試乗レポート

三菱自動車の新型「アウトランダーPHEV」(プロトタイプ)をサーキット試乗 想像以上の完成度!

フラグシップとしてふさわしく

「アウトランダー」としては2代目、PHEVしては初代となる従来型には、9年間ことあるごとにドライブする機会に恵まれてきた。ワインディングやサーキットから真冬の北海道での氷雪路まで、さらには東京から四国までロングランしたことも思い出す。いろいろなシーンを走るたび、完成度の高いモータードライブと巧みな4輪駆動力制御により、こんなにも気持ちのよい走りができるのかと感心したものだ。そんなアウトランダーPHEVのニューモデルの発売に先立ち、クローズドコースでプロトタイプをドライブすることができた。

 実車を目にした第一印象は、これがアウトランダー!? と思わずにいられないほど立派になっていて驚いた。従来型もダイナミックシールドの要素を取り入れた後期型は当初とはずいぶん雰囲気が変わったとはいえ、新型の「威風堂々」ぶりは段違い。特にこのフロントフェイスはインパクト満点だ。「パジェロ」の消滅を受けて三菱自動車のフラグシップに格上げされただけのことはある。

 見た目の印象からして、ボディサイズもかなり大きくなったように感じたのだが、実際には従来比で15mm長く、60mm幅広く、35mm高くなったとのこと。横方向にワイドになったのは見てのとおりとして、それほどでもないことにむしろ驚いた。おそらく街を走るようになったら、読者諸氏も同じように感じるのではないかと思う。

12月16日に発売される新型「アウトランダーPHEV」(写真はプロトタイプ)。ベーシックな「M」(5人乗り)、充実装備の「G」(5人乗り/7人乗り)、上級仕様の「P」(7人乗り)の3モデルをラインアップ。写真は7名乗車仕様の「G」でボディサイズは4710×1860×1745mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2705mm。ボディカラーは「チタニウムグレーメタリック」
エクステリアでは存在感のあるフロントまわりをはじめ、20インチの大径ホイール(タイヤはブリヂストン「エコピアH/L422」でサイズは255/45R20)、飛行機の垂直尾翼をモチーフとしたDピラーとフローティングルーフ、背面式スペアタイヤをモチーフとしたテールゲートなどが特徴的
レッドダイヤモンドカラーの現行モデルとのサイズ比較。ボディサイズは新型では15mm長く、60mm幅広く、35mm高くなり、ホイールベースは35mm延長した

 インテリアも、フラグシップにふさわしく質感が大幅に引き上げられた。従来型も後期になるほどよくなっていたが、それでも新型は段違い。オフロード走行時に姿勢の変化をつかみやすいよう水平基調としたインパネには大画面ディスプレイが配されていて、パワーメーターの表示が2つになったおかげで、EVパワーと回生パワー、エンジンパワーの状況も一目瞭然となった。見やすく的確に情報を伝えてくれる。従来型では増えた機能が後付けされたため煩雑な操作が必要になっていたドライブモードセレクター関連のスイッチも整理されて直感的に使えるようになった。

 車内空間は、特に横方向が広々とした印象となり、PHEVでも待望の7人乗りが選べるようになったのがありがたい。さすがに3列目は広くはないものの、いざというときには十分に使えるだけのスペースは確保されている。

居住空間は全幅と室内幅を拡大することでフロントシートのカップルディスタンスを広げ、ホイールベースの延長によりクラストップレベルのフロントシートとセカンドシートの足下スペースを確保。具体的にはフロントのショルダールームは33mm広がって1470mmに、フロントシートのカップルディスタンスは25mm伸びて750mmに、フロント・セカンドシートの足下スペースは28mm拡大して903mmとなっている

より力強く、パワーモードも新設

 走りに関する一連のコンポーネンツもすべて刷新された。実は当初、アウトランダー単独で開発が進められていたようだが、ルノーと日産自動車のアライアンスに合流したことからプラットフォームを共有することになった。モデルチェンジが9年ぶりと長かったのは、それもあってのことだ。また、三菱自動車として初めてのホットスタンプ式高張力鋼板をキャビンまわりに用いたという独自のボディにより、大幅な軽量化と剛性向上を実現しているという。

 PHEVシステムも「より力強く」「より遠く」を実現すべく一新されて、モーターが出力向上し、バッテリの容量が13.8kWhから20kWhに増加し、83~87kmものEV走行が可能になり、燃料タンク容量も45Lから56Lになったことでフル充電+満タンで最大で1000km超の距離を走行できて、外部給電可能な日数も2日増えて12日分となった。

新型アウトランダーPHEVが搭載する直列4気筒DOHC 2.4リッター「4B12 MIVEC」型エンジンは最高出力98kW/5000rpm、最大トルク195Nm/4300rpmを発生。また、フロントモーターの最高出力は85kW、最大トルクは255Nm、リアモータは最高出力100kW、最大トルク195Nmとなっている

 いざ走らせてみても、その進化のほどが小さくないことはすぐに分かる。持ち前の静かでなめらかな走りは、モーターの出力向上とバッテリ容量の増大により、加速の力強さが増している。新設のパワーモードを選択すると瞬発力ががぜん高まって、他のモードとは段違いの鋭い加速力を味わうこともできる。さらに、アクセルペダルだけで加減速をコントロールできる「イノベーティブペダルオペレーションモード」が備わったのも新しい。

面白いほどよく曲がる

 もう1つ、印象的だったのはハンドリングひいてはS-AWCの進化だ。車両重量が2.1tを超え、それなりに重心も高いクルマにもかかわらず、まさしく意のままの走りを実現していることに驚いた。極めてクイックでありながら安定していて、応答遅れを感じさせない俊敏な回頭性と、狙ったラインを正確にトレースしていける操縦性を兼ね備えていて、気持ちよく走ることができた。

 特にターマックモードを選択すると、新たにリアの左右輪間のトルク配分を実現したブレーキAYCのおかげもあって、面白いほどよく曲がる。車体の剛性感が極めて高く、しっかりとした付け根に支えられてサスペンションがよく動いて、タイヤがしっかり路面を捉える感覚もある。コーナリングではややロールするが、その按配もちょうどよく、足まわりに突っ張った印象もないのでクルマがどのような状況にあるのかがつかみやすく、先が読みやすい。

 さらには、2.1t超の車両重量にもかかわらず、キャパシティの増したブレーキのおかげで、それなりに車速の出るコースでも不安に感じることもなく周回を重ねることができた。電動ブースターの採用も効いてブレーキフィールも自然な仕上がり。ガンガン全開で攻めてもPHEVシステムが熱ダレしてネを上げることもなく、楽しみながら走れてしまった。

 少しだけ気になったのはロールオーバー制御が介入したときの動き方だ。開発陣も問題は把握していることだろうが、もう少しドライバーがコントロールできる余地があったほうがよいかと思う。

 全体としてはつかみは上々だった。想像以上の完成度だ。この三菱自動車が誇る電動化技術と4輪制御技術の粋を集めた最新のフラグシップモデルを駆り、従来型でも試したようにいろいろな道を走って、その進化のほどをつぶさに味わえる日が来るのがいまから楽しみでならない。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学