試乗レポート

“小さな高級車”アウディ「A1」、1.0リッターターボを積むベーシックグレードの実力をチェック

従来の1.5リッター4気筒ユニットとどう違う?

最もシンプルな「スポーツバック 25 TFSI」に試乗

 今という時代の御多分に漏れず、特にSUVモデルのバリエーションが急拡大中のアウディ車のラインアップ。加えて、このブランド初の量販ピュアEV(電気自動車)「e-tron」が日本への上陸をスタートさせた直後というタイミングもあり、このところはEVモデルのプロモーションを目にする機会も増えている。

 一方で、これらすべてのアウディ車のベーシックモデルに位置付けられるのが、初代モデルが2010年に誕生した「A1」。今回紹介するのは2018年に登場し、日本では翌2019年末にまず新開発の直列4気筒1.5リッター直噴ターボエンジンを搭載するバージョンから発売された現行型に、2020年夏になって追加設定された直列3気筒1.0リッター直噴ターボエンジンを搭載したモデルである。

 従来型での販売実績を踏まえて、2代目となる現行型でも「この先セールスの主力になっていく」と目されるのが、ベーシックなパワーユニットを搭載した1.0リッター・バージョン。そこに設定された3種類のグレードの中から、今回の取材では300万円切りの価格で用意されることも話題の最もシンプルな「スポーツバック 25 TFSI」をチョイスした。

今回試乗したのは6月に導入された1.0リッターのTFSIエンジンを搭載する「A1 スポーツバック 25 TFSI」(294万円)。ボディサイズは4040×1740×1435mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2560mm。日本に導入されるA1は全車2WD(FF)の設定で、車両重量は1170kg、最小回転半径はいずれのモデルも5.1m
2代目となるA1 スポーツバックは、初代モデルと比べ全幅を維持しつつ全長は55mm長く、全高は10mm高くなり、ホイールベースも95mm延長されている。試乗車の足下は5アームスタースタイルの15インチアルミホイールにブリヂストン「ECOPIA EP001S」(185/65R15)の組み合わせ

 もっとも、シンプルとは言ってもそこはプレミアムブランドであるアウディの作品。用意されたテスト車が、ホワイトのボディにブラックルーフを組み合わせたコントラストルーフや、LEDヘッドライトや流れるウインカーを含むLEDリアコンビネーションランプなどから構成される「LEDパッケージ」といった見た目のエクスクルーシブ感を高めるオプションを装着していたこともあり、その佇まいはA3やA4といったこのブランドの中核を成すモデルに見劣りしない存在感が演じられている。

 特に、パネル間のチリの小ささやプレスラインのシャープさといった見た目の質感を決定付けるポイントは、「さすがはアウディ」と言いたくなる高い水準の仕上がり。ひとことで言えば、いわゆる“小さな高級車”感が漂う1台でもある。

美点と気になるポイント

 そんなアウディ車らしいエクスクルーシブな一面を見せる一方で、同じブランドであっても遥かに高価な上級モデルを見慣れた目からすると、率直なところインテリアの質感や装備面で”?”と思える部分が存在するのもこのモデルの現実ではある。

 例えば、このグレードに標準装備されるヘッドライトは、プレミアムブランドの作品としては想定外(?)のハロゲンバルブ方式。トランスミッションには7速DCTを採用する一方で、パドルシフトの装備がないという点に意外性を感じる人は少なくないだろう。

 インテリア各部の作り込みのレベルの高さでは定評のあるアウディ車だが、このモデルの場合は上質なソフトパッドで構成されるのはダッシュボードのアッパー部分のみで、それ以外のパートは硬質樹脂が基本。これもやはり「期待に反する」と感じる人は存在するはずだ。

A1ではセンターコンソールを運転席側に傾けた造形を採用。撮影車はスピードメーター、タコメーター、マップ、ラジオ/メディアといった情報を表示できる「Audiバーチャルコックピット」を装備

 加えれば、機能上は問題ないことが確認されているに違いないものの、リアのホイールスポークの間から”ブレーキドラム”が目に入る点も、個人的には「ちょっとがっかりなポイント」になることとなった。

 一方で、全長わずかに4m少々とコンパクトさが売り物のモデルでありながら、大人4人分が実用的に確保された居住空間と、外観から察するよりもボリュームに富んだラゲッジスペースが用意されるのは見逃せない部分。後席でのニースペースはさすがにややタイトであるものの、実際に身を委ねてみるとフロントシート下へと足先が楽に入ることでさほど窮屈さは感じないし、ラゲッジスペースのフロア高が想像以上に低く、見た目以上に大きな荷物を余裕をもって飲み込んでくれることになるのである。

2代目となる現行A1ではホイールベースの延長に伴い、乗員の居住空間と合わせてラゲッジスペース容量が上がり、335L(VDA値)を確保。リアシートを格納することで1090Lまで拡大することも可能

 A1シリーズの場合、アウディが得意とする4WDシャシー(クワトロ)の設定がないのは、大多数の軽自動車が4WD仕様を設定するなど、コンパクトカーにもその需要が少なくない日本の特性を考えると、やはり残念と言わざるを得ないポイント。

 それでもコンパクトで実用性に富んだ欧州車が欲しい、となった場合、文句ナシで有力リストに載るであろうことは間違いない1台がA1というモデルなのである。

振動面でもノイズ面でも4気筒ユニットに劣る感覚はなし

 日本に導入されるA1が搭載するのは、前述のように追加モデルながらこの先の本命と目される1.0リッターの3気筒と、導入当初から採用されてきた1.5リッターの4気筒という、2タイプのターボ付きガソリン直噴エンジン。欧州向けのトランスミッションにはこのカテゴリーではまだ主流とも言えるMTも用意される一方で、日本仕様ではアウディがSトロニックと呼ぶDCTとの組み合わせ一択とされている。

 1.2t弱という車両重量に対して、95PSの最高出力と175Nmの最大トルクゆえ、その動力性能は「特に不足は感じない一方で、ゆとり溢れる印象でもない」というのが現実だ。それよりも印象的なのは、3気筒ユニットでありながらも、そのハンディキャップを実感させられる場面はほとんど存在しないということ。すなわち、振動面でもノイズ面でも4気筒ユニットに劣るという感覚は、全くと言っていいほどに抱かされることがないのである。

直列3気筒DOHC 1.0リッター直噴ターボエンジンは最高出力70kW(95PS)/5000-5500rpm、最大トルク175Nm(17.8kgfm)/2000-3500rpmを発生。WLTCモード燃費は15.2km/L

 こうした好印象は、アクセルの踏み込みに対してまずエンジン回転のみが上昇し、速度の伸びが追い付かないというCVTのような違和感が存在しない、トランスミッションの特性によるところも関係がありそう。一方で、微低速時のわずかなアクセルワークに対して、多少ギクシャクした動きを意識させられる場面もあるのは、今度はDCTならではのマイナス点ということにもなりそうだ。

 こうして、動力性能面に関しては功罪が半ばするベーシックなA1の走りの印象。そして、それはフットワークのテイストに関してもまた同様だった。

 コンパクトカーにもかかわらず剛性感に富み、しっかり感が飛び抜けて高いボディは、このモデルの美点の代表格。走りのシーンや路面に関わらず常に4輪の接地感が高く、結果として〝コンパクトカー離れ”した走りの安心感が味わえるのも、まずはいかにも堅牢なボディに依存しているという印象が強い。

 一方で、やや気になったのはファミリーカーとして考えると、少々硬質に過ぎる感覚が伴う乗り味。そんなテイストを「ドイツ車らしい」と好意的に受け取ることもできそうだが、特別なスポーツモデルではなくコンパクトでベーシックなハッチバック・モデルと考えると、今一歩のしなやかな乗り味を実現してもらった方が一般受けはよくなりそうだ。

 確かに、実用性や価格の安さのみに価値を見出すというならば、日本メーカーの作品を中心に異なる選択肢も見つかりそう。けれども、クルマは自らのライフスタイルを表現するアイテムでもあり、ブランドイメージにもこだわりたい……と、そんな視点からコンパクトカー探しを始めるにあたっては、がぜんショッピングリストの上位へと顔を覗かせそうなアウディ A1なのである。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式のオリジナル型が“旧車増税”に至ったのを機に入れ替えを決断した、2009年式中古スマート……。

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Photo:中野英幸