試乗レポート

ポルシェが手がけた高性能BEVの頂点、「タイカン」の実力

前年比2倍以上で911超えの販売

 急速に進む電動化の時代にポルシェが送り出したBEV(バッテリ式電気自動車)「タイカン」の反響は大きく、高性能BEVの世界でもひときわ存在感を発揮している。2021年のグローバル販売台数は、いずれも8万台超を達成した「マカン」と「カイエン」らSUVの2台に次いで、前年の2倍以上となる4万1296台を販売し、ついに「911」を上まわった。

 ポルシェはいまほど電動化が声高に叫ばれる前から、「918スパイダー」のようなスーパースポーツにもチャレンジしたり、カイエンや「パナメーラ」にはプラグインハイブリッドを設定してきた。何を隠そう、19世紀末にポルシェが最初に手がけた自動車がEVだったというのも知る人ぞ知る話で、理由が当時の内燃機関よりも性能面で優位だったからというあたりも実にポルシェらしいのだが、そのDNAは21世紀の現在まで脈々と受け継がれているようだ。

 ポルシェであることを強調するかのような独特のスタイリングは空力にも優れ、ポルシェ全車の中で最良となる0.22のCd値を誇る。高温となる排気系の配管が存在しない強みを活かし、アンダーフロアは完全フラット化され、大きなリアディフューザーを備えている。これに独自のアクティブエアロダイナミクスシステムやエアサスペンションによる車高調整機能を加えて、空気抵抗と揚力を抑えた理想的な空力効率を実現している。

今回試乗したのは「タイカン」の最上級グレード「ターボS」(2468万円)で、ボディサイズは4965×1965×1380mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2900mm。車検証によると撮影車の車両重量は2380kg(前軸重1170kg、後軸重1210kg)。なお、2021年のグローバル販売台数はマカンが8万8362台、カイエンが8万3071台、タイカンが4万1296台で、タイカンは3万8464台を販売した911を超える形となった
タイカンはひと目でポルシェと分かるデザインを採用し、足下は21インチ ミッションEデザイン ホイールにグッドイヤー「イーグルF1」(フロント:265/35ZR21、リア:305/30ZR21)をセット。ターボSの最高出力は460kW(625PS)で、ローンチコントロール時に最大で560kW(761PS)まで引き上げられる。最大トルク(ローンチコントロール時)は1050Nmで、0-100km/h加速は2.8秒

 あくまでドライバーを中心とし、走りに徹したことをうかがわせる端正なインテリアもポルシェならでは。1963年の初代911のシンプルなダッシュを現代に再現することを念頭にデザインしたというインパネに配されたメーターパネルは先進的にデジタル化されていて、ポルシェらしい走りを意識させる「パワーメータ」モードのほか、「マップ」および「フルマップ」モードや重要な情報のみを表示する「簡易」ビューの4つの表示モードから選択することができる。

 スイッチやボタンを極力廃し、タッチ操作やボイスコントロール機能を充実させた先進的なインターフェースが与えられており、助手席前にタッチディスプレイが設定されたのもポルシェ初のことだ。

インテリアでは、ドライバーの前方に3つの丸型メーターが組み込まれた湾曲した16.8インチディスプレイを装備するほか、ポルシェ コミュニケーションマネジメント(PCM)用の10.9インチセンターディスプレイ、さらに助手席用の10.9インチフロントパッセンジャーディスプレイを備えるなど、先進的なデザインが与えられる。なお、ポルシェジャパンはABBと共同で開発した「ポルシェ ターボチャージングステーション」を順次展開しており、国内でもっともパワフルな150kWの出力により、約30分で80%(走行距離300km分)まで充電することができる
フロントのラゲッジコンパートメント容量は81L、トランク容量は366L

 シートの素材は従来のようなレザー仕様や特殊ななめし処理を施したクラブレザーOLEAのほか、今回のレザーフリー仕様も用意されている。前席は高めのセンターコンソールにより、もともと低い着座位置がより低く感じられる。バッテリやインバーターの積載方法に工夫により、後席の居住性や荷室の広さもそこそこ確保されている。

注目すべきメカニズムの数々

 そんなタイカンは中身も注目すべき点が多い。その1つが、システム電圧を一般的なBEVの2倍となる800Vとしたことだ。これにより充電時間の短縮をはじめ、軽量化、ケーブルの設置スペースの削減を図ることができる。

 ターボおよびターボSに標準で搭載される93.4kWhもの大容量を誇る「パフォーマンスバッテリープラス」(タイカンとタイカン4Sは79.2kWhの「パフォーマンスバッテリー」が標準)は、極めて強固なハウジングに覆われており、選択した走行モードに基づいて徹底的に温度管理される。

 モーターには軽量かつ性能面で有利な同期式を採用しており、さらにリアアクスルに独自の2速トランスミッションを組み合わせた点も特筆できる。これにより強力な発進加速と最高速、航続距離との両立を図っている。

 通常時でも460kW(625PS)を発揮するという最強版のターボSだけあって、動力性能は圧巻そのもの。極めて力強く鋭い加速は、これまで何台も高性能BEVをドライブした経験のある筆者にとっても非常に印象深いものだった。

 スポーツ系モードを選択するとさらに瞬発力が増すとともに、エモーショナルなエレクトリックサウンドを楽しむこともできる。ワークスドライバーで試した結果、サウンドがあるほうが直感的にクルマの状況が伝わり上手く運転できることが判明したことから採用にいたったとのことで、けっして単なる「演出」ではなく、あくまで走りのための1つのデバイスということだ。

ポルシェが手がけた高性能BEVの頂点

 スポーツモードでは前後の駆動力もリア重視の配分となり、よりダイナミックなハンドリングを味わえる。アクセルオフにしたときの挙動も変わり、ワインディングでも立ち上がりだけでなくターンインでの曲がり具合を意のままにコントロールできる感覚が高まる。小さな舵角でぐいぐい曲がり、路面にすいつくようにコーナーをクリアしていく。それなりに車両重量があるにもかかわらず、応答遅れもなく極めて高い一体感とダイレクト感のある走りを実現しているのには本当に恐れ入る思いだ。

 せっかくなので2.5秒間オーバーブーストとなる560kW(761PS)までパワーアップするとうローンチコントロールも安全な場所で試してみたところ、とてつもない強烈な加速Gに驚愕! さすがは0-100km/h加速2.8秒を誇るだけのことはある。世界最速級のBEVでありポルシェが手がけた高性能BEVの頂点に位置するクルマが本気を出すとどれほどすごいものなのかを重々思い知った。

 ワインディングをドライブして痛感したのは、まぎれもなくポルシェであること。アクセルもハンドリングもすべてダイレクトで正確そのもの。どこにもスキのない操縦感覚は、これをひとたび味わってしまうと他に行きたくなくなるのもよく分かる。これまで内燃エンジンを搭載するポルシェに乗ってきたユーザーでも、すんなり受け入れられるに違いない。

 走りを支えるタイヤもとにかくたわみを生じさせないことを意識したであろうサイズと銘柄とされているようだが、こんなにペラペラなのに乗り心地がわるくないことにも感心した。大きな車両重量と強力な動力性能に相応しく、ブレーキも見るからに利きそうなものが与えられているとおり、制動性能のキャパシティも十分に確保されている。ブレーキペダルを踏むと最大265kWもの勢いで回生するというのも相当なものだ。

 見た目はあくまでポルシェらしく、走りはそれ以上にポルシェらしかったタイカン。ポルシェにとって、BEVの第1弾をどのような形で世に出すかは、いろいろな方向性が考えられたことと思うが、より多くの人に受け入れられるのはもちろん、このパッケージこそもっとも合理的にポルシェらしさを発揮できると考えたからに違いない。BEVもポルシェがやるとこうなる。そしてポルシェだからこそこうなったのである。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学