試乗レポート

レース専用車両「GRスープラ GT4」で富士スピードウェイをタイムアタック 市販GRスープラの高いポテンシャルを反映

今回試乗したレース専用車両「GRスープラ GT4」

GT4規格のレース専用GRスープラ、GRスープラ GT4

 トヨタが販売する「GRスープラ GT4」というレース専用車両に試乗する機会を得た。このクルマは2020年より販売を開始し、世界各国のGT4選手権や日本のスーパー耐久シリーズ、さらには日本のインタープロトシリーズに参戦しているもので、約3年で累計販売台数は100台に到達している。

 今回富士スピードウェイの国際レーシングコースで試乗したのは、SHADE RACINGが所有する1台。SHADE RACINGはスーパー耐久に参戦する一方で、インタープロトシリーズに参戦。試乗したGRスープラGT4はインタープロト仕様となる。

コクピットにしっかり収まった形で試乗した

 装着されたタイヤは横浜ゴム「アドバンレーシングタイヤ」のスリック仕様。サイズは前後ともに280/660 R18。それに合わせて足まわりはショック、スプリング、スタビライザー、機械式LSD、ブレーキローター&キャリパーを変更している。

 エンジン、ATのトランスミッションはECUのチューニングが専用品となり市販車の285kW(387PS)/500Nm(51.0kgfm)から320kW(430PS)/650Nm(66.3kgfm)へとパワーアップ(レギュレーションに合わせて変更可能)しているものの、基本的にはノーマル。マフラーは1本出しとなるが触媒付きだ。

 ATはクーリングシステムを奢るくらいで、そのまま使っているのも興味深い。ちなみに市販車では8速ATだが、レギュレーションに合わせて8速目は封印している(7速ATとして動作)。

走行中のGRスープラ GT4

エンジンなどパワートレーンは市販車と同じ、一番異なるのがコクピット

GRスープラ GT4
どこからどう見てもレーシングカーだが、ボディは市販車と同じ
基本的なパワートレーンも同一だ

 外観は量産モデルから極端には変化していない。これはレースの規定もあるのだが、そもそもGRスープラが市販車開発段階から本格的なレースに参戦することを考慮していたことも大きいのだとか。変更されたのはフロントアンダースポイラー、バンパー&ボンネット開口部、ポリカーボネイト製ウインドウ、クイック燃料チャージ用の給油口、そしてリアウイングくらい。全幅は1855mmと変わらず、全長は4380mmから4460mmへと延長している。

 市販車と大きく異なるのは室内だ。安全対策用のロールケージが張り巡らされ、リアにはFIA規格の燃料タンクを搭載している。コクピットは市販状態から大きく変更されており、シートは完全固定でペダル類がスライドして調整を行なうタイプに変更。ステアリングのチルトやテレスコピック、そしてパワーステアリングのギヤボックスは市販車を流用。さらに、エアコンまでもが残されており、ドライバーの快適性向上に寄与しているという。

 最も特徴的なのはレース専用車らしいステアリングだ。ブレーキダクトなどがあるため、ロック・トゥ・ロックはおよそ1回転くらいに制限され、まるでフォーミュラかと思えるU字タイプのそれには、スタータースイッチ、ピットリミッター、ニュートラルスイッチ、バックスイッチ、パドルシフト、トラクションコントロールマップ切り替え(6マップ)、ABSマップ選択(12マップ)、ウインカーなど、ありとあらゆるものが集約されている。

 さらにディスプレイも専用となり、タコメーター、ギヤポジション、温度関係に加え、ラップカウンターやセクタータイムなども映し出されるようになっている。コクピットドリルをするだけでも一苦労である……。

 果たしてこれを乗りこなすことができるのか? 期待と不安が入り混じりながら、乗り込むのにも一苦労のコクピットにいよいよ滑り込む。ブレーキが目一杯踏めるようにペダルを合わせ、さらにはステアリングも手前に、低く改めていく。もう後戻りはできない。2000万円オーバーのこの車体を壊さず無事に返すことを願うばかりだ。

GRスープラ GT4では、市販車のポテンシャルが活かされている

GRスープラ GT4のコントロール性は高い

 ステアリングにあるスターターボタンを弾き、エンジンをスタートさせると、程よい爆音に変化したエキゾーストノートが襲ってくる。ただ、それ以外は割と簡単だ。パドルシフトを弾いて1速に入れ、ユルユルとスタート。ピットリミッターが作動しているおかげで速度違反する心配もない。

 ピットレーンを出てリミッターを解除しフルスロットルを与えると、力強く豪快に加速を続けていく。1コーナーで試しにフル制動を行なうと、さすがにブースターなしのブレーキはかなりの力を要することを確認。このクルマでスーパー耐久を戦っている平中克幸選手によれば「踏力はピークで100bar。足踏みのウエイトトレーニングで40kgくらいを押すくらいの力が必要」とのこと。それが毎コーナーの進入で要求されるのだ。これは確かにスポーツであり、お久しぶりレーシングのおっさんである筆者にはチト厄介だ。

 対してコントロール性は抜群だ。ABSが効くか効かないかという境目が理解し易く、ABS主体に制動しても不安定になりにくい。さらに、トラクションコントロールも多めに入れているらしく(今回はいじらないようにと念を押されました(笑))アクセルオンもそれほど難しいわけじゃない。これならいけるかも? まずはウォームアップで2周ほど乗ったが、これと言って難しさもなく走れてしまった。

 だが、ちょっとは速く走ってやろうと欲が出てくるのが人情ってもの。次なる走行で許されたのは3ラップだったが、安全な範囲内でちょっとずつペースアップ。ブレーキを追い込み、コーナーを攻め出すとこのクルマの面白さが少しずつ見えてきた。

 それはベースのGRスープラもそうだが、コーナーリングがとにかくシャープで速く、楽しいということだった。これぞホイールベース2470mmの威力ということか!? あまりにも気持ちよすぎて富士の100Rで行きすぎてしまいそうになる。

 安定感が高く、それでいてコーナーリングスピードも高いあたりが面白さのように感じる。一方でセクター3のような曲がり込んだコーナーからの脱出では、パワフルなエンジンのおかげもあり、アクセルでやや暴れ出すところも乗りこなす楽しみが凝縮されている。

 トラクションコントロールがありながらも、それを跳ね除けてくる暴れ出しがよい意味で興奮材料になる。アドレナリン出まくりだ。それを御することができたとき、きっとタイムはもっと上がるのだろう。

 ストレートに帰って来れば、ストレートエンドで255km/hをマーク。これも最終コーナーをもう少し上手く回ることができれば、もう少し伸ばせるのだろう。結果として3周目に記録したタイムは1分48秒3。レギュラードライバーに比べれば1秒以上も遅いのだから、いろいろと語れるレベルじゃない。

 だが、ハッキリと理解できたのはGT4は何も特別な世界じゃないということだ。アマチュアドライバーにもレーシングの世界を楽しんでもらおうと入り口をかなり広く取ったクルマだということが理解できた。86レースのクラブマンチャンプとして「次なるステップはコレか!? 」なんてつい考えてしまった。だが、実は86を経由せずいきなりスープラでも十分に行けそう。それくらい寛容な世界がそこにある。

 いま「GRスープラ GT4」はさらにその世界を突き詰めるべく、「Evo」へと進化した。足まわりの変更やフロントのカナードを加えるなど空力パーツを見直し、さらにノーズが入るように改められたという。

GRスープラ GT4 Evo。外観上の違いはフロントフェンダー部に追加されたカナード。価格は2400万円(輸送費別)
リアウイングまわりの機構が改善されている
Evoのボディやパワートレーンも市販GRスープラと同様

 また、耐久性なども引き上げられ、実戦におけるトラブルを排除。タイロッドやサスアームなども強化。さらにドライバーの負担を軽減できるように、マスターシリンダー径の変更やエアコンファンの容量アップ、ダクト位置の変更なども行なった。TOYOTA GAZOO Racingとしてプロドライバーだけでなく、アマチュアドライバーからの意見にも耳を傾け、少しでもよいクルマに進化させようという意気込みが感じられる。それはレースのサポート体制にもしっかりと現われており、カスタマーへ向けてエンジニアリングサポートや部品供給をレース現場でも行ない続けているそうだ。

 実は一丸となってクルマを進化させるという意味では、市販車もこの括りに入っている。GT4は改造範囲が少ないため、市販車のポテンシャルがものを言う。よって、GT4の開発は市販車の登場前から行なわれており、試作車は2019年のニュル24時間から実戦投入。そこでエンジンの出力アップが必要だとなり、2020年モデルで市販車であるGRスープラのエンジンをいきなり大幅改良。シャシーもまた進化が見られた。すなわち、GT4で必要だから市販車が育つわけだ。

 今回、GRスープラ GT4の試乗後に、市販車であるGRスープラの2022モデルを2020モデルと比べながらストリートで走らせてみた。すると、さらに洗練されていたことが理解できた。行なったことはアブソーバー、電動パワーステアリング、そしてアクティブディファレンシャルのセッティング変更である。

 2022モデルを2020モデルと比べれば、ステアフィールはより洗練され、手応えが増したことにより、連続するS字などでのコントロールも容易になった。足まわりは荒れた路面でも収束が上手く、フラットに駆け抜けられるようになった。さらにトラクションがしっかりとかかり、荒れた路面でもアクセルオンできちんと蹴り出すようになったことを感じられた。

 2020モデルは、μが低い荒れたシーンで滑ったりグリップしたりを繰り返すところがあった。2022モデルでは、進入側でも安定感が高く、入り口から出口まで一連の動作で完結するようになったのだ。初期モデルと比べれば別モノといえる扱いやすさがある。着実に進化を果たし、最新が最良というスポーツカーらしい世界観が構築されていたのだ。

 さらに求めるところといえばコクピットの世界観を、GRスープラ GT4とGRスープラの市販車でつなげることくらいだろうか? もう少し小径で、さらにGT4と同じようなステアリングやメーターパネルなどを求めたい。

 このようにレース界と市販車が一体となりクルマを進化させているGRスープラ。残るはGT4のナンバー付きの登場か!? 夢が次々に膨らむ試乗だった

 なお、市販車のGRスープラでは、GT4車両の販売が100台を突破したことを記念して、100台限定で特別仕様車「PLASMA ORANGE 100 Edition」の抽選販売を行なう。これはRZグレードのATモデルをベースにしたもので、5月8日から6月4日まで抽選申し込みをGRガレージ店頭限定で受け付けるそうだ。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。