試乗レポート

日産「ノート オーラ NISMO」、コンパクトなスポーツモデルを探しているなら選択肢に入れてほしい1台

シリーズ中もっともスポーティなノート オーラ NISMO

 日産自動車「ノート/ノート オーラ」は2021-2022日本カー・オブ・ザ・イヤーの大賞を獲得した。そのシリーズ中もっともスポーティなのが「ノート オーラ NISMO」だ。

 ノート オーラ NISMOのパワートレーンはベース車と共通だが、サスペンションはハードに、ボディは一部補強され、エンジンのソフトウェアも専用としている。試乗したのはレカロ仕様。座ればすぐにレカロと分かる、少し硬めで身体をしっかりサポートしてくれる逸品だ。シートバックにはNISMOのロゴが入り、サイドから背面にかけて赤、シートベルトも赤で統一される。

 外観にもすぐにNISMOと分かるスポーティなアクセントが加えられた。ボディアンダーのスカート部に入れられた赤いストライプ、それに合わせた赤いカバーのドアミラー、フロントスカートと大型のルーフスポイラーなどがそれだ。エアロパーツは機能的でNISMOにふさわしい形状となっている。

今回試乗したのは今秋に発売された「ノート オーラ NISMO」(286万9900円)。ノート オーラをベースにフォーミュラ Eからインスパイアされた「駿足の電動シティレーサー」をコンセプトとし、NISMOらしい新世代のデザイン、高揚感をもたらすハンドリング、俊敏なレスポンスと伸びのある加速などを特徴とするモデル。ボディサイズはボディサイズはベースとなる「ノート オーラ」から80mm長く、20mm低い4125×1735×1505mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2580mm
エクステリアではNISMO専用に最適化した空力デザインを採用するとともに、NISMOのアイコンであるレッドアクセントの「レイヤード・ダブルウイング」によって低重心でロー&ワイドなフォルムを実現。フロントバンパーにはバンパーサイドにフロントサイドエアスプリッターとインレットダクトを設定し、空気流の剥離を抑え、スプリッター内に取り込む空気流、バンパー側面の空気流もスムーズに流れるよう整えた。リアバンパーにはコーナーにリアサイドエアスプリッターを設定し、バンパー後端のコーナー部を横および後方に張り出し、バンパー側面の空気流の剥離ポイントを制御する。高い空力性能を確保しつつワイドリム化された17インチアルミホイールにはミシュラン「パイロットスポーツ4」(205/50ZR17)をセット

 インテリアもNISMOならではだ。アルカンターラの革巻きステアリングホイールは頂点に赤いストライプが入り、操作中もハンドルの切れ角が分かりやすいラリーライク仕様。インストルメントパネルをはじめ、コンソールにも使われたレッドカーボン調フィニッシャーも心躍らされる。デザインを大切にするノート オーラだけにスポーツモデルのNISMOも仕上げが丁寧だ。

インテリアではダークトーン&レッドアクセントの色調を特徴とし、専用ファブリックと合皮のコンビネーションを採用したシートはNISMOロゴの刺繍やレッド/グレーのコンビネーションステッチにより、スポーティな室内空間を演出。オプション設定のレカロ製スポーツシート(39万6000円)ではシート形状にこだわり、クルマとの一体感を向上させた

 見て分かる部分だけでなく、機能部分にもNISMOらしい手が加えられている。ノート オーラは100kW/300Nmという電気ならではのビッグトルクで、NISMOでも出力そのものは変わらないが、ドライバーを刺激するような専用の出力特性となっている。

パワートレーンはノート オーラと共通で最高出力/最大トルクは変わらないものの、VCM(ビークルコントロールモジュール)の設定変更によりノート オーラよりも加速度が速く立ち上がり、加速力が落ちにくいセッティングに。発電用エンジンは直列3気筒DOHC 1.2リッター「HR12DE」、フロントモーターはEM47で、モーターの最高出力/最大トルクも同じく100kW(136PS)/300Nm(30.6kgfm)となる。WLTCモード燃費は23.3km/L

 ドライブモードは3モードから選べ、ノート オーラではSPORTモードの位置がNISMOモードとなり、シャープな出力特性が特徴だ。このほかではノーマルとECOが選べる。

ドライブモードは「NISMO」「ノーマル」「ECO」の3パターン

 サスペンションは基準となるノート オーラより20mm低い仕様で、スプリングレートはフロント22N/mmから30N/mmへ、リア32N/mmから40N/mmに硬められている。またフロントストラットも剛性を確保するためにストラットの筒厚が肉厚になっている。リアショックアブソーバーはモノチューブでスポーツモデルらしいダイレクト感のある仕様だ。

 さらにタイヤはオールマイティなスポーツタイヤとして定評のあるミシュラン「パイロットスポーツ4」で、サイズは205/50ZR17となる。これに応じてホイール幅も6.5Jから7Jと拡大されトータルの剛性も上げられた。オリジナルのよさを保ちつつ、NISMO独自のキメ細かいチューニングによってe-POWERのスポーツモデルを実現した。

スポーツモデルユーザーなら十分に許容されるレベルの乗り心地

 早速乗り出してみる。レカロシートは身体をサポートするだけでなく姿勢のよいドライビングポジションがとれ、車体の動きを感じ取りやすい。システムを始動させる。エンジンは始動するが、音も振動も小さく上級モデルに乗っているようだ。

 走り出してすぐに感じるのは路面からのダイレクト感だ。シートを通じてクルマの動きがよく分かる。硬めに設定されたサスペンションで路面の継ぎ目ではショックは強めだ。また、対角線上に段差を乗り越える際はトーションビームらしいわずかにリアが暴れる感じはあるが収束は早い。スポーツモデルユーザーなら十分に許容されるレベルの乗り心地だ。

 あえて言えばハンドリングのために相対的にリア側が硬められており、リアからの突き上げは強めになっている。しかし第一印象はシートとステアリングホイールを通じて路面コンタクトが分かりやすいことだった。

 ハンドリングはベースのノート オーラの低重心という強みを生かし、コーナーでのロールは少ない。ノート オーラではどこでも誰でも乗りやすい乗り心地とのバランスをとった仕様になっていたが、NISMOではハンドリング重視としておりロール速度はさらに抑えられ、ハンドル応答性はシャープになっている。握りが太く保舵力が少なくて済むステアリングホイールも心地よく、クルマを操る楽しさが伝わってくる。

 硬められたサスペンションでタイトコーナーの連続でもクイックでグリップ力のある軽快なフットワークがNISMOの持ち味だ。さらに長いコーナーも一定舵角を保ったまま気持ちよくクリアでき爽快だ。

 特にリア側のボディ補強は効果的で、横剛性だけでなく前後方向にも影響を与えている。ノート オーラと違うハンドル応答初期のフィーリングはサスペンションとボディの合わせ技だ。それに加えて電動パワーステアリングもNISMO専用チューンで速度域が低いと操舵力はそれほど変わらないが、高速や操舵速度が速くなると徐々に重くなり、シッカリした感じになる。

 ミシュランのパイロットスポーツ4はハイグリップというよりもコーナリングフォースの立ち上がりがスムースで扱いやすい素直さが好ましい。

 直進性には空力パーツが効果を発揮し、どっしりした安定感のある高速クルージングができる。硬めの乗り心地でもリラックスできるのはこんな安定感からもきている。クルマにとって空力の使い方はますます重要になっている。

 パワートレーンのビッグトルクは、EV特有のレスポンスのよさでコンベンショナルなコンパクトハッチバックとは趣が違う。自然と気持ちよく走れるのだ。大きなトルクをすぐに出せ、トルク変動の少ないことがなめらかなドライブフィールをもたらしている。

 ドライブモードをノーマルからNISMOに入れるとメーターディスプレイが赤くなり、アクセルのゲインも高くなる。ピーク出力は変わらないが、過渡特性が違いモードをNISMOにするだけでグンとパワフルに感じられる。ワインディングロードではトルクの高いところを使えるのでアクセルの動きに応じて、常に駆動力を即座にかけられる態勢にあり、またアクセルOFFでは回生ブレーキが強めに入り、アクセルペダルだけで走れる領域が広がっている。

 メータ―ディスプレイはいろいろな画面を選べるが、面白いのはパワーメーターでアクセルを踏むと0~100までの使われているエネルギーが表示され、OFFではエネルギー回生量が視覚的に分かるようになっている。一見エンジン回転計に見えたが、e-POWERのNISMOらしい表示だった。

 さて、ドライブモードをECOにするとアクセルに対する反応は鈍くなるが、アクセルOFF時の回生ブレーキはNISMOよりも強い。バッテリをセーブして航続距離を伸ばすモードだ。

 ノーマルではコンベ・エンジンと変わらないようにブレーキ回生が設定され、乗り換えても違和感なくドライブできる。実際、出力も100kW/300Nmで1270kgの車両重量に対して余力十分で、郊外路ではもちろん、高速道路での追い越しも俊敏に行なえる。段付き感のない浮揚するような加速がe-POWERの魅力だ。

 高速道路ではプロパイロットを使った。前車との追従性は高く、一定車間距離を保って応答性のいい加減速を繰り返す。EVのレスポンスのよさはこんな場面でも生きている。ただレーンキープでは同じレーンの左側を走っている感覚があり(多分クルマはセンターを維持しているのだろう)、左側車線のクルマとの間に違和感が付きまとう。時としてレーン内でもセンタリングが甘くなることも影響している。

 遮音はかなりしっかりしている。高速では風切り音があるが、プレミアムコンパクトとしては上出来だ。市街地での静かなキャビンも特筆される。これまでのe-POWERのノウハウを生かしてバッテリの使える範囲を広げ、できるだけEVとして走り、さらに発電用エンジン始動時の煩わしいノイズと振動を極力減らしたことで静粛性が一気に高まった。

 ノート オーラ NISMOは電動車時代のスポーツハッチバックの日産らしい回答だと思う。シリーズハイブリッドは日産の電動化戦略の中で中核をなしているだけにノート/ノート オーラも気合の入ったモデルで、もしコンパクトクラスのスポーツモデルを探しているならノート オーラ NISMOは選択肢に入れてほしい1台だ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一