インタビュー

ジープの最高責任者、クリスチャン・ムニエ氏に聞く「レネゲード 4xe」日本導入の理由や電動化モデル今後の展望

「日本の電動化に対する潜在性は極めて大きい」

 FCAジャパンが導入を開始したジープ「レネゲード 4xe」。なぜジープは電動化を目指すのか。また、なぜ日本にレネゲード 4xeを導入したのか。FCAジープブランドの最高責任者(FCA Global President of Jeep Brand)であるクリスチャン・ムニエ氏がオンライン取材に応じた。

ルビコン・トレイルを走破するレネゲード 4xe

FCA Global President of Jeep Brand クリスチャン・ムニエ氏

 インタビューの冒頭、ムニエ氏は「電動化はジープの戦略です。それはコンプライアンスの観点からももちろん重要ですが、それだけではありません。このテクノロジーを活用してわれわれの製品をよりエキサイティングに、より性能の高いものに、そしてより楽しいものにしていきたいと考えているのです。そのために、オンロード、オフロードの能力もさらに強化していきたいですし、電動化であっても航続距離はしっかりと確保していくことも目指しています。そういった意味では、われわれのエンジニアに対しては非常に多くのチャレンジを与えており、それに応えてくれてこういう製品に繋がったわけです」。

「先日、ラングラー 4xeの試乗をルビコン・トレイルと呼ばれる世界で最もチャレンジングな場所で行ないました。そこでこのクルマは、悪路の中でも完璧な性能を発揮し、ラングラーの中でもかつてないほど素晴らしい成績を上げることができました。特にフル電動モードは静粛性を発揮し、とてもエキサイティングだったのです。オフロードにおいてこの静粛性を担保し、静かに運転できるというのは素晴らしいアドベンチャーでもあります」と、レネゲード 4xeについてコメントした。

ラングラー 4xeは十分な悪路走行性も備える

──では早速おたずねします。レネゲード 4xeを開発するにあたり、最も実現しなければならなかったことは何でしょう。

クリスチャン・ムニエ氏:電動化したジープを作るにあたり難しかった点ですが、CO2を削減するためにさまざまな必要とされる要因をしっかりと組み合わせることでした。さらにより強い性能も達成しなければなりません。最大トルクが大きくなりますからさまざまな強化も必要ですし、オンロード、オフロードのいずれにおいても性能を発揮させることも重要です。つまりオンロードだけ、オフロードだけなど、一方だけ良いということではなく、両方を高いレベルで実現することが最もチャレンジングなことでした。

 また、完全な電動での走行距離を50km達成することも大事です。その結果非常にエキサイティングなレネゲードを実現することができたのです。

重量増はメリット

──ガソリンモデルと比較して300kgほど重くなりましたが、悪路走破性においてこの重量増はメリットなのでしょうか、それともデメリットなのでしょうか。

ムニエ氏:これは正しい重量の“かけ方”だといえます。つまり、重心がより低くなりますので安定性に寄与しているというメリットが大きくあります。さらに走破性に関しても4×4のシステムを改善し、より強化しましたので、これもメリットが大きいですね。また、重量をカバーする意味でも十分なトルクを発揮しています。そういうことを考えると、いいバランスが取れていて、重量そのものが問題になるということはありません。

──つまり電動化はレネゲードの走行性能において内燃機関より有利に働くということですか。

ムニエ氏:実際に乗り比べてもらうとよく分かるのですが、すぐに4xeがエキサイティングであることが分かるでしょう。実際にトルクやパワーの面では50%以上アップしているので、加速が強力になっています。また、クロールレシオも非常に良くなりましたので、オンロード、オフロードのいずれにおいても大きく改善されています。

プラグインハイブリッド化することで、ガソリンモデルに比べてリミテッドで350kg、トレイルホークで290kgの重量増となり、これが安定感などのメリットに繋がっているという

ジープの価値をさらに高める電動化

──では、電動化は今後のジープにとってマストなのでしょうか。

ムニエ氏:答えは完全にイエスです。これは絶対にしなければいけないもの、そうあるべきものです。ジープにとってより多くのシーンを提供してくれるものであると思っています。そして、われわれのDNAをベースにしながら、さらに築きあげられるバリューでもあります。このクルマはもともととてもエキサイティングですし、非常に高い性能を持っていますので、さらにそれを伸ばし、グリーン化も進められますので、これは絶対になければいけないものなのです。

 また、ブランドの価値をさらに高めてくれることにもつながります。このクルマに乗ってオンロード、オフロードをしっかりと運転してみてください。そうするとジープの価値、コアバリューである自由、情熱、本物を感じ取ってもらえるでしょう。そして電動化によってさらにこうした価値が倍増されていくのです。ですからこのクルマは非常にエキサイティングで、ワクワク感も増えるということなのです。

 そう、われわれのビジョンは世界の中で最もクリーンなSUVになることなのです。

電動化はさまざまなソリューションでフルライン化

──一方で、世界的に厳しくなる燃費規制をこの先ジープのような大型SUVがクリアすることは非常に困難なことのようにも思います。欧州のCAFEのCO2排出量95g/kmのような厳しい規制をどのように対応しようと考えていますか。

ムニエ氏:われわれはこれに関してはしっかりと対応しており、実現もしてきています。その理由はよいエンジニアがいるからなのです。CO2排出量の値もクリアしていますし、きちんと法令遵守し、目標であるコンプライアンスもしっかりと担保されています。また、電動化というのは色々な異なるソリューション、BSG、マイルドハイブリッド、ハイブリッド、プラグインハイブリッド、レンジエクステンダー、ピュアEVなどを提供できますので、素晴らしいとも感じています。そういった意味で、電動化というものは製品の幅を広げてくれるものですから、小さなジープから大型のジープに至るまで、それぞれのソリューションで対応が可能になるということです。

 そして、ジープは向こう数年間のうちに全てを電動化することに取り組んでおり、これはわれわれの明確なコミットメントです。なぜかというと、そこにわれわれの未来があり、それを信じているからなのです。これは必ず実現していきます。

これから多くの電動化モデルが登場

──それでは、今後ジープブランドで電動化が予定されている車種と時期について可能な範囲で教えてください。また、何年後を目標に電動化率を何%引き上げる、あるいは何%達成するかなど、具体的な数字があれば教えてもらえますか。

ムニエ氏:もちろんそういった計画はあるのですが、いまここで詳細の全てを語るわけにはいきません(笑)。すでにわれわれは電動化に関しては、4モデルを発売しています。中国においては「グランドコマンダー」を2019年にデビューさせています。また、レネゲードのほかに「コンパス」をヨーロッパで出しており、このレネゲードは日本でも発売しました。そして「ラングラー 4xe」を今年の終わりから年頭にかけてアメリカとヨーロッパ、そして中国において出す予定です。

 日本でもそういった車種について、需要があれば応えていきます。われわれは顧客主導を取っていますので、当然お客さまの需要があり、そしてそこにディーラーがあり、また当然のことながらビジネスケースに見合ったものである限り、しっかりと実行していくことにしています。全体としてはあらゆる市場で電動化は進めていく予定です。

 そして、向こう2~3年の間に常に多くの電動化のコンポーネントを備えたクルマが出てくるでしょう。そうしたモデルにはさまざまな異なるテクノロジーが採用されます。純粋なEVや、マイルドハイブリッドをはじめとしたさまざまな電動化技術が搭載されます。われわれは強いコミットメントを持ってこうしたものに取り組んでいますので、来年にはかなりの数のモデルが出てくる予定です。具体的にいつ、どのモデルかについてはここでは述べられませんが、間もなく出てくるでしょう。

 そして、このレネゲード 4xeは日本では成功すると確信しています。こうした機会を活用しながら、さらに向こう数か月の間に多くの電動化のジープを導入する予定です。日本のチームと連携し、全面的にサポートしながら進めていこうと思っています。

ヨーロッパではレネゲード(左)のほかに、コンパス(右)の4xeも導入されている

──ところで、主力車種である「グランドチェロキー」はデビューしてから10年以上がすでに経過しています。そろそろ次世代モデルかなと思うのですが、これに関して電動化は考えていますか。

ムニエ氏:もちろんです。新型グランドチェロキーはまずアメリカで2021年に登場するでしょう。それから他のマーケットへも展開される予定です。

レネゲード 4xeを先に導入した理由

──コンパスとレネゲードの両方に4xeがありますが、日本にレネゲードを先に導入したのはなぜですか。

ムニエ氏:レネゲードはジープの売上のうちの30%を占めており、そういった意味で日本では大変重要なモデルです。日本チームとしても色々なマーケティング上の観点から、どの程度成功するのかなども見据えて計画を進め、さまざまなオプション(選択肢)を睨みながらこのような決断を下したのです。もちろん将来的にはコンパス、ラングラー、グランドチェロキーなどいろいろあります。

 現在、日本の電動化に対する潜在性は極めて大きく、大きなプレゼンスがすでにありますので、この市場の適性に合わせた形で計画を進めていきます。いずれにせよ、お客さまに満足してもらえる形で進めるのがわれわれの取り組み姿勢です。そのうえで、日本における電動化を真剣にサポートしていきたい。これは極めて重要で、われわれが会社としてどうありたいかを表すものに他ならないのです。つまりこれはわれわれの戦略でもあるのです。

──確かに日本ではコンパスよりもレネゲードの方が売れていますが、アメリカは逆にレネゲードよりもコンパスの方がたくさん売れています。この日米の逆転現象についてどのように考えていますか。

ムニエ氏:その点については2つの要因があると考えています。マーケットという観点では、アメリカにおいてB-SUVのラインアップは比較的少ないのです。一方、日本では非常に多いので、日本市場の成熟性が挙げられます。小さなSUVに人気があるということですね。次にこの2つのモデルを比較してみると、特徴が異なるということがいえます。レネゲードはゴツゴツ感というか、ボックス的なラングラーとデザイン的には似たような特徴を持っています。一方、コンパスはより洗練されて都会的、モダンでグランドチェロキーと少し繋がるようなイメージがあります。日本においてラングラーはある種カルト的な人気がありますので、レネゲードを見た時にミニラングラー、その兄弟のような感じもありますので、そうした印象も手伝っているのかもしれません。それによって、レネゲードが非常に成功している理由になっていると思います。

──FCAとPSAの合併により電動化が加速されたり、より小さなSUVが追加されたり、またブランドの個性の強化など、ジープブランドのクルマ作りが変化していくことは考えられますか。

ムニエ氏:この点については先日の業績発表の際に、PSAの合併については2021年の第1四半期の終わりまでにはクローズするという話をしました。したがってわれわれは予定通りに動いているということです。このシナジーは非常に強固なもので、ブランド全体にとってもジープにとっても大きな効果があると見られています。それ以上は現在合併に向けての準備のまっただ中なので詳細については触れません。いずれにせよ来年、また合併後に話ができる機会があると思っています。