試乗レポート
12月に改良された新型「CX-5」、アクセルペダル踏力3Nの変更が生み出した新たな乗り味とは
改良前と改良後のCX-5を実際に乗り比べて感じたポイントを解説
2020年12月30日 11:30
エンジン特性の変更とATの改良
初代「CX-5」に搭載されたエンジン「スカイアクティブD」の走りはディーゼル車のイメージを大きく変えた。さらに、魂動デザインのスタイリッシュな容姿と軽快な走りは、世の多く人がSUVに抱くイメージを変えた。ひいてはCX-5の出現はマツダ自体のイメージをも大きく変えた。
2017年に登場した2代目も、その価値をしっかりと受け継いでいる。マイナーチェンジという概念を廃し、随時よいものを商品改良として加えていくというマツダの姿勢も定着してきた。現行型もスカイアクティブやGVC(G-ベクタリング コントロール)の進化版の投入にとどまらず、この3年あまりでターボやオフロードトラクションアシストなどを新たに加えた。そして2020年12月、またしてもひとつの節目となりそうな大きな改良が施された。
改良ポイントのひとつは「マツダコネクトの最新版(通称:マツダコネクト2)」への差し替え。新たに横長のディスプレイが与えられたのは一目瞭然だが、表示の仕方を含めてどのように変わったのかはあらためてじっくり試すとして、今回はもうひとつのポイントである走りの改良について、売れ筋のスカイアクティブDの新旧を乗り比べて感じたことをレポートしたい。
伝えられているのはエンジン特性の変更とATの改良だ。スカイアクティブ-D 2.2の最高出力は10PS増の200PSとなり、発生回転数が4500rpmから4000rpmに下がり、3000-4500rpmの領域の全開トルクの向上が図られている。加えて、スカイアクティブ-D(6速AT)搭載車では、エンジンとトランスミッションの制御技術をアップデートし、アクセル操作に対する応答性をより高めるとともに、アクセルペダルの操作力の最適化により加減速をより意のままにコントロールできるように改善したという。
歯切れのよいシフトチェンジ
その変わりぶりは、乗ってすぐに違いを直感し、乗るほどによさを実感できるほどのインパクトがあった。走り出しの動きからしてぜんぜん違って、改良版はスッとよりスムーズに加速する。さらには、レスポンスがリニアになったエンジンとダイレクト感の増したATの相乗効果とともに、GVCの制御もより自然になり、正確に狙ったラインをトレースしていけるように感じられた。
ATの変速制御は、DCT(デュアルクラッチトランスミッション)に近づいたと表現すると伝わりやすいだろう。シフトチェンジの歯切れがよさは従来とは段違い。思ったとおりに素早くシフトチェンジしてくれるので、運転していて気持ちがよい。それでいて基本はトルコンATなので、DCTにありがちなギクシャク感もない。DCTのよい部分だけもらって、ATとDCTのよいトコどりをしたような印象だ。従来の仕様もわるくはなかったが、乗り比べるとトルコンがスリップする感覚があり、シフトチェンジがルーズな感じがして、タコメーターの針の動きもぜんぜん違うことが分かる。ハードとしては同じまま、制御の変更だけでここまでできる余地があったとは驚きだ。
スカイアクティブDは、アクセルペダルを軽く踏み増したときにも要求したトルクをそのとおりに生み出してくれる。そして3000rpmを超えてからの吹け上がりが伸びやかになり、低回転域はリニアで力強く、高回転域では回して楽しめる感覚がさらに高まっている。そのあたりディーゼル先進国である欧州勢はさすがのものがあり、彼らのように排気ガスをキレイにする為の「アドブルー」を使わないと難しいように感じていたのだが、それを使うことなくここまでできたマツダには恐れ入る思いである。
同じ道で乗り比べた旧型も、当時としては精いっぱい努力したことがあらためて伝わってきたものの、やはり踏み始めとアクセルオフ時に応答遅れがあり、あるところからグンとトルクが立ち上がる傾向があり、アクセルオフにしても前に進もうとする力が残る感じがするのに対し、改良版はそれがない。パーシャルから踏み増した際に見受けられたコツンという軽いショックも解消している。
さらに高速道路で、5速固定で1500rpmあまり、車速にして約60km/hからの緩加速を試みると、従来型はエンジン回転が上がりゴロゴロとした音だけ大きくなって加速がついてこないのに対し、改良版はついてくる。こうしたちょっとした部分のドライバビリティの向上も、実際にドライブする際の乗りやすさに寄与してくれるに違いない。
核心はアクセルペダルにあり!?
この走りのよさに大きく効いているのが、アクセルペダルの改良だと聞いて驚いた。担当のマツダ 井上氏によると、従来より約3N重くしたことで、こうなっているというのだ。
エンジン特性がリニアになりペダルがこうなるとアクセルを踏みすぎなくなる。するとステアリングもゆっくり操作するようになり、手の動きがGVCになる。ドライバーがゆっくり正確に操作することでGVCの入り方が変わり、オーバーシュートしにくくなって、修正舵の量が減る。それはドライバー自らがつくっているものであって、クルマではない。結果として、なめらかで上手な運転ができるようになるというロジックだ。なんと、改良版に乗って即座に感じた多くのことに、この新しいアクセルペダルが効いていたと知って目からウロコの落ちる思いがした。
加えて、ブレーキとの踏み換えもしやすくなったように感じたのは、結果的にブレーキペダルと同程度の力具合になったからだという。また、従来のペダルは、長時間ドライブすると足首の角度を保つのが疲れるように感じたことがあるのだが、それも払拭されるのではないかと思う。
駆動方式による違いは、やはり2WDのほうが軽快感はあるが、フラットライド感やしっとりとした感覚のある4WDのほうが全体のバランスはよいように感じた。また、新設定の特別仕様車「BLACK TONE EDITION」の精悍なルックスは個人的にも好み。座面と背面にグランリュクスを用いた柔らかでフィット感のよいシートも好印象だ。
既存モデルについても手を休めることなく継続的に商品改良していく、このところのマツダの姿勢はたいしたものだと常々感じているが、今回のCX-5の改良は、見た目はまったく同じでも中身はまさに別物で、予想以上の変化に驚かされ、大いに感心した次第である。
【お詫びと訂正】記事初出時、ペダル踏力の単位を【Nm】と誤って表記しておりました。正しくは【N】となりますので、お詫びして訂正させていただきます。