インタビュー

ランボルギーニの最新モデル「ウラカンSTO」はどのようなモデルなのか? キーパーソン3名にインタビュー

開発背景や狙い、ターゲット層、ラインアップの位置付けまで

11月18日に発表された「ウラカンSTO」

 伊ランボルギーニは11月18日、V10モデル「ウラカン」の最新モデルである「ウラカンSTO(スーパートロフェオ・オモロガータ)」を発表した。

 その名の通り、レーシングモデルの技術やノウハウをフィードバックして市販車としたSTO。搭載する自然吸気のV10エンジンは、最高出力640PS、最大トルク565Nmを発生。車重は1339kgと軽量で、0-100km/h加速3.0秒、0-200km/h加速9.0秒、最高速度310km/hを発揮する後輪駆動モデルとなる。

 11月20日、都内の「THE LOUNGE TOKYO」での発表会にあわせて、STOデビューのキーパーソンである3人の担当者にオンラインで話を伺った。

レベルの高いレースカーレプリカを作りたいと思った

ランボルギーニの最高技術責任者マウリツィオ・レッジャーニ氏

 最初に話を聞いたのは、ランボルギーニの最高技術責任者マウリツィオ・レッジャーニ氏だ。氏は1982年からマセラティでエンジンを担当し、1995年にブガッティに移籍してあの「EB110」のパワートレーンを担当。1998年にムルシエラゴのプロジェクトリーダーとして同社に入り、その後12気筒のアヴェンタドールや10気筒のガヤルドの製品主導技術を監督。2006年から現職となっている。

――まず、STOという名前はスーパートロフェオ・オモロガータ、つまりウラカンのレース車両であるスーパートロフェオのストリートバージョンという理解でよいですか?

マウリツィオ氏:名前に関してはその通りですが、STOはレースカーの単なる認証版といったことではなく、本当にいろんな使い方ができるクルマになっています。デイリーに使えるし、究極のサーキット上の走行を存分に楽しんでいただける信頼性の非常に高い、パフォーマンスを最大限に発揮できるクルマです。

――STOデビューのきっかけや狙いを教えてください。

マウリツィオ氏:ウラカンSTOですが、レースカーの非常にレベルの高いレプリカを作りたいと思いました。デイトナで3回優勝した素晴らしいクルマがありますので、そのデザインを踏襲してサーキットでも普通の路上でも楽しんでいただけるようなクルマを作るという狙いがありました。

 強力なレースカーや速いクルマを作るには、2つ~3つのパラメータが必要だと思っています。まず最初に速いコーナリング。それには空力と軽量化が必要で、パワーを最大限に出しながらいかに軽量化し、ブレーキ性能を高めていくか。そしてシャシーのコントロールを最大限に発揮していくといったところが大切です。このSTOですが、空力性能を最大限にするため最先端の私たちの最高技術を使っており、抵抗ドラッグもかなり軽減しました。コーナーも非常に高いスピードを保ってクリアできます。

 そして、今回初めてF1の技術を踏襲したCCM-Rというブレーキシステムを導入しました。これはカーボンファイバー製のブレーキで、極めて軽量かつパワフルで最大限のパフォーマンスを発揮します。同じクルマ、同じドライバーという設定で、一方では通常のセラミックブレーキ、もう一方ではCCM-Rの新しいテクノロジーのブレーキでテストしたところ、CCM-Rの方が9%速いという結果が出ました。

 つまり、パフォーマンスにも直結しますし、卓越したパフォーマンスになり、そして信頼性も高まる。このCCM-Rのブレーキによって、2時間運転し続けても、フィーリングや信頼性はとても安定しています。

 一方で、日常でも十分に使っていただけます。通常の道路の渋滞でも挙動は従来のブレーキシステムとまったく違いなく、安定したブレーキ性能を楽しんでいただけるのです。ただ新しい素材ですので、アグレッシブに走行している時は、それ相応にダンピングなども出ますが、気温、気圧に応じて臨機応変に調整することができます。

 そしてもう1つの重要な柱ですが、パフォーマンスを上げるために、軽量化も図りました。乾燥重量は1339Kgで、カーボンファイバーを非常にたくさん採用しています。英語でclamshell、cofangoと呼んでいるものですが、カーボンファイバーを使って、車体も一体化させて統一したデザインを作りました。チタン、マグネシウムも使っています。

 そしてまたレースカーを踏襲したところが、ルーフ、センターフィンです。F1のようなデザインを施すことで、走行時の安定性を保っています。

センターフィン

――ストリート仕様にするにあたって、スーパートロフェオのどこをどのように変えることで、日常でも使えるクルマに仕上がったのでしょうか。

マウリツィオ氏:ストリートホモロゲーテッド、ストリートバージョンということなので、パラメータを変えました。ドライブモードを選択することによっていろんな運転の仕方ができます。「STOモード」「トロフェオモード」「ピアッジャモード」の3つがあり、STOモードだったら通常の柔らかい快適な乗り心地、そしてレースモードにしますと非常に反応が早い、加速も早い、そしてサスペンションやダンピングも剛性が高いようなモードとなります。ですのでストラーダでは快適な走り、一方でレースモードを採用すれば非常に硬い、素早い俊敏な走りを楽しんでいただいて、富士スピードウェイや鈴鹿サーキットでも十分楽しんでいただけます。

モードセレクター

STOモード
トロフェオモード(TROFEO)
ピアッジャモード(PIOGGIA)

――STOの巨大なウイングがトピックになると思うんですけども、その性能というのはストリートバージョン用としてレース用のものと変更された点がありますか。

マウリツィオ氏:リアウイングですが、レースカーバージョンと今回のSTOでは全く違うもので、STO独自のターゲットロードに合わせてリアウイングを設計・デザインしています。ユーザーは3つのポジションから選ぶことができて、それぞれバランスが違いますが、ロードディストリビューション、前後配分もそれで変わることになり、オーバーステアからアンダーステアのバリエーション、範囲の中からお客さまに選んでいただけます。ドラッグを減らすことによってダウンフォースも500Kg~250Kgまでを達成していて、ドラッグも空力性能も優れているということです。

リアウイング

――ラップタイムなどはどうでしょう。どこかのサーキットで何分だったとか具体的な数字がありますか?

マウリツィオ氏:このクルマの開発を始めたときにエンジニアのチームにタスクを与えました。このSTOのラップタイムを比べるとしたらどういう風に比べたらいいのか、参考とするモデルはどうしたらいいのか、ということで、考えたのはV10でも最速を誇っていた「ペルフォルマンテ」と比べたらどうかとかいろいろと考えました。

 シミュレーションを行ない、サーキットはデイトナを選びました。なぜかというと3年連続デイトナで勝ったという実績がありますし、24時間というのが私たちにとってもアイコン的なレースであったからです。2019年の予選のラップタイムは、STOはGT3のポールポジションを取った時のラップタイムよりもわずか2秒遅かっただけという結果が出ました。この時はスリックタイヤでしたが。

いろいろ比較対象となったウラカン・ペルフォルマンテ

 一方、ペルフォルマンテとスピードを比較してみると、それよりも3秒速いという結果を打ち出しました。それを聞いたときに私は本当に信じられなかったんですが、実際私もサーキットで走行して「あぁ、このクルマは速いんだ」と確信しましたし、プロだけではなく一般のドライバーが運転してもこの速さは出せると。ミィティアもジョバンニも運転しましたが、3人共々同じく実感しています。

 STOはただ単に大きなウイングですとか、スポイラーを付けたクルマということではない。まったくゼロからエンジニアリングをしたクルマですし、スクアドラコルセ、スーパートロフェオGT3の、今までの私たちの経験値をすべて凝縮させて作った唯一無二の製品ですので、とても大切ですし、それは乗っていただけたら必ず感じていただけると思います。

日本のオーナーはカラフルな色を好まれる

ランボルギーニ・チェントロスティーレ(デザインセンター)デザイン部門 ミィティア・ボルケルト氏

 次に話を聞いたのは、ランボルギーニ・チェントロスティーレ(デザインセンター)のデザイン部門を率いるミィティア・ボルケルト氏。ドイツ出身で1999年にスタイル・ポルシェに入社。2014年にエクステリアデザインのディレクターに就任し、パナメーラ、ボクスター、カイエン、マカンなどの開発に貢献。2016年にランボルギーニへ移籍し、レッジャーニ氏のもとで、今後のモデルのデザインや同部門の指揮を担当している。

――STOのデザインで、ストリートバージョン用としてレース用のものと変更した点を教えてください。

ミィティア氏:このクルマは世界中のどの国でも認証が下りる、路上で運転できるようなクルマです。つまりサーキット走行も、そして通常のどこの世界の道でも運転できます。デザインはとても美しくてクールではあるのですが、例えばボンネットを開けるとそこにはサーキット用のヘルメットを入れることができたりして、クルマの中に入ると日常使いに十分な装備が詰まっています。最高なパフォーマンスをもってコーナリングができるような、レースでも十分楽しめるようなクルマである一方、通常の道路でも運転して、それも各国の認証に合致したクルマである、というのが特徴です。

 レースカーのレプリカでもあるのですが、いろいろなランボルギーニらしい色を選んでいただける選択肢がたくさんあるのが特徴で、アドペルソナムで設定している350色以上の中からお好きな1色を選んでいただいて美しいボディを楽しんでいただけます。

――350色もあると、どれを選んで良いか迷ってしまいそうですが、ミィティアさんの考えるSTOにふさわしい色というのは何色だとお考えなんでしょうか。

ミィティア氏:お客さまの選択肢をもう少し簡単にしてあげたいと私たちも考えているところなのですが、ただこのSTOのローンチ、アンヴェーリングするときには、われわれは「Blu Laufey」と呼んでいるんですけれども、美しいブルーで最初のクルマをアンヴェールしようと思っています。

 セカンダリーカラーは、ランボルギーニのレースカーのDNAでもあるオレンジです。その後プレスの皆さまに乗っていただくクルマですとか、一番最初のお客さまにオファーするクルマなどもいろんな色を設定して本当に美しいバリエーションにしていきたいと思ってます。エレガントな色ももちろんありますし、本当に美しい色ばかりで見るたびに胸が高鳴ります。

 また、われわれは日本のマーケットのお客さまが大好きでして、非常にカラフルな色を好まれるので、日本のマーケットではどんな色が売れるのかなと思っており、個人的にもデザイナーとして楽しみにしています。

STOはEVOの後継モデルではないが主力の存在になる

ランボルギーニ・チーフコマーシャル・オフィサー ジョヴァンニ・ペロシーノ氏

 最後は、チーフコマーシャル・オフィサーのジョヴァンニ・ペロシーノ氏だ。トリノ大学でビジネス・経済学の学位を取得後、1991年にミラノの広告代理店でキャリアをスタート。2001年フィアット、2010年VW、2014年アウディに続いて2020年1月から現職に就いている。

――今回のSTOは特殊なモデルかと思っていたんですが「EVO」との棲み分けはどうなるのでしょう。これはEVOの後継モデルと考えた方がいいんでしょうか。

ジョヴァンニ氏:V10セグメントとしてのオファリングがランボルギーニとしてあるのですが、このV10のオファーの中で今後2年間、STOを使ってさらに高い販売台数を目指して行こう、販売台数をさらに引き上げるためにSTOを使っていこう、といった考えはあります。

 けれどもV10の中でSTOだけではなく、今まで大成功を収めてきたEVOモデルも今後継続していきます。なのでSTOが後継車ということではないのです。まったく違うクルマ、と見ております。ただ、今後の販売台数を牽引する存在としてはEVOに代わってこのSTOがその役割を担っていくと思っています。

――STOの購入者層や、購入にあたって、ドライバーの技量的な条件などはありますか。

ジョヴァンニ氏:特にこのターゲット層、ドライバー層を特定しているわけではありません。やはり重要なのはクルマを運転することを楽しむ方々です。そういった「fun to drive」を求めている方にターゲットを当てています。

 このクルマは、トップドライバー、最高技術を有するドライバーの方ももちろんサーキットで楽しめるようなテクノロジーが詰まっていますけれど、一方でプロのドライバーでない方でもきちんとサポートをすることにより、自分があたかもプロのドライバーのテクニックを身につけたかのような走りを楽しんでいただくことができます。

 つまりスーパースポーツカーを運転できる方でしたらどなたでも楽しんでいただけます。プロドライバーでしたら最高のパフォーマンスを引き出していただけますし、プロでない方でも十分に技術、テクニックを楽しんでいただけるクルマです。

誰でも運転できるスーパースポーツカー

 私たちがターゲットとして見ているのは、やはりSTOが成功するには、ペルフォルマンテでもそうだったようにプロドライバーの世界だけではなく、もっと幅広いターゲット層にリーチしていくということが大切と思っています。女性ももちろん大歓迎です。

――そうとなると、このSTOは大体何台ぐらい売れるのか、何台くらい製造しようとお考えなのでしょうか?

ジョヴァンニ氏:STOは限定車ということではないので限定生産とは考えておりません。過去を見てみますと、ペルフォルマンテに関してはV10のセグメントではもっとも成功したクルマだと思っています。そのペルフォルマンテの成功を見ながらそれを超えていきたいと思っています。販売台数に関してもそれを十分超えるような成功をSTOで遂げたいと思っています。

 ですから2021年~2022年にかけて、このSTOに関してはV10の中では大事なボリュームを導いていくようなモデルだと位置付けております。

 ただ、大切なのは、販売台数のターゲットは高く掲げますが、実際のお客さまの需要よりも少し少なめに設定して絶妙なバランスを保ちたいと思っているという点です。お客さまの需要よりも少し少なくすることによって、私たちのブランドの価値も保てますし、投資も守れます。そしてまたお客さまの「このクルマが欲しい」という要求をさらに加速していただけるのかなと思っています。

 また補足ですが、ランボルギーニの全世界の売上のうち日本のマーケットは8%を占めます。でも心情的には日本はもっともっと高いマーケットシェアをランボルギーニの中で保っています。私たちランボルギーニのスタッフは、日本のマーケットが大好きですし、最高のお客さまが日本にいると思っていますので、ハートのマーケットシェアはもっと高いと思ってください。