試乗レポート

ポルシェが作るEVはポルシェ足りえるのか? EVスポーツカー「タイカン」の実力やいかに

 2019年に日本でも発表された「タイカン」のハンドルを1年経過した時点で握ることができた。言うまでもなく、タイカンはポルシェ初のEV(バッテリー式電気自動車)。すでにポルシェは2015年にEVスポーツカーの開発を発表していたが、ポルシェが作るEVはポルシェ足りえるのか、強い関心がもたれた。早くもその5年後に実車を日本で乗れたのは僥倖だ。

 すでにEVの実力はテスラで証明済みだが、ポルシェと言えばスポーツカーの雄。速いだけではなく五感で感じるスポーツカーの、そしてポルシェならではのドライブフィーリングが求められる。

ポルシェはドライバーの心をよく理解している

 試乗したのは「ターボ」。さらにパワーのある「ターボS」もあるが、こちらはモーター出力は同じだが、フロントのインバーターの出力が高くなる。ターボは通常では460kW(625PS)の出力とローンチコントロール時には500kW(680PS)に跳ね上がり、それだけでも驚きだが、ターボSではさらに1割ほど出力も上がり、ローンチコントロールでは1000Nm(!)を超える瞬間トルクを出すことができるという。今回は公道試乗なので、そのパンチ力よりもポルシェらしいドライバビリティを確認することになった。

 タイカンのサイズは全長4963mm、全幅1966mmで、ドアミラーを入れると2144mmにもなる大きなクルマだ。ホイールベースも2900mmというミニバン並みの長さになる。

 WLTPでの航続距離は383km~452kmと発表されている。その距離とパフォーマンスを得るためにバッテリーは大容量の93.4kWhを搭載しており、車両重量は2305kgとなっている。それでもかなりの軽量化が図られており、部材もそうだがその知見はワイヤハーネスにも表れている。

今回試乗したのはポルシェ初のEV(電気自動車)「タイカン」のミドルグレード「ターボ」(2023万1000円)で、ボディサイズは4963×1966×1381mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2900mm。タイカン ターボの最高出力は460kW(625PS)だが、ローンチコントロール使用時は500kW(680PS)まで引き上げられる。「ターボ」の0-100km/h加速は3.2秒(ローンチコントロール使用時)、航続距離(WLTP)は450kmとアナウンスされている
自動展開式ドアハンドルは走行を始めるとボディとフラットになる
マトリックスビームを内蔵する4灯式LEDヘッドライト

 パーキングで待っていたタイカンはやはり大きい。駐車枠ギリギリに止まっているのを見た時は正直、そのサイズに少し気が重くなった。しかしハンドルを握ると、そこにはポルシェの世界が待っていた。少し薄く収まりのいいシートに座り、ドライビングポジションを合わせるとフロントフェンダーが盛り上がったいつもポルシェの視界が広がる。少し固めでポルシェと分かる握りの形状をしているステアリングホイール、5つ並んだメーターと共に「あ~、ポルシェだ」とホッとさせられる。

 確かにサイズは大きくホイールベースも長いので、狭い路地での取りまわしには注意しなければならないが、タイカンには4WSが備わっており、低速前進では逆相に入るために最小回転半径は予想よりはるかに小さい。4WSシステムは後進ではキャンセルされるので、バックでまごつくことはない。そして街中に乗り出すとポルシェのフットワークのよさがいかんなく発揮され、はるかに乗りやすいことが分かった。

 タイカンは前後アクスルに1個ずつのモーターを待ち、トランスミッションはフロントは1速、リアは2速の自動変速機能があり普通の走り方では後輪駆動で2速発進を行なう。まともにローンチコントロールを働かせればターボでも850Nmのトルクを吐き出すことができるが、普通にドライブしていればそんなお行儀のわるさはおくびにも出さない。本当に滑らかにスタートできる。

インテリアでは、ドライバーの前方に3つの丸型メーターが組み込まれた湾曲した16.8インチディスプレイを装備するほか、ポルシェ コミュニケーションマネジメント(PCM)用の10.9インチセンターディスプレイ、さらに助手席用の10.9インチフロントパッセンジャーディスプレイを備えるなど、先進的なデザインに仕上げられた。センターコンソールはタッチコントロール式を採用し、メニューバーからナビゲーションやApple CarPlayなどの設定を操作できる
丸型メーターではラップタイム計測や前後左右のGメーター、走行モードの表示などが行なえる
エアコンもタッチパネル式
キッキングプレートにはグレードが示される
ポジション選択はインパネに設けられるスイッチで行なう。
シートは前席はもとより、後席もホールド性を意識した造り。後席は6:4分割可倒式
フロントのラゲッジコンパートメント容量は81L、トランク容量は366L

 発進直後のトルクの出る早さはEV特有のもので、到底2300kgを超える車重のクルマとは思えないほどの滑らかさ。穏やかな特性のガソリン車と同じ感覚でスタートし、決して乱暴に飛び出すことのないマナーのよさがある。アクセルストロークが適度でいわゆる早開きしないのが好ましい。

 出力のコントロール、2速発進などは心憎いポルシェらしいセッティングだ。重量感を感じない滑らかな発進加速はタイカンの美点の1つに違いない。アクセルに対する出力は絶妙なバランスで乗りやすく、制御自在のEVの強みが活かされている。またアクセルを踏み込んだ時の加速力は強烈だが、あくまでもアクセル開度に応じて反応するので、スイッチのようなON/OFFの操作感ではない。ポルシェはドライバーの心をよく理解している。

 また、回生ブレーキはほとんどそれと意識させない。ワンペダルドライブも可能なEVらしい特徴よりもスポーツカー、ポルシェの持ち味を大切にした制御だ。ちなみに回生ブレーキの使い方を変更するパドルシフトも備わらない。減速はあくまでもブレーキペダルで行ない、前荷重を意識させることでリズミカルなドラインビングをサポートしようという配慮だろうか。

 しかしEVにとって回生は有効な武器。タイカンもブレーキペダルのタッチによって回生ブレーキが働く。通常のブレーキパッドによる制動力を発揮させる前に回生ブレーキで制動力を得ているのだ。しかし制御が巧みで、ドライバーにはこの違いはほとんど分からない。そしてブレーキフィーリングもストローク感があり制動力のコントロールも容易だ。

 ポルシェのブレーキは数あるスポーツカーの中でも絶品と言われているが、EVのタイカンも期待を裏切らない。重量級タイカンの制動力確保のためにブレーキにはフロント10ピストン(!)、リア4ピストンというアルミのモノブロックのキャリパーを備えている。タイカンに十分な制動能力を備える。

市街地では乗り心地とブレーキ、アクセルなどのドライバビリティが超一級

4人の大人がロングドライブしても疲れない広さと乗り心地を実現するタイカン

 そして素晴らしいのが乗り心地だった。硬さはあるもののゴツゴツしたものではなく、路面の状態を伝える程度の凹凸感。何よりもフロアの振動がなく絶妙なエアサスのチューニングも素晴らしい。抑制のある硬さはさすがと唸らされた。市街地では乗り心地とブレーキ、アクセルなどのドライバビリティが超一級であったことが感激だ。

 ちなみにタイヤはグッドイヤー「イーグルF1」で、フロントは265/35R21、リアは305/30R21という大きなタイヤを履いている。接地感、剛性ともにタイカンによくマッチしていたが、20インチ仕様もあり、荒れた路面でわずかに感じるゴツゴツ感がどのように収束するのか興味があるところだ。

足下はカーボンエアロブレード付きの21インチ Taycan Exclusiveデザイン ホイールにグッドイヤー「イーグルF1」(フロント:265/35R21、リア:305/30R21)の組み合わせ。ホイールの奥に覗くのはフロント10ピストン、リア4ピストのアルミニウム製ものブロックキャリパー

 後席についても触れておこう。つま先の入る余地は前席の上下高によって差が出るので一概には言えないが、一番下げても何とか入る。そしてレッグルームは余裕シャクシャクだ。ヘッドクリアランスにも少し余裕がある程度だが、4人の大人がロングドライブしても疲れない広さと乗り心地は備えている。取材中、後席のパッセンジャーからは「快適!」という言葉が何回も聞かれた。

 ハンドリングは都内と首都高速を軽く流した程度だが、低重心で重量物がホイールベース内に収まっているのでドライバーを中心として旋回するような感覚だ。ロールもよくコントロールされてステアリング操舵に応じてスーと旋回姿勢に入るのは、やはりポルシェならではの味だ。ドライバーとの一体感は素晴らしく、市街地で確認したサイズを感じさせないクルマの動きがそのまま高速道路でも実現されている。ライトスポーツのような軽快に駆け抜けるとはちょっと違うが、路面に吸い付くように走るというのはタイカンのためにあるような言葉だ。旋回中もピッチングなど感じない快適なドライブフィールはタイカンのポテンシャルを十分に感じさせた。

 そしてステアフィールはソリッド感を持たせながら適度に重い。この味付けもポルシェに統一されたもので、ポルシェ乗りならずともクルマに信頼を寄せることができる。

 ドライブモードは、距離を稼ぐレンジモードでは90km/hまでに規制されるが400km以上の航続距離が稼げる可能性がある。もっともレーシーなスポーツ プラスでは、車高を低くしてエアサスも硬め、スタビライザーもハード方向に変わる。それでも突き上げられるような感触はなくスポーツカーらしい節度のある硬さだった。

ドライブモードは「レンジ」「ノーマル」「スポーツ」「スポーツ プラス」「インディビジュアル」が用意され、足まわりの硬さや車高などが変更可能

 充電インフラもポルシェはEVインフラのリーディングカンパニーであるABBとタッグを組んで大容量充電設備の展開を行なっており、いつも大きなバッテリーへの充電時間が問題となるが、それに応じたインフラの整備も進んでいる。そしてタイカンは手に触るもの、見るもの、走らせて感じるものすべてがポルシェだった。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学