試乗レポート
メルセデス・ベンツの新型「Cクラス」、パワートレーンの滑らかさはまるでSクラス
2021年10月26日 10:57
7年ぶりのフルモデルチェンジ
Cクラスは伝統のFR方式を採用するメルセデス・ベンツの入り口にあるセダン/ワゴン。傑作と言われたW204の前期型に乗っていたことがあった。少しの間、メルセデスのクルマ作りの一端に触れることができればと思ったのだが、少しどころかなかなか手放せなくなってしまった。絶品のドライブフィールと乗り心地に魅入られてしまったのだ。
次のW205は進化したADAS系やインフォテイメント系、そして省エネに向けてのパワートレーンの変更や車体の絶え間ない進化など、さすがメルセデスと思わせた。そしてコロナ禍の今年、Cクラスは7年ぶりのフルモデルチェンジを受けた。本格的なデジタル時代に向けた第一歩である。個人的にも興味引かれる1台である。
最初に日本に入ってきたのはC 200 アバンギャルド(AMGライン)で、試乗車はすべてこのモデルに統一されていた。装着タイヤはピレリ「P7」(フロント225/45R18、リア245/40R18)で乗り心地からハンドリングまでカバー範囲の広いタイヤだと思う。
エクステリアデザインは最近のメルセデスのトレンドに則ったダイナミックなもので、Sクラスのエッセンスも取り入れている。これまでAMGモデルの象徴だったボンネット上の2本のパワーバルジも新型から標準になった。AMGラインの特徴はスリーポインテッドスターをちりばめたスターパターングリルやテールパイプの違いに加えて、サイドスカートも空力をイメージできるデザインになっている。
インテリアではすべて液晶のメーターパネルが目に入る。ドライバー正面にある12.3インチのメインメーターはそれ自体で自立しており、表示もナビゲーションやメンテナンスなどの3種類の画面を呼び出せる。また、ダッシュボードセンターにはナビゲーション、オーディオ、各種サービスなどを呼び出せる11.9インチの大きな液晶画面が自立している。これまであったスイッチは極端に数を減らして必要最小限になった。
パワートレーンは新開発の直列4気筒1.5リッターターボ「M254」型エンジン。最高出力は135kW(204PS)/300Nmで、同じ1.5リッターでもこれまでのM264型よりも20kW/20Nm出力がアップしたパワフルなエンジンだ。これに48Vのマイルドハイブリッドを組み合わせる。従来のCクラスのマイルドハイブリッドはベルトドライブ(BSG)だったが、統合型スタータージェネレーター(ISG)に変更したことでコンパクトで効率の高いものとした。この電動ブースターは短時間であれば15kW/200Nmのブーストが可能となり、BSGより大きな出力を出している。
パワートレーンは滑らかで静か、まるでSクラス
デジタル空間が新鮮なコクピットでイグニッションスイッチを押すと、エンジンは静かで振動はごくわずかで、エンジン感がなくてビックリだ。また、加速時のモッサリした動きがなく発進する。これまでのBSGとは明らかに違い、力強く静かだ。
さらに加速感も申し分なく、心地よく速度が伸びてゆく。9速ATとのマッチングもよく、緩加速では低回転で次々とギヤを変えるので燃費にも大いに貢献することは想像に難くない。変速ショックはほとんどなく、あくまでもスムーズだ。ISGはこのような何気ないドライブでも活躍して、変速時に軽くエンジンをサポートしてショックを緩和し、停車時のアイドルストップからの再始動でも振動のないモーターのようなスタートができる。もちろんアクセルOFF時には回生エネルギーを回収する働き者で、黒子に徹しているのがISGだ。パワートレーンは滑らかで静か、まるでSクラスに乗っているようだった。
一方、ハンドリングはCクラスならではの軽快さがある。ロック・トゥ・ロック2回転と、従来より10%早められたステアリングギヤ比に加えて小径ハンドルでクイックに動く。さらにAMGライン専用オプションのリア・アクスルステアリングは低速では逆相に切るので機敏に動き、パーキングなどでは後述するように小まわりが効く。ただでさえFRのCクラスの小まわり性には全面的な信頼があるが、さらに利便性が高まった。
後輪の逆相は60km/hまで最大2.5度まで切り、それ以上の速度では同相に切ることで(場合によっては逆相で操舵性を高める)高速での安定性が高くなる。もちろん機械的に操舵するのではなく、場面に応じた操舵量と方向をクルマ側でコントロールする。さらにリア・アクスルステアリングの安定性の向上でリアサスペンションを必要以上に硬めなくても済むため、乗り心地にも好影響をもたらすという。
ただいいことばかりではない。ハンドリングに関してはCクラスが持っていたシットリした味は薄くなってしまった。もう少し鈍い方が自分には合いそうだ。同じことは乗り心地にも言え、サスペンションの前後バランスか、路面によっては細かいピッチングが出る。路面に対してもっと鈍感にしてほしいところだった。AMGラインはスポーツサスペンション装着となるので、このモデルではキビキビ感を優先したのだと思う。
またブレーキタッチについては効き始めるまで少しつかみにくい点があったが、しっかり踏めばビシと効く。日本の交通環境では細かく踏むことが多いので、このような使い方も多いと思われる。
Cクラスには期待値が大きいので感覚的に合わないところがあると気になってしまう。しかし頂点を目指す姿勢にはリスペクトを感じ、CクラスはDセグメントの頂点に立つ十分な資格を持っている。
ボディサイズは4793×1820×1446mm(全長×全幅×全高)で、従来モデルから全長で80mm長くなったものの全幅では10mm、全高では5mm大きくなっただけだ。その全長と全高は後席の居住性にあてられており、市街地での取りまわしがしやすいことには変わりがない。また、最小回転半径もホイールベースが25mm伸びて2865mmになっても先代の5.3mから逆に5.2mと小さくなっており、リア・アクスルステアリング装着車では5mとコンパクトカークラス並みに小まわりがきく。感覚的にもこれまでのCクラスと変わりがない。
先進のインフォテイメントの操作は液晶画面からになり、一瞬ひるんだが「Hi、Mercedes(ハイ、メルセデス)」でこなせるのことが分かったので、デジタル音痴の自分でもなんとかなりそうだ。MBUX(メルセデス・ベンツユーザーエクスペリエンス)は着実に進化し、とても使いやすくなっていることに驚いた。
試乗車にはオプションのARナビが搭載されており、車載カメラとナビゲーションを重ね合わせることで、よりリアルに進みたい方向を表示することができる。なかなか新鮮な経験だ。
ここには記載しきれない新しい技術、例えば進化したADAS系などあふれるばかりにある。残念ながら例の世界を襲った半導体不足でCクラスもデリバリーが遅れているが、ラインアップがそろった時に各キャラクターの違いを改めて確認したいと思う。