インタビュー

新型「N-ONE」のタイムレスデザインとはなにか? 初代と“見た目そっくり”になった理由を開発責任者に聞く

2020年11月20日 発売

159万9400円~202万2900円

11月19日に発表された(発売は20日)新型N-ONE。初代のイメージを濃く引き継ぐ外観になった理由を開発責任者に聞いてみた

 ホンダは11月20日にフルモデルチェンジした新型「N-ONE」を発売する。新型N-ONEの情報は「発表会レポート」「写真で見る」を公開しているが、こちらでは新型N-ONE、最大の特徴ともいえる初代のN-ONEのデザインを踏襲した「タイムレスデザイン」について、開発者からのコメントを紹介していこう。

発表会終了後、改めて新型N-ONE開発時の話を伺った
タイムレスデザインを採用した新型N-ONE。フルモデルチェンジとなればスタイルが大きく変わるのが常だったが、そうではなく、初代N-ONEのデザインのイメージを「そっくり」と思うほど強く引き継いだ仕上げは、いままでにはなかったアプローチだ
新型N-ONEの開発責任者 本田技研工業株式会社 四輪事業本部 ものづくりセンター の宮本渉氏

 では、新型N-ONE開発責任者、宮本渉氏のコメントを紹介していこう。ちなみに宮本氏は普段の足として初代N-ONEに乗るN-ONEオーナーであった。

 その宮本氏はまず「NシリーズのフォーメーションにはN-BOXがありN-WGNがあり、そしてN-VANもあります。この状況をドライにいうと“N-ONEの役目はもう終わった”ともなるわけでした。実際、ホンダ内部でもN-ONEを終わらせる内容の議論があったことは確かです」と新型N-ONEが企画段階でシビアな立ち位置になっていたと説明。

 加えて「新型N-ONEを作るにしても現在のNシリーズ同様、第2世代のプラットフォーム、エンジン、トランスミッションなどを引き継ぐことになるので、機能的なトピックになるものはありません。それにデザインでN-ONEらしさを継承していくにしても、初代のときとは一部法規が変わっているところがあったので(詳細な変更点は語られなかった)そこをクリアさせつつ、デザインの継承をしていく必要があったのです。まあ、この対応は可能ですが、その法規を通すだけの対策をしたデザインを現在すでにある機能と組み合わせただけで発売しても、“そのクルマはお客さまにとってメリットがあるのか?”という根本的な疑問もありました」と語った。新型N-ONEの企画については開発者の立場からも考えることがあったようだ。

 しかし、その状況であっても新型N-ONEは発売された。かなり旗色がわるかったN-ONEがどうしてその危機を脱したのか、これは多いに気になるところである。

 この点について宮本氏は以下のように説明をした。「N-ONEはホンダ初の乗用車であるN360を受け継ぐクルマとして開発されてきたクルマです。そのため現場では継続の意見もあり、さらに経営陣からも“流れを途絶えさせてしまうのはいかがものか”という意見が出たのです。そしてわれわれに“なんとかしなさい”という声が掛かりました」と経営陣から起死回生のひと言があったことを教えてくれた。

ホンダN360からの流れを受け継ぐN-ONE。新型の開発に疑問が出ていたところに「流れを止めるな」という指示が経営陣から出たという

 こうして続くことになったN-ONE。開発陣は新しいN-ONEに「ユーザーには最新の安全、安心の性能を持つクルマを提供すること。さらに燃費のよさ、環境へのやさしさなどの要素も載せつつ進化させる」ことを目標とした。このあたりの詳細は発表会記事でも紹介していると思うのでこちらでは割愛するが、このほかにもう1つ大事なことと捉えていたのが「ユーザーがN-ONEに思い描くもの」に対してどう考えていくかということ。これが徹底的に議論されたという。

 そしてたどり着いたのが「タイムレスデザイン」である。繰り返しになるが新型N-ONEのデザインは初代N-ONEと非常に似ているのだが、宮本氏はこれを「変えることが目的のFMCではN-ONEらしさがスポイルされてしまいます。だからデザインを含めて開発時に意識したのは守るところは守って、変えないところは変えないということ。この考え方こそがN-ONEがN-ONEといわれる由縁であり、それを実践した結果が新型N-ONEのデザインなのです」と解説した。

 ちなみにデザインの検討段階ではタイムレスデザインという前提があったうえでも、見た目に「変わった感」を出すためいろいろなトライもしているとのこと。人を中心にしたパッケージということを表現したミニマルシルエットということを念頭に置きつつ、新しいN-ONEらしさを模索していったが、やればやるほど本質としてのN-ONEらしさがなくなっていったという。そして違和感を修正していくと「初代N-ONEのデザインに戻るような感じだった」とのコメントもあった。こうしたことから宮本氏は「初代N-ONEはN-ONEらしさの完成形なのだと思います」と初代のデザインを表現した。

デザイン検討段階の資料。N-ONEのイメージを残しつつ、さまざまなデザインが制作されていた。新しさより一番大切にしたかったのはN-ONEらしさだった

タイムレスデザインにより、乗り込んだときもN-ONEらしい「包まれ感」を継承

 前記したように宮本氏が普段から乗っているのは初代のN-ONEである。そこで初代N-ONEオーナーとしての立場からのコメントもいただいたのでその点も紹介していこう。

 宮本氏は「私のファーストカーはN-ONEです。初代なのでHondaSENSINGは付いていませんが、そのほか機能や走り、装備でN-ONEに不足を感じていることはありません。でも、開発時はあの赤いクルマ(会場に展示してあった新型N-ONE、試走時は擬装もしていたという)に仮ナンバーを付けて関東エリアをかなり広範囲にグルグルと走りましたが、HondaSENSINGが付いているので高速道路ではACC(アダプティブクルーズコントロール)やLKAS(車線維持支援システム)が有効に使えて快適なクルマであることが確認できました」と走りの印象を語った。

最新のHondaSENSINGが付いたので安心、安全がより強化された。加えて運転支援の機能も付いてロングドライブがますます快適なクルマになった

 さらに「初代N-ONEの室内は運転するには“ほどよい空間”なんですね。狭すぎず広すぎずでちょうどいいのです。この点は新型N-ONEにも引き継がれていますが、それは単に運転席と助手席の間隔やヘッドクリアランスが適切だといったことだけでなく、乗車した状態で感じるフロントガラスの傾斜やAピラーの太さ、角度、さらドアガラスとの距離などがちょうどよく、そういった部分からの“包まれている感じ”があって、乗り込んだときにとてもしっくりくるのです。それに新しいN-ONEでは前席シートがセパレートになっているので、そのホールド感もあわさって“ほどよい”と感じられます」と語った。

 広々とかタイトでスポーティとかではなく「ほどよい」と表現する室内空間はインテリアデザインの効果によるものでもあるだろうが、そもそも外側のカタチがあってこと。エクステリアデザイン案の話に出たように「初代N-ONEはN-ONEらしさの完成形」であったことがインテリアデザインにも大いに影響を与えたということだろう。

宮本氏は「室内の広さでいえばN-BOXのほうがだんぜん上ですが、N-ONEは包まれ感のあるちょうどいい空間を持つクルマです。そんな居心地のよさにHondaSENSINGなどの最新デバイスが搭載されてくると、1人や2人で移動する空間としては高級車まで含めてもベストなんじゃないかと思うのです」と新型N-ONEのインテリアを表現した

 前モデルからがあまり変わっていないというフルモデルチェンジはかなり珍しいことではあるが、N360からの流れを受け継ぐN-ONEというクルマは開発陣の言うように、変えることを目的にしたフルモデルチェンジを行なうクルマではないと思う。この点について最後に宮本氏は「フルモデルチェンジなんだから変わっていることを期待される方も多いと思います。だから“変わっていないよね”という声が出ることは十分承知していました。いろいろな意見も真摯に受け止めることにしています。だけどたくさん考えたうえでのタイムレスデザインです」とまとめてくれた。