試乗レポート

ホンダの新型「N-ONE」乗り比べ 独自の存在感を強めた個性豊かな軽自動車

走りも楽しい6速MT搭載の「RS」、上質感ある「Premium Tourer」、街中快適「Original」

 ホンダの躍進は360ccの軽自動車「N360」からスタートした。そのモチーフを受け継いで初代「N-ONE」が誕生したのが2012年。シンプルで飽きのこないデザインで息の長いモデルになっていた。

 そして今年、初代のコンセプトを引き継ぎ、新しいN-ONEが誕生した。好評のエクステリアデザインはそのままに、インテリアはシンプルでありながら質感を高めて、ますます独自の存在感を極めることになった。

 新型N-ONEは外観はほぼ変わっていないが、プラットフォーム、エンジンも含めてすべてが第2世代Nシリーズのものに刷新された。

 グレードはOriginal、Premium、Premium Tourer、RSの4機種、駆動形式はRSを除いては2WD(FF)と4WDが設定される。RSはFFのみだが久しぶりにMTが用意されたことが話題だ。今のところMTの受注はRSの1割に達しているという。

写真はN-ONE Original(2WD)。ボディカラーはプラチナホワイト・パール。価格は159万9400円。ボディサイズは3395×1475×1545mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2520mm。「N360」のデザインを継承する初代から変わらない「丸・四角・台形」を基本の形とした“タイムレスデザイン”をベースに、走る楽しさと安全性を感じられるデザインを追求
ホイールデザインはグレードごとに異なり、左からOriginalの14インチスチールホイール+カラードディッシュホイール(ブラック)、Premium Tourerの15インチアルミホイール(グレーメタリック/切削リム)、RSの15インチアルミホイール(マットブラック)
Originalの内装。インパネガーニッシュやステアリングロアガーニッシュがプラチナホワイトとなる
フロントシートはプライムスムース&トリコットのコンビシート。全車ともリアはトリコットのシート表皮を採用し、カラーは濃いめのグレーとなる
リアシートは5:5分割式でチップアップ&ダイブダウン機構付となるため、荷室を広く使いたい場合にも対応できるくらいの容量を確保している

 試乗したのはターボのRSとそしてNA(自然吸気)エンジンのOriginalだ。RSは待望のMTに試乗することができた。タイヤサイズは165/55R15でダンロップ「エナセーブ EC300」を履く。

OriginalとPremiumは直列3気筒DOHC 0.66リッターエンジンを搭載。最高出力43kW(58PS)/7300rpm、最大トルク65Nm(6.6kgfm)/4800rpmを発生する。WLTCモード燃費は21.0km/L~23.0km/L
Premium TourerとRSは直列3気筒DOHC 0.66リッターターボエンジンを搭載。最高出力47kW(64PS)/6000rpm、最大トルク104Nm(10.6kgfm)/2600rpmを発生する。WLTCモード燃費は20.2km/L~21.8km/L

 ホンダはエントリーレースとしてN-ONEのワンメイクレースを継続しており、毎回人気を博している。そんな呼び水もあって、N-ONEのMT車は人気がある。試乗はちょっとワクワクだ。早速乗り込んでみよう。

 N-ONEの着座ポイントは初代のころから少し高めだが、全高もあるのでヘッドクリアランスもタップリしている。N-WGNの血統を引いているので当然だが、巧みなデザインはワゴン系の匂いを感じさせない。

 直前視界は開けており、少し上から見下ろしたようなドライビングポジションで、それに伴いクラッチも上から踏むようなスタイルになる。6速MTのシフトレバーはダッシュボードに近いところから生えているので、ステアリングホイールからの距離は近い。このスタイルでも自然と手足が動く。

RSの内装。インパネガーニッシュはスチールヘアライン調になるほか、ステアリングロアーガーニッシュ、シフトまわりの加飾、エアコンアウトレットのリングなどにオレンジの差し色を使用
専用設計となる6速MTのシフトノブは「S2000」のデザインがベース
3ペダルでも足下スペースに窮屈さはあまり感じられない
ラックススェード&メッシュジャージーのフロントシートにもオレンジがあしらわれる

 クラッチは少し重めで自分には足首の角度が合わず、少し違和感が残ったが走り始めればやはりMTは面白い。

 この6速MTは「N-VAN」のトランスミッションケースに「S660」のギヤを使った小気味よいステップ比のもので、シフトフィールはS660のクイックな面とN-VANの強固な感触を併せ持っている。少しストロークはあるが軽く操作できて心地よい。

 クラッチはストップ&ゴーが続くと足首の角度から多少踏みにくい感じを受けたが、ひどい渋滞でもなければ問題なさそうだ。

 一方、ターボエンジンも他の第2世代に入ったNシリーズと同様に新エンジンとなった。64PSは軽自動車の自主規制枠一杯だが、トルクは104Nmを2600rpmで出せる。電動ウェストゲートバルブでレスポンスの向上を狙っているが、実際に低回転からのレスポンスがよく、肩の力を抜いた感じでスイと加速する。エンジンのノイズや振動も非常に小さく、軽自動車の概念を完全に上まわっている。できのよい小型車に乗っているようだ。

 乗り心地も微振動を吸収し、大きめのギャップでも前後輪の収束はよく、しっかりと踏ん張っている。そしてさまざまな路面でもフラットだ。

 FFの全グレードに採用されている前後スタビライザーによってロール剛性は40%向上し、ショックアブソーバーの減衰力も少し上げられている。また、フロントスプリングはステアリング操舵に対する滑らかな姿勢変化と安定性を両立させる目的でバネレートが若干下げられている。

 ステアリングフィールは軽く切れるが速度が上がると少し重めの操舵力で、操舵力に引っ掛かりのないところにもN-ONEに軽自動車らしからぬ重さと滑らかさを与えている。

 またグリップ力と適度な横剛性のあるタイヤとのコンビネーションがRSの特徴の1つで、高速のランプウェイでもグイグイと回っていく小気味よさを感じた。

ターボ&CVTのPremium Tourerは上質感のある快適仕様

 一方、同じターボエンジンを積んだPremium TourerのFFではタイヤはブリヂストン「エコピア EP150」を履き、クルマの性格に合わせてタイヤが変更されていた。こちらは同じターボエンジンでもCVTとなる。ちなみにRS以外にMTの設定はない。

 街中でも低速トルクのあるエンジンと新世代CVTとのマッチングがよく、アクセルのツキがよい。出力に余裕があるのとCVTの進化でアクセル全開でない限り、強めの加速でもエンジン回転と速度がリニアにシンクロしているのでドライバビリティにも、そしてエンジン回転が過度に上がらないので静粛性もすぐれている。

 またブレーキ時にCVTが高いギヤ比を維持して空走感を制御するステップシフトを採用しているので、下り坂でもブレーキを当てるとエンジンブレーキ側に回転が上がるので自然なドライブフィールとなる。ストレスフリーのパワートレーンだ。

 追記しておくとRSのCVT制御はSレンジに入れると減速時に次の加速に備えてさらに高いギヤレシオを維持するなど、Premium TourerのCVTとは制御の仕方で細かく使い分けを行なっている。

 乗り心地は上下動の収束の仕方がPremium TourerとRSでは少し異なり、RSは収束が強めなのに対してPremium Tourerでは少し収束にタイムラグがある。いずれにしても安定志向に設定されており、どちらを選んでもN-ONEの上質な乗り心地は変わらない。

 インテリアに目を向けると、シンプルだが質感が高く、ホンダが目指すくつろぎ空間がよく理解できる。視界に余分なラインが入らないので広々としており気持ちがよい。助手席側もダッシュボードの下段が削られているために、足下が広く室内を大きく見せている。ちなみに全幅に制限がある軽自動車だけにドアと乗員との隙間は限られているが、ドア側の肘のあたりが巧みに抉られており窮屈感は感じないようにデザインされている。

Premium/Premium Tourerの内装。インパネガーニッシュはブラックウッド調に、本革巻ステアリングホイールのロアーガーニッシュはシルバーとなる。フロントシートはプライムスムース&ダブルラッセルのコンビシート

 そして走行中のノイズが小さいのに改めて感心した。プラットフォームの刷新とボディの作り込みのうまさがよくバランスされて取り入れられている。それに加えて遮音材の絶妙な配置、さらにPremium以上のグレードに採用された遮音機能付きフロントガラス、軽自動車としては奢られた液封エンジンマウントでエンジン振動をカットしていることなど、ノイズ、振動の元から遮断したことで軽自動車随一の静かなクルマに仕上がっていた。

ベースのOriginalも優秀。街乗り中心なら不満ない性能

 もう1台試乗したのはベースグレード、OriginalのFF。こちらのエンジンはロングストロークのNAで58PS/65Nmの出力だ。第2世代CVTとの組み合わせは、発進時のアクセルの動きと速度がリンクしており、無闇にエンジン回転が上がらずに自然な加速ができる。ターボほどのゆとりはないが街中が中心の使い方なら不満はない。可変バルブタイミング+吸気側VTECで低速回転からのトルクの立ち上がりが早く、CVTの進化とのマッチングは素晴らしい。

 ターボに試乗した後に一番感じるのは出力よりもノイズだ。オリジナルグレードは単体で乗れば静粛性についても基本骨格やボディ剛性などよくできており感心するほどだが、メカニカルノイズや遮音機能フロントガラスなどの違いで静粛性には違いがある。Cピラーから入ってくるノイズもターボモデルとは差を感じた。

 NAエンジンに装着されるタイヤは155/65R14のブリヂストン「エコピア」で転がり抵抗の少ないタイヤだが、クルマとのバランスはよく街中での取りまわしは良好。最小回転半径は4.5mにすぎず、四隅の見切りもよいので駐車などの際にも重宝するだろう。

 走りの質感はターボのようなドッシリしたフィーリングよりも、もう少しカジュアルで軽いフットワークと言えばよいだろうか。

 サイドブレーキはオートホールド機能付き電動パーキングシステムで、ベースグレードから全車に奢られている。また先進安全運転支援システムのホンダセンシングは誤発進防止装置などを含み全グレードに標準装備。全車速オートクルーズや装備されるなど充実している。

 価格はOriginalのFFは159万9400円からスタートし、RSは199万9800円からで、最も高価なのはPremium Tourer 4WDの202万2900円となる。

 もしN-ONEが購入候補に上がっているなら、小型車のつもりでターボを選択するというのはどうだろうか。実はちょっと惹かれている。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛