試乗レポート

ジープ初のプラグインハイブリッド車「レネゲード 4xe」、その実力は?

欧州の電動化を鑑みて開発

 コロナ禍の中にあっても業績の好調ぶりが伝えられるジープの末弟、日本でも人気の高いエントリーモデルの「レネゲード」にプラグインハイブリッド車「4xe」が設定されたことにはちょっと驚いている。背景には日本にいるとあまりピンと来ないのだが、欧州では凄まじい勢いで電動化が進んでいることが挙げられる。そこで、あまり電動化のイメージのないジープもなんとかしなければと考え、白羽の矢を立てたのが、登場から約5年が経ったレネゲードだったわけだ。なお、同車はイタリアで生産され欧州と日本では販売されるが、アジアなどの新興国や北米には導入されない。

 システムの内容は、前輪の駆動と発電を担う1.3リッターエンジンと、前後2基の独立したモーター、6速AT、リチウムイオンバッテリーで構成される。フロントモーターはエンジンとの相乗効果のほか高電圧ジェネレーターとして機能し、リアには60PS、250Nmのモーターを備え、状況に応じて後輪を駆動する。急速充電には対応していないが、満充電で最長48kmのEV走行が可能となっている。

 最高出力が191PSでWLTCモード燃費が17.3km/Lの「リミテッド」と、同239PSで16.0km/Lの「トレイルホーク」の価格差はわずか5万円で、電動パワーシートの有無やタイヤ銘柄など装備もいろいろと差別化されている。

ジープ「レネゲード リミテッド 4xe」。価格は498万円。ボディサイズは4255×1805×1695mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2570mmと、基本サイズは従来と変わらない
7スロットルグリルを特徴とするフロントフェイス
235/55R17サイズのブリヂストン「TURANZA T005」を装着
内装も標準モデルとほぼ変わりがない
ブラックのレザーシートが標準
「レネゲード トレイルホーク 4xe」。価格は503万円。ボディサイズはリミテッドよりも全高が30mm高い4255×1805×1725mm(全長×全幅×全高)
タイヤは235/55R17サイズのグッドイヤー「Vector 4 Seasons」
トレイルホークには悪路走破性の高さを示すエンブレムが装着される
レネゲード トレイルホーク 4xeの内装
エンジンはどちらも直列4気筒 1.3リッターターボエンジンを搭載。最高出力がそれぞれ異なり、リミテッドは96kW(131PS)/5500rpm、トレイルホークは132kW(179PS)/5750rpmとなる。最大トルクはどちらも270Nm(27.5kgfm)/1850rpm。フロントに発電用の、リアに駆動用のモーターを配置し、リアモーターは60PSの出力を発生させる
助手席側リアフェンダー部分に給電口を配置
給油口は運転席側リアフェンダー部に配置
急速充電には対応しておらず、普通充電のみの設定。約4時間で満充電できる。フルEVモードでの航続距離は48km、WLTCモードハイブリッド燃費は16.0km/L

静かで滑らかな走り

 横浜みなとみらいで開催された試乗会では、両グレードに加えてガソリン車とも乗り比べることができた。車検証の記載によると、リミテッド同士で車両重量はガソリン車の1440kgに対し4xeが1790kgと350kg重く、内訳は前軸重が890kgと980kg、後軸重が550kgと810kgとなっている。

 4xeの外観はいくつかのバッヂにブルーのアクセントが入る以外はほぼガソリン車と同じで、ラゲッジは向かって右側に充電機構を搭載するため、サブトランク右側の容量が30Lぐらいマイナスとなるが影響は小さい印象だ。スペアタイヤはラゲッジフロア下に置かれる。インテリアには電動走行関連の情報を表示するハイテクなディスプレイ類が設置されているほか、ATセレクターの前側に配されたダイヤルではトラクションコントロールを行なう「セレクテレインシステム」の切り替えや、ハイブリッドモード、エレクトリックモード、E-SAVEモードという3つのドライブモードの選択が可能となっている。

装着するJeepやRENEGADE、4exといったバッヂにブルーのアクセントカラーが付与される
ラゲッジはフロア右側に充電機構を搭載するため少しえぐれたような形状をしているが、それでも十分な広さを確保している
シフトノブ前側に「セレクテレインシステム」の切り替えダイアルや、ハイブリッドモード、エレクトリックモード、E-SAVEモードという3つのドライブモードの切り替えスイッチを配置
セレクテレインシステムを切り替えるとメーター内にアニメーションが表示される
インパネ中央のディスプレイでは、ハイブリッドシステムのパワーフローが確認できる

 走ってみてまず感心したのが、非常に静かで走りが滑らかなことだ。エンジンがあまりかからないからだけではなく、もしかかってもほとんど気にならず、タイヤの発する音の侵入も小さく、電気的な音も気にならない。ガソリン車は路面のざらつきを拾いやすく、段差を乗り越えたあとの振動の収束が遅いのも気になる。4xeはいろいろ手当されたことが効いているに違いない。

 ガソリン車と乗り比べると、やはり350kgの重量増を感じるわけだが、それをできるだけネガティブに感じさせないよう足まわりをチューニングしたり、ステアリング操舵力を軽くしていることがうかがえる。加えて4xeにはスロットルレスポンスとステアリングをシャープにし、より走りを楽しむこともできるようにしたスポーツモードが専用に追加されたのもポイントだ。

モード選択による違いは?

 ハイブリッドモードで走ると、本当に必要なときしかエンジンをかけないことが印象的。走るほど走行可能距離の表示はもちろん減っていくが、バッテリーがある程度残った状態でごく普通に走っていると、ほぼモーターで後輪を駆動する状態が続く。そして強めの加速を要求するとエンジンがかかり、モーターとエンジンの合わせ技で加速する。リミテッドの動力性能はやや控えめな感もあるのに対し、48PSも出力値の大きいトレイルホークはずっと走りが快活な印象を受ける。

 E-SAVEモードにすると、アクセルをちょっとでも踏んでいればエンジンをかけてバッテリーをためようとするが、アクセルオフにするとエンジンを回しっぱなしにせず止めるよう制御する。あくまで「CHARGE」ではなく「SAVE」するのが目的というわけだ。なお、スポーツモードを選ぶとE-SAVEモードにすることはできなかった。

 エレクトリックモードはバッテリー残量がないと選ぶことができず、バッテリーがある限り粘り、アクセルを踏んでもエンジンがかからないので、速さはそれなり。ところが、エレクトリックモードでもスポーツが選べて、エンジンをかけない中でも、めいっぱいモーターのみで速く走らせようとする設定になっているのが興味深い。130km/hまでEV走行可能とのことで、バッテリーさえあれば高速巡行もけっこうイケる。

 アクセルオフでの減速の強さは2段階で調整できる。ブレーキフィールも自然な仕上がり。フロントモーターは発電してバッテリーに電気を送るが、回生はリアのみで行なっているらしく、おかげでブレーキフィールへの影響も小さいように思う。

 制御も含め実にユニークなシステムで、いったいジープはどうやってこうしたPHEVのノウハウを得たのかも気になるところ。セレクテレインシステムのドライブモードは悪路走破性を高める各種モードが選択可能で、「LOCK」モードに加えて、トレイルホークにはさらに「ROCK」モードも設定されている。モーターで走行モードを制御するとのことで、それがどういうものなのか機会があればぜひ試してみたい。ジープがこうした独創的で先進的なPHEVを世に送り出したことに驚き、感心させられた次第である。

 そして気になるのはやはり、リミテッドとトレイルホークのどちらを選ぶべきか。価格がほぼ同じで、高出力エンジンやパワーシートなど、お互いどちらか他方では選べないものがあるから難しい。FCAとしてはリミテッドのほうが売れると見込んでいるらしく、筆者もレネゲード4exを買うならリミテッドを選びそうだが、トレイルホークのこの雰囲気と速さも魅力的で捨てがたく、本気で悩みそうだ……。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:和田清志