試乗レポート

「ノート AUTECH クロスオーバー」、車高25mmアップで走りはどう変わった?

ひとあじ違う特別感

 登場から1年あまりの間に、いくつものバリエーションをラインアップしてきた「ノート」の中でも、2021年秋に加わった「ノート AUTECH クロスオーバー」は、一見するとノートでも、ちょっと他とは毛色が違っていて興味深い。

 あえてAUTECHブランドの一員として出てきたのは、まさしくカタログモデルとはひとあじ違う特別感を訴求するため。ノート自体がこのクラスの日本車としてはかつてないプレミアムさと先進性を身につけていることにも感心しているが、オーテック伝統のクラフトマンシップにより「プレミアムスポーティ」を表現すべく仕立てられた内外装は、たしかにこのクラスで増えてきたコンパクトクロスオーバーの中でも異彩を放っている。

今回の試乗車は2021年10月に発売された「ノート AUTECH クロスオーバー」。グレードは4WDの「X FOUR」(279万6200円)で、ボディサイズは4045×1700×1545mm、ホイールベースは2580mm。ベース車から車高を25mmアップするとともに、最低地上高を150mm(4WD。2WDは145mm)とすることで、キャンプ場までの砂利道やスキー場までの雪道でも安心して走行できるようになっている
エクステリアではドットパターンのフロントグリルやAUTECH専用のブルーに光るシグネチャーLEDをはじめ、メタル調フィニッシュのドアミラー、サイドシルプロテクター、ホイールアーチガーニッシュ、ルーフモールなどを採用してクロスオーバースタイルを確立。足下は専用16インチホイールをセットしたほか、フロント/リアのショックアブソーバー減衰力の専用化に加え、フロントにはリバウンドスプリングを追加することで標準車と同様に滑らかに乗り越える突起ショックを実現したという
第2世代へと進化を遂げたe-Powerは直列3気筒1.2リッター「HR12DE」型エンジンを利用してモーターで駆動。HR12DEエンジンは最高出力60kW(82PS)/6000rpm、最大トルク103Nm(10.5kgfm)/4800rpmを、「EM47」型フロントモーターは最高出力85kW(116PS)/2900-10341rpm、最大トルク280Nm(28.6kgfm)/0-2900rpmを、「MM48」型リアモーターは最高出力50kW(68PS)/4775-10024rpm、最大トルク100Nm(10.2kgfm)/0-4775rpmをそれぞれ発生

 インテリアも、木目の柄が印象的なインストルメントパネルや、柔らかな手触りのレザレットのシート地など、これまた特別感がある。創業の地である湘南は茅ヶ崎の「海」と「空」のイメージから想起したという、ブランドのアイコニックカラーであるブルーがよく似合っている。

インテリアは全体をブラック基調でまとめつつ、柔らかな手触りが特徴のレザレットシート地や、鮮やかな木目が特徴的な高級材、紫檀(シタン)の柄のインストルメントパネルを採用

 走りについても、標準のノートから車高を25mm高めて大径タイヤを履きながらも、ロングドライブやワインディングなどさまざまな場面でもスポーティさと安定感のある走りを実現するため、足まわりやパワーステアリングに専用のチューニングが施されている。それがどんな感じなのか、都市部を離れ、房総の海沿いからはるばる雪国まで、都合1000kmほどちょっと長くテストドライブしてみた。

走りを楽しめ、遠出を快適に

 借り出したのはスタッドレスタイヤを履く4WD車。25mm地上高が高められたことで、標準車よりも目線が高いところにあるのはなじみのよいシートに収まると即座に直感する。

 気になる足まわりは、1人で乗っているとスタッドレスタイヤを履いていてもやや路面への感度が高くコツコツと感じるのは、スプリングレートや減衰特性がタイヤを路面に押し当てるような感じに味付けされているからだろう。ところが、多人数で乗るとピッチ系の動きが落ち着いてくる。

 高速巡行時はコンパクトなクルマながらフラット感もあり、リバウンドスプリングを備えたフロントは内輪が浮き上がる感覚もなく、加えて巧みな電動パワステのチューニングもあってコーナリングでは内輪もしっかり接地している感覚がある。ベース車でも感じた俊敏なハンドリングは損なわれていない。なるほど、1人で乗っているときにはより走りを楽しめて、多人数でレジャーに遠出するときにはちょうどよくなるようにと意図したのだろう。

 運転を交代して後席にも乗ってみたところ、危惧していた硬さや突き上げをあまり感じることはなかった。逆にいうと、25mm上げるとこんなにもバランスが変わるのかとも感じたのだが、重心高やらロールセンターやらいろいろ難しい問題が出てくるところを、よくぞこれほどうまくまとめたものだと思う。

 プロパイロットは車線維持の制御が強くビシッと通っていて、ちょっとやそっとじゃブレないぐらい。ウインカーを作動させるか、ある程度強めのトルクを与えると解除されて操舵力が軽くなり、行きたい方向にスッと行けるようになる。カタログモデルはそこまでハッキリとは制御していなかった気もするのだが、いずれにしてもよほど制御の精度に自信がないとこうはできないはず。高速道路を使って遠出することを念頭に置いてこのようにしたのかもしれないが、おかげで長旅でも疲労感が小さくてすんだのはありがたい。

e-POWERの強みと弱み

 一方、高速巡行時の燃費は正直あまりよろしくない。80km/h程度までならまだしも、100km/h巡行になると「ああ、やはりそうなのか」と思わずにいられなかった。追い越し加速はそれほどストレスを感じることなくこなしてくれるのだが、効率についてはもともとe-POWERが割り切った部分であり、機構的に宿命の部分でもあるのでやむを得ない。

 ところが一般道に下りて加減速を繰り返すシチュエーションが訪れると、e-POWERのありがたみを実感する。ディスプレイで「2分間燃費」の表示を見ていると、高速道路のダブルスコアの30km/Lオーバーをマークすることも珍しくない。リニアで力強いアクセルレスポンスとワンペダルドライブの恩恵は、クロスオーバーになっても変わることはない。

 エンジンがかかるタイミングも絶妙で、どこを走ってもけっこう静か。クロスオーバーになっても変わらないあたり、第2世代のe-POWERの美点に違いない。エンジンがかかってがっかりさせられることもなく、かかったときとかかっていないときの差も小さい。オプションの肉厚なラゲッジカーペットも静粛性に寄与しているに違いない。

雪国でもe-POWER 4WDの性能をチェック

 雪国まで出かけて雪上を走ってみても、リニアな加速フィールに加えてe-POWER 4WDの優れたコントロール性のおかげで走りやすかった。バランスがよく、走りが上質になっていることをあらゆる路面で感じる。市街地だけでなく雪道でも、e-POWER 4WDには大きなメリットがありそうだ。

 実は、フロントバンパー下部にあるプロパイロットのセンサーが汚れて使用できない旨がすぐに表示されたので見てみると、こんな場所にセンサーを付けたらそれはそうだろうと思ったのだが、そうではなくて、むしろ雪道では自動運転に頼らないよう、あえてこのようにされていると理解した。

 実のところ今回の旅ではあまり雪道は走れなかったのだが、その本領を発揮した走りは近いうちに実施予定の雪上試乗会でお伝えするということで、乞うご期待!

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛