試乗レポート

メルセデス・ベンツの新型「Cクラス」、パワートレーンの滑らかさはまるでSクラス

7年ぶりのフルモデルチェンジ

 Cクラスは伝統のFR方式を採用するメルセデス・ベンツの入り口にあるセダン/ワゴン。傑作と言われたW204の前期型に乗っていたことがあった。少しの間、メルセデスのクルマ作りの一端に触れることができればと思ったのだが、少しどころかなかなか手放せなくなってしまった。絶品のドライブフィールと乗り心地に魅入られてしまったのだ。

 次のW205は進化したADAS系やインフォテイメント系、そして省エネに向けてのパワートレーンの変更や車体の絶え間ない進化など、さすがメルセデスと思わせた。そしてコロナ禍の今年、Cクラスは7年ぶりのフルモデルチェンジを受けた。本格的なデジタル時代に向けた第一歩である。個人的にも興味引かれる1台である。

 最初に日本に入ってきたのはC 200 アバンギャルド(AMGライン)で、試乗車はすべてこのモデルに統一されていた。装着タイヤはピレリ「P7」(フロント225/45R18、リア245/40R18)で乗り心地からハンドリングまでカバー範囲の広いタイヤだと思う。

 エクステリアデザインは最近のメルセデスのトレンドに則ったダイナミックなもので、Sクラスのエッセンスも取り入れている。これまでAMGモデルの象徴だったボンネット上の2本のパワーバルジも新型から標準になった。AMGラインの特徴はスリーポインテッドスターをちりばめたスターパターングリルやテールパイプの違いに加えて、サイドスカートも空力をイメージできるデザインになっている。

今回試乗したのは6月に発表された新型「C クラス」。7月下旬から「C 200」と「C 220 d」の先行予約の受付を開始し、「C 200 4MATIC」は2022年第一四半期、「C 350 e」は2022年中頃、ステーションワゴンの「C 200」「C 220 d」は2022年第一四半期の配車開始を予定。試乗車は「C 200 アバンギャルド(ISG搭載モデル)」(654万円)で、ボディサイズは4793×1820×1446mm(全長×全幅×全高、欧州参考値)、ホイールベースは2865mm
エクステリアでは短いフロントオーバーハングと長いホイールベース、リアオーバーハングの組み合わせにより、静止していても疾走しているかのように見えるダイナミックなプロポーションを実現。先代モデルと比較して全幅の拡大は10mmに抑えつつ、全長は65mm伸長し、伸びやかなシルエットに仕上げている

 インテリアではすべて液晶のメーターパネルが目に入る。ドライバー正面にある12.3インチのメインメーターはそれ自体で自立しており、表示もナビゲーションやメンテナンスなどの3種類の画面を呼び出せる。また、ダッシュボードセンターにはナビゲーション、オーディオ、各種サービスなどを呼び出せる11.9インチの大きな液晶画面が自立している。これまであったスイッチは極端に数を減らして必要最小限になった。

ダッシュボードは上下2つに分かれ、上部は翼のような形状で、航空機エンジンのナセルを想わせる丸みを付けたやや横長の新デザインの角型エアアウトレットを配置することでスポーティさを演出。ステアリングもメルセデス・ベンツの最新世代モデルを採用し、ナビゲーションやインストルメントクラスター内の各種設定や、安全運転支援システムの設定を全て手元で完結できる機能性を搭載。また、従来はタッチコントロールボタンへの接触やステアリングにかかるトルクで判定していた、ディスタンスアシスト・ディストロニック使用時のハンズオフ検知機能のために、新たにリムに静電容量式センサーを備えたパッドを採用
ホイールベースは先代モデルより25mm、後席レッグルームは21mm伸長され、後席のヘッドルームも13mm拡張されたことで後席の居住性が向上(数値は欧州参考値)
運転席に備わる12.3インチの大型コクピットディスプレイは自立型でダッシュボード上部と大きなインテリアトリムの手前に浮かんで見えるように配置。コクピットディスプレイとメディアディスプレイは3つのスタイル(ジェントル、スポーティ、クラシック)と3つのモード(ナビゲーション、アシスタンス、サービス)の中から選択可能

 パワートレーンは新開発の直列4気筒1.5リッターターボ「M254」型エンジン。最高出力は135kW(204PS)/300Nmで、同じ1.5リッターでもこれまでのM264型よりも20kW/20Nm出力がアップしたパワフルなエンジンだ。これに48Vのマイルドハイブリッドを組み合わせる。従来のCクラスのマイルドハイブリッドはベルトドライブ(BSG)だったが、統合型スタータージェネレーター(ISG)に変更したことでコンパクトで効率の高いものとした。この電動ブースターは短時間であれば15kW/200Nmのブーストが可能となり、BSGより大きな出力を出している。

C 200 アバンギャルドはエンジン単体で最高出力150kW(204PS)/5800-6100rpm、最大トルク300Nm/1800-4000rpmを発生する新型の直列4気筒1.5リッターターボ「M254」型エンジンを採用。エンジンとトランスミッションの間に配置されるマイルドハイブリッドシステムのISGによって、短時間であれば最大で15kW(20PS)、200Nmのブーストが可能

パワートレーンは滑らかで静か、まるでSクラス

 デジタル空間が新鮮なコクピットでイグニッションスイッチを押すと、エンジンは静かで振動はごくわずかで、エンジン感がなくてビックリだ。また、加速時のモッサリした動きがなく発進する。これまでのBSGとは明らかに違い、力強く静かだ。

 さらに加速感も申し分なく、心地よく速度が伸びてゆく。9速ATとのマッチングもよく、緩加速では低回転で次々とギヤを変えるので燃費にも大いに貢献することは想像に難くない。変速ショックはほとんどなく、あくまでもスムーズだ。ISGはこのような何気ないドライブでも活躍して、変速時に軽くエンジンをサポートしてショックを緩和し、停車時のアイドルストップからの再始動でも振動のないモーターのようなスタートができる。もちろんアクセルOFF時には回生エネルギーを回収する働き者で、黒子に徹しているのがISGだ。パワートレーンは滑らかで静か、まるでSクラスに乗っているようだった。

 一方、ハンドリングはCクラスならではの軽快さがある。ロック・トゥ・ロック2回転と、従来より10%早められたステアリングギヤ比に加えて小径ハンドルでクイックに動く。さらにAMGライン専用オプションのリア・アクスルステアリングは低速では逆相に切るので機敏に動き、パーキングなどでは後述するように小まわりが効く。ただでさえFRのCクラスの小まわり性には全面的な信頼があるが、さらに利便性が高まった。

 後輪の逆相は60km/hまで最大2.5度まで切り、それ以上の速度では同相に切ることで(場合によっては逆相で操舵性を高める)高速での安定性が高くなる。もちろん機械的に操舵するのではなく、場面に応じた操舵量と方向をクルマ側でコントロールする。さらにリア・アクスルステアリングの安定性の向上でリアサスペンションを必要以上に硬めなくても済むため、乗り心地にも好影響をもたらすという。

 ただいいことばかりではない。ハンドリングに関してはCクラスが持っていたシットリした味は薄くなってしまった。もう少し鈍い方が自分には合いそうだ。同じことは乗り心地にも言え、サスペンションの前後バランスか、路面によっては細かいピッチングが出る。路面に対してもっと鈍感にしてほしいところだった。AMGラインはスポーツサスペンション装着となるので、このモデルではキビキビ感を優先したのだと思う。

 またブレーキタッチについては効き始めるまで少しつかみにくい点があったが、しっかり踏めばビシと効く。日本の交通環境では細かく踏むことが多いので、このような使い方も多いと思われる。

 Cクラスには期待値が大きいので感覚的に合わないところがあると気になってしまう。しかし頂点を目指す姿勢にはリスペクトを感じ、CクラスはDセグメントの頂点に立つ十分な資格を持っている。

 ボディサイズは4793×1820×1446mm(全長×全幅×全高)で、従来モデルから全長で80mm長くなったものの全幅では10mm、全高では5mm大きくなっただけだ。その全長と全高は後席の居住性にあてられており、市街地での取りまわしがしやすいことには変わりがない。また、最小回転半径もホイールベースが25mm伸びて2865mmになっても先代の5.3mから逆に5.2mと小さくなっており、リア・アクスルステアリング装着車では5mとコンパクトカークラス並みに小まわりがきく。感覚的にもこれまでのCクラスと変わりがない。

 先進のインフォテイメントの操作は液晶画面からになり、一瞬ひるんだが「Hi、Mercedes(ハイ、メルセデス)」でこなせるのことが分かったので、デジタル音痴の自分でもなんとかなりそうだ。MBUX(メルセデス・ベンツユーザーエクスペリエンス)は着実に進化し、とても使いやすくなっていることに驚いた。

11.9インチの縦型ディスプレイを採用したセンターディスプレイ。「ハイ、メルセデス」をキーワードとして起動するボイスコントロールでは、音声認識機能はさまざまなインフォテインメント機能(目的地入力、電話通話、音楽選択、メッセージ入力・読み上げ、気象情報)に加え、クライメートコントロール、各種ヒーター、照明など多様な機能に対応する

 試乗車にはオプションのARナビが搭載されており、車載カメラとナビゲーションを重ね合わせることで、よりリアルに進みたい方向を表示することができる。なかなか新鮮な経験だ。

日本で販売されるDセグメント乗用車で初というAR(Augmented Reality=拡張現実)ナビゲーションを採用。従来では目的地を設定して行先案内をする場合、地図上に進むべき道路がハイライトされるが、新型Cクラスではそれに加えて車両の前面に広がる現実の景色がナビゲーション画面の一部に映し出され、その進むべき道路に矢印が表示される

 ここには記載しきれない新しい技術、例えば進化したADAS系などあふれるばかりにある。残念ながら例の世界を襲った半導体不足でCクラスもデリバリーが遅れているが、ラインアップがそろった時に各キャラクターの違いを改めて確認したいと思う。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛