試乗レポート

三菱自動車の新型「アウトランダーPHEV」(プロトタイプ)、上質なSUVに仕上がっていることを実感

従来型よりもひとまわり大きいボディサイズ

 三菱自動車工業のフラグシップモデル「アウトランダー」がフルモデルチェンジされた。8年半ぶりの新型である。3代目となる三菱自動車渾身の1台は、ルノー、日産自動車、三菱自動車のアライアンスで誕生したCMFプラットフォームを使う。

 エクステリアデザインは、SUVらしくスクエアな佇まいがいい。三菱自動車の顔となるダイナミック・シールドグリルもモデルを経るごとに収まりがよくなってきた。

 ボディサイズは従来型よりもひとまわり大きい。全長で15mm、全幅で60mm、全高で35mm(Mグレードは30mm)プラスとなって4710×1860×1745mm(全長×全幅×全高)とサイズアップされた。そのうち15mmのボディ延長分は後席のスペースに充てられて足下はかなり広い。

今回試乗したのは12月16日に発売されるクロスオーバーSUV「アウトランダーPHEV」のプロトタイプ。撮影車はBOSEプレミアムサウンドシステムなどを標準装備した上級仕様の「P」(7人乗り)で、ボディサイズは4710×1860×1745mm(全長×全幅×全高)。ボディカラーは2トーンカラーの「ホワイトダイヤモンド×ブラックマイカ」
こちらは20インチホイールやコネクティッド機能などの装備が与えられた中間グレードの「G」。5人または7人乗りが選べる。ボディカラーは「チタニウムグレーメタリック」

 また新型アウトランダーはPHEVのみ。リアモーターやコントロールユニットのあったスペースをコンパクトに整理したことでサードシート設定も可能となった。マーケットニーズも多いだけに新型のセールスポイントの1つだ。

 インテリアもシンプルに上質にまとまっている。これまでバラバラに配置されていた操作系も統一されたことがデザインにも好影響をもたらし、余分なラインが少ないのも好ましい。しかも使いやすい。水平方向を基調としたダッシュパネルも広がり感があって60mm増の全幅の余裕を感じる。

「P」のインテリア。水平基調で力強い造形のインストルメントパネルを採用するとともに、触感がよく質感の高いソフトパッドを随所に採用
居住空間は全幅と室内幅の拡大によってフロントシートのカップルディスタンスを広げ、ホイールベースの延長によりクラストップレベルのフロントシートとセカンドシートの足下スペースを確保。また、ミッドサイズSUVのPHEVモデルでは数少ないサードシートを採用した3列7人乗りレイアウトを実現している
ラゲッジルームは開口部床面の幅を広げるとともに段差をなくし、大きく重い荷物もスムーズに出し入れすることが可能。トノカバーの設定位置を高くしてホイールハウス後方のトリム形状を改善することで、大型スーツケースなら3個、9.5インチのゴルフバッグなら4個をトノカバーの下に積むことができるという。テールゲートはキックモーションセンサーをリアバンパー中央下に設定する

上質なSUVに仕上がっていると実感

 プロトタイプモデルの試乗会は袖ケ浦フォレストレースウェイで行なわれた。装着タイヤはブリヂストンの「エコピアH/L422」で、タイヤサイズは255/45R20(G/Pグレード)と大径だ。このほかにMグレードでは235/60R18が設定される。

 SUVらしい高いヒップポイントに正座に近い形で座ると、シート全体でホールドしてくれる。助手席との間隔も広くゆったりして落ちつく。大型の液晶ディスプレイに表示されるのは必要な情報に絞られ、補足的な情報もすぐにピックアップすることができて使いやすい。

 CMFプラットフォームによるホイールベースは2705mm。従来型より35mm長く、アライアンスを結ぶ日産「エクストレイル」と共通になる。トレッドはフロント1595mm/リア1600mmで、従来型よりもフロントで55mm、リアで60mmワイドになっている。

 従来のプラットフォームはSUVにふさわしい剛性を確保するために補強されていたが、タイトコーナーなど対角線方向の前輪外側に力が入る場面ではリアサスが暴れるような傾向があった。その点、新しいプラットフォームの剛性は高く、同じように走ってもタイヤはしっかりと接地して安定感がある。サスペンションがしっかり伸びるイメージだ。トレッドの拡大、サスペンションの変更もあって大きな相乗効果が表れていた。

 サスペンションはフロントがストラットでリアがマルチリンクになり、アルミ製のサスペンションアームやナックルを採用して軽量化が図られている。同時に前後スタビライザーも軽量な中空タイプが採用された。

 ボディ構造ではエンジンルームとキャビン2か所の計3か所で環状構造を採用して高剛性ボディの骨格が作られ、ホットスタンプ式高張力鋼板の大幅な採用で軽量高剛性に仕上がっているという。また、床下に置いた20kWhのリチウムイオンバッテリパックはアンダーボディフレームで保護させているために安全面でも剛性面でも高くなっている。

 新型ではボディサイズが大きく、装備も膨らんでおり重量も重くなるが、前述の軽量部材の採用のほかに、外板ではボンネットをアルミ、フロントフェンダーを樹脂としており、重量増は約200kgに抑えられた。

 パワートレーンの基本構成は変わらず2.4リッターのMIVECエンジン、フロントモーター+リアモーターで4輪を駆動する。エンジンは発電用ジェネレーターの役割と高速で直接駆動するのが仕事だが、燃費を改善しながら発電効率を向上するため最高出力は94kWから98kWにアップされた。

 またフロントモーターは60kWから85kWに、リアモーターは70kWから100kWに出力向上し、さらに駆動用バッテリも前述のように13.8kWから20kWに容量アップされている。このバッテリの冷却は冷媒によって行なわれ、性能の安定性が高く、かつコンパクトに仕上がっている。

 現行アウトランダーPHEVの後期型から発電のためのエンジン始動が少なく、EV走行の幅が広がりPHEV本来の能力を出しやすくなったが、新型ではさらに電気のカバー範囲が広がっており、走行距離はWLTCで83kmと大幅に伸びた。隣接した都市間ならエンジンを始動することなく往復できる能力がある。ガソリンタンクも現行の45Lから56Lに容量が大きくなったので、ワンタンクでの航続距離は1000km近くに及ぶ。

 サーキットではアクセルの踏み込み量が大きく速度も高いので、エンジンで発電する場面も少なくないが、郊外路を想定してアクセルを徐々に踏むと粛々と、そして俊敏に加速する。パワフルだ。現行のアウトランダーPHEVも速いが、新型ではモーター出力、バッテリ容量のアップもあって2tオーバーの車両重量を感じない。

直列4気筒DOHC 2.4リッター「4B12 MIVEC」型エンジンは最高出力98kW/5000rpm、最大トルク195Nm/4300rpmを発生。また、フロントモーターの最高出力は85kW、最大トルクは255Nm、リアモータは最高出力100kW(最大トルクは先代車と同じ195Nm)となる

 またステアリングレスポンスも切り始めから大幅に滑らかになった。ダブルピニオンタイプのパワーステアリングの効果が大きい。操舵力も軽すぎず重すぎず妥当で正確にハンドル操作ができ、重量級SUVとしては身のこなしが軽く感じる。ロック・トゥ・ロック2.6回転で操舵量も少ない。

 背の高いSUVだが重心位置が低いこともあって、ロール速度もよく制御されており、姿勢変化が少なくコーナでも安定している。無駄のない動きで緊張感なくサーキットランを楽しめた。

 少し余裕ができたのでステアリングスポーク左にあるスイッチでエネルギーフローやS-AWCの動作を確認する。駆動用バッテリの温度を見ると加減速の急なサーキットにもかかわらず、試乗終盤でもほとんど上昇せず、冷媒が効果的に安定した温度を保っていることが分かった。

 センターコンソールにあるダイヤルでは三菱自動車らしいドライブモードを選択できる。まずエネルギーでは「ECO」「POWER」が選択でき、こちらは出力やエアコン制御を行ない、「POWER」は高速道路への合流などでエキストラパワーが欲しい場面で活用でき、キビキビとした性格になる。一方、路面で選ぶ走行モードとしては「TARMAC」「GRAVEL」「SNOW」「MUD」があり、「NORMAL」はそのベースとなる駆動力配分であり、出力特性を持つ。

走行モードは「NORMAL」「ECO」「POWER」「TARMAC」「GRAVEL」「SNOW」「MUD」の7モードを設定

 結論からすると「NORMAL」がオールマイティでもっと走りやすい。アクセルのゲインも中庸で扱いやすい上、ブレーキ制御による前後左右輪の駆動力配分も必要に応じて行なうため、ドライバーにとっても自然な感触だ。オマカセセットとして使いやすい。

「TARMAC」は直進性を高くする一方、S-AWCによって旋回力も高いレベルで得ることができる。大きなSUVがグイグイと曲がっていく姿は迫力がある。そろそろ限界かと感じた先にもまだ曲ろうとする力がある。ランサー エボリューション譲りでちょっとした驚きだ。日常遭遇する山道でも走りやすいだろう。

 一方、自分にとってサーキットでもっとも走りやすかったのは前後輪に一定のトルクが配分され、トラクションがかかりやすい「GRAVEL」だった。クルマの動きが一定なので予測しやすい。「TARMAC」とは前輪左右のトルク配分の仕方が異なっており、積極的に旋回するわけではないが高い車体安定性のおかげでライントレース性も高く、ドライビングしやすかった。その名のとおり、ある程度グリップする路面に適したモードだが、使い方によっては「GRAVEL」モードもなかなか楽しい。

「SNOW」も駆動力を重視したモードだが、滑りやすい路面でフロントが曲がりやすいような設定になっている。雪道では最初の転舵で前輪が滑り出すと対処が限られてしまうが、クルマ側でうまくカバーしてくれる感じだ。4WDによる安定性の高さと相まってドライバーにとっても安心感が高い。

 さらに「MUD」は泥濘地でホイールスピンしながら駆動力を確保できるモードになり、とにかく滑りやすい路面で進むことを目的としている。これらのモードはダイヤルをまわし、モニター上のグラフィックで確認できるので日常的にも簡単に使えて頼もしい。

 センターコンソール上にあるスイッチでインテリジェントペダル(ワンペダル)のON/OFFができる。アクセルペダルOFFでも停止まではいかないが、かなりの減速Gが出て、街中はアクセルペダルの操作だけで速度をコントロールできるメリットは大きい。

サードシートは見た目以上に実用性が高い

 居住性にも触れておこう。上級SUVらしく遮音性に優れており静粛性は高い。微振動が伝わらないので走行中も上質感がある。パワートレーン系が静かな分、ロードノイズが耳につくが快適で重厚なキャビンだ。

 少し重いがワンタッチで折りたためるサードシートはつま先が入るぐらいの余裕があり、見た目以上に実用性は高く、中距離程度までは行けそうだ。また乗り心地は、少なくとも幾分アンジュレーションがあるとはいえサーキットでのバネ上の動きは少ない。こちらは次回公道で走らせて実力を確かめたい。

 アウトランダーPHEVは力の入ったフルモデルチェンジで、上質なSUVに仕上がっていると実感した。しかも価格帯もこのセグメントのPHEVとして買い得感のある設定になっていると聞く。この意味でも競争力が高そうだ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛