試乗レポート

新型「アウトランダーPHEV」のオフロード性能を検証 モードによる違いは?

 三菱自動車工業の新型「アウトランダーPHEV」には袖ヶ浦フォレストレースウェイで試乗したが、今回はいよいよ公道とオフロード試乗を行なうことができた。

 新型アウトランダーについて簡単に復習しておくと、ルノー・日産・三菱のアライアンスでCMFプラットフォームに変わり、軽量で剛性の高い車体に三菱自動車初となるアルミの前後ナックルとフロントのロワー、リアのアッパーを使ったフロント/ストラット、リア/マルチリンクのサスペンションで構成される。前後スタビライザーも中空の軽量化タイプでロール時の剛性も高い。

 またサスペンションストロークを先代に対して伸び側を長く取っていることも、オフロードだけでなく乗り心地にも効果が大きい。電動パワーステアリングは出力が大きくダイレクト感の高いデュアルピニオンタイプとなり、ロック・トゥ・ロックも2回転半強と大幅に早くなっている。

 パワートレーンは完成の域に達していた従来型を踏襲しているが、バッテリをコンパクトにしながら13.8kWhから20kWhにPHEVとして十分な容量になり、フロントモーターも60kWから85kWに、リアモーターは70kWから100kWと大きくなって、走行性能にもさらに余裕をもたすことができている。そのパフォーマンスについてはすでにレポート済みだ。

今回試乗したのは2021年12月に発売された三菱自動車の新型「アウトランダーPHEV」。グレードはBOSEプレミアムサウンドシステムなどを標準装備した上級仕様の「P」(7人乗り)で、価格は532万700円。ボディサイズは4710×1860×1745mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2705mm
エクステリアでは存在感のあるフロントデザインをはじめ、20インチの大径ホイール(タイヤはブリヂストン「ECOPIA H/L422 Plus」でサイズは255/45R20)、筋肉質なフェンダーフレアを採用。また、リアまわりでは背面式スペアタイヤをモチーフとした「HEXAGUARD HORIZON(ヘキサガード・ホライズン)」を採用し、六角形の形状をもつテールゲートと水平基調でボディの左右両端まで広がるテールランプなどにより、ワイドで安定感のあるスタイリングを実現した
インテリアでは、走行時の車体姿勢の変化をつかみやすい水平基調で力強い造形のインストルメントパネル「HORIZONTAL AXIS(ホリゾンタル・アクシス)」を進化させて採用し、芯が通った力強さと開放感を表現。フロアコンソールは幅広で存在感があり、高級感のあるデザインを採用。モニターやメーターは視認性に、セレクター、ダイヤル、スイッチ類は操作時の節度感にこだわった「MITSUBISHI TOUCH(三菱タッチ)」との考え方に基づいてデザインし、視覚だけでなく触覚にも訴える上質さを実現している
「P」グレードでは3列シートが標準となり、フロントシートは2層ウレタン構造として形状を最適化するとともに、セカンドシートはウレタンパッドの硬度と形状、厚みを最適化し、サポートワイヤーの最適配置などで高品質な乗り心地を実現した。また、サードシートの設置に必要なリアフロアスペースを確保するため、リアモーターコントロールユニットをリアモーターと一体化してコンポーネントを最適にレイアウトしている
12.3インチのフル液晶ドライバーディスプレイでは大画面と鮮明な画像により多くの情報を見やすく表示。また、10.8インチのウインドシールド投写型ヘッドアップディスプレイや、大型スマートフォン連携ナビゲーションを合わせて採用
ラゲッジルームでは開口部床面の幅を広げるとともに段差をなくしたことで、大きく重い荷物もスムーズに出し入れ可能とした。大型スーツケースなら3個、9.5インチのゴルフバッグなら4個をトノカバーの下に積むことが可能。トータルのラゲッジ容量は3列目使用時は258~284L、3列目収納時は634~646L、2・3列目収納時は1373~1390L
モーター出力はフロントモーターではジェネレーターとともにマグネット配置や巻線を最適化し、冷却効率の高い油冷システムなど最新技術を導入。先代から最高出力は60kWから85kW、最大トルクは137Nmから255Nmへと向上させるとともに、リアモーターはステーター側のコイルを角型断面とすることで巻密度を高め、最高出力を70kWから100kWに向上(最大トルクは先代車と同じ195Nm)させている。エンジンは直列4気筒DOHC 2.4リッター「4B12 MIVEC」

新型アウトランダーPHEVでオフロード試乗

 最初はダートトライアル場のオートランド千葉でのオフロード試乗。オートランド千葉はその昔、ダートラ用タイヤのテストで通ってたことがあり、懐かしいコースだ。コースは比較的フラットだが起伏もあってなかなか面白い設定になっており、一部路面は埃対策で水がまかれて滑りやすくなっている。つまり、いろいろなモードを試すにはちょうどいいコースと路面だ。

 ドライブモードにはエネルギーでは「NORMAL(ノーマル)」「ECO(エコ)」「POWER(パワー)」の3種類があり、駆動力をコントロールするモードは「TARMAC(ターマック)」「GRAVEL(グラベル)」「SNOW(スノー)」「MUD(マッド)」の4種類がある。

 このコースではESC(スタビリティ・コントロール)はON。ドライブモードはNORMALを選択した。急アクセルも強力な駆動力速度が乗り、コーナーではモーターによる制御が素早く入り適切に4輪に駆動力をかけている。ペースを早くするとアンダーステアを出さないように前輪にブレーキをかけ始める。それでも駆動力は確保され、速度を落としながらもスルリと走り抜ける。オールマイティなドライブモードだ。今度はGRAVELに合わせる。駆動力が強くなり、少し押し出されるよう感覚になるが直進性は高く姿勢安定性は高い。

 およそのキャラクターが理解できたのでESCをOFFにし、速度を上げてGRAVEL、MUD、TARMACをトライしてみる。

 ダイヤルをGRAVELに合わせ、アクセルを強く踏み込む。4輪の駆動力は大きくグンと前に飛び出す。フラットに見える路面でもところどころに凹凸があり、下からの突き上げを感じるが、バネ上の動きは比較的フラットで数あるSUVの中でも上出来だ。サスペンションが縮んだ時の底づき感をあまり感じさせない。

 コーナーで現れる突然の低ミュー路ではプッシュアンダー傾向となるが、旋回力を保っている。現実的にはあまり想定できないが、あらかじめリアを振り出すような走り方をするとすれば、適度なリアスライドを伴って4WDらしい走りができる。駆動力は前輪の負担割合が大きい設定だった。姿勢が一定しやすいのでドライブしやすいモードだ。

 今度はMUDモードを試す。スタート直後は結構ホイールスピンして路面を強く掻く。理由は泥濘地ではトラクションコントロールが効きすぎるとスタック状態から抜けられなくなってしまうために、発進時や低速では勢いよくホイールスピンさせる必要があるためだ。

 速度が上がるとホイールスピンは逆に抑え気味となり、その差は意外と大きい。ある程度滑りっぱなしになった方がコントロールしやすいが、MUDモードの目的は泥濘コースでのスタートだ。4輪に伝える駆動力は前後とも同程度がベースとなる。またSNOWではスリップを抑える制御になり、駆動力を確保するモードに入る。アクセルレスポンスも鈍くなり、雪道では効果的で安定感が大きいだろう。

 試しにTARMACモードで同じように走ってみた。極端に言えばFRのようにリアの駆動力が大きくなる感じだ。コーナーの立ち上がりではアクセルONで後輪が横滑りを始める。4つのモードでは最もアクセルレスポンスがシャープでキビキビと走る。GRAVELよりもアクティブだ。フロントには駆動力がかかっているので安定性は高い。今日のようなコースでは面白いようにダートでも振りまわせる。

 今回あえてESCをOFFにして極端な状態で走らせたが、それぞれ駆動力配分の違いが分かって興味深かった。

 アウトランダーは4輪をモーターで駆動する。路面に合わせた電気による駆動力を出すのは自在だ。それだけにドライバーにとって使いやすい制御、つまり操る楽しさを実現するのは作り手の感性が求められるため難しい。その点、三菱自動車はS-AWCの思想を継承して、駆動制御の面白さは十分に堪能できた。

 ブレーキタッチについても少し触れておこう。コントロール性ではTARMACではペダルストロークが短く、壁感が少し強かったが、GRAVELにするとストロークが少し大きくなりコントロールしやすく感じられた。制動力そのものでは約2.1tという重量を止めるには必要十分だった。

 それにしても強固なボディによる接地力の正確さ、サスペンションの追従性、そして大きなボディを自在に操れる視界のよさは群を抜いていた。

新型アウトランダーPHEVのオフロード試乗(4分13秒)

市街地と高速道路での実力は?

 久しぶりのダートドライブを満喫した後は市街地と高速道路でのインプレッションだ。サーキットやオフロードといった非日常の世界から現実に戻る。

 改めてスクエアなボディを持つアウトランダーPHEVに乗り込むと大きなシートを感じる。シートの前後長も長い。斜め後方も含めて視界がよく、四隅が把握しやすい。1860mmの全幅だがボンネットがよく見えて幅が分かりやすく、例えば駐車場のチケットを取るのも寄せるのは簡単だ。

 ハンドルは軽く正確だ。デュアルピニオンのEPSは重量級のクルマにふさわしい。ただ、個人的にはステアリングセンターからのビルドアップ感(徐々に重くなる感じ)と直進時のスワリがもう少し欲しい。アウトランダーはキビキビ走り、小気味よさを感じる。そしてアウトランダーの走りの質感もステップアップしていることを感じた。

 ハンドルのロック・トゥ・ロック2回転半強はホイールベース2705mmのSUVとしては小まわりが効き、クルマのサイズを見切りやすく狭い路でも取りまわしはよい。

 乗り心地はいたって快適。ラフロードでもサスペンションの上下動がよく抑えられているのを確認したが、舗装路でも段差の大きな路面や、いわゆる“ベルジャンロード”のような凹凸が連続する路面でもバネ上の動きは小さく、不快なショックはなかった。また郊外路で経験するようなカーブでの前後ロールはよくコントロールされており、乗員の横揺れも小さい。乗り心地は先代モデルから劇的に改善されおり、この面でも走りの質感もぐんと上がっていた。

 室内の静粛性は高いレベルで遮音性も優れている。もともとアウトランダーはEV走行が基本なので発進もバッテリ充電量が不足している場合を除いてエンジンをかけることはなく、スイと動き始める。またバッテリ残量が少なくなってエンジン始動した場合でも、エンジン振動と音はよく抑えられEV走行とのつなぎ目は曖昧だ。

 さらにモーターが発するインバーターノイズは心地よく電動車らしさを感じるが、自動車らしさもしっかり表現されており安心感がある。音に関してはキャビンが静かな半面、タイヤパターンノイズと風切り音が少し耳につく。同時に中高速ではキャビンの音圧が少し高まる傾向にあった。アウトランダーPHEVは静かなキャビンなだけに、わずかなことでも目立ってしまう感じだ。

 市街地での動力性能は十分で、強い加速が必要な場面でもレスポンスよく反応する。また回生ブレーキを積極的に使ったいわゆるワンペダルドライブもスイッチONで可能だ。慣れてくると便利なシステムだ。また高速での追い越しも市街地同様、レスポンスよく加速する。

 Mi-PILOTではクルーズコントロールを入れるとドライバーをアシストしてくれる。自分にとっては今や高速道路ではなくてはならない装備だが、アウトランダーPHEVの場合はアシストに徹してレーンキープにそれほど強い介入はしてこない。車線逸脱予防システムも組み込まれており、ステアリングへの軽い振動やレーン内に収まろうとする軽いブレーキを使うが、もう少し親和性が欲しい。さらに設定速度を道路標識から読み取って自動で切り替える、またはナビの地図情報から高速道路の分岐などで車速の自動調整も可能になったのは三菱自動車初の装備になる。

 大きな液晶画面に表示される情報はシンプルにまとめられ、ディスプレイへの表示も分かりやすくまとめられているが、深い階層にある必要なアイテムを手元のスイッチで簡単に呼び出せるといいと感じたが、それは次のジェネレーションに期待しよう。

 コンソールトレイに設けられたワイヤレス充電器、シートバックのスマホ入れ、カップホルダーをはじめとした小物入れも充実しており、リアシートのレッグスペースも十分に広い。3列シートはエマージェンシーシート以上のクオリティを持っており、2列目を少し前に出せばレッグルームも確保でき使えるシートだ。よくできた収納機構で畳んでおけばラゲッジルームは広大だ。

 大きな進化を遂げたアウトランダーPHEV。手応え十分で走りはもちろん、内外装の質も高く、背の低いクルマに魅力を感じる自分でも強く惹かれた1台だ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一