インタビュー

ホンダの新型「N-ONE」には、なぜ6速MTが搭載されたのか? 開発陣に聞いてみた

その他にもエンジンやCVTの新たな制御機能なども質問

2020年11月20日 発売

159万9400円~202万2900円

新型N-ONEのRSグレードに設定されたDOHCターボエンジンと6速MT。初代N-ONEになかっただけでなく、第2世代のNシリーズにおいても初の組み合わせとなる

 11月20日に発売される新型「N-ONE」には、初代N-ONEのときから待望されていたDOHCターボエンジン+6速MTというパッケージが用意されていた。しかも新型N-ONEにも採用されているNシリーズの第2世代プラットフォームでは初のターボエンジン+6速MTである。そこで本稿ではこの組み合わせがこれまでなかった理由と、このタイミングで登場した理由を新型N-ONE開発者に聞いてみた。

 新型N-ONEの6速MT仕様は2020年1月に開催された東京オートサロンのホンダブースにも参考展示されていたので「出るんだ」と期待を持っていた人も多かったのではないだろうか。そして9月11日に公開された事前情報では2WD(FF)モデルにターボエンジン+6速MTのRSグレードがあることが明記された。N-ONEにターボ+MTの組み合わせは初代の頃から待望されていただけに9月の発表は話題になった。

答えていただいたのは新型N-ONE開発責任者である本田技研工業株式会社 四輪事業本部 ものづくりセンター の宮本渉氏

「N-ONEにスポーティなMTモデルが欲しい」という声があったことは開発の現場にも届いていたようで、新型N-ONE開発責任者の宮本渉氏は「初代N-ONEのころからMTモデルが欲しいという声を多くいただいていました。それがバックボーンとなって今回の6速MT採用が実現しました」と語った。

 では、なぜ初代N-ONEでMTの設定がなかったのか? その理由を聞いてみると「それはプラットフォームの都合でした。簡単に言えばMTを搭載することを想定した設計にしていなかったということです。それでも載せようと思えば載せることは可能でしたが、それを実現するにはエンジンルームへの付帯工事が発生するので、そこまでしてMTを追加するというのはなかなか難しいものであります」と説明した。

 その初代に対して新型N-ONEはというと「第2世代プラットフォームも基本はCVT用ですが、第2世代のNシリーズにはMTの需要も多い商用のN-VANが計画されていました。そのためNA車限定ですがMTを載せることも計画されていたのです。また、S660もミッドシップレイアウトでありますがターボ+MTという仕様が存在しています。これらのモデルがあることで2つのハードがある程度できあがっていたということです。それらの素材やノウハウを新型N-ONEに使っていくことで、新型車ながらまったくのゼロからのスタートとはならずに済むので、MT車設定が実現しやすい状況だったのです。それに加えて初代N-ONEでいただいていた声があったので“やるなら今だよね”となったわけです」と語った。つまりN-VAN、S660という前例、そしてMT車の設定を望んだユーザーの声によって新型N-ONEの6速MT搭載が実現したということである。

N-VANのNA+6速MTや、S660のターボ+6速MTというベースがあったから実現することができたN-ONEのターボ+6速MTだったという

 この点についてさらに詳しく聞いてみたところ、宮本氏は「MTを積むにあたって重要なのがエンジンルームの作りです。N-VANでは第2世代のNシリーズ用NAエンジンに6速MTを組み合わせていますが、NAは最高出力も控えめです。それに対してターボエンジンでは例えば回転を上げてバンッとクラッチを繋いだときなど、急激なことをするとエンジンは大きく揺れます。Nシリーズは軽自動車なのでエンジンルーム自体は狭いので、その中でエンジンが大きく暴れるといろいろと不都合が生じます。そこでクラッチワークで発生する衝撃を抑えるため、新型N-ONEの6速MT車にはクラッチペダルの急激な操作時にクラッチ継合速度を低下させてトランスミッションへの衝撃入力を軽減させるピークトルクリミッターを組み込んでいます。これはわれわれ側にとっても重要な機構ですが、お客さまにとっても、クラッチが扱いやすくなったり、クラッチミート時の衝撃を抑えたりというメリットがあるものです」と答えてくれた。

ターボのような出力のあるエンジンで激しいクラッチワークをするとエンジンの振れが大きくなるが、エンジンルームが狭いので、対策なしではホンダの基準をクリアできなかった
そこでクラッチに繋いだときの衝撃を緩和するピークトルクリミッターを装備
発表会で公開されたピークトルクリミッターの解説スライド

 発表会でもここまでの説明はなかったのでとても面白い話。ただ単にMTを積んでみたというのではないことが分かった。そして話を聞いたあと「なるほど~」と思っていると宮本氏は「さっき、N-VANとS660にMTがあるから比較的ハードルが低かったと言いましたが、実際にやってみると全然簡単じゃなかったんです。でも、いまさらできないとも言えないので、これ付けよう、あれ付けようとなってしまったという面もありました(笑)」という裏話も話してくれた。

CVT制御の進化で2ペダル派にもうれしい新型N-ONE

 新型N-ONEに搭載されたCVTは第2世代パワートレーンのものをN-ONE用にセッティングし直しているため、他のNシリーズ車より素早くGが立ち上がり、車速の上昇とともにエンジン回転数もリニアに上がるようになっている。また、減速時は通常のブレーキ操作と連動するステップダウンシフト制御を採用しているので、下り坂の速度制御で安心感が高いとのこと。

 対してRSにはSレンジのCVT制御をRS専用のセッティングとしていた。内容はアクセル低開度時のレスポンス向上とアクセル中間開度までは高回転まで引っ張るようにしているのということだった。

新型N-ONEはCVTの制御も進化している。ベースは第2世代パワートレーンのものだがN-ONE用にセッティングし直している
ステップダウンシフト制御の解説

 さらにプレミアムやオリジナルのブレーキ操作ステップダウンシフト制御は「減速のため」のものだったの対して、RSのSレンジでは「加速準備のため」のステップダウンシフト制御になっているのだ。この違いに関しては、例えばワインディングのカーブを曲がるとき、プレミアムと比べてRSはブレーキを掛けたときのシフトダウンで高い回転までタコメーターの針が上がる。そのためブレーキを離してアクセルに踏み換えた際、エンジン回転が落ちすぎていないところから再加速できるということ。開発陣のコメントでは、この違いは試乗でも体感できるものだということなので、販売店にプレミアムとRSの試乗があれば乗り比べていただきたい。

RS専用のセッティングの解説。ブレーキング後の再加速が有利になるよう高回転をキープしやすいシフト制御

パワー重視ではなかったDOHC化の意味

 N-ONEに搭載される第2世代パワートレーンには、自然吸気エンジンとターボエンジンがある。自然吸気エンジンには可変バルブコントロール機構のVTECを採用することで、高回転域のNOx、HCを低減している。対してターボは電動ウエストゲートバルブを採用したブースト制御によりレスポンスの向上を図る。また、同時に燃費性能と低排出ガス性能も持つというものだ。なお、どちらも動弁系はDOHCとなっている。

 DOHCエンジンの搭載は第1世代から続くものだが、車体設計の担当者によるとDOHCエンジンはSOHCエンジンと比べてサイズや重心高などが狭いエンジンルームに対して不利になるとのこと。そのためエンジン設計担当者になぜDOHCにするのかという問い合わせをしたところ「燃費向上や排出ガス規制への対応のためにDOHC化が必要だ」という回答が来たという。インタビューの場には残念ながらエンジン開発の担当者がいなかったので詳細は聞けなかったが、出力だけでなく、燃費や環境性能など「いまどきの高性能」を得るためのDOHC化ということだ。なお、DOHCターボエンジンはRSのほかにプレミアムにも搭載されているが、こちらのグレードはCVTとの組み合わせのみで6速MTの設定はない。

自然吸気エンジンにはバルブコントロール機構VTECを採用して、パワーと省燃費性を追求。排出ガスに関しても平成30年度規制75%削減という低排出ガス性能を達成している
プレミアムにもターボエンジンの設定はあるがCVTのみ。なお、プレミアムには4WDもあってこちらにもターボがある。降雪地域に住む方でターボ搭載車となるとプレミアムが有力候補になる

Honda SENSINGは最新、そして静粛性も向上して、よりツアラー性が強化された

 新型N-ONEにはHondaSENSINGが搭載された。機能は最新でN-WGNと同じ仕様とのことだが、こういった制御は味つけの小変更がありそうな感じもする。とくにターボエンジン搭載グレードでは例えばACC使用時の再加速でほかのモデルより加速が鋭くなっていたりしないか? ということも期待できそうなのでその点も質問してみたが、そういった変更はしていないそうだ。

 ただ、テストコース走行時に加速の度合いはいくつか試していたという。その中には再加速時の速度の上がり方を高めた設定もあったが、前走車のペースが安定していないときや追い越しを頻繁にかけるときなど、いちいち急加速する設定では「ドライバーが疲れる」ということが分かったのであえて変えなかったということだ。

待望のHondaSENSINGを搭載して安心、安全性能が大幅向上。また、ACC(アダプティブクルーズコントロール)やLKAS(車線維持支援システム)もあるので高速道路走行が初代に比べてより得意になっている

 新型N-ONEは静粛性が高いのも特徴で、遮音機能付きフロントウィンドウガラス(プレミアム、RS)にルーフライングインシュレーター、ダッシュボードアウターインシュレーター、ダッシュボードインナーインシュレーター、エンクロージャー、ドアライニングインシュレーター、リアサイドライニング、そして遮音フィルム入りフロアカーペットなど、静粛性向上のための作り込みがされている。このことはN-ONEだからというのではなく現行Nシリーズに共通する点だと宮本氏は言う。

 また、初代N-ONEに乗ったときに感じることがあった「一部の回転数でクルマ全体が振動するようなこもるような音」にも対処しているとのことなので、HondaSENSINGと合わせて高速道路を使うロングドライブが得意なクルマになっているのだった。

遮音材を多く使うだけでなくエンジンマウントには液封デバイスを使用するなど、初代N-ONEより静粛性を高めているのも特徴。なお、初代N-ONEはガソリンタンクが35リッター仕様だったが、新型は27リッター(4WDは25リッター)になっているので無給油で走れる距離は減っている。ただ、それでも400km近くは連続で走れるので不都合を感じることはないだろう

 以上が開発陣に聞いた新型N-ONEの機能面の話。エクステリアはタイムレスデザイン、中身は第2世代Nシリーズと共通と、表のことだけみると機能的なトピックはあまりないかもしれないが、突っ込んだ話を聞くとやはりというか「N-ONEだから」という工夫や作り込みがあることが分かる。そしてそれらは外から見ても分からないものばかりなので、もし新型N-ONEに興味があれば、販売店で試乗してみることをお勧めしたい。