけるのだろうかというモーグルコースに乗り入れる。躊躇してしまう凹凸の激しいルートだ。走行モードは岩(Rock)を選んだ。フロントオーバーハングがモーグル路面で引っかからないか心配したが難なくクリアする。凸と凸に対角線上でタイヤが乗ってしまう場面では、ブレーキ制御とモーターの高トルクでスムーズに気が付く間もなく駆動力がかかりクリアしてしまった。連続するモーグルもこの繰り返し。さすがにどの山にどのタイヤが乗るかマネージメントする必要はあるが機動力はたいしたものだ。

 前後駆動力の高さ、ブレーキ制御の巧みさなど4輪制御のS-AWCの伝統をPHEVでもしっかり受け継いでいた。ここを通過してしまえば荒れているとは言えこの後のグラベルロードはアウトランダーにとっては大したことはなく、悠々と走り切った。標準装備のタイヤのままでも躊躇するシーンは皆無だ。

 一方、インテリジェントペダル、つまりアクセルOFFで回生力を強くして減速力を上げたワンペダルドライブもこのように減速時の繊細なアクセルワークを必要とするケースではコントロールしやすかった。オフロードビギナーにとっても使いやすいデバイスだ。

デリカ D:5はオフロードもこなせる唯一無二の存在

 次にハンドルを握ったのはデリカ D:5。デリカ D:5はすべて2.3リッター直4の107kW/380Nmの出力を持つディーゼルターボ+8速AT+4WDの組み合わせだ。

 ミニバンとしては高い最低地上高に前後オーバーハングを短くし、アプローチ/デパーチャーアングルを大きく取ることで凹凸の大きな路面でも安心感が高い。

 デリカ D:5のドライブモードは2WD、4WDオート、強い駆動力が得られる4WDロックが選べるが、迷わず4WDロックを選択する。後輪にも高い駆動力が分配され、ブレーキ制御による高い悪路脱出性も備える。

 ディーゼルのガラガラ音もあるが、今回のようなウェットで滑りやすくなった路面では頼もしく聞こえる。段差の大きなモーグルではアクセルを踏みつつ、路面を選んで顎を打たないように注意しながら進むが、余裕は十分だった。ときどきタイヤが浮いてしまう場面もあって一瞬止まるが、さらにアクセルを踏めば乗り切ることができる。

 デリカ D:5も三菱自動車の血統を受け継いだ高い悪路走破力を持ったミニバンで、競合の多い中でもオフロードもこなせる唯一無二の存在だ。

 アウトランダーPHEV、デリカ D:5、いずれも堅牢なボディと駆動系のタフを誇る三菱自動車伝統の4WD。高い悪路走破性を再確認することができた。

 同じ4WDでも2台はシステムがまるで異なる。走破性の高さは両車の持ち味だが、瞬発力がありきめ細かい制御ができるモーターを前後に持つアウトランダーPHEVが極めて現代的な4WDだとすれば、ディーゼルのデリカ D:5はジワリと進みながらブレーキワークも使うというこれまでの技術の延長線上にある慣れ親しんだ味わいがある。それだけに愛着が湧く1台でもあった。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学