試乗レポート

12月に改良された新型「CX-5」、アクセルペダル踏力3Nの変更が生み出した新たな乗り味とは

改良前と改良後のCX-5を実際に乗り比べて感じたポイントを解説

12月3日に改良が行なわれたCX-5、改良前との乗り比べを行なった。ボディサイズに変更はなく4545×1840×1690mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2700mmのまま

エンジン特性の変更とATの改良

 初代「CX-5」に搭載されたエンジン「スカイアクティブD」の走りはディーゼル車のイメージを大きく変えた。さらに、魂動デザインのスタイリッシュな容姿と軽快な走りは、世の多く人がSUVに抱くイメージを変えた。ひいてはCX-5の出現はマツダ自体のイメージをも大きく変えた。

 2017年に登場した2代目も、その価値をしっかりと受け継いでいる。マイナーチェンジという概念を廃し、随時よいものを商品改良として加えていくというマツダの姿勢も定着してきた。現行型もスカイアクティブやGVC(G-ベクタリング コントロール)の進化版の投入にとどまらず、この3年あまりでターボやオフロードトラクションアシストなどを新たに加えた。そして2020年12月、またしてもひとつの節目となりそうな大きな改良が施された。

 改良ポイントのひとつは「マツダコネクトの最新版(通称:マツダコネクト2)」への差し替え。新たに横長のディスプレイが与えられたのは一目瞭然だが、表示の仕方を含めてどのように変わったのかはあらためてじっくり試すとして、今回はもうひとつのポイントである走りの改良について、売れ筋のスカイアクティブDの新旧を乗り比べて感じたことをレポートしたい。

これまで7インチから8インチへと拡大されてきたディスプレイだが、今回は10.25インチワイドへと拡大された(グレードにより8.8インチの設定もあり)
スマートフォンから鍵やハザードの操作などが行なえるようになった
緊急コールボタンも追加され、24時間いつでもサポートしてもらえる(別途費用が必要)

 伝えられているのはエンジン特性の変更とATの改良だ。スカイアクティブ-D 2.2の最高出力は10PS増の200PSとなり、発生回転数が4500rpmから4000rpmに下がり、3000-4500rpmの領域の全開トルクの向上が図られている。加えて、スカイアクティブ-D(6速AT)搭載車では、エンジンとトランスミッションの制御技術をアップデートし、アクセル操作に対する応答性をより高めるとともに、アクセルペダルの操作力の最適化により加減速をより意のままにコントロールできるように改善したという。

改良されたスカイアクティブD(左)、改良前のスカイアクティブD(右)。制御によるアップデートなので見た目に変化はない。出力が10PS増えているが燃費は16.6km/l(WLTCモード)で改良前と同じ値をキープしている

歯切れのよいシフトチェンジ

 その変わりぶりは、乗ってすぐに違いを直感し、乗るほどによさを実感できるほどのインパクトがあった。走り出しの動きからしてぜんぜん違って、改良版はスッとよりスムーズに加速する。さらには、レスポンスがリニアになったエンジンとダイレクト感の増したATの相乗効果とともに、GVCの制御もより自然になり、正確に狙ったラインをトレースしていけるように感じられた。

 ATの変速制御は、DCT(デュアルクラッチトランスミッション)に近づいたと表現すると伝わりやすいだろう。シフトチェンジの歯切れがよさは従来とは段違い。思ったとおりに素早くシフトチェンジしてくれるので、運転していて気持ちがよい。それでいて基本はトルコンATなので、DCTにありがちなギクシャク感もない。DCTのよい部分だけもらって、ATとDCTのよいトコどりをしたような印象だ。従来の仕様もわるくはなかったが、乗り比べるとトルコンがスリップする感覚があり、シフトチェンジがルーズな感じがして、タコメーターの針の動きもぜんぜん違うことが分かる。ハードとしては同じまま、制御の変更だけでここまでできる余地があったとは驚きだ。

改良後のCX-5 XD BLACK TONE EDITION(4WD)

 スカイアクティブDは、アクセルペダルを軽く踏み増したときにも要求したトルクをそのとおりに生み出してくれる。そして3000rpmを超えてからの吹け上がりが伸びやかになり、低回転域はリニアで力強く、高回転域では回して楽しめる感覚がさらに高まっている。そのあたりディーゼル先進国である欧州勢はさすがのものがあり、彼らのように排気ガスをキレイにする為の「アドブルー」を使わないと難しいように感じていたのだが、それを使うことなくここまでできたマツダには恐れ入る思いである。

改良前のCX-5 XD Exclusive(4WD)も同じシチュエーションで比較走行を行なった

 同じ道で乗り比べた旧型も、当時としては精いっぱい努力したことがあらためて伝わってきたものの、やはり踏み始めとアクセルオフ時に応答遅れがあり、あるところからグンとトルクが立ち上がる傾向があり、アクセルオフにしても前に進もうとする力が残る感じがするのに対し、改良版はそれがない。パーシャルから踏み増した際に見受けられたコツンという軽いショックも解消している。

 さらに高速道路で、5速固定で1500rpmあまり、車速にして約60km/hからの緩加速を試みると、従来型はエンジン回転が上がりゴロゴロとした音だけ大きくなって加速がついてこないのに対し、改良版はついてくる。こうしたちょっとした部分のドライバビリティの向上も、実際にドライブする際の乗りやすさに寄与してくれるに違いない。

市街地から高速道路で比較試乗してフィーリングの違いをチェックした

核心はアクセルペダルにあり!?

 この走りのよさに大きく効いているのが、アクセルペダルの改良だと聞いて驚いた。担当のマツダ 井上氏によると、従来より約3N重くしたことで、こうなっているというのだ。

 エンジン特性がリニアになりペダルがこうなるとアクセルを踏みすぎなくなる。するとステアリングもゆっくり操作するようになり、手の動きがGVCになる。ドライバーがゆっくり正確に操作することでGVCの入り方が変わり、オーバーシュートしにくくなって、修正舵の量が減る。それはドライバー自らがつくっているものであって、クルマではない。結果として、なめらかで上手な運転ができるようになるというロジックだ。なんと、改良版に乗って即座に感じた多くのことに、この新しいアクセルペダルが効いていたと知って目からウロコの落ちる思いがした。

「SUVでありながら、楽しく走れて価格もお手頃。これだけ慣熟、洗練された人間と1対1になれるクルマは他にない」と、マツダ株式会社 商品本部 主査 松岡英機 氏
「人間は不思議なもので、アクセルペダルがわずかに重くなったことにもしっかり反応して、その結果ブレーキやステアリング操作にも変化が現れるんですよ」と、マツダ株式会社 パワートレーン開発本部 走行・環境性能開発部 井上政雄氏
アクセルペダルの踏力特性グラフ。横方向がアクセルペダルの作動角で、キックダウンスイッチが作動する辺りまでで足首の可動域の約15度を使っている。そもそも足首は90度ほど動くが、シートに座った状態でもっとも無理なく足首を動かせる範囲がだいたい15度だという
改良されたペダルと従来のペダル。内部のスプリングのバネレートが変更されたのみで外観上ではまったく同じ
今回アクセルペダルの踏力を重くするきっかけになったのが、足だけの筋肉で考えるのではなく、アクセルペダルを踏んだ直後に加速が始まることで、人間は無意識に体を支えようと腹筋や首の筋肉も使用していることに着目。これらの動きを同調させることで1つのリズムとなり、よりクルマと人の一体感も増すと考えたからだという。そこからさらに研究し、実際に筋肉から出る電気信号なども計測しながら、いろいろなペダル踏力を試してみた結果、3Nほど増やしたペダル踏力が最適だったという。まさに驚きの研究である

 加えて、ブレーキとの踏み換えもしやすくなったように感じたのは、結果的にブレーキペダルと同程度の力具合になったからだという。また、従来のペダルは、長時間ドライブすると足首の角度を保つのが疲れるように感じたことがあるのだが、それも払拭されるのではないかと思う。

 駆動方式による違いは、やはり2WDのほうが軽快感はあるが、フラットライド感やしっとりとした感覚のある4WDのほうが全体のバランスはよいように感じた。また、新設定の特別仕様車「BLACK TONE EDITION」の精悍なルックスは個人的にも好み。座面と背面にグランリュクスを用いた柔らかでフィット感のよいシートも好印象だ。

シート自体のフィット感も向上していた
今回の商品改良では、走行性能と利便性の向上による「走る歓び」の進化が行なわれたというが、アクセルペダルの踏力の変更、AT制御、エンジン制御を最適化したことで、結果的にドライバーのステアリング操作にも影響を及ぼし、走り全体が向上した

 既存モデルについても手を休めることなく継続的に商品改良していく、このところのマツダの姿勢はたいしたものだと常々感じているが、今回のCX-5の改良は、見た目はまったく同じでも中身はまさに別物で、予想以上の変化に驚かされ、大いに感心した次第である。

当日はスカイアクティブDを搭載した2WDのCX-5 XD ExclusiveModeも試乗させてもらった

【お詫びと訂正】記事初出時、ペダル踏力の単位を【Nm】と誤って表記しておりました。正しくは【N】となりますので、お詫びして訂正させていただきます。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一